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INTERVIEW

HEY-SMITH

2023.10.31UPDATE

HEY-SMITH

Member:猪狩 秀平(Gt/Vo)

Interviewer:吉羽 さおり Photographer:上坂和也

全国津々浦々のライヴハウスやフェスを沸騰させるライヴ猛者であり、インディーズ・シーンの雄としてライヴやパンク・シーンを牽引してきたHEY-SMITHのメジャー・デビュー発表に、驚いた人も多かったのではないか。さらにその第1弾シングル「Say My Name」がTVアニメ"『東京リベンジャーズ』天竺編"のエンディング主題歌に決定ということで、どんな雰囲気の曲になるのか、いきなり遠くに行ってしまうとかはないのかなどなど、駆け巡る思いもあったかもしれないが、まず言っておこう。HEY-SMITHはどこまでいってもHEY-SMITHであり、どこでやっても濃くなることはあれど、核となるスピリットがブレることはまずない。5年ぶりとなるニュー・アルバム『Rest In Punk』はまさにその結晶であり、アートワークの飾らないストリート感も含め、タフさに磨きが掛かったスカ・パンク・アルバムとなった。このタイミングでメジャーへという経緯や、今を形にしたアルバムについて、猪狩秀平に話を訊いた。

-もはやHEY-SMITHはずっとインディーズで活動をしていくものとばかり思っていましたが、ポニーキャニオンと契約、さらに第1弾リリースの「Say My Name」がTVアニメ"『東京リベンジャーズ』天竺編"のエンディング主題歌に決定という展開に驚きました。まずは、どういった出会いでメジャー契約となったんですか。

スタートから話すと、これまでインディーズのCAFFEINE BOMB RECORDSで十数年やってきたんですけど、代表の森(英樹)さんに"もっと売れたい、自分の音楽をもっといろんな人に聴いてもらいたい"ということを話していて、"タイアップとか取ってこれないですかね"って相談をしたんです。森さんとしては"インディーズだから無理"っていう話で、"ですよね"ってなって(笑)。"じゃあメジャーに行くことも考えたいんですけど"っていうところからのスタートだったんです。森さんとしても"そういうのもありやんね"って前向きな感じで。めちゃくちゃ偉そうですけど、メジャーの人たちに"タイアップありきで我々をリリースしてくれる人いませんか"って言ってみたんです。そんなのありえないと思うんですけど、言ってみたら意外と何社かお話がありまして、純粋にこのタイアップが一番でかかったので"そこ行きまーす"みたいな感じでした。

-それがいつ頃の話なんですか。

もちろん、売れたいっていうのはバンドを始めてからずっと思っているんですけど......前作『Life In The Sun』(2018年リリース)を出す頃にはそんな話をしていたと思う。実際に動いてはなかったですけど、メジャーという選択肢もありなんかなと思いだしていたのはそのへんじゃないですかね。

-これまでのキャリアの中でもメジャーからの話はあったのでは?

ちょこちょこありました。けど、枚数契約が厳しかったり、パーセンテージが低かったり、"何やってくれるんですか"って聞いたときに、今自分ができる以上のことをやってくれるという明確なアンサーがなかったんですよね。例えばこうして激ロックのインタビューをさせてもらっていたり、ギター・マガジンに出たり、スペシャ(スペースシャワーTV)の"モンスターロック"に出れますよとか、そういうことを言ってくれる人もいましたけど、それは今まで自分たちでもやってきたから。"メジャーに行く意味って何?"って思っていて、それであまり踏み出せなかったんです。むしろ、"メジャーに行かなくても自分でやっていくのがバンドでしょ"って思っていたので。ただ、"東京リベンジャーズ"のエンディングっていうのは自分たちでは取ってこれないものなので、自分が知らない売り出し方を思い切り提示してくれて"熱い!"と。

-それで決断となったんですね。そのタイアップがシングル「Say My Name」ですが、例えばアニメのエンディング曲だからこういう雰囲気でとか、日本語の歌詞でといったオーダーなどはあったんですか。

相手からのオーダーはなかったですね。提案とかも別になかったんです。

-純粋にいい曲を書くということができたと。

売れるための音楽をやりたいわけじゃなくて、自分のやりたい音楽をやって、それをできるだけ広めたいので、"こういう曲をやってください"とか言われるようなものだと、逆にできなかったかもしれないですね。そういう意味では、ものすごくありがたかったです。なのでまずはアニメを観ましたね。もちろん"東京リベンジャーズ"は知ってたんですけど、めちゃくちゃ詳しいわけじゃなかったので、まずやっていたアニメを全部観て、漫画を買って読んでという感じで。ほんまに適当って思われるかもしれないですけど、アニメを観終わって起きたらだいたいできてました。

-(笑)すごい。

サビがまんまできていて。"東京リベンジャーズ"ってめっちゃ人の名前を呼ぶんですよ。"(花垣)武道!"とか"マイキー(佐野万次郎)"とか、人の名前を呼ぶシーンが頭から離れなくて、"タイトルは「Say My Name」やな"って早い段階で決まりました。ピンチとか自分がつらいときに"俺の名前を呼べ"みたいなイメージがパッと浮かんだので。作曲としてはめちゃくちゃ早かったです。

-こうして作品ありきで曲を書き下ろすのは初めてですか。

アティテュードに対してとかはありますね。HEY-SMITHはアメリカではAsian Man Recordsに所属しているんですけど、そこでアゲインスト・レイシズムのコンピレーション(2020年リリースの『Ska Against Racism』)を出すというときに、レイシズムに反対する曲を書くとかはありましたね。それはアティテュードの面でしたけど、こっちは作品という感じで。そういうテーマがあるほうが、何を歌ったらいいかがはっきりするのでやりやすいですね。久しぶりに"この曲、ええ曲ちゃう?"って自分で思えたので、楽しくできました。メンバーに聴かせるときも、"これどう思う?"じゃなくて"これで良くない?"くらいの感じでしたね。

-"これぞHEY-SMITH"という曲ですよね。まずYUJI(Ba/Vo)さんのハイトーンのヴォーカルで始まるインパクトがあって、メロディックでありホーンの分厚さもありと、"これぞ"っていう強みがすべて詰まっていて。

そう。声スタートにしたいっていうのもあったんですよ。アニメを観ていると、いつも最後に"嘘ー!?"みたいな場面で終わるんですよ。で暗転して、真っ暗ななかエンディングになって、この声から始まるっていうのが自分の中でのイメージでもありました。あとは担当をしてくれているポニーキャニオンの人が、"HEY-SMITHの全部乗せみたいな曲どうですかね"って言っていて。"全部乗せって何?"って自分ではわからなかったんですけど、客観的に考えると、メロディックでちょっとハードコアっぽい、スカっぽいもの、みんなで叫ぶところもあるみたいなこと? っていうか。その全部乗せにこだわってみました。

-その全部乗せでありつつ、旨味だけでまとまって駆け抜けるようなコンパクトな曲になっている。

2分もないですからね。これ以上必要ないと思いましたし、短いんですけどこれで十分っていう。

-アニメを通じて初めてHEY-SMITHの音楽に触れる人もぐっと増えると思いますが、そこに対して鮮やかでいい一撃になる曲です。ちなみに、英語詞でやるというのもブレないところだったんですね。

そうですね。メジャーでタイアップつくから日本語に変えるっていうのはキツいなと思っていたので。そうはならんとこうっていうのはまずありました(笑)。いきなりバラードになるとか、いきなり"みんなで頑張ろう"みたいな応援歌を日本語で歌うとかじゃなくて、この人が自分で作っているなと思えるストレートなものにはしたかったですね。もちろん売れるのが目的やったら、絶対日本語で応援歌を歌うべきやと思うんです。これは歌っている人を馬鹿にしているわけじゃなく、自分がそういうのをやりたかったら、最初から4人ぐらいのバンドでそういう曲をやっていると思うし。でもスタートがそうじゃなかったので。もし次の人生があるんやったら、もっとキャーキャー言われる音楽とかやってみたかったし、そういう音楽も聴きますしね。HEY-SMITHはそうじゃないというだけで。

-HEY-SMITHの全員の武器を生かすとこういう音楽になるという、最たる形なわけですね。いろんな人の記憶に残る曲にもなると思いますし、アニメを観ている子供たちが、パンクやロックを知るという最初の体験にもなりそうです。

あると思いますね。まだこの話が決まる前ですけど、俺、子供に場地(圭介/アニメの登場キャラクター)君と間違えられることがあったんです。場地君がバンドやってると思ってるらしくて(笑)。作中では場地君死んでるのに。サイン会のときに、子供が俺に"場地君!"って言ってきたりとか。なのでこの曲が出て演奏してるのを観たら、本当に場地君がやってるんじゃないかって、その子ら勘違いするんじゃないかと。まぁ、そういうのも面白いなと思います。

-(笑)6thアルバム『Rest In Punk』の話も聞いていきたいのですが、すごくいいアルバムで。個人的に、聴いたときに2ndアルバム『Free Your Mind』(2011年リリース)に通じる勢いとアグレッシヴさ、曲それぞれの強さを思い起こして。さらに内面的なところに踏み込んだ深みもある、そういうHEY-SMITHの最新形だなという印象がありました。

『Free Your Mind』って何がいいんですかね。

-衝撃があるアルバムでした。とにかく頭から終わりまで全部が強いもので。パンク、スカ・パンクの歴史も踏みながら、きっとこういうものが好きなんだろうなというルーツやいろんなカルチャーもわかるもので、且つ新しいことをやるっていうパワーに満ちていて。今作『Rest In Punk』も通じるものがあります。

俺も『Free Your Mind』はいいアルバムだなと思っていて。どのアルバムもすごく頑張って作ったんですけど、1枚どれか選ぶと言ったら『Free Your Mind』なんですよね。なんでなんかなって自分でもわからないんですけど。どこかで『Free Your Mind』みたいなアルバムを作りたいって考えていたんだと思いますね。だから今言われて"そうなんや"ってびっくりして。

-猪狩さん自身『Free Your Mind』は手応えがあった作品ですか。

たぶん。あのアルバムで認知されたような気がするんです。『Free Your Mind』の前までは、ライヴでは曲をやってどんどん盛り上げていって、ライヴの最後のほうにはめっちゃ盛り上がってるっていう感じやったんですけど、『Free Your Mind』くらいから曲が始まった途端に会場が沸く、みたいなのを感じ始めていて。そういう手応えはあったんです。今回もそういう曲を作りたいなって思って作っていましたね。始まって2秒でテンションが上がるし、何回聴いてもスルメみたいに聴けるような感じ。

-アルバムはいつぐらいから制作をスタートしていたんですか。

期間で言えば前作『Life In The Sun』以降ずっとですね。制作期間を設けてやってるとかじゃなくて、日常的に作っているので。最後の1~2曲だけは"こういうビートの曲が欲しいな"とか"全部速いからミドルの曲が欲しいな"とかで帳尻を合わせるというのはあるんですけど、基本的にはずっと作っていますね。

-今作で最後のほうで作られていた曲というと、どのあたりですか。

最後にできたのが「Still Ska Punk」と「Rest In Punk」でしたね。

-「Still Ska Punk」は、タイトルを見るとこれまでの感じなのかなと思いきや、重心低めのサウンドで、重厚感も痛快さもある曲になりました。

そう。歌ってるし吹いてるし、というのが一生続いてる曲が欲しいなと思っていて。英語圏じゃなくても通じる、いろんな民族の前やどんな言語の国でも、どこでもやれる曲が欲しかったんです。それでこういう曲になりました。

-歌ってる内容がまた、今一度自分たちのブレない姿勢を突きつけるものですね。

"スカ・パンクは売れない、儲からない"って、歌詞に書いたようなことをよく言われていたんです。でもそれは本当に正しくて。歴史上でスカ・パンクで儲かってるバンドなんていないんですよ。世界的に見てもそうだと思うんです。スカ・パンクって、3~4人のロックより確実にパイが少ないんですよ。マジで金にならないと思うんです(笑)。しかも3~4人のバンドの倍くらいの人数がいるから、収入は半分以下になるわけじゃないですか。それは金にならんよってめっちゃわかっていたんですけど、でもこの音楽最高ですよねっていう曲ですね。

-それをキャリアを積んできた今、しかもメジャーでのアルバムで歌うっていうのが意味があるもので。

そうですね。バンドで食えるので、"バーカ"って思って(笑)。スカ・パンクでも儲けられるよっていう皮肉も入ってます。