LIVE REPORT
lynch.
@無観客生配信ライヴ
Writer 杉江 由紀 Photo by Ryota Tsuchiya(artoy)
様々な秩序が、無慈悲なほどに変化を遂げてしまった今。そして、ライヴというアーティストにとってもファン側にとっても大切な文化活動がままならない今。ふと思いだすのは、かつて2013年にlynch.が"TOUR'13「THE BLACKEST NIGHTMARE」"を行った際のZepp Tokyo公演にて、フロントマン 葉月が述べた以下の言葉だ。
"これだけインターネットが普及していると、ネットの中で手に入らないものってもうほとんどないよね。そういう今だからこそ、このライヴっていうのはすごく貴重なものだと思うわけです。だって、こればっかりはどうしようもないじゃない? インターネットで共有できるものではないだろうし、この現場に観にくるしかないっていう、その永遠にどうしようもない感じが俺はどうしようもなく好きです"
あの当時の我々は......葉月のこの言葉をごく当たり前のものとして受け止めていたはずであるし、実際のところライヴとは、バンドとオーディエンスが生の空気感を共有する交歓の場だと信じて、疑っていなかった気がする。だが、どうだろう? 今や我々は、もう半年以上も"インターネットで共有することを前提としてこなかったライヴというものを、否応なくインターネットを通じて共有せざるを得ない"状態に追い込まれ、結果的に日々残酷で過酷な現実と直面しているではないか。......Goddamn!
早晩、歴史教科書にも記載されるに違いない、このコロナ禍なるまさに禍々しさだらけな世相の中で。果たして、ロック・バンドとロックを愛する者たちはいかにして闘っていくべきなのか......? 本来であれば、8月半ばに彼らの拠点である名古屋にて"LIVE'20「DECIDE THE CASE」CASE OF 2013-2020"、そして、"LIVE'20「DECIDE THE CASE」CASE OF 2004-2012"と題した2デイズの観客動員ライヴを行うはずだったlynch.が、それを断念したあとに、同じタイトルを冠し9月10~11日にわたり敢行した無観客配信ライヴは、きっとそこに対する明確な回答となっていたように思う。
なお、第1夜となった"LIVE'20「DECIDE THE CASE」CASE OF 2013-2020"では、本来であれば、今年3月に発売された最新アルバム『ULTIMA』の発表に伴った全国ツアーにて纏うはずだったのであろう新衣装を、それぞれに纏ったメンバー5人が、意気揚々とステージへと登場するところからライヴはスタートすることに。
"ようこそ、処刑台へ! 歌ってください!"
そう葉月が叫んでからまず奏でられ始めたのは、夢を奪われ絶望に打ちひしがれながらも、"さぁ行こう 死の先へ"という決意と覚悟が託された「GALLOWS」。さらに、これに続いたのは4月にlynch.が全国148ヶ所の縁あるライヴハウスに対して、制作費を除く全売上利益を寄付すると表明し発表されたシングル『OVERCOME THE VIRUS』に収録されていた「DON'T GIVE UP」だ。そのうえ、『ULTIMA』からライヴでの初披露となった「XERO」では、"最先端 有害の生命体"だとか、"輝くのさ 失くした未来が/月よ 奏で 照らせよ 永遠に"という歌詞が歌われ、当然『ULTIMA』はコロナ禍が始まる以前に制作されたものながら、くしくも現況と微妙にシンクロしているところがあるのに今さら驚かされたりもして。
以降、この第1夜ではAKことベーシスト、明徳のスラップ・ソロが派手に炸裂した「CREATURE」や、生配信だというのにリアルタイムで映像エフェクトをかけながら、半ばMVのようなクオリティで配信ライヴの可能性を追求していた「IDOL」、日本の晩夏に相応しいわびさびの効いた曲世界を悠介のギターが彩った「UNELMA」、晁直(Dr)の細かいペダリングやスティック・ワークが冴えわたった「MELANCHOLIC」、玲央(Gt)の紡ぎ出すリフが重厚でいてグラマラスなバンド・サウンドを引き立てる「D.A.R.K.」、lynch.のライヴになくてはならない鉄板曲であると同時に、この日はコメント欄が"ヤリたい"の4文字で埋め尽くされた「pulse_」など......、充実のセトリで彼らは臨んでくれたのだった。
"僕らlynch.は小さなライヴハウスから生まれて、満員のライヴハウスで激しい音楽をやりながら、みんなと楽しくぐっちゃぐっちゃになるためにここまで15年以上やってきました。そういったライヴができない今、この局面を乗り越えるべくたとえお客さんが0でも! これだけのライヴができるバンドになりました。ありがとうございます! このコロナ禍が終わったら、絶対また会いましょう!"
こんな葉月の誓いの言葉に続いたのは、燃えたぎり続ける衝動の歌として聴く者の胸を熱くさせる「EVOKE」。実質的にはこれが本編ラストの曲となったものの、このあとにはメンバー全員によるトークが展開され、事実上のアンコールにあたるものとして、"永遠なんて望めないって わかってるけど/終わらない未来だって 此処にあるんだよ"という歌詞が響く名曲「MOON」が、我々へと届けられることになったのである。
かくして、1夜明けての第2夜。"LIVE'20「DECIDE THE CASE」CASE OF 2004-2012"の幕開けを飾ったのは、lynch.ならではの美旋律と激音が交錯する「LAST NITE」で、前夜とはずいぶんと異なる装いと美粧で現れた5人は、"二度とない今夜が最後の夜でもいいように"という歌詞を体現するかのように、ネット回線越しでもひしひしと伝わってくるような渾身のパフォーマンスを展開しだす。
また、2曲目の「I'm sick, b'cuz luv u.」では、"CASE OF 2004-2012"というタイトルにちなんでなのか、2011年にアルバム『I BELIEVE IN ME』の発表に伴って行われた現体制での初ツアー[TOUR'11 "THE BELIEF IN MYSELF"]のファイナルとして、赤坂BLITZで行われた2夜連続ライヴ第1夜"un ombra"、第2夜"il inferno"のライヴ映像が、リアルタイム映像と共にオーバーラップしながら画面上に映し出されるという、古参ファンにとっては思わず感涙するしかないひと幕も......!
もちろん、ここからは他にも彼らにとってのラスト・インディーズ・シングル曲であった「JUDGEMENT」や、往時よりも各メンバーの醸し出す大人の艶っぽさがそう聴かせるのか、エロ度が格段に増していた「lizard」、久々にライヴで聴けた気がした「forgiven」、ディープな幻惑の情景が広がりのある音や、トーチを使用したライティングをもって描き出された「AMBIVALENT IDEAL」、初期のライヴにおける斬り込み隊長的な役割を果たしていた「59」や、「-273.15℃」などが続々と演奏されていくこととなり、言うなればこの夜については、過去のlynch.を追体験することができるようにセトリが構成されていたのだから心憎い。当時からのファンにとって懐かしいだけでなく、近年ファンになった人にとってもこうしたライヴに接せられることは極めて嬉しいはず。
"ここにみんなの姿はないけど、いろんな思いはコメントとしてここまでめちゃめちゃ届いてます。最後に俺らからの思いをもう一発、受け取ってくれますか? これだけ離れていても、俺らとお前らの絆を歌います!"
そう、ここで歌われたのは「ADORE」にほかならない。ちなみに、この曲については発表時の2008年に行った某雑誌でのインタビューにおいて、葉月がこう答えたことを筆者は今でもありありと覚えている。
"lynch.がlynch.らしくあるためには、自分たちだけの力だけじゃダメなんだっていうか。聴いてくれてる側と自分たち、そのお互いが向き合って初めて生まれるものっていう感覚が今ほんとにあるんです。そして、こういう詞を自分が書くって実は初めてかもしれない。ここまで強く「外」に向けて何かを発信するっていうのは"
あれから12年が経った今、lynch.と私たちはある意味で試されているということになるのかもしれないが。それでも、おそらく勝算はある。"共に叫び謡う声のもとで"という歌詞を、この夜の葉月があえて"共に叫び謡うお前らのもとで"と歌ったように。意志を同じくして共闘していくことができれば、我々はまた素晴らしき日々を迎えることができるのではあるまいか。
しかも、そのチャンスは思っていた以上に早く訪れることになるのかもしれない。なんと、この夜のライヴでは来たる10月25日に、lynch.が待望の観客動員公演として、日比谷野外大音楽堂での"FACE TO FAITH"を開催することが告知されたのだ。もちろん、政府によるガイドラインに沿って定員数は絞ることになり、そのため同時配信も検討しているとのことではあるが、いずれにしてもこの決定は喜ばしすぎる。
"時代を動かすという意味でも、ぜひ今度のライヴに参加してもらいたいと思います。未来をみんなにプレゼントできるというのは嬉しいですね"
笑顔でこう言った葉月に続いて、"なんかもう、考えただけでウルウルきちゃう......"と心情を吐露した玲央のひと言にはもはやわかりみしかなかった。
"一応、今年リリースした曲を最後にもう1曲(笑)"と、この夜のアンコール代わりに選曲されていたのは、前述の『OVERCOME THE VIRUS』に再録にて収録されていた「A GLEAM IN EYE」。もともと2009年に発売されたシングル曲であり、これまでも幾度となくlynch.のライヴを締めくくってきたこの曲の、歌詞中にある"誰にも奪わせはしない/瞳に突き刺したこの光を"というフレーズが、ここまで痛いほどに刺さってきたことはない。と同時に、lynch.がlynch.であり続け、ずっと誇りを持ちながら活動し続けてくれていることに、改めての尊さを感じたのは何も筆者だけではあるまい。
とはいえ、ライヴなど不要不急なものと考える人たちが、今なおそれなりにいるのも揺るぎない事実となろう。無論、そう思いたい人はいつまでもそう思っていればいい。だが、一方ではそれがなくてはならない人々もたくさんいるのだから。崩壊してしまった秩序は、また構築していけばいい。ただそれだけの話だ。
奪われかけた未来と、我々だけが知る"FAITH"を取り戻すための明日。それはもうすぐそこまで来ている――
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