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LIVE REPORT

AA=

2022.09.18 @Veats Shibuya

Writer 吉羽 さおり Photo by Yoshifumi Shimizu

9月18日、Veats Shibuyaで"AA= (re:Run) story of Suite #19"が開催された。台風14号の影響で東京も雨模様となったが、フロアは大勢の人で埋まっている。昨年12月にリリースしたコンセプチュアル・アルバム『story of Suite #19』、そして今年2月には2年3ヶ月ぶりの有観客ツアーであり、『story of Suite #19』完全再現ツアー "LIVE from story of Suite #19"を行ったAA=。そして多くの声を受けて7月には限定発売だったアルバム『story of Suite #19』が通常盤リリースされ、ツアー・ファイナルの恵比寿LIQUIDROOM公演を収録したライヴ映像作品も同発となった。今回のライヴは、その"re:Run"=再演となるステージだ。しかしツアーからは約7ヶ月経ち、コロナ禍の状況も変化し、日常を過ごす人々の心情も変わってきた面もある。単なる再演とはならないのがAA=だろう。

ライヴ前半は、コンセプチュアル・アルバム『story of Suite #19』に則って、「Chapter 1_冬の到来」から「Chapter 9_SPRING HAS COME、取っ手のない扉が見る夢、またはその逆の世界」へと物語を進めていく。COVID-19が蔓延し閉塞した世界を下地に、そこで起こる出来事、閉じた世界の中で人々が生む軋轢、そのなかで戦うべきものがすり替わっていく怖さ、また普遍的な生きるエネルギーや喜びが寓話的に描かれ、shichigoro-shingoのイラストを用いた映像とともに演奏される。

バンドのラインナップはツアー時と同様に、上田剛士(Ba/Vo/Prog)、白川貴善(BACK DROP BOMB/Noshow/Vo)、児島 実(ex-THE MAD CAPSULE MARKETS/Gt)、YOUTH-K!!!(ex-BATCAVE/Dr)の4人体制。作品に通底する不穏なノイズ、ヒリヒリとした緊張感、緊迫感がリアルに表現されていくステージに観客は身を乗り出すようにしてその音を浴びる。ツアーを行った2月時点とは街の空気感もだいぶ変わってきており、ライヴでは大声や歓声が上げられないことなどは変わらないが、観客が"ライヴ"を楽しむ雰囲気が以前よりも出てきている。その前進している感覚はサウンドや映像にも投影されて、特に『story of Suite #19』の後半の曲はアグレッシヴに、タフに響き渡り、フロアはそのカタルシス溢れるサウンドを全身に受け拳を掲げた。

MCなどを挟まずアルバム『story of Suite #19』の再現に続いた後半は、ぐっとモードを変え「SAW」から爆発的にスタートした。ライヴの大きな流れとしては前回のツアーと同様だが、今回はここに新たな映像が加わっている。街に人々が行き交い、"日常"や"平穏"を取り戻しつつあるリアルな映像だ。一方でその日常や平穏が脅かされ続けている人々がいることが、ナレーションで綴られる。そこに、デジタル・ビートとダイナミックな人力のビートによる爆撃で突き進むマーチが感情を煽る「WARWARWAR」、「BPMaster」、そして「PEOPLE KILL PEOPLE」と歪みが効いたヘヴィなサウンドを連打。特に「PEOPLE KILL PEOPLE」の気迫は凄まじい。

そこから力強いビートが打ち鳴らされ、スクリーンが青と黄色に染まる。はためくウクライナの国旗を背に、上田はピース・サインを掲げた。観客もまた高々とピース・サインを掲げるなかで演奏されたのは「PEACE!!!」だ。アルバム『story of Suite #19』然り、今なお続いている戦争についてもMCで言葉を尽くすことはない。上田剛士はその長い音楽キャリアの中で常に社会を切り取り、人間の愚かさも描き、また力を持たぬものに寄り添い、想いを音楽にしてきた。アルバム『story of Suite #19』はひとつの物語としてコンセプチュアルな作品となったが、その視点はこれまでと地続きなものだ。ライヴに感じるのは、音楽家としてのまっすぐな姿勢である。

「posi-JUMPER」、「KILROY WAS HERE」から終盤へと突入し、キャッチーなメロディと軽快なビートがジャンプさせる「Path of the arrow」や、「The Klock」と続き、"ぶっ壊れていこう"と、「UNDER PRESSURE」のサイレンのようなノイズとブレイクビーツが轟く。スモークが噴射され、ステージもフロアも白く煙るなかで拳が上がり、その勢いのままラスト「NEW HELLO」へとなだれ込んでいった。先ほど、日常や平穏を取り戻しつつあると言ったが、かつてない経験を経て迎える日常は、これまでと違う新しいものになるはずだ。様々な感覚を研ぎ澄ませて踏み出していく、その前進が感じられるライヴ。アンコール含め全23曲。そこに贈られた観客の拍手は、とても大きなものだった。

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