INTERVIEW
HEY-SMITH
2021.07.28UPDATE
2021年08月号掲載
Member:猪狩 秀平(Gt/Vo)
Interviewer:荒金 良介
HEY-SMITHが約3年ぶりになるシングル『Back To Basics』を世に放つ。今作はライヴ会場限定リリースという形態を取っており、現場に足を運ばないとCDを手に入れられない仕組みとなっている。そう、現在も続くコロナ禍の中でダメージを受けたライヴハウスの力になりたい! という気持ちを込めたHEY-SMITHらしい音源と言っていい。8月からは47都道府県ツアーが始まり、その各会場で販売される今作について、猪狩秀平に話を訊いた。とにかくすでにMV公開中の「Be The One」があまりにも素晴らしく、この名曲ができた背景を知りたくて、真っ先に質問させてもらう流れとなった。
音楽を疑ってしまう瞬間があったから、いや、そうじゃないやろって 無条件でハイになれたり、感動できたりする曲を作ろうと考えた
-「Be The One」をもう数十回と繰り返し聴きましたが、新たなロック/パンク・アンセムと言えるほどの名曲が完成しましたね。まずは猪狩さんの手応えから教えてもらえますか?
そうっすね、いい曲ができたと思います。語弊のある言い方かもしれないけど、このメンバーになって一番いい曲なんじゃないか、という手応えはありますね。もちろん聴く人が決めることだけど、自分的には相当デカいことがやれたんじゃないかと。
-それは今のバンドの状態がいいから?
バンドで会う機会も減っていたので、状態は良くも悪くもないというか、こういう世の中になり、また歌いたいことが増えたというか。『Life In The Sun』(2018年リリースのアルバム)の頃は明るくて自由で、イェーイ! という感じやったけど、今回はまた『STOP THE WAR』(2016年リリースのアルバム)のようにメッセージがちゃんとあるので......この環境だからできた曲ですね。
-『STOP THE WAR』を彷彿させるメッセージ性がある一方、あそこまで重くてシリアスな空気は感じないんですよね。
この曲はひとりで作ったんですよ。前はメロディやホーンのハモリとか、ちょっと相談することはあったけど、今回は一切相談しなかったんですよね。スタジオで集まることもできなかったので、スタジオで合わせることもしなかったんですよ。
-『Life In The Sun』も猪狩さんひとりで作った楽曲ばかりでしたけど、「Be The One」はさらに自分色が強く出ていると?
うん、さらにって感じですね(笑)。『Life In The Sun』はひとりで作ったものをみんなで合わせて、こっちがいいなと変えたところもあるから。
-「Be The One」はさらに猪狩色が強くなっているにもかかわらず、バンド感はよりいっそう強く押し出されている印象を受けました。
そうですね。『Life In The Sun』は大きなメロディで、大きな枠組みで楽曲を捉えていたけど、今回は全部の要素を入れたくなったんですよ。ギター、ホーン、メロディもマックス・テンションというか、今持っている武器を全部使いたいなと思って。
-ええ、HEY-SMITHが持っているパンク、メタル、スカの三大要素を濃縮させた仕上がりです。なぜ全部入れよう、という考えに至ったんですか?
理由はわからないけど、これが最後になるかも感はあったのかもしれない。コロナもあり、この先どうなるかわからないし、代表作を作りたいという気持ちがあったんでしょうね。
-「Be The One」はYUJIさんがメインのヴォーカルです。それに対して猪狩さんは前半のパートで初期作に通じる荒々しいシャウトを入れ、後半は『Life In The Sun』以降の柔らかでエモーショナルな歌心を発揮しているのも、大きな聴きどころだなと。
やっとYUJIメインでいい曲ができたなと思いました。俺はギターを弾きながら、コーラスしたいんですよ。いつも曲ができたときにお互い歌うんですけど、『Life In The Sun』はたまたま自分に合う曲が多かっただけで、本来はこの形が好きなんですよね。YUJIが歌って、俺がコーラスするほうが全部詰めみたいなイメージで、HEY-SMITHの色が出ていると思うから。
-「Be The One」はメロディがずば抜けて良くて、深みを備えた説得力さえも感じます。
ギターで言うと、普段はリフやパワー・コードで攻めることが多かったけど、この曲はサビでいろんなコードを弾いているんですよ。この曲にはそういうエモさも乗ってると思います。曲を作ったのは去年の夏頃で、自分としては一番自粛していたときで、マジで家から出てなかったんですよ。秋や年末にはライヴできると思っていたけど、あれ、そうでもないのか? って思い始めた時期ですね。
-「Not A TV Show」(2018年リリースの3rdシングル)に続き、今作はライヴ会場限定リリース第2弾になりますが、これはどういう気持ちから?
会場限定にしたのはとにかくライヴハウスに来てほしいし、ライヴハウスがもとの姿に戻ってほしいんですよ。ほんまは大きな会場を回ったほうが採算は合うし、今のキャパだと、行っても赤字な場所もあるんです。でも、会場でCDを買ってもらって、またライヴハウスに行こう! と思ってもらえたらいいなって。バンドのサイズを大きくすることも考えたいけど、結局戻る場所であるライヴハウスの力になりたいという思いがあり、会場限定にしました。
-そもそも「Be The One」を作ろうと思ったきっかけは?
すごくモヤモヤしていて、音楽は自分にとってどうなんかな? と考えてしまって。例えば、格闘技やスポーツも歓声はダメと言われているけど、ウォー! って歓声が出ているじゃないですか。音楽はダメ! と言われたら、我慢できちゃうというか......えっ、そんなにちっぽけなものなんって。音楽を疑ってしまうというか、スポーツのほうが人の心を感動させられるんちゃうかって思う瞬間があったんですよ。きっかけはそこですね。お前の信じていたものはそんなにちっぽけなものなんか? という自問自答があり、いや、そうじゃないやろって気持ちで作曲しました。
-音楽の力を疑ってしまう瞬間があったと。
そうですね。静かにしろ! と言われても、できないものやと思っていたんで。だから、無条件でハイになれたり、感動できたりする曲を作ろうと考えたんです。まだ自分の描いている光景(ライヴ)を目の当たりにしてないので、わからないですけどね。
-"Just lost"という歌詞もありますが、この曲には喪失感みたいなものも入ってますか?
喪失感はかなりありましたね。自分が最初のひとりになればいいのに、誰かヒーローみたいなやつが現れるのをずっと待っていて......誰かがどうにかしてくれるのを待つ気持ちもあったから。ただ待っているだけの自分に喪失感はありましたね。自分が先頭に立って、みんなを引っ張れたら良かったのに、全然そうじゃない。ちっぽけな存在だなと思いました。自分へのがっかり感は継続中ですね。