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INTERVIEW

lynch.

2025.09.24UPDATE

2025年10月号掲載

lynch.

Member:葉月(Vo) 玲央(Gt) 悠介(Gt) 明徳(Ba) 晁直(Dr)

Interviewer:杉江 由紀

歴史はやがて未来へと繋がっていく。"20th ANNIVERSARY PROJECT"がいよいよ佳境を迎えようとしているなか、前作『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』に続くリテイク・アルバムの第2弾作品として発表されたのが『THE AVOIDED SUN / SHADOWS』だ。輝かしきアニバーサリー・イヤーのグランド・フィナーレを飾ることになる、12月28日の東京ガーデンシアター公演も見逃せない!

-今作『THE AVOIDED SUN / SHADOWS』は、前作『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』(2025年4月リリース)に続く20周年記念リテイク・アルバムの第2弾作品となります。ここまで続いてきた"20th ANNIVERSARY PROJECT"がいよいよ佳境を迎えようとしているなか、この作品が発表される意味はとても大きいですね。

玲央:遡ると、一昨年あたりに"20th ANNIVERSARY PROJECT"について話し合った段階で、"現メンバー5人の音が入っていない作品はこのタイミングだからこそ録り直そう"という話が出ていましたから。今回の『THE AVOIDED SUN / SHADOWS』も、1stリテイク・アルバムに続いてそのコンセプトに沿って作っていくことになりました。

-個人的には初めてリアルタイムでlynch.の音源を聴いたのが2007年発表のアルバム『THE AVOIDED SUN』だったのですけれど、やはり当時と今ではサウンドが劇的に進化している印象です。特に葉月さんの歌については声色や響き方そのものが現在とは異なるように聴こえますが、今回のレコーディングをしていく上で、葉月さんはどのようなスタンスでいらしたのでしょうか。

葉月:うーん......そこを言葉にするのはなかなか難しいですね。

玲央:じゃあ、僕ちょっと話に割って入ってもいいですか?

-もちろんです。

玲央:約18年前に『THE AVOIDED SUN』を収録してた当時、葉月は1人でブースにこもって自分の納得いくテイクが出るまで何百回と歌っていたんです。それを考えると、昔と今で大きく違うのはたぶん、 "自分自身に対して歌っているのか"、それとも"外に向けて歌っているのか"なんじゃないかと思います。

-なるほど、そもそものシチュエーションもそうですが、心持ちそのものが昔と今とでは違っていたということなのですね。

玲央:僕から見ると、あの頃の葉月はまだ殻にこもっていたというか、鎧を着た状態で歌っていた印象でした。その点、今の葉月は生身で外に向かって歌っているように見えるなぁっていう感じです。

葉月:当時はとにかく歌が下手すぎて、恥ずかしいから人に録ってもらいたくなかったんですよ。"もう1回いいですか"、"もう1回お願いします"って、僕はあまり何回も言えないんです。悪いなって思ってきちゃうから。"まだですか?"、"さっきとの違いがよく分かんないんですけど"みたいに思われるんじゃないかってどうしても気になっちゃって。それが嫌で自分で録ってたんです。納得いくまでやれるように。

-山奥にこもって修業のように作品を作り続け、納得いかないと"ダメだこれじゃ!"と躊躇なく陶器を叩き割ってしまうタイプの陶芸家に近い感じだったのですね。

葉月:今は2~3回歌えば大丈夫というくらいにはなりました。だから、昔の曲なので向き合い方はこうでしたというのは特になくて、全て同じようにその1曲に対して今の歌を表現していくことになるんですけど、自分としては前作の『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』も含めて、曲が新しくなればなる程、難易度は上がっていくなと感じてるところはあります。現在に近づく程、もとの歌が上手くなっていくんで、敵がどんどん強くなっていくような感覚です。

-クリアすればする程難しくなるゲームのようだったのですね。

葉月:あぁ、ちょっと似てるところはありますね(笑)。そういう意味では、今回Disc.3の「JUDGEMENT」とか結構苦労しました。

-「JUDGEMENT」はもともと、2010年9月に発表されたラスト・インディーズ・シングルの表題曲でしたものね。今回のこの歌については、声色や響きというよりも歌の表情と力の入り具合に違いが感じられました。オリジナルはメジャー・デビューを宣言したのち、当時の玲央さんいわく"これぞlynch."という曲を出すことでファンに審判を問うという意味合いを持った作品でしたので、気概のこもった芯の強さが歌にも色濃く出ていたように思うのです。それに対し、今作での「JUDGEMENT」はいい意味で少し力が抜けて、その分とても頼もしい貫録が加わったように感じます。端的に言えば、昨今のライヴで聴ける歌に近い感触なのかなと。

葉月:今の「JUDGEMENT」の歌はそういうことなんでしょうね。

-もちろん、歌に関するところ以外でも今作『THE AVOIDED SUN / SHADOWS』にはたくさんの進展ぶりが音として具現化されています。晁直さんの場合、今作のレコーディングではドラマーとしてどのようなことを重視されましたか。

晁直:具体的なことはあんまり思わなかったです。音作りに関しては基本的にエンジニアのЯyo(Яyo Trackmaker/ex-girugamesh/Dr)君に任せるじゃないですけど、信頼してやってもらってますから。彼と一緒に音選びには最も時間をかけました。

-晁直さんが欲していた音、というのはどのようなものだったのでしょうね。

晁直:その当時にやりたくてできなかったことっていうのも実はあるんですけど、だからといって今さらそれをやるのはちょっと違うと思ったので、今のlynch.としての最高の音を収めるっていうことをやっていきました。

-つまり、リベンジマッチではなく純然たる本戦として臨まれたと。

晁直:感覚的には新作をレコーディングしていくような感じでした。

-悠介さんの場合、ギタリストとして今作『THE AVOIDED SUN / SHADOWS』と対峙するときに意識されていたのはどのようなことでしたか。

悠介:過去の自分よりは良いものを、ということは意識してましたし、それはもちろん、当たり前のように余裕で超えられる自信がありました。あと、曲によってはリテイクするのが3回目になるものもあるので、どうやってそれぞれの曲たちを生まれ変わらせていくのか?、過去とのテイクとの違いをどう出すか? という部分は、ツアーをやっていきながらも時間をかけていろいろ考えたかな。個人的には『THE AVOIDED SUN』の「I'm Sick, B'cuz Luv U.」で弾いてるエンディングのところが、今まであまり納得できてない感じではあったんです。

-それは少しばかり意外なお言葉です。

悠介:もうちょっと壮大な雰囲気にできるだろうな、と前から思っていたものの、当時はまだ技術がなかったんです。2回目に録り直したとき(2015年3月リリースのベスト・アルバム『10th ANNIVERSARY 2004-2014 THE BEST』)も全然そこができていなかったんですけど、今回はようやく自分の醸し出したい壮大さを音として出すことができたのでよかったです。前よりは自分が着実にスキルアップしているんだな、ということを今回のレコーディングで確認することができました。

-先程の葉月さんのお話を踏まえますと、18年前と今では誰がディレクションをしているのか? という違いや録音環境の違い等も、録音のクオリティに影響している部分が少なからずありそうですね。

悠介:当時はレコーディング・スタジオでの録音だったんで、やっぱり時間の制約が関係してたところはあるかもしれません。玲央さんと交互に録っていくとなると、さすがにそんな何テイクもできないですからね。後が詰まっちゃうんで。でも、今は自分の家で好きなだけ時間を使って納得いくまで録れるから、かなり細かいニュアンスまで丁寧に出していくことができているんじゃないかと思います。

-きっと18年前と今では、自宅に揃えられるレコーディング機材のレベルも段違いなのではありませんか。

悠介:当時ならではの雑な音の良さというか、今の機材ではなかなか出しにくい音っていうのも逆にあったりはするのですが、そういう違いも、今回改めて認識できました。

玲央:まさにそれに該当するような出来事として、今回ある曲でその当時に入れたフィードバックの音を今の機材で再現しようとしたんです。そうしたら、全然その音が出せなくて(苦笑)。慌てて過去音源を掘り出そうとしたんですけど、ファイルがどれも曲名じゃなくてナンバリングしてる状態だったので、探し当てるまでに300くらいある中から200くらい全て"これでもない"、"こっちでもなかった"っていう作業をすることになってしまいました。しかも、出てきたファイルが今とは規格が違うんで、そのままじゃ開かないんですよ。コンバートしてやっと使えた、っていうことがありましたね。

-今の時代だからこそ出せる新しい音を駆使しつつ、細かい部分だとしても必要ならば当時ならではの音も徹底的に大切にするというその姿勢、とても素敵です。

玲央:必死になって探してよかったです(笑)。