INTERVIEW
ACME
2023.02.14UPDATE
2023年02月号掲載
Member:CHISA(Vo) 将吾(Gt) RIKITO(Ba) HAL(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
脳の記憶容量については150テラバイト相当であるという説や、それを遥かに上回る1ペタバイトはあるとする説など様々あるものの、どうやら脳の全貌についてはまだまだ解明されていないことのほうが多いようだ。脳科学的な見地から物事を解析することの重要性が認識されてきているこのご時世において、このたびACMEが発表することになったシングルのタイトルは"洗 脳"。サイケデリックなエレクトロ感、漂うノスタルジー、さらには躍動感溢れるバンド・サウンドを融合させた音像と、シニカルな歌詞が目いっぱいに詰めこまれたこの曲は、5月の"ACME 6th Anniversary Live Tour 2023「閃光と洗脳」"へと繋がっていくものでもある。
耳からACMEの音を聴いてもらって、みんなを洗脳したいなって
-昨年11月に発表された3rdアルバムに収録されていた、表題曲にして新曲の「Resisted temptation」は、ACMEが最も得意とするラウドロックの要素を前面に打ち出した音像が特徴的でしたが、2023年第1弾音源となるデジタル・シングル「洗 脳」は、一転してエレクトロ的要素とバンド・サウンドを融合したものに仕上がっている印象です。まずは、今回の作品でこのような方向性にシフトした理由について教えてください。
CHISA:曲を作り出していくときにレトロフューチャーのイメージがあったんですよ。この曲に関しては、昭和末期や平成の初め頃みたいなちょっと懐かしく感じるような雰囲気の音を入れていきながら、リズムの部分では現代的な感覚も使いつつで、今までのACMEにはちょっとなかったタイプのものができたんじゃないかと思います。自分としては変化球なんで、これがシングルになるとは予想してなかったんですよね。でも、選曲会をやったらメンバーみんなして"これいいね!"ってなりました(笑)。
将吾:当初は、「Resisted temptation」と「洗 脳」のどっちをアルバムのリード曲にして、どっちをそのあとに出すシングルにするか? っていう話し合いをしたんですよ。で、結果として「Resisted temptation」はアルバムに入れることになったし、「洗 脳」はシングルになったんです。シングルってなるとMVも撮ることになるわけだし、いろんな意味で、これまでと似たようなことよりもまったく違うことをやったほうが面白いんじゃない? って思ったんですよね。
RIKITO:シングルで言うと、前作が「Kagaribi」(2022年7月配信リリース)でしたからね。そこからの「Resisted temptation」があって、さらに新しいシングルっていう流れを考えたら、僕も「洗 脳」がいいだろうなって思いました。
HAL:「Resisted temptation」はACMEの最も尖った部分を凝縮した曲だったんで、そうなると次に必要なのは新たな一面だろうとは僕も感じてました。「洗 脳」はここからのACMEにとって、きっと世界を広げてくれる曲になっていくはずです。ドラムもいつもだったら叩きまくってるんですけど(笑)、この曲ではフレーズをすっごくシンプルにしました。ビートを気持ち良く聴かせるっていうことに徹したんですよ。自分にとってもACMEにとってもこれはひとつの挑戦でしたね。
-フレージングをシンプルにしたとなると、そのぶんドラムについては1打ごとの音によりこだわることになられたのではないですか?
HAL:ですね。裏に入ってくるスネアとか、こういう音作りだとほんと"よく聴こえてくる"ので、細かい音色の部分なんかも大切にしていきました。
-トラックには無機的なエレクトロ・サウンドも多分に含まれている一方で、そこに肉感的なドラムの音が重なったときの妙味が「洗 脳」では生かされている印象です。
CHISA:こういう曲だと、ドラムも全部打ち込んじゃって完成させることも普通にできるんですけとね。でも、ここではそれはしませんでした。人間4人でやってるACMEというバンドの強みは、もちろんこの曲でもしっかり生かしてます。
-だとすると、RIKITOさんは「洗 脳」の中でのベースの役割をどのようなものだと認識されていたのでしょうか。
RIKITO:もともとCHISAの作ってきたデモに入ってたのがシンセ・ベースで、その音はこの完成形にも使われてるんですね。特に、1コーラス目はシンセ・ベースのほうをフィーチャーしてて、生楽器のベースが入ってないんですよ。でも、2コーラス目からは生ベースも重なっていくんで、自分としてはシンセ・ベースの良さはちゃんと残しつつ、自分のベースと共存させていくことを意識しながら弾いていきました。下手に自分が目立とうとするとそこのバランスが崩れてしまうなと思ったんで、それこそレトロ感っぽい雰囲気なんかはシンセ・ベースに任せた感じになってます。
-つまり、RIKITOさんが「洗 脳」の中で使われた音色というのも、これまでにはあまりなかった系統のものだったわけですね。
RIKITO:ラウドで重たいタイプの曲で使ってる音と比べると、若干軽めですかね。
CHISA:今回の「洗 脳」はベースが計4トラックくらいあるんですよ。いろいろ交ざったのを最終的にひとつの音として聴こえるようにしてるんで、いろいろ(RIKITOは)大変だったと思います(笑)。
RIKITO:足し算と引き算を両方しましたね。引き算のほうが多かったですけど。もともとCHISA君はベーシストだったとはいえ、彼の作ってくるフレーズは、ベーシストの発想からはなかなか出てこない斬新で不思議なものが多いんで、いつも僕は"面白いなぁ"と感じながら弾いてますよ。今回の「洗 脳」でも、ベーシストとしては新たな発見をすることができました。
-ちなみにデモ段階だと、「洗 脳」のギターについてはだいたいどのようなかたちになっていたのです?
CHISA:ギターのソフトがあるんで、それで打ち込んだのを将吾にいつも渡してます。あの音結構ギターっぽいよね?
将吾:うん。送られてきたパラデータでまずはギターの部分だけ聴いて、それに添っていくかたちで、自分で弾いていきました。サビでリズムの取り方が違うギターをあえて入れたり、ちょこちょこ変えた部分なんかもありましたけど、自分としてのこの曲の一番の推しポイントは、"2サビのヴォーカルとシンセ・ベースが鳴ってるとこ"です。ギターのフレーズじゃありません(笑)。
CHISA:いやでも、サビのあのギター面白いよ? 俺は好きだなぁ。
将吾:あれリズム自体は合ってるんだよ。ただ、ちょっと独特な音の詰め方をしてる。
-その独特な音の詰め方が、ひいては"洗脳感"を醸し出しているように思いますよ。
将吾:そうそう、あのフワフワ~っていう感じがね(笑)。
-この曲ではヴォーカルもヴォコーダーがかかっていて、無機的なところが大変カッコいいですね。
CHISA:あれはオートチューンを使ってるんですけど、使い方としてはオートじゃなくて自分で全部やってます。ダイレクトに乗せて歌うとかじゃなく、仕上がりを想定しながら歌ったものを自分であとから加工していきました。完全にオートでやってたらこのかたちにはならなかったですね。そこは洗脳感を出していくためにもこだわりました。
-洗脳と言えばそもそも、今回はなぜテーマにそれを選ばれたのです?
CHISA:今回のテーマを洗脳にしようかな、と思ったのは曲を作ったあとに歌詞を書き始めてからだったんですよね。きっかけになったのは、その頃にハマってよく見てた脳科学系の動画でした。
-といいますと?
CHISA:脳から情報や記憶を電気信号として取り出すことはできるけど、それを他人の脳に移植することは技術的にできないっていう内容の動画があったんですよ。しかも100年先でもそれを可能にするのは難しいんじゃないか? っていうことを言ってたんで、それを観て"そうか、人間は自分の目とか耳とか触覚とか、自分の感覚器官で直接的に取得した感覚しか脳に記憶することができないんだ"って気づいたんです。
-アニメ"攻殻機動隊"シリーズのように、電脳通信で互いにデータをやりとりする未来はかなり遠いのですね。
CHISA:そうなんですよ。そうなると、音楽も耳で聴いてもらうことで初めてその人の脳の中に取り込んでもらうしかないわけです。で、これをテーマにした歌詞を書こうって思ったんですよ。耳からACMEの音を聴いてもらって、みんなを洗脳したいなって。
-ただ、パブリック・イメージからいくと、"洗脳"という言葉にはどこか不気味さや怪しいイメージも含まれるように思うのですよ。その言葉をズバリ冠した「洗 脳」をシングル化することに対して、多少なりのリスクを感じた点はありませんでした?
CHISA:たしかに言葉として"洗脳"って聞くと怖いかもしれないですけどね。でも、生まれたときから何にも洗脳されずに生きることのほうが難しいじゃないですか。
-幼児への躾、義務教育の類はなかば刷り込みでもありますから、それを洗脳の1種と捉えることはできるように思います。
CHISA:もっと話を拡大すると、太陽系の仕組みとかこの宇宙の法則みたいなものから逃れることだってできないですからね。何かしらのセオリーには則って生きているのが人間なわけだし、場合によってはそういった既存の法則から逃れたい、一歩脱け出したいと思って別の法則に染まりたいというか、何かそれまでとは違うものに洗脳されたい欲求を持つ人が出てくることもあるんだろうなってことなんかも、僕はこの詞を書きながら考えたりしました。