INTERVIEW
lynch.
2020.03.17UPDATE
2020年03月号掲載
Member:葉月(Vo) 玲央(Gt) 悠介(Gt) 明徳(Ba) 晁直(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
-作曲者である悠介さんからすると、「EROS」で表現したいことは当初から定まっていらしたのですか?
悠介:最初はなんもイメージなかったですよ。まずはAメロのギターに合う音を探し出して、"この音いいな"っていうのを見つけたところからインスピレーションが広がってできていった感じでした。結果としてこういう曲調になった、ということですね。
-では、「EROS」にこのようなタイトルが冠され、これだけ艶めかしい歌詞が乗ってくることもその時点では予想だにしていなかった、ということになるでしょうか。
悠介:いや。これはデモを出した時点で、"EROS"っていうタイトルを付けてました。lynch.にとってはちょっと卑猥な歌詞というのも武器のひとつなので(笑)、こういう曲調で"EROS"というタイトルだったらそれなりの歌詞がついてくるんじゃないかな、と思っていたところがあったんです。
-そんな悠介さんの期待に、葉月さんは「EROS」の歌詞表現の面でしっかりと応えたことになりそうですね。
葉月:悠介くんの曲は「FALLEN」(2015年リリースのアルバム『D.A.R.K. -In the name of evil-』収録曲)とか「ENVY」(2014年リリースのアルバム『GALLOWS』収録曲)とか、結構前からネチっこい詞がつくケースが多いんですよ。「EROS」に関してはタイトルからしてコレだったんで、めちゃくちゃやってやろうと思って。もしかしたらレコ倫(レコード制作基準倫理委員会)通らないかな? くらいまで書きましたけど、無事通りました。lynch.としてはあんまり品がないのもアレだし、ギリギリで女性に嫌われないエロがこのラインですね(笑)。
-そんな「EROS」は歌の録り方や響き方も少し特殊ではありませんか?
葉月:悠介君の曲は録る直前まで、歌がどうなるかわかんないことが多いんですよ。仮歌がないので、いつもぶっつけ本番なんです。この曲の場合は、静かに歌いたいんだけどそのわりには高めだなというのがあって、高いっていうことは張らなきゃいけない。でも、張っちゃうと曲の雰囲気が壊れちゃうということから、下で低く歌うことにしたんですね。だけど、それだとちょっと寂しいなというふうにもなって上にファルセットを足して二重になったんです。結果として実験的な作り方になりました。
-明徳さんの場合、先ほどのお話で今回はベース改造まで手掛けられたとのことですが、いちプレイヤーとして最もこだわられたのはどのようなことだったでしょう。
明徳:さっきも話しましたけど、今回はチューニングが低いから耳で聴こえる範囲の低い音は基本的にギターで出ちゃってるんですよね。かといって、上のカリカリしたところで弾きたいわけでもなかったので、そうなると空いていたのは体感できるあたりの音域だけだったんですよ。だから、そこを攻めていくようにしました。
-バンド・サウンドにおける音圧をベースで担うかたちになったわけですね。
明徳:音づくりも今までだったら歪みを強くしたり、派手な感じでアプローチしたりすることが多かったんですけど、今回はそういうところを排除して逆に全然歪ませずにローの塊を出していくことを意識しながら弾きました。自分では、その試みがうまくいったんじゃないかと思います。
-たしか、前作『Xlll』(2018年リリースのアルバム)のときにも歪みは意図して減少させたとのお話がありましけれど、今作ではよりそこを追求されたということでしょうか。
明徳:そうですね。音の立体感と押し出し感をベースでより出せるようになりました。車でこのアルバムを大音量で聴きながらローを上げると、呼吸が苦しくなるくらいブーンって胸に響きます(笑)。
-そうした一方で、ギタリストとしての玲央さんが今作の中で大切にしていらしたことはなんですか。
玲央:今回のアルバムでは、シンコペ(シンコペーション)が多いんですよ。チューニングが下がったことによって、今まで使っていたのと同じゲージの弦だと必然的にテンション感が下がってしまうことになるので、まずは弦をいろいろと張り替えるところから始めましたね。波形で音を見たときに、まっすぐスパッと行くような音を出そうとしてもテンションが低いとヌルっとなりがちになってしまうというか。だから、今回のレコーディングではいつも以上に波形を気にしながら弾いてましたし、特にそのシンコペでの入りの部分ではギターでどれだけ上乗せできるかというのも大事なところなので、「XERO」もそうだし「EUREKA」とかも何回も弾き直しながら、波形がスパッと出るまで録りました。必要なダイナミクスや、音に軽快さを出すためのプレイをしていくのは、これまで以上にシビアでしたね。重みと躍動感を両立させるために、とにかく波形とにらめっこしながらのレコーディングでした(苦笑)。
-その甲斐あって、今作『ULTIMA』の音像は実に絶品なものとなったようです。
玲央:あんまり他では聴かない音、というんですかね。lynch.だからこそとも言える、かなり独自なものを作れたと思います。
-玲央さんは波形を気にしながらのレコーディングであったということですが、悠介さんがギタリストとして今作で特に留意されていたことはなんでしょう。
悠介:ギターを弾いていくうえではあんまり何かを気にするとかでもなく、自分は自然にやってた感じです。録り方の面で言うと、ライン録りの音の精度を今回はもっと高めたかったので、ケーブル一本一本の選び方には気をつけました。最近気に入っているシールドを使ったら、前よりもクリアな音で録ることができたんですよね。あとは、楽しみながら音を作っていくことができたのも今回のレコーディングの良かった点だったと思います。パソコン上でギター以外の音でフレーズを作って、それをギターの音として録ったところなんかもあります。「EROS」のイントロとかがそうですね。あれはハープの音をプラグインに取り込んで、そこにエフェクターをかけて作った音なんですよ。
-「ZINNIA」の間奏も、ギターとしてはだいぶ斬新な音のつくりですよね。
悠介:あれはロングサスティーンにしたかったのもあって、波形をいじりました。ピッキング・タッチがまったく聴こえない音にしたかったんです。
-悠介さんは以前からlynch.におけるサウンドの色づけ役であることが多かったように思いますが、今作ではその役割がさらに強くなったように聴こえます。
悠介:前よりも、デモをもらってから僕発信で音を作っていったケースはたしかに少し増えたかもしれないです。やっていること自体は、今までとそんなに変わんないですけどね。デモを聴いて頭の中に取り込んで、頭の中で鳴っている音をかたちにしているだけなので。考え込んで何かをしているわけではなくて、どちらかというと直感的に出したい音を見つけていっている感覚に近いような気がします。
-より彩りと力強さを増したこの音像の中、『ULTIMA』での葉月さんがヴォーカリストとしての何を心掛けていたのかも知りたいです。思えば、昨秋におひとりでの取材を本誌にてさせていただいた際(※2019年9月号掲載)には"もっと歌が上手くなりたい"との発言もありましたね。
葉月:うん、言いました。そういう意味からいけば、今回の歌録りは自分にとっての効果測定みたいなものだったと言えるのかな(笑)。そして、僕も今回は特に"こう歌いたかった!"みたいなものはなかったんですよ。まずは歌ってみて、そこからあとは曲に合わせてベストなかたちを追求する、っていうことを繰り返していった感じです。
-とはいえ、これだけの振り幅の楽曲たちですし。さすがの葉月さんとはいえど、時にはひと筋縄ではいかない場面もあったりしなかったのでしょうか。
葉月:それはもう、泣きそうなくらい大変でしたよ(苦笑)。いやほんとに。
-ましてや、今回「XERO」では大先輩の河村隆一氏がコーラスとしてゲスト参加もされていますものね。
葉月:そうなんですよ。去年の夏にあった隆一さん主宰のイベントに呼んでいただいたときに、その打ち上げの席で隆一さんがシドの明希(Ba)さんに"今度、俺の曲を書いてよ......"って言ってたんですよ。それを横で聞いてて、"何!? 俺も!!"と思って(笑)。
-隆一さんへの愛と明希さんへのジェラシーが交錯する、なんとも複雑な一場面がよく伝わってくる状況説明です(笑)。
葉月:だから、俺はすぐ割り込んだんですよ。"俺も書きます! いいっすか?"って。そうしたら、"いいよ......コーラスとかもやるから。タダで"と言ってくださったので"マジか!"と(笑)。
-それでこの「XERO」での共演が実現したのですね。欲しいものは自分の手でなんとしても獲得する、という葉月さんの意地を感じます。
葉月:ダメもとで頼んだ感じでしたけどね、最初は。だって、なんだかんだあれは飲みの場での話だったし。でも、"あのとき言ってたことってホントなんですか?"って改めて聞いたら、"いいよ"という返事をくださったので参加していただきました。ただ、僕としては、最初は何も言わないでファンのみなさんに聴いてもらって、"え? これ隆一さんなんじゃないの!?"ってなってほしい気持ちもあるんだよなぁ。言わなければ、僕がめっちゃモノマネしてるっていう可能性もあるわけじゃないですか(笑)。
玲央:葉月の声も混じってますからね。
葉月:ほんとなら、後出しで言いたい(笑)。