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FEATURE

新世代ヘヴィ・ミュージック・シーン特集

2023.10.12UPDATE

2023年09月号掲載

クロスオーバーな世界観を共有するアーティストたちと共に、BRING ME THE HORIZONが日本のヘヴィ・ミュージック・シーンを刺激する!

Writer : 山本 真由

ヘヴィ・ミュージック・シーン最前線で何が起きているのか――
クロスオーバーな世界観を共有するアーティストの旗手となり、BRING ME THE HORIZONが日本のシーンを刺激する


新世代ヘヴィ・ミュージック・シーンの旗手、BRING ME THE HORIZONが出演ラインナップからアートワークまでディレクションを手掛けた新たなフェス"NEX_FEST"がここ日本で初開催されることを受け、近年のヘヴィ・ミュージック・シーンのトレンドと界隈の注目アーティストについて、まとめていこうと思う。

まずBRING ME THE HORIZON(以下、BMTH)は、2004年の結成当初は、新鋭のデスコア・バンドとして活躍していた。2006年リリースの1stアルバム『Count Your Blessings』は、ここ日本でも早耳リスナーに注目され、2ndアルバム『Suicide Season』(2008年)では日本デビューも果たしている。当時の音楽シーン(主に洋楽)においては、隆盛を極めていたMyspaceが、音楽ファンにとって最も進んだ情報源であり、コミュニケーション・ツールでもあった。それ以前は、海外での音楽の流行が日本にやってくるのは数年遅れると言われていて、ラジオや音楽誌、CDショップなどが音楽ファンにとっての主な情報源であった。それが、Myspaceなどを通してリアルタイムな情報が一般の音楽ファンにも容易に手に入るようになったため、BMTHがヘヴィ・ミュージック・シーンのルーキーとして話題となったそのころ、海を越えた音楽シーンのトレンドと国内のトレンドのタイムラグは、どんどん少なくなっている好タイミングだったのだ。

BMTHはその後3rd、4thアルバムあたりから、コアなトレンドであったデスコアから発展し徐々にポストハードコア的なサウンドに変遷していく。よりメロディアスになり、5thアルバム『That's The Spirit』では、さらにキャッチーなエレクトロ・アレンジやオーケストレーションも取り入れ、ぐっとオーバーグラウンドなサウンドに。ここまで来ると、名実ともに世界のロック・シーンを代表するバンドとして、ジャンルを問わず支持されるようになってくる。そして、2020年代に入ってからはヒップホップ界隈やエレクトロポップなど多彩なジャンルからのゲストを迎え、よりクロスオーバーな音楽性に磨きをかけている。


新たなムーヴメントで再燃! 進化し続けるヘヴィ・ミュージック・シーンのアーティストたち!


今回"NEX_FEST"に出演が決まっているBABYMETAL、YUNGBLUDもそんなBMTHのコラボ相手であり、近年の彼らの開かれた音楽観を象徴する存在だ。YUNGBLUDは、ロックとポップス、ヒップホップを織り交ぜた自由なサウンドと、多様性を表現するファッションやアティテュードも含め、若い世代を中心に多くの共感を集めている。そして、BABYMETALはKAWAII文化とヘヴィ・メタルの融合というユニークなアプローチが海外で称賛され逆輸入的に日本のメジャー・シーンでも評価を高めたアーティストだ。また、ヘヴィさとポップさを併せ持つサウンドで一気に人気を集めたI PREVAILや、海外からも注目されるPaleduskやCVLTEといったバンドも、ヘヴィ・ミュージックという枠組みにとらわれないジャンルレスなサウンドが特徴的である。




そういったクロスオーバーな楽曲が生まれる現在のシーンにおいて、重要なポジションにいるのが、先に挙げたBMTHやYUNGBLUDとの親交もあるラッパー兼シンガー・ソングライターのMACHINE GUN KELLY(以下、MGK)だ。ロック・アーティストからの影響を受け、LIL PEEPをはじめメロディ性を重視したエモ・ラップと呼ばれるアーティストたちよりもさらに、ロックな方向性へと踏み込んだMGKは、完全にロック・アルバムと言える作品『Tickets To My Downfall』(2020年)でシーンに革命を起こす。ラップとメロディ・ヴォーカルを自在に操り、ヒップホップ・リスナーでもノリやすく、ロック・リスナーがテンションの上がるツボを押さえたそのサウンドメイキングは、2010年代以降EDMやヒップホップにメインストリームの座を奪われ下火となっていたロック・シーンに、再び火をつけるきっかけとなった。MGKがパンク・ファッションに身を包み、ギターをかき鳴らし、BLINK-182のTravis Barker(Dr)やAvril Lavigneと共演したことは、ファッションにおけるY2Kリバイバル・ブームとも呼応し、ポップ・パンク・リバイバルというムーヴメントを巻き起こした。そうした潮流に乗って、ロック・アーティストとして意外な才能を華開かせたR&BシンガーのWILLOW、そしてMGKやAvril Lavigneとも所縁のあるポップ・パンク・シーン出身のラッパー/シンガー・ソングライターのMOD SUNなど、様々なアーティストが台頭。

そこからさらに、自由な形でロックを表現する新世代のアーティストも登場している。パンクとヒップホップ文化を繋ぐ懸け橋として長年活躍してきたTravis Barkerと繋がりのあるJXDNやPOORSTACYは、それぞれポップ・パンクを自らのフィールドで表現する楽曲を発表。JXDNは、エモメロとグルーヴで繊細な感情を表現、POORSTACYに関しては、BMTHのOliver Sykes(Vo)をゲストに迎えたヘヴィなメタルコアや軽快なダンス・ロックなど、バンドでないからこそできる振り切った表現で独自の世界観を作っている。また、最近日本デビューを果たし、すでに11月に来日が決定しているHOT MILKは、エモ/ポップ・パンクの正統派進化系とも言えるスケール感と、ダンサブルなビート、アグレッションでUKロック・シーンを盛り上げている。




近年では、SNSや配信サイト、サブスクリプション・サービスなどの発展によって、リスナー側の音楽の楽しみ方も多様化し、ジャンルを超えて自由に音楽を聴くことが自然な流れとなっている。これまでのように、好きなジャンルを掘り下げて気に入ったアーティストのアルバムを聴き込むという楽しみ方よりも、気軽にプレイリストから興味のある楽曲を手繰って楽曲単体で楽しむというリスナーが増えたことも、ジャンルレスな試みが広まったことの要因ではないかと思う。個性の違うアーティスト同士の共演は話題性もあり、MVも拡散されやすい。また、双方のファンのリスナーが支持することで、シーンが成熟し、新たな可能性にチャレンジするアーティストも生まれてくる。コロナ禍を経て、その動きはより顕著なものになり、国際的な動きに合わせて、日本国内でも音楽シーンは多様性の時代に突き進んでいる。

主に若者の声を代弁するものとして時代に合わせた進化を続けてきたヘヴィ・ミュージックは、今また新たなフェーズに突入しようとしている。ロック・アーティストがラップやEDMを表現として取り入れるだけでなく、様々なジャンルのアーティストと共演/共作をしたり、ラッパーやR&Bシンガーがロックな楽曲を歌うことも当たり前となった。また、ジャンルの垣根だけでなく、国境や言語による隔たりも薄くなり、SpotifyやTikTok、各種ライヴ配信サービスなどから新たなスターが生まれる動きもできている。こういった自由な音楽体験が当たり前となった社会から、次に生まれてくるのはどのようなアーティストだろう。今後も進化を続けるヘヴィ・ミュージック・シーンから目が離せない。

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