FEATURE
Fear, and Loathing in Las Vegas
2019.11.20UPDATE
2019年12月号掲載
文:山本 真由/文&編集:村岡 俊介(DJ ムラオカ)
Fear, and Loathing in Las Vegasの2年ぶりとなるニュー・アルバム『HYPERTOUGHNESS』がついにリリースされる。そもそも6枚目となるこのニュー・アルバムは、本来今年の3月にリリースされる予定だった。しかし今年1月にメンバーのKei(Ba)が急性心不全により急逝。ベガス(Fear, and Loathing in Las Vegas)ファンはもちろん、国内のロック・シーンに大きな衝撃を与える訃報となった。そして当初予定されていたツアーと共にアルバム・リリースも白紙となってしまった。Keiの急逝は、昨年6月のオリジナル・メンバー、Sxun(Gt)が脱退し、5人体制となっても留まることなく、前進し始めた矢先というタイミングも重なり非常にショッキングなニュースだった。その後バンドは活動を続けることを発表。"また笑顔でステージに立つための時間をください"というメンバーのコメントは、当然のことだと思ったし、受け入れる時間が必要なのはファンも同じこと。しかし、それは同時に、ラスベガスは再び立ち上がり、また自分たちにしか作れない音楽を届けるんだ、という強い意思表示でもあったのだろう。
そして今年6月には、Keiがベガスに加入後初ライヴを行った思い出の地、大阪なんば Hatchにて追悼イベント("Thanks to You All")が開催され、それをひとつのけじめとしてバンドは再び動き出した。新メンバー、Tetsuya(Ba)の加入も発表され、"SUMMER SONIC 2019"の舞台で堂々復活。9月には東名阪ワンマン・ツアー("Carry on FaLiLV")も行われた。
本当につくづく彼らはタフなバンドだと思う。いくつもの苦難が重なり、ファンの期待やロック・シーンを牽引する存在としてのプレッシャーもあっただろう。しかし、それすら自分たちの力に変えて我が道を行く。今作にはそんなバンドの決意とパワーが漲っている。
新生ラスベガスが、新たな時代を切り拓く!
今作『HYPERTOUGHNESS』の冒頭を飾るのは、リリースに先駆け、新体制初となるMVが公開された新曲「The Stronger, The Further You'll Be」だ。これだけでもう完全復活が確信できる。ゴリゴリのパートとノリノリのサビメロというラスベガスらしい緩急のメリハリが効いており、クールなラップやエレクトリックなキーボード・サウンドだけじゃない、美麗なピアノ演奏も加わり、ジェットコースター的なめくるめく展開が繰り広げられる。このカオスこそ、まさにベガス流! そして間髪入れずにギアをもう一段上げ「The Gong of Knockout」(Track.2)に突入していく流れは鳥肌モノだ。過去には「LLLD」などラップを前面に押し出した楽曲があるが、「Great Strange」(Track.4)がそれに当たるだろう。エモーショナルなポスト・ハードコアのエッセンスを感じさせる「Karma」(Track.8)から、ファンであればタイトルを見ただけでカオティックな楽曲だと予想できる「Thoughtless Words Have No Value But Just a Noise」(Track.9)の流れも、ベガスのアルバム終盤の盛り上げにはなくてはならないものとなっている。そして「Massive Core」(Track.11)は、アルバム最後を飾るに相応しいキャッチーで煌びやかなシンセとヴォーカル・メロディが映えるドラマチックな楽曲に仕上がっている。
曲作りの一端を担っていたSxunが脱退したことで今後の作曲に関してどうなるか心配するファンの声も一部で聞こえたが、彼らには独自の制作プロセスがあり、チームとしての結束が生み出す創造性が、そもそも彼らならではの強みなのである。たしかに、ギタリストが作曲をメインで手掛けているというバンドは少なくない。しかしベガスは、プロデューサー的立ち位置のマネージャーを中心に、まずは作品のテーマを決め、オーダーを受けたSxunとMinami(Vo/Key)が断片的なアイディアを持ち寄り、マネージャーがメロディやフレーズを肉付けし、まとめ上げる。そういったチームとしての制作体制が整っていた。そのスタンスは、Sxunが抜けたあとも変わらない。歌詞についても、まずマネージャーが、メンバーの経験したことなどをもとにした大枠のテーマを決め、So(Clean Vo)が日本語でまとめ上げ、それを英語訳するという方法で作られている。そんな彼らの制作プロセスは、団体スポーツのチームに近いものであるのかもしれない。チームを俯瞰する監督的立場のマネージャーがいて、統一されたヴィジョンや目標を持ったメンバーが与えられた課題に全力で挑むという姿勢。そういったワンチームでの制作体制が確立されているからこそ、困難が生じても道を見失うことなく、前に進めるのかもしれない。
『HYPERTOUGHNESS』のブックレットのアートワークには、宇宙船の内部が描かれている。これまでも彼らの音楽性に合ったスペーシーなデザインが起用されてきたが、今回は今までに描かれてきた情景を一歩引いた内側から見るデザインとなっており、ジャケットにはロケット・エンジンの推進剤が投下される様子が描かれている。それは、これまで通りの魅力を保ったまま、過去にとらわれすぎることなく、ポジティヴなパワーで前進するバンドの決意として捉えていいだろう。
彼らは、ラウドにもポップにも化ける独自の魅力を放ちつつ、これまで通り日本のロック・シーンの第一線で、ジャンル、"Fear, and Loathing in Las Vegas"という唯一無二の音楽を追い求め突き進んでいく。
▼リリース情報
Fear, and Loathing in Las Vegas
ニュー・アルバム
『HYPERTOUGHNESS』
2019.12.04 ON SALE!!
WPCL-13030/¥2,500(税別)
1. The Stronger, The Further You'll Be
2. The Gong of Knockout
3. CURE
4. Great Strange
5. Interlude
6. Keep the Heat and Fire Yourself Up
7. Treasure in Your Hands
8. Karma
9. Thoughtless Words Have No Value But Just a Noise
10. Where You Belong
11. Massive Core
▼配信情報
Fear, and Loathing in Las Vegas
「The Stronger,The Further You'll Be」
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