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INTERVIEW

lynch.

2023.03.01UPDATE

2023年03月号掲載

lynch.

Member:葉月(Vo) 玲央(Gt) 悠介(Gt) 明徳(Ba) 晁直(Dr)

Interviewer:杉江 由紀

覇者復活。2021年末から一時活動休止期間に突入したのち、昨年11月の初武道館公演["THE FATAL HOUR HAS COME" AT 日本武道館] でその健在ぶりを再び見せつけたlynch.が、このたび約3年ぶりのアルバムとして発表するのはその名も"REBORN"。従来のlynch.では葉月がメイン・コンポーザーの役割を果たし、悠介がそこにさらなる彩りを加えていくことが多かったのに対し、なんと今作を制作していくうえでの大前提にして新秩序となったのは、"メンバー5人がそれぞれ2曲ずつ楽曲をかたちにする"という方針だったのだとか。かくして、『REBORN』では5人の持つ豊かな才覚と感性が、lynch.の音として力強く開花することになったのだ。

-昨年末、約1年ぶりのライヴとして行われた["THE FATAL HOUR HAS COME" AT日本武道館]をもって、lynch.は一時活休期間を終えて再始動を果たしたわけですが、タイミング的なところを考慮すれば、このたび発表されるアルバム『REBORN』の制作自体は、それよりも前に水面下で進行していたことになると思います。実質的にアルバムのレコーディングへと向けた最初の動きがとられることになったのは、おおよそいつのことだったのでしょうか。

玲央:昨年の夏前くらいですかね。まずはオンラインでのミーティングをして、次のアルバムはメンバーみんなで曲を持ち寄るかたちでの制作をしていこう、というコンセプトがそこで決まって各自7月までにまずは曲を作ってきましょう、そのあとにもまた8月までに追加の曲を作ってきましょう、というかたちで2回締め切りを設けてそれぞれの活動と並行しながらの曲作りをしていくことになりました。

-たしかに、昨年中は葉月さんがソロ・アーティスト、HAZUKIとして動かれていましたし、玲央さんは古巣 keinでの活動を復活されました。また、悠介さんはユニット"健康"、明徳さんはVIVACEでの活動ともにHAZUKIのサポート、そして晁直さんはdeadmanのサポートをされていましたので、みなさんそれぞれかなりご多忙だったはずですが、まさかそれと同時にlynch.のための曲作りもされていたとは......。なお、今思うと約3年前の前アルバム『ULTIMA』についての取材(※2020年3月号掲載)をさせていただいた際、これはあえて記事にしなかったのですけれど、葉月さんは"今度アルバムを作るときは、僕だけじゃなく曲はメンバーみんなにも書いてほしい"という旨をおっしゃっていましたよね。

葉月:いっぱいいっぱいな状態でしたからね、あの『ULTIMA』のときは(苦笑)。

-ただ、あのときのメンバー側のリアクションは"はい、喜んで!"的な雰囲気ではなかったと記憶しているのですよ。みなさん是とも非とも言葉にはされていなかったものの、雰囲気としては"お、おう......"という感じの戸惑いが感じられたといいますか。

一同:(笑)

葉月:まぁ、あのときはまだ僕がそう言っただけで何か具体的に決まってたわけではなかったですから。その時点では全員が曲を書くっていうのはバンドとしてやったことのない試みだったので、きっとああいうリアクションになったんだと思います。

-あのひと幕があったことを思うと、今ここに5人全員の手掛けた曲が収録されたアルバムが完成し、そこに"REBORN"というタイトルが冠されたという事実に対して、えもいわれぬ感慨深さを感じてしまいます。なお、これまでに『D.A.R.K. -In the name of evil-』(2015年リリースのアルバム)収録の「INVADER」や、『AVANTGARDE』(2016年リリースのアルバム)収録の「PRAYER」で作曲をされていた明徳さんの場合、今回の"メンバーみんなで曲を持ち寄る"というコンセプトについては、どのように受け止めていらっしゃったのでしょう。

明徳:今回は全員が同じ状況でそれぞれ曲を出し合っていこう、というのがまず前提としてあったんで。みんながどんな曲を作ってくるんだろう? っていろいろ想像しながら、僕はちょっとひねくれた感じの曲というか、ちょっと変わった雰囲気の曲を作ろうって思ってましたね。

-なるほど。スラップ・ベースのパートがふんだんに織り込まれた「NIHIL」は、クレジットを見ずとも明徳さんの作曲だろうと聴いてすぐわかりました。そして、もう1曲の「BLEU」からはある種の意外性を感じることができたように思います。ヘヴィでいてメロウでもあって、明徳さんはこのような一面もお持ちだったのかと少し驚きました。

明徳:lynch.らしい王道曲は、絶対に葉月さんが作ってくるのをファンの人たちや周りも求めてるだろうし、自分はそこじゃないところを最初から狙っていったんです。

-悠介さんはこれまでもかなりの曲数を作られていますけれど、今作『REBORN』を制作していくうえでコンポーザーとして何か意識されていたことはありましたか。

悠介:前アルバムの『ULTIMA』のときよりも今回は使えるシンセの音がめちゃくちゃ増えたので、作る曲のバリエーションを増やせるし、もっと音でいろいろ遊べるなと思っていましたね。あと、『ULTIMA』のときには"やりたいな"と思いながらも実際にはやれなかったことがあったぶん、当時の自分が感じていたモヤモヤ感を今回はスッキリさせたいなという気持ちもありました。それをかたちにできたのが「CANDY」なんですよ。

-実に3年越しできっちりカタをつけることになったわけですね。

悠介:前までは頭の中にイメージが浮かんでいるのに、それをエンジニアの人に具体的な言葉で伝えることがなかなかできなかったんですけど、今回は持っているシンセの音を増やしたことでそこがクリアになったんです。まぁ、その分イメージに合ったシンセの音をたくさんの中から探すのがなかなか大変ではありました(笑)。

葉月:「CANDY」はね、デモに入ってた悠介君の"Yeah Yeah!"っていう声も生かして、そこにかぶせて歌を録ったんですよ。

-その「CANDY」と言えば、歌詞がだいぶエロエロな方向にハジけているように感じます(笑)。作曲者としてこの仕上がりは想定できていらっしゃいました?

悠介:想定はしてなかったですし、今回は仮タイトルも付けてなかったんでおまかせだったんですよね。だから、全然そこは遊んでもらっていいと思ってましたけど、思ってた以上に遊びのちりばめられたものになって返ってきました(笑)。

葉月:個人的にはこのアルバムの中で一番芸術的な詞だと思ってますけどね。普段はどうしても詞が文章みたいになりがちなんで、こういう音で聴いたときの感覚と文字面で見たときの感覚の両方で楽しめる歌詞を書きたかったし、僕はすごく気に入ってますよ。

-そうした一方、アルバムの最後を飾っている「SINK」も悠介さんの曲となりますが、この繊細にして深遠な音世界は、悠介さんならではのセンスが生かされたものであると同時に、これまでに生み出されてきた楽曲たちともまた違う空気感もプラスされているように感じました。

悠介:ずっと前からRADIOHEADみたいなことをやりたいなと思っていて、この「SINK」ではドラムの音色や、ベースの雰囲気なんかも含めて、自分の目指していたかたちどおりに曲を作り込むことができました。

-作曲者個々の趣味性や特徴が『REBORN』には存分に生かされているのだな、ということはこの仕上がった音からもひしひしと伝わってきます。一方、今作において玲央さんが作られているのは「PRAGMA」、「CRIME」の2曲となりますが、ご自身としてはlynch.のコンポーザーとして担うべき役割をどのようなものだとお考えでしたか。

玲央:自分のバックボーンを反映させながら曲を作っていく、という姿勢でいましたね。「PRAGMA」に関しては、今までアコギでも弾けるような曲というのはあんまりなかったので、それを作ってみることにしました。そして、僕の中では「PRAGMA」がアメリカだとすると、もう1曲の「CRIME」はイギリスなんですよ。

-それぞれに音の質感がまったく違うのはそうした背景があったからなのですね。

玲央:「PRAGMA」には、2000年代あたりにアメリカで全盛だったラウドロックをいっぱい聴いていた頃の感覚を入れたかったですし、「CRIME」には、80年代とか90年代頃に好きだったイギリスの音楽の要素を入れたくて。その両方をそれぞれ2曲で表現したいな、と思っていたんです。それと、今回の制作で大きく違ったのは曲の作り方そのものでしたね。lynch.の前のバンド(kein)で作曲をしていたときは、メンバーとジャムったりしながらスタジオ内で完結させていくことがわりと多かったんですよ。その場でメロディからハモりまでヴォーカリストが仮歌を乗せながら全部作っていくかたちだったので、今回はそういうことをしなかったぶん、自分の作った曲のニュアンスが他のメンバーになるべくしっかりと伝わるように、曲をDTMで起こして渡すことが必要でした。自分のこだわりを曲に反映させるうえでもそれは必要な過程で、今回はまずDTMについての勉強から始まったところもあったんです(笑)。

-ニュートラルなギターの響きから始まる「PRAGMA」は、明らかに今までのlynch.にはなかったタイプの楽曲だと感じました。

玲央:使ってるキーも違いますからね。そこも大きいんじゃないでしょうか。自分にとってバックボーンになっている音をlynch.の曲として表現することができた、というところはまさにこのアルバムならではの試みだったと思います。

-晁直さんにとっては作曲を手掛けること自体が今回初だったそうですが、ドラマーであるが故にリズムありきで作ったのか、あるいはもっと客観的な視点から曲全体を見渡していったのか、で言うとどちらのスタンスに近かったのでしょうか。

晁直:いや、それより何より、とにかく曲を作るっていう作業自体が僕にとっては大きすぎる壁だったんで、もう最初はそこをなんとか乗り越えたい思いしかなくて必死でした(苦笑)。