INTERVIEW
オメでたい頭でなにより
2022.09.27UPDATE
2022年09月号掲載
Member:赤飯(Vo) 324(Gt)
Interviewer:吉羽 さおり
自然に出てくるものを吐き出したらこれだった
-激しく攻撃的ということでは、「NO MUSIC NO LIFE」もそうですね。
赤飯:これはできたのが昨年で、ぽにき(ぽにきんぐだむ/Gt/Vo)が死ぬほどキレ散らかしてた時期にできた曲ですね。ヘイト溜まりすぎやし、その矛先がわかりすぎやし。なので、僕らからはコメントをしないでおきます。
324:今もそうだけど、ミュージシャンの界隈とかで我慢ならんみたいな空気がすごくあったときに作ったもので。御多分に洩れず、ぽにきもそうだったし、俺らもやっぱげんなりしてたし。配信ライヴとかをやってお茶を濁したものの、まだライヴが全然できないじゃねぇかというところで。
赤飯:配信ライヴやったあと、凹んでたもんなあいつ。
324:逆にフラストレーションが溜まってしまったみたいで。
-これまであれだけライヴをやっていたら、やっぱり配信でのライヴというのは別モノだなってなりますからね。
赤飯:配信ライヴは配信ライヴでいいんですけど、お客さんが目の前におってなんぼなんやなというのは改めて思いましたね。
324:そういう生き物なんだなっていうね。そんな時期のフラストレーションが、まんま反映されてます。エモーショナルな楽曲はこれまでもやってきているけど、この曲は結構ノれて好きなんですよね。
-当然こういう怒りやどうにもならない思いはあるもので、音楽として出てきて然るべきですよね。今回は、この2020年くらいから2022年の気分や空気感というものがちゃんと入っていて、だからこそかき立てられる思いもあるし、改めて考える部分も出てくるアルバムになっていくんじゃないかと感じるんですよね。
赤飯:言うなれば戦時中、ですもんね。
324:こんな楽曲を発表したところでどうともならないのも、さらにもどかしいんですけど。日記帳みたいなものですよね。"このときはこう思っていたな"とか。
赤飯:うん。結果、敗北感が漂うアルバムだと俺は思ってる。
-「プレシューズ」はmaoさんが作詞でクレジットされている曲で。1曲目の「きなしゃんせ。」も作曲にmaoさんが入っていましたが、今回はメンバーそれぞれが積極的に制作に参加していますね。
324:メンバー全員たぶんそうだと思うけど、俺もなんかやらなきゃというのはあったと思う。どん詰まっていてなんも曲が上がってこない時期があったから、何かしなきゃみたいになっていたんですよね。
赤飯:そうやって自分の立ち位置みたいなものを模索していた時期だと思いますね。この「プレシューズ」は、maoからお父さんへのお手紙の曲で。
324:これも日記的だよね。曲自体は2018年くらいに作ってたもので、歌詞も自分でいろいろとやってみて、仮歌も録って頑張ったけど全然まとまらなかった曲だったんです。でも改めてやってみたいとなって、maoが歌詞を書いてくれて。個人的なことを歌にした曲で、今までだったらあまりやらなかったことかもしれないけど、maoが手を挙げることによってできた曲という。
-324さんが作っていた最初の段階から、今のようなJ-POPっぽい爽やかなサウンドだったんですか。
324:そうですね。俺は歌謡ロックのつもりで作ったんですけど、爽やかな感じになりました。歌い方もあるかもしれないですけど。
赤飯:ゴリっとした感じで歌って送ったら、それじゃねぇだろって言われて(笑)。まぁそうだよな、わかってたよっていう。だいぶ抑え気味というか、クセをなくして歌わないといけなかったので、ちょろっと広瀬香美さんだけ入れておきました。
324:でもあえて入れたわけじゃないでしょ(笑)? 赤飯は歌のパンチがないと不安になる病だけど、赤飯の歌の良さって別にそれだけじゃなくて。メンバーからすると、こういうふうにそんなに力を入れずに歌っても、赤飯の良さって出るよねというのは共通認識であって。
赤飯:そうなんだ?
324:赤飯としては不安なのかもしれないけど。
赤飯:不安しかないよ。なんの味もせんと思っちゃうんだよね。
324:でも、素の良さがあるからね。
-これだけいろんな歌のパターンを持っていると、どれが本当に自分のまっすぐな声なのかがわからなくなりそうですね。
赤飯:それはもう、ここ15年くらい思ってます。
324:いろんな人の真似とかもどんどん吸収しすぎてね(笑)。
赤飯:いわゆるクリーン・ヴォイスもあるんやろうけど、ただそのクリーンで歌うことに恐怖心がありすぎて。ギターで、弾き語りでやるならいけるんですけど、こういうバンド・サウンドの中で負けずに、なおかつきれいに、しかも個性も出してとなってくるとどう歌えばいいかわからなくなっちゃうんですよね。すげぇ難しかったです。
-324さんの曲「意味ない歌」は、シライシ紗トリさんがアレンジを手掛けています。J-POPのヒット曲を多く手掛けるシライシさんとオメでたの異色の組み合わせで、かつてない曲になりました。
324:これは324の曲で別のアレンジャーさんを入れてやってみるのはどうかってのがあって。僕は歌詞とメロディとコードだけで、曲を作ってそれでアレンジをどうしようって言うので、シライシさんに投げるみたいな。シライシさんは今回、いろいろと深いところまでお付き合いいただいて。作詞についても、もっとこういう表現をしたらキャッチーなんじゃない? とか、こういう方向にしてもいいんじゃないかとかなりアドバイスをいただいたんです。この曲はこの組み合わせだったからこそ、俺なりにキャッチーな方向に振り切ってみようという結果、ラヴ・ソングになったよね。
赤飯:そうだね。
324:最初は自分に対しての曲だったんです。そうじゃなくて、他者に対してオープンにしてみたらどうかということで、相手をしっかり想像する歌詞の書き方になって、それがラヴ・ソングになりましたという。間口を広げるとはどういうことかをだいぶ教えていただきましたね。
-で、こういうストレートな歌を赤飯さんはどう歌うのか、ですよね。
赤飯:そこなんですよね。
324:難しかったね。
赤飯:どう歌えばいいかわからんということで、まず300テイクくらい録ったんですけど。こうやっていけばいいんだっていうのが何ひとつわからなくて。とりあえずこうかなってのを送ってはみたんですけど、そのあと自分の中でブレイク・スルーする瞬間があって、また録り直して、これいいじゃんってなったのが今のテイクですね。ミックスの方には迷惑をかけてしまったんですけど。
-シンプルで王道な曲だからこその、表現の難しさですね。
赤飯:そうですね。クセあり前提で生きてるので、それを取っ払ったときの裸感が怖すぎて。
324:素の自分が怖いよね。
赤飯:これもう、ナニが見えてるんちゃうかなって思うよな。ちゃんと隠れてる? って感覚なんですよね。
-そしてこれも先日の6周年ライヴで披露された、EDMど真ん中の曲「HAKUNA MATATA」。
赤飯:クレジットの多さが今っぽいですよね。最初は、ぽにきが中西(航介)君と曲作りをスタートして。このコンビの曲はこれまでも何曲かあるんですけど。上がってきたものに対して、今回はKSUKE(DJ/DANGER×DEER/コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店))にアレンジをお願いしぃひん? って提案して。
324:これまでのそういった曲、「NO MUSIC NO LIFE」とか「哀紫電一閃」(2020年リリースの2ndフル・アルバム『オメでたい頭でなにより2』収録曲)とかもそうですけど、俺がアレンジしているんですよね。でもこの曲に関しては、ガチの人に頼んでコライトしてもらったほうが絶対にいい出来になるっていうことで、KSUKE君にお願いしました。
-結構変化した感じですか。
赤飯:別曲やな。
324:驚きと納得はあったかな。本場の人の解釈だとこうなるんだっていう。もともとのデモはもうちょっとミクスチャー寄りで、バンド・サウンドがしっかり出ていて、その上にシンセがあったんですけど。もうちょっとEDM要素をしっかりと出したいという発注だったよね。
赤飯:なおかつ今自分がハマってるムードの、こういう音色でこんなテクスチャーのものをってリクエストをしたら、それが形になっていてハマったんです。
-ちょっとオリエンタルな雰囲気の部分ですかね。
324:オリエンタルっぽい要素は、KSUKE君のサウンドメイキングにかなり助けられたところでしたね。
赤飯:エレクトロ・アンビエント系の人ですごくハマっている人がおって、その人のこういう部分がいいんだって言ったら、ドンズバでやってくれて。これは、ライヴでもすごく良かったんです。ぽにき節で、メッセージ性はだいぶ強いですけどね(笑)。
-ソングライターの色がそれぞれ出た作品を締めくくる曲が、先日の6周年ライヴのときに"これからライヴで育てていきたい曲"だと言っていた「すばらしい時代」です。
赤飯:これは弾き語りから作っていって、アレンジをakkinさんにお願いした曲なんですけど。akkinさんには、昭和歌謡っぽいものから膨らませる曲をやりたいという話をしていたんですよね。それで昭和歌謡っぽイントロをいただいたときに、じゃあこれでさらに揉んでみますってやっていって、納得できる内容になったなと。この曲では、自分がナチュラルに纏っている、自分ってこんなものだよねというのをそのまま歌で出せたので、20分で録り終わっているんですよね。表現とかも細かく考えずに丸腰でやって、それが収録できたので良かったなと思って。自分で、弾き語りでメロディを作っているから当然そうなるのかなというのもあるんですけどね。
-アルバム制作に至る過程は困難もあったし、社会の状況や日常もたくさんの変化があって、"敗けを認めたあの日から"と歌いながらも、"すばらしい時代はすったもんだ"と明るいのかどうかはわからないけれど、ケリをつけて進んでいることが感じられる曲になっているなと。
赤飯:そうですか。だったら良かったです。僕は、そこはまったく何も考えてないので、そう捉えてもらえるのもいいし、暗い曲だねって言われるのもいいし、どちらでもいいと思っていて。
-ライヴやツアーでこの曲がどういう聴こえ方になっていくのか楽しみであると。
赤飯:もしかしたら、その時々で歌う表情とかも変わってくるかもしれないですね。もちろん"すばらしい時代"っていうのは皮肉なんですけど。まっすぐにそう思えるタイミングがきたらいいよなってくらいの感じで。
324:この曲はすごくいいよね。いいけど、改めて曲のラインナップ見ると真面目だな(笑)。
赤飯:振り返ってみたら、クソ真面目やな。おもろないバンドやなって(笑)。ジャケットもスカしてるしな。
-でも1回これをやっておかないとダメだったわけでしょう(笑)?
324:たしかに、これを小出しにするのも違う気がするよね。自分たち自身で1回納得したあとで、面白とかおふざけにいかないと、やっていけなかった気がする。
赤飯:ナチュラルにやってこうなったなら、"このときの俺らはこうやった"でええんちゃう? って。実際、ふざけたい気持ちになれなかったしね。自然に出てくるものを吐き出してこれだったら、そういうことなんだなと思う。