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LIVE REPORT

lynch.

2019.06.06 @中野サンプラザ

Writer 杉江 由紀

兎と亀の話になぞらえるのであれば、間違いなくlynch.は後者にあたるバンドなのではなかろうか。2019年の終わりには、いよいよ結成15周年を迎えようかという長いキャリアを持つ彼らが、ここに至るまで見せてきた歩み。それはことごとく着実なものであり、姿勢としてもすこぶる誠実で、なおかつ明確な将来的ヴィジョンに向けての確実さが常に伴ってきたと言っていい。

だが、その一方で約1年前に13枚目のアルバムとなる『Xlll』をリリースして以降のlynch.は、ついに亀からガメラにでも進化したような、さらなる顕著な躍進ぶりを展開してきているのも事実で、このたび4年ぶりのホール・ツアーとして行われた"HALL TOUR'19「Xlll-THE LEAVE SCARS ON FILM-」"の初日であった中野サンプラザ公演のチケットについては、なんと木曜日という完全なるド平日であるにもかかわらず見事にチケットをソールド・アウトさせることに。この1件だけを取り沙汰してもいかに今のlynch.が勢いづいているのかということがよくわかるはずだ。

かくして、曲タイトルそのままに象徴的な"Xlllカウント"から躍動感たっぷりに始められた「THIRTEEN」で幕開けしたこの夜のライヴでは、フロントマン 葉月(Vo)が昨年のアルバム発売時インタビューにて"『Xlll』の中では最も「激ロック」な人たちが喜びそうな曲"とコメントとしていたヘヴィ・チューン「EXIST」や、アグレッシヴな音像の中にダーク・グラマラスな差し色が映える「GROTESQUE」、『Xlll』のリード・チューンとして圧倒的な存在感を放つ「JØKER」などが続々と打ち出されていくことで、場内は瞬く間に激しく熱せられていったのである。

"lynch.です! 中野サンプラザってこんなにデカいのに、今のところ高田馬場AREAと同じくらいすごく暑いですけど(笑)、みなさん今日は平日なのに来てくれてありがとうございます。ということで、今回のツアー・タイトルはフィルムに傷跡を残す的な意味がありまして、去年『Xlll』というアルバムを出してからずっとツアーを続けてきてはいたものの、映像作品はまだ作っていないので、今回は初日の中野サンプラザ、そしてこのあとに続く名古屋、大阪で収録した素材を使って超絶ボリュームの映像作品を出したいなと思ってるんですよ。つまり、みなさんそれがどういう意味かはわかりますよね?"(葉月)

ちなみに、ここでやたらと目立っていたのは男性客たちからの野太い"ウォー!"という声援で、"映像に残るからには自分たちもこの場をより盛り上げなくては"という気概がそこからは濃厚に感じられる。その熱狂的なスタンスからは彼らがlynch.に対していわゆる"男惚れ"をしていることもまた明白に伝わってきたのだった。長いバンドの歴史をたどれば、かつてはバンギャと称される女性ファンがほぼ大半を占めていた時代があったとはいえ......近年のlynch.はフェスや各イベントなどに参戦することで男性支持者を増やしてきたところがあり、もはやlynch.は性別だのジャンルだのの壁を超越した領域で広く深く愛されるバンドになってきているものと思われる。

ひとえにそれは、ヴォーカリスト 葉月が卓越した歌唱力と魅力的な声質を持っている点に拠るところも相当に大きいが、例えば「CREATURE」でキレのあるスラップ・ベースを聴かせたAKこと明徳の鮮やかな手腕や、「RENATUS」で玲央と悠介により織りなされた複雑精緻で完成度の高いギター・アンサンブル、はたまた「AMBLE」で晁直が美旋律を活かしながら表現力に溢れたドラミングを聴かせる頼もしい姿などからも、lynch.がロック・バンドとして極めて高いポテンシャルを持っていることはありありと伝わってきたのではないかと思う。

この5人だからこそlynch.はlynch.であり、この5人だけがlynch.としての誇り高き音を力強く放っていけるのだという事実。そのことは今宵のライヴ終盤にて演奏された楽曲「FIVE」においてもしっかりと具現化されていた。本編のラストではアルバム『Xlll』を締めくくっていた「A FOOL」で秀逸なほどの説得力を醸し出す音を放ちながら、ホールの特性を活かしたスケール感のあるライヴ・パフォーマンスで聴衆を深く陶酔させていったことで、lynch.は洗練されたダイナミズムとロマンチシズムで受け手側の心を惹きつけることができるバンドであるのだ、ということが証明されたと言えよう。

なお、葉月のMCによると今回の中野サンプラザ公演のセットリストは"あえて前回のツアーと同じ"にしたそうで、そこには"なぜなら、僕らが考える最強のリストがこれだったから"との理由もあったのだとか。それでいて"だけど、名古屋と大阪は変えますんで。楽しみにしていてください"との発言もあっただけに、もしこれから大阪公演に参加されるという予定がある方は"何がどう変わっていたのか"を、ぜひともご自身の目と耳でしかとお確かめあれ。

"いやーもう、帰りたくないなぁ(笑)。本当に夢のような時間でした。みんなにとってもそうだったら嬉しいです。ありがとう。そして、夢みたいだったけどまた俺らは何回でも起こしてみせるから。また絶対にやりましょう!"(葉月)

アンコールにて、葉月がこのように述べたあと彼らが最後の最後に演奏したのは"永遠なんて望めないって わかっていても 終わらない未来だって 此処にあるんだよ"という歌詞が印象的に響く、メッセージ性のこもった名曲「MOON」にほかならない。

年末には15周年を迎えるlynch.が、このホール・ツアーをもって経験値をさらに上積みし、ストイックなあの亀のごとくここからも沸々と魂を滾(たぎ)らせ続けていくのだとしたら。その先には、必ずやより大きな夢が待ち構えているに違いない。

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