INTERVIEW
lynch.
2024.06.28UPDATE
2024年07月号掲載
Member:葉月(Vo) 玲央(Gt) 悠介(Gt) 明徳(Ba) 晁直(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
lynch.っていうのはもともとニューメタルにすごく影響を受けてるバンド
-そんな「EXCENTRIC」とはリード・チューンの座を競ったこともあったのが、今作の冒頭を飾る「UN DEUX TROIS」だったそうですが、コンポーザーとしての葉月さんは、当初どのようなヴィジョンを持ってこの曲を作られたのでしょうか。
葉月:こっちは一番"らしい"ものを作ろうと思いましたね。今回の曲作り期間の中ではこれが最後にできた曲で、他が出揃ってあと1曲ってなったときに作るとしたら、やっぱり一番lynch.らしいものを持ってくるのがいいだろうと決めてから作ったんです。
-未だにライヴでもここぞという場面で演奏される「GALLOWS」(2014年リリースのアルバム表題曲)にも通じるような、まさにlynch.の王道を行く楽曲だと感じます。
葉月:「Adore」(2008年リリースのシングル表題曲)とか、さっきの「EVOKE」なんかとも違う、もうちょっとハードなほうの王道なんじゃないですかね。
晁直:ほんとにlynch.らしい曲なんで、変な言い方ですけど叩くときは何も考えてなかったです(笑)。
明徳:この曲は弾いててめちゃくちゃ楽しかったですね。きっとライヴでやってもお客さんたちがでらノりやすい、lynch.にとっての最強リフ・パターンの曲になってます。こんなイントロのリフって、十数年前はlynch.以外でもいろんなバンドがやりまくってた気がしますけど、ここんとこはほとんどやってる人いなかったから、逆に"今こう来るか。やられた!"と思う人も結構いるんじゃないかなぁ。
玲央:重さはあるけど、疾走感もあって、聴いた人が"lynch.と言えばこれだよね!"ってなるタイプの曲だなということは、僕も原曲の段階から強く感じてました。だから、これに関しては奇をてらうことなくまっすぐにやるべきことをやった感じです。
悠介:自分的な"らしさ"という意味で、終盤のディレイは意識して入れたところですね。
-あの繊細で特徴的な付点8分ディレイ・フレーズは、シングル『Adore』のカップリングだった「an illusion」や、シングル『A GLEAM IN EYE』(2009年リリース)のカップリングであった「All this I'll give you」、アルバム『I BELIEVE IN ME』(2011年リリース)に収録されていた「LIE」などでも効果的に使われてきた手法で、悠介さんとlynch.にとってひとつトレードマーク化しているところがありますものね。
悠介:lynch.にとっての王道っていう面では、重さや激しさだけではなく、ああいうふうにディレイを使って音に艶を持たせることができるところも、強みのひとつだと思ってるので、今回そこはこの1曲に集約させました。
-艶と言えば、この「UN DEUX TROIS」については歌詞に出てくる"いま退廃を"、"毒の華"、"黒のユメに舞導う"といった言葉たちからも、非常にlynch.らしい美的感覚と色艶を感じることができるように思います。
葉月:そこは「EXCENTRIC」と同じような感覚で書いた歌詞だからですね。とにかくキャラを立たせよう、ということで書いてます(笑)。あ、あと意外とこの詞のほうが韻はかなり踏んでます。揃えるのはちょっと大変だったんですけど、これはどうしてもこうしないと気持ち悪かったんですよ。
-フランス語を用いた"UN DEUX TROIS"という曲タイトルは、どのような経緯で決まったものだったのです?
葉月:この曲はイントロに入る前の掛け声が必要だったんで、それを"UN DEUX TROIS"にしたからですかね。"あぁ、このままこれがタイトルで行けるじゃん"って、たぶんそんな感じのノリで決まりました。
-それから、3曲目の「斑」は作曲クレジットが"明徳、葉月"となっておりますけれど、こちらは具体的にどのような成り立ちをしていった曲だったのでしょう。
明徳:インダストリアル的な曲を作ろうということで、まずギター・リフを2パターンくらいとサビを考えるところから始めましたね。でも、自分はギターがそんな弾けないので、小難しいことはできなかったし、あとは打ち込みで音をいろいろ重ねていって、面白くなればいいなと思いながら作ったものを、葉月さんがうまいこと修正してくれました。
葉月:いやでも、原曲を貰ったときはちょっと小難しかったですね。展開とかリズムは面白かったんで、いっそリフはシンプルなほうがいいなとか、展開はもっとこうしたほうがいいなって思ったところをちょこちょこ変えてった感じです。
明徳:まず、チューニングが変わりましたよね? 僕が普通のチューニングだとギターを弾けんかったもんで、ドロップA? とかの変な音で弾いてたみたいで(苦笑)。
葉月:lynch.には存在しないチューニングになってたんですよ。さすがにこれは"(ライヴでの)持ち替えめんどくせーな"と思って変えました(笑)。
明徳:あとはBメロのアイディアも出してもらいましたね。
葉月:あのBメロの演奏とか尺は原曲に沿ってるんですけど、実はBUCK-TICKからヒントを得たところもあって、今井(寿/Gt)さんのように悠介君が声を入れたらすげぇいい見せ場になるんじゃないかなと思い、途中に歌でもラップでもない語りみたいな部分を入れたいですと頼んだら、悠介君からその部分の歌詞が返ってきたのでそのまま生かしたんですよ。だから、この曲は作詞クレジットが"葉月、悠介"になってるんです。
悠介:やりたいことはすぐにわかったんですけど、その段階だとまだ本筋の歌詞ができてなかったんですよ。それでどうしようかな? とは思いつつ、ここでは自分の中にキャラクターを作って、そいつのことを歌うことにしました。ちょっと頭のネジは飛んでるんだけど、どこか憎めないような悪者で、音楽がとても好きなやつみたいな。そいつが自己紹介してる歌詞を書いていくうちに、これは自分たちにとって、ステージに立ってるときの理想的な在り方でもあるなと感じたんですよ。そして、最期はステージの上で死にたいというような想いも、ここには裏テーマとして入ることになりました。
-先ほど、葉月さんからはBUCK-TICKの名前が出ましたし。今の悠介さんのお言葉からも、昨年10月に急逝された櫻井敦司(Vo)さんのこととどこか重なるものを感じてしまいます。「斑」は作られていた時期がちょうどその頃だったということなのでしょうか。
悠介:そこはやっぱり......影響ありましたね。
-なおかつ、この"斑"という日本語を用いた曲タイトルもlynch.としてはなかなかの異例ではありませんか?
葉月:どうやら、1stフル・アルバム(『greedy dead souls』2005年リリース)のときの「矛盾と空」と「らせん」、「ラティンメリア」以来なので約20年ぶりらしいです(笑)。
-さて、今作『FIERCE-EP』には、玲央さんと葉月さんの作曲による「A FIERCE BLAZE」も収録されておりますが、この曲から感じられる、生き急ぐかのようなアグレッシヴな空気感にも、lynch.の音楽に必要不可欠な要素が投影されている印象です。
葉月:これは玲央さんから原曲が来たときに、今回の激しいっていうコンセプトにハマってていいなと感じた曲ですね。当初はもっとコンパクトでシンプルだったし、サビもなくAとBだけで終わるパンク・ナンバーだったんですけど、そこにいろいろ足していったら思ってた以上に大げさな曲になりました(笑)。
-大げさとは感じませんでしたが(笑)。とてもドラマチックな仕上がりです。
玲央:今作は企画段階で激しい印象の楽曲が収録されたEPにしようという話になっていましたし、このタイトルからもわかる通り、以前出した『EXODUS-EP』(2013年リリース)に近い方向性を持った作品になるだろうって認識は僕も持っていたので、ハードコアとかパンクのニュアンスを持った曲を出したんです。だけど、葉月がそれを広げてくれたときに、"今のlynch.だったらこのほうがいいな"っていうことは純粋に感じましたね。
晁直:これもlynch.としては今までありそうでなかったタイプの曲で、自分の場合はギターに対してのアクセントをシビアにハメていく必要があったんですよ。勢いがある曲に聴こえるとは思うんですけど、1セクションの中にフレーズが何パターンも入ってるから、最初は慣れなくて覚えるのに苦労しました。やってることはかなり細かいです。
明徳:そういえば、「A FIERCE BLAZE」では面白い発見がありました。サビの4コード目のルート音はD#で、俺はルートに合うところで遊んでたんですね。でも、ギターの音と微妙にぶつかるなと思って、玲央さんに聞いたら玲央さんはそこでセブンスっていうオン・コード? を弾いてたんですよ。
玲央:厳密に言うと、サビの4コード目と8コード目を変えてるんです。パッと聴きは同じコードに聴こえるんですけどね。セブンスやサスフォーでは小指を入れてます。
明徳:それが名古屋系ならではのオン・コードなのか! っていう新しい発見ができて、そこにベースも合わせたらもっと名古屋っぽい雰囲気が濃くなりました(笑)。
-そのくだりからは、ある意味での違和感があったのですよね。"ん? さっきと違う?"と感じて、あれはとてもいいフックになっていると思いました。
玲央:そうなんですよ。そこまで細かく気づく人はあんまりいないかもしれないですけど、理論上での正しい/正しくないとか、音として何かしらの違和感を醸し出していたとしても、聴き手にとって気持ち良く聴こえるならOKっていうことなんです。
-もうひとつ『EXODUS-EP』との関連性ということで言うと、今回「A FIERCE BLAZE」の詞が英詞ベースになっているところについても、少し『EXODUS-EP』と近いものを感じるところがあります。
葉月:それは実際に『EXODUS-EP』のときもそうでしたけど、結局こういうビートでこんなメロだと日本語がどうしても合わんのですよ(苦笑)。でも、英語で詞を書くのは苦手なんで。昔は友達に頼んで英詞を書いてもらったりもしてましたし、2015年くらいからはずっと日本語で書いてましたけど、この曲はもうさすがに日本語じゃ無理だなとなったので、拙いけど頑張って調べながら自分なりに英詞メインで書きました。
-これはパラドクス的でもあるのですが、英語が主体になっている反面、「A FIERCE BLAZE」ではわずかに入っている日本語詞の部分がより際立って聴こえる、という現象を生み出しておりますね。
葉月:ほんとですか? 昔のlynch.っぽくもありますよね。「GALLOWS」とかもそういう感じだったし。これも"らしい"ところが出たっていうことかもしれません。
-かくして、この『FIERCE-EP』を締めくくるのは、悠介さんの作曲による深遠且つ壮大なる世界が描かれた「REMAINS」です。これも珠玉の名曲に仕上がりましたね。
悠介:これは前の『REBORN』(2023年リリース)のときに作っていた曲なんですよ。というのも、今度のツアー("TOUR'24 THE FIERCE BLAZE")を組んだときにホールでのライヴも3本入っていたので、広い会場だと「REMAINS」は照明の演出とかも映えそうだろうなと思ったから、新しく作るよりもこの曲を入れたかったんです。
-「REMAINS」については間奏にてドラム・ソロ、ベース・ソロ、ギター・ソロと展開してくところがあり、そこも大切な聴きどころだと言えそうです。
悠介:僕はドラムの音とかベースの音が好きなんで、この曲ではライヴのときそこにスポットライトを当てたいと思って、こういう間奏にしたんです。むしろ、あの部分を作っているときにイメージしていたのはそこだけとも言えます。
晁直:ドラムは原曲通りそのまま叩いてます。個人的には間奏の部分よりも、他のところのほうが細かいニュアンスを大事にしていく必要があったので、叩くのは結構大変でした。レコーディングのときは、エンジニアのЯyo(Яyo Trackmaker/ex-girugamesh)君と一緒に時間をかけながら音を詰めていったんですけど、自分のテイクとЯyo君の編集、原曲のカラーっていう、その3つがすべてうまく重なり合ってこの音になったんじゃないかと思いますね。
-間奏のベースは、プレイもさることながら音色も大変素晴らしいと感じました。
明徳:あの音色、すごくいいっすよね! ライヴでどうやって出そう? って今ちょうど考えてるとこなんですけど、悠介さんの"コーラス(エフェクター)も足してみよう"という意見を取り入れたらほんとに良くて、めちゃくちゃ攻めた音になってます。
-葉月さんからは「REMAINS」の歌詞について、解説をいただけますと嬉しいです。
葉月:これはメロディも最初から原曲に入ってて、全体の雰囲気も完成してたから、僕は気持ちをかき立てられるまま、その感覚を言葉にしただけですね。なので、みなさんも感じたまま聴いていただくようお願いします(笑)。
-承知いたしました。今作『FIERCE-EP』の発表と併せて、7月7日からは9月まで続く"TOUR'24 THE FIERCE BLAZE"が始まっていきますが、ライヴハウスとホールの両方でlynch.がどのような空間を生み出していくことになるのか、実に楽しみです。
葉月:セトリをどうするかとかはまだ何も決まってないんですよねぇ。どうなのかな?
玲央:葉月が最初に言ってた、去年秋から冬にかけてやった"TOUR'23 THE CRAVING BELIEVERS"を経て、今作を作ってという流れがありますから。良くも悪くも『FIERCE-EP』は5曲なんで、セットリスト的には去年ご好評をいただいたあのツアーの熱みたいなものを継承しながら、新しい曲たちも同時に披露していければいいなと現時点では考えてます。lynch.が昔から積み上げてきたものと、最新のlynch.、その両方の側面を楽しんでいただける空間にしていきたいですね。よろしくお願いします!