INTERVIEW
lynch.
2025.04.28UPDATE
2025年04月号掲載
Member:葉月(Vo) 玲央(Gt) 悠介(Gt) 明徳(Ba) 晁直(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
黎明期に生み出された名作たちが、今ここに新たな息吹を持って甦る。かつてlynch.がインディーズ時代に発表した『greedy dead souls』と『underneath the skin』は、ともに2005年の作品で、当時の彼等は葉月、玲央、晁直の3人にて構成されていた。悠介と明徳は加入前だったことになるが、現在の5人でそれらをリテイクした『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』もまた、紛うことなき名作である。
-昨年末からスタートしている"lynch. 20th ANNIVERSARY PROJECT"の一環として、このたびはインディーズ時代に発表した後、現在では入手困難となっている楽曲計21曲分のリテイクと、新音源「GOD ONLY KNOWS」を作品化した、『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』がリリースされることとなりました。いよいよ20周年を迎えた今、lynch.としてこれだけの曲数を再録していく際に何か心掛けられたことがあったとするなら、それはどのようなことだったのでしょうか。
玲央:そこは今作に限らずの話なんですけど、やっぱり僕はリレコーディングするときって基本的に当時の形から変えたくないんですよ。受け手側にリテイクした作品を聴いてもらったときには、原曲も再録したものも両方とも好きになってもらいたいんです。そのためにはどうしたらいいんだろう? ということを常に考えながら、この『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』も作っていくことになりました。
-たしかに、かつて10周年記念のタイミング(2015年)に発表されたベスト・アルバム『10th ANNIVERSARY 2004-2014 THE BEST』に収録されていた再録曲たちも、全てオリジナルのテイストを尊重した仕上がりとなっておりましたね。
玲央:曲としてのカラーが変わってないっていうことは、両方を好きになってもらう上で重要なことだと僕は思ってます。例えば、赤がいきなり青や緑になっちゃうのは絶対違うので、赤いトーンの曲ならあくまでも赤系統でまとめていくということですよね。そして、リレコーディングする以上は全く何も変わっていないとなると"じゃあ、わざわざ出す意味ないじゃん"っていう話になってしまうので、原曲からより磨きが掛かったものにしていこうという姿勢で臨んでいきました。あとは、BPMに関しても下げれば下げる程良く言えば"大人っぽく"は聴こえると思うんです。でも、悪く言うとそれって"ぬるく"も聴こえちゃいがちなので、注意して取り組んでます。
-lynch.の場合、ライヴでの演奏を重ねていくうちに、自然と楽曲のBPMが上がっていくケースもあるように思いますので、もしかしたらそうした点が今作に活かされたところもあったのかもしれませんね。
玲央:たぶんそういうところもあったでしょうし、カラーを変えずに自然と変わってきたところに関してはだいたいそのまま形にしてますね。どの曲も当時は当時で自分たちがプライドを持ってリリースしたものですし、それを好きだと言ってくれているファンの方々の気持ちも大切にしたいので、いわゆる再構築まではする必要性を感じなかったということなんです。
-今や廃盤となってしまっている、インディーズ時代の1stアルバム『greedy dead souls』、そして1stマキシ・シングル『underneath the skin』は、いずれも2005年に発表された作品で、当時のlynch.は葉月さん、玲央さん、晁直さんの3人にて構成されており悠介さんと明徳さんはともに加入前でした。そうした時代の過去音源と聴き比べてみると、今作『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』は、どれも楽曲としての解像度が上がり、深みも増している印象です。もっとも、一気に21曲分のリテイクとなると作業量そのものが相当なものだったのではありませんか。
葉月:これだけの曲数を歌うのは結構大変でした(苦笑)。特に、シャウトの感じが昔と今だと全然違うんですよ。自分でも"なんでこんなに違うんだろ?"って思いながら録音してて、いろいろ"こうかな"、"いや、これだったかな"と試したんですけど、なかなかそれでも昔の通りってわけにはいかなくて。でも、きっかけは忘れたんですが不意に当時っぽいシャウトが出た瞬間があったんですね。そこで気付いたのが、そもそも"鳴らしてるところ"が全く違うっていうことだったんです。最近はどっちかっていうと鼻のほうで歪ませてるのに対して、当時は思いっきり喉の奥を鳴らしてたんですね。"そうか、こっちだったか!"となって、そこのコツを掴んでからはあえて当時っぽいものを狙ったシャウトをしていったんですよ。
-葉月さんは日々ヴォーカリストとして進化されていることもあり、いわゆる平歌の部分の歌声も20年前とは変わっていらっしゃる印象です。声質そのものが変わったわけではないと思うのですけど、旧作と今作を比べると響かせ方の違いなのか倍音が増えて深みを増していますし、全編にわたって表情豊かに聴こえます。
葉月:あぁ、そうですね。倍音の出方の違いは歌い方の違いが大きくて、当時はもう顔に力が入りまくった状態で歌ってたんですよ。そこも今回"これ、どうやって歌ってたんだろ?"って再現してみたんですけど、顔に力を入れたら当時に近くなりました(笑)。
-当時と響きが大きく変わったという点では、今回ドラムの音の違いにも驚かされました。ダイナミックな迫力と重みが臨場感として伝わってきます。
晁直:サウンド面に関しては一応の方向性を伝えて、それをエンジニア(Яyo/girugamesh/Dr)と(ドラム・)テック(吉田理人/TOPGUN SOUND)が具現化してくれた感じでほぼお任せでしたね。彼等に提案されたものを僕がジャッジしてやっていく形でした。
-晁直さんからブレーンの方々に方向性を伝える際、キーワードとして使われたのがどのような言葉だったのかも気になります。
晁直:"ナウな感じで"っていうことくらいですかね(笑)。
-聴いていて音の重心が当時より下がっているようにも感じるのですけど、その点は晁直さんとしても意識されたところでしたか?
晁直:今回の音の雰囲気は、実際かなり前とは違うと思います。今思うとですけど、あの当時は低くしようとはしてたけどしきれてなかった、みたいなところがどうしてもありましたね。あの頃の音を今になって聴くと"やりたいことは分かる。でも、そうするための方法がよく分かってなかったんだな"って感じるというか。
-今回リテイクされた曲たちの中には、普段あまりライヴでやっていない曲もあったかと思うのですけど、久しぶりに叩くことになったときに、"あの頃はこんなふうに叩いていたのか"とご自身で思われるようなこともあったのでしょうか。
晁直:わりと余計なことを節々でやってんなっていうことは感じました。今の自分からすると、フレーズを詰め込みすぎてると感じる点はありましたね。それはそれで当時頑張った証なんでしょうけど、今だったらいらないなと思うところは今回のリテイクで削ってます。と言っても、たぶんそれはファンの人が聴いてても気付くか分かんないような細かいところですね。言い方としては無駄な音を省いてきちんと整理したっていう表現が的確かもしれないです。
-それから、先程も少し触れたのですが、この『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』は、明徳さんが加入される5年程前にリリースされた楽曲をリテイクした作品となります。ベース・トラックをレコーディングされるにあたり、このたび明徳さんが留意されたのはどのようなことでしたか。
明徳:僕は当時『greedy dead souls』や『underneath the skin』を聴いてた側なので、その頃に感じていたリスナーとしてのリスペクトを思い起こしつつ、できるだけオリジナルのままやりたいなと思ってました。ちょっとした手癖とかタイミングの違いとかはあるにせよ、わりと忠実に弾いたつもりです。何しろ、もとの音源はどっちも現在は流通してないですからね。昔からのファンでCDを持っている人はいるにしても、後からlynch.を好きになって、"1stアルバムや1stマキシ・シングルってどんな音だったんだろう?"っていう人も少なからずいるはずなんで、その人たちのためにも当時の味付けのまま聴いてもらいたいと思ったんですよ。
-現在の5人で録ったものではないというところを鑑みた上で、再販はおろかサブスクでも解禁されていないレア音源たちだけに、バンド全体としても明徳さんとしても、そのようなスタンスで制作に臨んでくださったのは実にありがたいことです。
明徳:むしろ、僕としても今回こういう機会が貰えたのは嬉しいっすよ(笑)。自分がまだいなかった時代の曲を、こうして改めてCDにすることができてほんと良かったです。原曲の素材がすごくいいんで、ピッチに気を付けながら、現代風なサウンドを出すっていうところだけ押さえれば大丈夫でしたね。
-悠介さんの場合は、『greedy dead souls』や『underneath the skin』がリリースされた翌年2006年にlynch.へ加入されておりますが、今回のリテイク作業にあたっては、各曲とどのように向き合われていくことになったのでしょうか。
悠介:収録されている楽曲はライヴでは何度も演奏してきてますけど、曲によっては僕の音がアーカイヴとして残っていないのもあるので、いつかのタイミングではちゃんと残しておきたいという気持ちはあったんですよね。曲によってはライヴのたびにちょこちょこアレンジを変えてみたり、ずっとどうすべきか悩んでいた時期を経ていたりするものもあるんですが、ようやく今回ライヴを通して見つけてきた1つの"正解"を、音源として提示することができたなと感じてます。
-なお、今作には『greedy dead souls』や『underneath the skin』に収録されていた曲たち以外にも、Disc.3の『GOD ONLY KNOWS』には2006年7月にライヴ会場限定シングルとして発表された「a grateful shit」や、シングル『enemy』(2006年12月リリース)、『roaring in the dark』(2006年11月リリース)、『forgiven』(2007年1月リリース)のカップリングだった曲たちまで収録されているわけですが、ここでぜひメンバーの皆様から、個人的に思い出のある曲や今回のレコーディングで感じたこと等、それぞれ1曲ずつ挙げながらエピソードトークをお聞かせいただけますと幸いです。
玲央:僕は「ラティンメリア」ですね。lynch.ってシャウトの多い激しいバンドなんでしょ? っていうイメージが強いとは思いますし、最初に『greedy dead souls』を出した頃にもよくそういうことは言われてたんですよ。でも、あの当時イベントで30分とかの持ち時間でも最後には必ずこの曲をやってたんです。激しいバンドなのに、聴かせる歌で終わるバンドなんだという印象を与えることで、仮にlynch.って名前は覚えてもらえなくても"あぁ、今日の2番目に出てたバラードで終わったバンドね"って、そんな記憶の仕方をしてもらえるだけでもいいとそのときは思ってました。
-「ラティンメリア」だけでなく、今作に収録されている「らせん」にしても、lynch.は初期から叙情性を感じる曲たちをしっかりと作り込んでいましたよね。つくづく、lynch.は20年前から器の大きさを持ったバンドだったのだと再認識できます。
玲央:ちなみに、今回「ラティンメリア」については、当初レコーディングのときに今使っている最新の機材で録ろうとしたんですけど、それだと原曲が持っている"いなたい"雰囲気が全然出なかったんですよ。でも、ふと"そういえば当時使ってたエフェクターがまだ家にあったな"ということを思い出して、20年前に使ってたトレモロを引っ張り出してきて通電確認をしたら使えたんです。それで音を揺らしてみたら、あのアナログ感のある温かい太い音が再現できました。今になって、"やっぱりこの曲にはこれじゃなきゃダメなんだな......"って思い知りましたね。プラグインとかそういう類いでは、とてもこの質感を出すことはできなかったです。この曲に限って言えば、この音こそがまさに"正解"でした。
晁直:これは言わないと分からないレベルの話ではあると思うんですけど、もともと『underneath the skin』の「lizard」では、スネアの位置にサンプリングでベルの音を貼ってたんですよ。実は前回再録(2007年11月リリースの『THE BURIED』収録)したときにも同じことをやっていて、そのときは別にそれで良かったんですね。だけど、後になって聴くと"なんか違うなー"ってずっとモヤモヤしてたので、今回の2回目の再録に関しては、予めエンジニアのЯyo君にお願いしてサンプリング部分の調整をしてもらった結果、ついに自分にとって理想の仕上がりになったんですよ。すごいな、さすがだなって思って今回は100点満点で満足してます。ほんとに細かい違いなんで言われないとまず分かんないところだとは思うんですが、そこを納得いくところまでやれたのが良かったです。
-では、次に明徳さんからもエピソードトークをいただけますでしょうか。
明徳:今回のレコーディングに関しては、全体的に初期lynch.ならではの荒々しさを出したいと思っていたので、『GREEDY DEAD SOULS』の「VERNIE」と「PULSE_」と「DISCORD NUMBER」、あと「59.」も全て一発録りワンテイクで決めたっすね。他の曲たちもなるべく繋いだり、編集したりはしてません。自己満みたいなものではありますけど、そういう謎の美学をここには詰め込みました(笑)。