INTERVIEW
lynch.
2025.04.28UPDATE
2025年04月号掲載
Member:葉月(Vo) 玲央(Gt) 悠介(Gt) 明徳(Ba) 晁直(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
原点回帰をするというよりは、当時のエッセンスを今のlynch.にプラスしていく感じ
-ベースの際立ち具合という点では、Disc.3『GOD ONLY KNOWS』に収録されている「STUCK PAIN」でのプレイも、バキバキで大変カッコいいです。
明徳:今回、唯一スラップが出てくる曲ですね。サビまでずーっとスラップし通しなんで、これはかなり攻めた曲になってます。
-悠介さんにとって、今作の中でエピソードを語れる曲はどちらになりますか。
悠介:特にこれって挙げるのは難しいですけど、曲によってはリテイクするのが今回で2回目とかになるものもあるので、今までもそのたびにちょこちょこアレンジは変えてきてるんですよ。自分が飽き性なのもあって、毎回おんなじことをやるっていうことはしてないんですね。だから、宝探しみたいな感じでそれぞれの曲の中に"あ、ここが違ってる"みたいな発見をしてもらうのも面白いんじゃないかと思います。
-さて、葉月さんがエピソードを語ってくださるのはどの曲ですか?
葉月:「DISCORD NUMBER」ですね。これは歌のメロディとかシャウトとかの技術面じゃない部分に、当時とてもこだわっていた形跡が見られる曲で、何かを恐れてるような歌い方や、狂いそうな人みたいな雰囲気を持っている曲なんです。が、結局それは今の自分ではちゃんと表現しきれなかったんですよ。
-えっ。声量、歌唱力、表現力ともに当時よりスキルアップしているのにですか?
葉月:何回も試したんですけどね。でも、できなくて途中でやめてそこからは今の自分が歌いやすいように歌おう、と方向転換したんです。ただ、最後にテンポが速くなっていくときにシャウトがバーッと入ってくるところだけは、ちゃんとやんなきゃいけないんで、そこはやりましたけど......難しかったです。何かに追われてるような、苦しくて呼吸が速くなる感じを出してほしいって玲央さんに言われてたんですけど、当時もそこはすごく苦戦した記憶はあって。結局、あのときは玲央さんにやってもらいましたよね?
玲央:そういえばそうだった(笑)。最終的に、当時そのテンポが速くなるところだけは僕がやったんですよ。
葉月:今回も玲央さんに電話して、"そこだけ録って送ってください"って言おうかと思ったんですが、なんとか自分でこういう形にしたわけです。いずれにしても、これは最近だったらやらないアプローチですね。"ヴィジュアル系のヴォーカルってわりとこういうの大事にするよな、自分はそういうのをあんまり大事にしないタイプだったけど。懐かしいな"と思いながらやりました。
-そうしたある種のノスタルジーを感じるリテイク曲もある一方、今作のDisc.3『GOD ONLY KNOWS』には、書き下ろしの新曲として「GOD ONLY KNOWS」も収録されております。ここからは、こちらについても伺ってまいりましょう。
葉月:厳密にはこれ、完全なる新曲じゃないんですよ。もととなる曲は2008年にはあった曲で、当時少しだけライヴでもやってたんです。2回目の恵比寿LIQUIDROOM公演(TOUR'08「THE DIFFUSING IDEAL」)でも新曲としてやってました。あのときって会場にいらっしゃってました?
-はい。確実に行っていたはずなのですが......ごめんなさい。そのときに聴いたであろう新曲については記憶が定かではありません。
葉月:そりゃそうですよね。メンバーだって覚えてなかったですもん(笑)。
-だとすると、なぜこのタイミングでその曲を掘り起こしてくることに??
葉月:当時は一旦ボツにしちゃってたんですけど、曲のデータはずっと持っていて、10年くらい前にたまたま聴き直したときに"これ、悪くねーな。機会があればまたアレンジしてやってもいいかな"と思ったんですよ。今回はできてから約16年の時を経て、その機会がやってきたっていうことですね。
晁直:これはいかにもlynch.だなっていう感じの曲ですよね。でも、僕はあの最初のドラムのフレーズが苦手で苦手で本当に叩けなくて(苦笑)。
-なんとも意外です。それこそ、もう20年もlynch.のドラマーとして活躍されてきていらっしゃいますのに。
晁直:そうなんですけど、太鼓の位置が逆パターンなら全然いけるんです。そうじゃないパターンっていうのは、lynch.の前も含めたドラム人生20数年の中で一番やってこなかったフレーズなんで、苦労しましたね。
明徳:僕はこの曲、今回デモを聴いたときは完全に新曲だと思ってました(笑)。当時のライヴでやってたバージョンも知らないので、これはきっと去年出した『FIERCE-EP』からの流れでできた、書き下ろし曲なんだろうなと感じてたから、ベースに関してもそういう感覚を持ちながらアプローチしていきました。
悠介:僕はなんとなく、曲を聴いたときに当初ライヴでやっていたことを思い出しはしたんですけどね。その頃に自分がどういうプレイをしていたかは全く覚えてなくて、サビとかもどう弾いてたかも分かんなかったです。そして、今回は当時と構成も変わってるんで、自分としてはまさに新曲としてやるしかないと思いながら取り組んだ感じです。だから、もし昔ライヴで聴いたときのことを覚えてる人が、お客さんたちの中にいるとしたら、ギターはそのときと全く違うものになってると思います。その違いまで楽しめる人がいるなら、僕から何かプレゼントをあげてもいいです(笑)。
-「GOD ONLY KNOWS」の歌詞については、原形や当時書いたフレーズは活かしていらっしゃるのでしょうか? それともこれは最近になって書かれたものですか?
葉月:歌詞はもともと1文字もない曲で、ちょっと「PULSE_」とかみたいな感じだったんですよね。だから、今回初めて歌詞を付けました。
-20周年記念作品に収録される事実上の新曲ともなると、歌詞の内容は、とかく"みんな今までありがとう"的な感謝を述べるものになりがちな気もいたしますが、lynch.はやはり一捻り利いていますね。
玲央:あー、たしかに。これはちょっと感謝の方向とは違いますもんね。
-率直且つ辛辣にも感じる"DEAD?死ぬまで追うと言ったアンタ、どこへ消えた?/笑わせんな これが俺たちからの"答え"だ"というくだりからは、硬派なロック・バンドだからこその鋭い棘を感じます。
葉月:あぁ。本来なら逆のことを書いたほうがいいんでしょうけど(笑)。
-いえいえ、何よりリアリティがありますし、偽善を良しとしないlynch.が持つ誠実さの顕れでもあるのではないかと感じます。
葉月:別にね、嘘つくんじゃねーよみたいに言ってるわけではないんです。いろんな人たちに対して"まだ変わらずにやってるよ"って伝えたいっていうことなんで。"また来れば?"っていう気持ちも込めてね。
-恐らく、今作『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』は、lynch.にとってはもちろんのこと、受け手側にとっても1つの節目になる可能性が高いと思います。新たにここで初期のlynch.を知ることになる方もいれば、昔のlynch.を知っているけど、近年は仕事や子育てで少し距離ができていたという方たちもいて、その中には今のlynch.があの頃の曲をどう聴かせてくれるのだろう? と久しぶりに聴いてみたいと思われる方も必ずいらっしゃるはずです。と同時に、この作品が出た後に続く"XX act:5 TOUR'25「UNDERNEATH THE GREED」"も、lynch.とlynch.のことを愛する人々にとって間違いなく特別な場となっていくことでしょう。
玲央:オリジナルのアルバム・タイトルを当時付けたのも僕だったんですが、今度のツアー・タイトルは、"GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN"を掛け合わせたものですね。内容としては、当時みたいな緊張感の漂うステージにしていけたらいいなと考えてます。回っていく各地の会場も、基本的にインディーズ時代にやらせていただいていたところが多いんですよ。ということは、自ずとそういう当時を彷彿とさせるモードになっていくんじゃないでしょうか。
-これはセトリもどうなっていくのか興味深いですね。『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』が軸になっていくのだとしたら、なおさらですよ。
葉月:細かいセトリはこれから決めますけど、このあたりの古い曲たちをやるときって、昨今はお祭りっぽい雰囲気にしてたところがあったんですよね。"どうだ! 珍しいでしょう? みんな今日はこれが聴けて良かったね!"っていう感じで。
-どこか特典感が強かったわけですね。
葉月:そうそう、こっちとしてもどっか特別感ありきでやってみるみたいな。だけど、当時は当然そんな気持ちでは演奏してなかったわけじゃないですか。そういう意味で、今度のツアーはできるだけ当時みたいに今のlynch.としてやっていきたいです。
玲央:過去の曲を特別なものとしてではなく、レギュラーなものとしてね。
葉月:本当だったら当時もっとこうしたかったっていう部分を、掘り下げたいとも考えてるんですよ。あの頃だとPAさんはいたけど、照明さんはまだいなかったし。映像演出とかも含めて、今だからこその解像度でこの曲たちを表現していこうと思ってます。
晁直:ハコの規模感がいつもよりかはコンパクトになってるから、今回は"lynch.を近くで観られるよ!"っていうツアーにもなると思うんで、ぜひ来てほしいです。ただ、これから暖かくなってくると場内はどこも灼熱になっていくんだろうなぁ(笑)。
明徳:きっとファンのみんなの中にはいろんな心境の人がいて、初期のヒリついてたlynch.のライヴによく通ってたっていう人もいれば、最近になってlynch.を知った人もいると思うんですけど、もしかしたら、『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』に入ってる曲はどれもまだよく知らないっていう人も、いるかもしれないじゃないですか。でも、この頃の曲たちはどれも普遍的なカッコ良さを持っているので、よく知っている人だけじゃなくて、これから知っていくことになるっていう人たちにも、両方このツアーでは"刺し"に行きたいです。全員に刺さるようにしていきます!
悠介:僕が観てた3人の頃のlynch.の再現とまではいかないですけど、あの頃って悪い意味じゃなくお客さんとバンドの間に壁があったんですよ。そういうバンドって今はなかなかいないし、我々も今やわりとオープンになってはいるんですが、今回のツアーでそんな当時の空気をもう1回甦らせてもいいのかなと思ってます。せっかくの小箱でのライヴでもあるし、俺たちは好き勝手やるから、お前たちも好き勝手にやれよっていう雰囲気の空間を楽しむのもたまにはいいのかなと。
玲央:原点回帰をするというよりは、当時のエッセンスを今のlynch.にプラスしていく感じのライヴにしていきたいんですよね。僕等はこれからも続いていくわけですし、先々に向けてのヴィジョンというのも当然持っているので、単に過去を振り返って懐かしむという感じではなく、ここからまた1本ごとのライヴをlynch.として大切にしながら、今度のツアーもやっていこうと思います。