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INTERVIEW

lynch.

2021.12.13UPDATE

2021年12月号掲載

lynch.

Member:葉月(Vo) 玲央(Gt) 悠介(Gt) 明徳(Ba) 晁直(Dr)

Interviewer:杉江 由紀

lynch.の発する音そのものは攻撃的で、凶暴性さえはらんでいるというのに。こんなにも音楽に対して実直で真摯な精神性を持ったバンドは、他にそういないとさえ思うのだ。このたび12月27日に出る『2011-2020 COMPLETE BOX』は、なんと現在の彼らが所属しているKING RECORDSからリリースされた全音源と、全MVを網羅した特別アイテムになるとのこと。ここでは群雄割拠のメジャー・フィールドでこの10年間を頼もしく生き抜いてきたlynch.のメンバーたちに、これまでの日々を少し振り返ってもらうこととしよう。

-2011年6月にアルバム『I BELIEVE IN ME』でメジャー・デビューしたlynch.にとって、2021年はそれから10周年を迎えた記念すべき年でもありました。そして、このたびは12月27日に『2011-2020 COMPLETE BOX』という、現在所属しているKING RECORDSからリリースされた全音源を網羅した、特別なアイテムが出ることになったそうですね。この企画が持ち上がった際、メンバーのみなさまはその事実をどのように受け止められたのでしょうか。

葉月:どうぞ、どうぞと(笑)。これはレコード会社の方から"デビュー10周年だから何かやろうよ"っていうことで言ってくださった企画なので、断る理由はなかったです。

-リーダーである玲央さんの場合、このメジャー・デビュー10周年という節目そのものに対して感慨深く思われるところはありますか。

玲央:単純にメジャーのフィールドで10年近くやれるアーティストって、僕は少ないと思うんですよね。そこに至るには、もちろん自分たち自身も頑張らなきゃいけなかったし、メーカーさんのほうもずっとすごく愛を持って接してくれて、そういったいろいろな積み重ねがあって今この10年という節目を迎えられたんじゃないかなと思うので、たしかに感慨深いところはあります。

-そして、あれから10年が経ったということは、当時メジャー・デビューを前に明徳さんが正式加入されてからも、ちょうど10年が経ったことになるわけですよね。

明徳:そうなんですよ。ここまでは毎年のようにアルバムを出して、ツアーをやって、ということをひたすら続けながら走り続けてきたのがlynch.ってバンドなので、節目に改めて今までの作品をまとめたボックスを出させてもらえるとなると、自分たちのことながら"すごいな。このバンドにはこれだけの曲があるのか"と、今までやってきたことを今一度見直せるいい機会にもなってると思います。

-CD 11枚+デビュー以降のMVを収めたBlu-rayが1枚の計12枚というのは、相当なボリューム感ですよ。悠介さんからしてみても、きっとこの10年という歳月を通して作り上げて来られたたくさんの楽曲たちはどれも掛け替えのない財産なのでしょうね。

悠介:曲を書くという意味での0から1を生み出す苦しみは、僕の場合そこまで多く経験してきているわけではないですけど、例えばアレンジに関しては前回よりもいいものにしなければってプレッシャーがいつもあるし、まずは自分自身にとって新鮮だと感じる音を作りたい気持ちも強いので、それをずっと10年間続けてきたという意味では大変......というか、そのための情報収集とかインプットは常に怠ることができない日々でもありました。あとはやっぱり、メジャーになってからある程度の期間が限られたなかで制作をしていくケースもかなり多かったので、アーティストとしては瞬発力を鍛えられたところもすごくあったんですよ。その力をつけることができなければ、たぶんこれだけの作品たちを作ってくることができなかったでしょうね。

-この10年の間、いわゆるスランプなどに陥ったことなどはありませんでした?

悠介:音楽的な情報収集そのものはできていたとしても、そのすべてがlynch.に合うかといったらそういうわけでもないので、今のlynch.に合う音は結局どんなものなんだろう? って面で悩んだことはあります。時期的に言うと、個人的には『GALLOWS』(2014年リリースのアルバム)のあたりがわりとそうでした。

-晁直さんは、この10年でのご自身の変化について何か感じていらっしゃることはございますか?

晁直:インディーズのときと比べるわけじゃないんですけど、メジャーに来てからは忙しさが圧倒的に違ったというのはありますね。音楽に対しての姿勢というのも、いい意味で趣味じゃなく仕事として捉えられるようになってきた部分がありますし。当然そのなかでは責任感もどんどん大きくなっていったので、この10年で人間的にはいろいろ成長してこられたのかなと思います。

-ちなみにですね。10年前にアルバム『I BELIEVE IN ME』でデビューされた際、今はなき某雑誌での取材にて葉月さんは"メジャーの世界でやっていく場合、俺は3つの選択肢があるなって思ってるんです。まずは、まったくそれまでと変わんない音を作るっていうパターン、あと間違いなく避けたい方向としてポップになってしまうパターンもありますけど、自分たちはひとつ前の作品よりもっと激しくなるっていうパターンっていうのを今回選択しました"とおっしゃっていたのですが、その件は記憶にございます?

葉月:そういうことを言った記憶は正直言うとあんまりないんですけど、今の自分からしたらそこは完全に一択ですね。lynch.としては最後のひとつしか選びようがないです。

-つまり、lynch.はこの10年その姿勢を貫き通してこられているわけですね。

葉月:いや、そんなことはないですよ。メジャーに対してのスタンスというものをそこまで意識していたのは最初のデビューのときだけで、そこから先は"前回の作品がこうだったから、今回はどうしようか"って考え方をだいたいいつもしてきてますね。

-なお、先ほどのエピソードには続きがあるのですよ。"なぜ、インディーズ時代よりも激しい音を作ることにしたのですか?"とうかがいましたら、葉月さんは"ファンにナメられたくないから"と発言されたのです。メジャー・シーンや音楽業界の人々にナメられたくないということではなく、あくまでもファンに対してその思いを持っていらっしゃったのが実に葉月さんらしいなと。

葉月:"わかってるな"という感じがしますね(笑)。

玲央:意味合いとして、それはファンの人たちをがっかりさせたくないっていう気持ちから出てきた言葉だったんでしょうね。そこは葉月だけじゃなくメンバーみんなが思っていたことでもあって、実際に過去にはメジャーの環境に行って思うようにことが運ばなくなってしまった諸先輩方の姿も大勢見てきているぶん、lynch.としてはメジャーに進出することでみんなに失望ではなく希望を与えていかなければいけないな、と感じていたんですよ。

-そんな使命感をお持ちであったが故に、当時のレコーディングでは明徳さんが担当ディレクターに呆れられる一幕もあったそうですね。葉月さんの発言として"コイツ、すげぇハート強いなって思いました。ある意味それは新たな発見で、スタジオで何度でも「もう1回やらせてください」って食らいついてくるんですよ。あの根性にはディレクターが半ば呆れてましたもん"という言葉が当時のインタビュー記事に残っております。そして、明徳さんの健闘ぶりに感心した玲央さんがレコーディング後にはごはんをおごってあげたという微笑ましいこともあったようですよ。

玲央:そういえば、そんなこともありました(笑)。

-そこまでのハングリー精神というのは、今も明徳さんの中にあったりするものですか?

明徳:やっぱり、今でも自分で気に入ったの音が録れるまではとことんやりたいっすよね。そこは変わってないと思います。

玲央:変わってないどころか、今や前よりも成長して知識も増えて納得できるラインが上になったぶん、よりプレイに対しての自己ジャッジがシビアになってますよ。

明徳:でも、自分ではそういうことを大変とか苦と思ってはやってないです。レコーディングしてるときはとにかくもっと良くしたい! っていう一心っすね(笑)。

-それと同時に、lynch.は昔からライヴ・バンドとしての揺るぎなき自負を持ってきたバンドだと思いますから、レコーディングでライヴ空間に存在するあのダイナミズムや音圧をどれだけ音源としてパッケージし具現化できるのか、というところでの闘いを続けてきたところもあるのではありませんか?

葉月:僕はそれ、ずーっとありましたよ。不満でしたもん。"なんで世のアーティストたちはできてるのに、lynch.にはできないんだろう?"って。自分たちはそんなにヘタなのか? そんなにセンスがないのか?? って。だけど、それは『GALLOWS』でエンジニアが変わった瞬間に全部解決しました。

-灯台下暗しといいますか、バンドの内部に原因があったわけではないのですね。

葉月:そう。そこだったのか! っていう(苦笑)。

晁直:今になって振り返ってみても、あの『GALLOWS』での変化っていうのはlynch.にとって結構大きかったですね。その前の『EXODUS-EP』(2013年8月リリース)からすでに変化の予兆はあったけど、さらに『GALLOWS』で自分たちの出したい音に近づいたなという感覚は僕も感じてました。

-そこの見解は悠介さんも同じくですか?

悠介:デビュー以降、徐々に変化していって『GALLOWS』で大きく変わったのは間違いないでしょうね。そこはヴィジュアル面とかも含めて。

葉月:ただ、もっと単純にlynch.にとっての最も大きなターニング・ポイントがどこだったかっていうと、僕的には『GALLOWS』よりも『EXODUS-EP』のほうなんですよ。

-それはなぜですか?

葉月:これはちょっと生々しい話ですけど、まずは『I BELIEVE IN ME』でいい感じでデビューできました。そのあとシングルで『MIRRORS』(2011年11月リリース)を出して、さらにアルバム『INFERIORITY COMPLEX』(2012年6月リリース)を出したとき、順位が落ちましたとなってですね。そこで"このままだとちょっとまずいですよ"というお言葉をKING RECORDSさんからいただくことになったわけです。具体的に"もうちょっと聴きやすい曲を作りなさい"と。で、それにはどういった曲を作ればいいのかということでご教示をいただいて作ったのが、シングル『LIGHTNING』(2012年10月リリース)だったんです。