INTERVIEW
Survive Said The Prophet
2022.10.11UPDATE
2022年10月号掲載
Member:Yosh(Vo) Ivan(Gt) Tatsuya(Gt) Show(Dr)
Interviewer:村岡 俊介(DJムラオカ)
Survive Said The Prophetが約2年半ぶり、待望のオリジナル・アルバム『Hateful Failures』を発表! タイトルに掲げた"憎しみの過ち"をコンセプトに制作された本作は、ポップでカラフルなジャケットにも表れているように、激動の約3年間に起きたバンドの変化をリアルに取り入れた、"今"の彼らの表現が詰まった多彩な1枚だ。彼ら自身"完全に今の俺たちのベスト"と言いきる自信作になった本作について話を訊くべく、メンバー全員にインタビューを行った!
僕らはただ、4人になっても自分たちのやりたいことを貫いて、 時間がかかっても作品を作り続けたので、その結果を見てほしい
-オリジナル・アルバムとしては2020年1月リリースの『Inside Your Head』以来となる6枚目のリリースですね。今の気持ちを教えてください。
Ivan:めちゃくちゃ楽しみにしています! 状況もいろいろ戻りつつあるし。これまでもちょこちょこはライヴをやらせてもらってましたけど、かなり楽しみですね。
Yosh:"楽しみ"という言葉を別の表現で言い換えるとしたら、"始まったな!"って感じですね。
Show:4人になって初めてのアルバムですが、メンバー・チェンジだけでなく、情勢的にもかなり激動な約3年間だったので。このアルバムが出るまでの約3年の間に、大人になった部分もあれば、老化した部分もあって(笑)。
一同:(笑)
Show:そんななかでも、"やりたい"という気持ちを大切にしていくことが正しいんじゃないかなって。なのでツアーもありますし、そういう部分は変わらずお客さんとも一緒に再確認させてもらって、次に進めるようにしていきたいなと思いますね。
Tatsuya:みんなそれぞれこの約3年間で何があったかで、このアルバムを聴いたときの見方/聴き方が変わると思うんですよ。そういうことを、やっと各地のライヴハウスに行って、生で感じられることになるので、それも改めて楽しみですね。
-間にリテイク・ベスト・アルバムの『To Redefine / To Be Defined』(2021年リリース)があったので、それほど長く感じないかもしれないですが、オリジナル・アルバムとしては約2年半ぶりです。ツアーもですが、リリースとしても久しぶり感があるんじゃないですか?
Show:前作はリテイクということで新曲は出していないですし、オリジナルのフル・アルバムをみんな求めていたと思うので、それを待っていてくれた方にとっては長く感じたんじゃないかとは思いますね。それと、『s p a c e [ s ]』(4thアルバム)が2018年で『Inside Your Head』が2020年ということで、1年半のスパンがありましたけど、それ以上に今回は僕らのリリースに限らず、日本中/世界中で空白の時間があって......暇なときとか苦しい時間とか、そういうのってすごく長く感じるじゃないですか。それで余計に長く感じるっていうのはあるかもしれませんね。しかし、そんな空白期間を経て、バンドとリスナーがお互いにどう成長したのかを確認できるという意味では、いいタイミングなんじゃないかと。
-時間が経てば経つほど期待も高まりますし気合も入るかとは思いますが、今年の2月リリースのシングル『Papersky | Win / Lose』時のインタビュー(※2022年2月号掲載)でYosh君が"アルバムに照準を当てていくのがサバプロ(Survive Said The Prophet)のやり方"と言っていましたが、完成した今手応えは感じていますか?
Yosh:時間が空いたっていうところをネガティヴに捉える人たちと、その時間を使って何をしたのかを考える人たちがいると思うんですよ。どう捉えられるかで、僕らの真価が問われるんじゃないかと。"6枚目のアルバムになってもサバプロはサバプロだ"と感じてもらえるように、それをオーディエンスと一緒に分かち合えるようにここまで来たっていうふうに思ってます。今後、バンド・シーン、ロック・シーンがどうなっていくのかはわからないけど、自分たちは最初から変わっていないっていうスタンスで、それをこの6枚目で表現できたのは良かったと感じてますね。人間はやはり時間の経過の中で変わっていくものだと思うんですよ。でも、それがただの変化か成長かというのはあるし、その意味ではバンドも同じで。長続きするバンドかどうかというところにも大きく影響すると思う。自分たちの作品の中で強い思いがあれば、それがどちらかっていうのはきちんと伝わると思うので、早くリスナーに作品を届けて伝えたいですね。決めるのは自分たちじゃなく、リスナーなので。僕らはただ、4人になってもリリースをやめずに、自分たちのやりたいことを貫いて時間がかかっても作品を作り続けたので、その結果を見てほしいです。
怒りを原動力にしようって風潮も感じますが、その流れに乗る必要もないよねと。 僕らは僕らの消化の仕方でいこうと思いました
-やりたいことを続けるというのは大きな強みではありますよね。そんななか、今作は"憎しみの過ち"をコンセプトに、それに実直に向き合い制作されたとありましたが、今回このようなコンセプトに至ったわけを教えてください。
Yosh:曲がよりリアルになったからじゃないですかね。歌詞に関しても音に関しても、1年くらい前、僕らが本当に思っていたことが詰まってる。それに尽きます。そして今回は特に、怒りの曲が少なくなっています。本心としては、怒りたかったんじゃなくて怒っている自分を理解してもらいたかったんだっていう。それが"憎しみの過ち"です。憎しみの反対って愛ではなくて、"無"なんですよ。僕らは無からは音楽を作れないので、"憎しみの過ち"っていう強い感情を持っていないといけない。それは、多くのオーディエンスに共感してもらえるんじゃないかと信じています。そして、そういう表現しづらい部分を表現して、リスナーに勇気を与えるのがバンドにできることだと思います。ポリティカルなことは言えてもポリティシャンではないし、アートなことをやっていてもバンドだし。そういう姿勢を(メジャー・レビューから)6年かけても変わらずにやっているってことを証明できる、今のこのバンドに誇りを持っているんです。
-自分たちの言いたいことを伝えつつ、それを共感してもらえたらということ?
Yosh:まぁ"共感"っていうものがなければ、音楽は存在しないですよね。共感を求めずに音楽をやってるやつがいたとしたら、それは嘘つきだと思うんですよ。めちゃくちゃ変なやつでも、"その音楽をやってるから"って理由で好きになってもらえたら、それはマジックじゃないですか。僕らはそんなマジックを信じてるんです。
-洋楽のアーティストで特に多いのですが"自分たちのやりたいことをやっているので、それに対する共感は求めていない"というスタンスのバンドもいますが、そういうバンドはあまりリアルではない?
Yosh:他人のことは断言できないですけど、とりあえず僕らが歩んできた道程にはなかったですね。だから僕らに対して自分の意見を、情熱を持って言ってくれる人がいたら、否定するんじゃなく、"あ、この作品のこと好きなんだ"とか"君の意見はそうなんだ。教えてくれてありがとう"とかって思える歳にもなってきたし。そういう感情を生むという意味でも、"テーマを持っていない作品は歴史に刻めない"ってポリシーはこの作品にも出ていて、メンバー同士でも何度も何度も確認したことです。今回のテーマは、世の中のタイミング、僕たちのタイミング、バンドがやりたいことが一致したから"Hateful Failures"なんですよね。
-今回のコンセプトを先に聞いていたのでいったいどういったサウンドが鳴らされているんだろうと想像していたのですが、最初に感じたのは"エモーショナルでありつつ穏やかな作品"ということでした。
Yosh:そのあたりはコントラストが出ているんじゃないかと思うところですね。
-これまでの作品よりも内に秘める感情というか、単純な憎しみ、悲しみといった感情でないものの表れなのかなと感じたのですが......。
Ivan:憎しみに対しての向き合い方が、単純なヘイト=怒りになるんじゃなくて、今は違う角度での向き合い方をしているっていうことですね。
Yosh:その通りだと思います。
Show:今の俺らの対応というか、ヘイトの出し方が変わってきたということでしょうね。今までは単に"なんだ、ムカつく!"って言ってきたことが違う表現の仕方、形になった。
-そこらへんが穏やかに聴こえる部分なんでしょうね。そういう感情表現が音楽的にはポスト・ハードコア、スクリーモ的な激しいアウトプットではなく、エモ、エモ・ロック的なポップな側面がクローズアップされた印象になったのかなと。
Yosh:激しい曲を書いていないわけではないんですけどね。選んだ中に入らなかったというか。60歳とかを超えてブチ切れたアルバムを出せたらそれはそれでカッコいいけど(笑)、今の30代半ばの僕らにとっては、これ以上リアルなものはないかな。あと、今の時代の流れ的に、迷っている人、ガイドが欲しい人が多いんじゃないかなと思うんですよ。悩んでいることに対して、音楽を通して共感できると、もっと解決方法が浮かんでくるかなって。ライヴハウスであんなに激しいモッシュが起きるのに、モッシュしてる相手とは仲がいいっていうのも、ひとつのコントラストじゃないですか。そういうのを全然知らない人が見たら、"あんなに殴り合ってたのに、なんでそんなに仲いいの?"って不思議な光景だと思うんですよ。そういうコントラストが、"アート"って言われていて、そのアートが人間に刺激を与えてくれる。そういうcause and effect(原因と結果)が、このアルバムには存在してるんです。
-ヘヴィな曲ができても、今作のコンセプトに合わなかったり、今のタイミングじゃなかったという。
Tatsuya:激しさというところの目線で、側だけで見ると重い曲がないふうに見られてしまうかもしれないですが、それはそれで捉え方は聴き手次第で良くて。ただ、今の時代、僕らもそのうちのひとりではあるんですが、フラストレーションが溜まっている人がたくさんいるじゃないですか。そこで、怒りを原動力にしようっていう風潮も感じますが、それもある種のやり方ではあると思うんですけど、そうすることによって戦争が起きたり、取り返しのつかない事件が起こったりしているし、怒りで対抗したところで"そうなるよね"って結果になっちゃう。怒っている人が"アートじゃない"ってわけではないけど、そういう流れに乗る必要もないよねって。僕らは僕らの消化の仕方でいこうと思いました。まぁ今作のアルバムでも怒っている曲はあるにはあるけど、音楽性的にわかりやすく"怒ってます"って表現する必要もないんです。だから、"激しい曲がない!"という声もあると思うんですが、だからってそのためだけに激しい曲を出すのは違うかなと。
Ivan:激しい曲を作ることが目的なわけじゃないですからね。もちろん、ウケを狙って作ることも可能なんですけど、表現したいのはもっと深いところなので。
Show:表面的なところじゃなくてね。もっと自分たちとして表現したいもの、長く続けたいことって意味で、ただ激しい曲が必要だからライヴ用に作るって発想じゃなく、ずっと演奏していきたい曲を作るというイメージです。その結果、今回はそういう曲が入らなかったっていうだけで。もちろん、またヘヴィな音で表現したいタイミングも来るとは思うんですけど、そのときはそのときで作るし、という感じですね。
Yosh:単純に音をジャンルとして考えていないっていうことですね。作品のコンセプトに合うものを話し合って、決めたのがこれだったんです。
-先日、ELECTRIC CALLBOYにインタビュー(※2022年9月号掲載)したんですが、彼らはドイツのバンドで、ほとんど真横で戦争が起きてるみたいな状況じゃないですか。そういうなかで、ただアングリーな曲を作るんじゃなくて、ステイ・ホームでも楽しめる面白いMVを出したりして、みんなに笑顔になってもらうのが彼らのやり方なんですよね。それはそれで時代に即しているというか。サバプロはそれとはまた違う表現ですが、今の時代の中で自分たちが自然にやりたいと思える表現が、このアルバムに出ているということですよね。
Yosh:そうですね。あとは世界中のみんなに聴いてもらいたい気持ちがあって、誰でも受け入れられやすい形になった。音楽的にポップにしようという狙いがあったわけではないし、ジャンル的にこうしようって計算は1ミリもなくて。自分たちが作品にしたものを、できるだけ多くの人に聴いてもらえたらいいよねって流れで、自分たちのほうでも人を理解するというプロセスがあったんです。オーディエンスであったり、一緒に歩む人たちであったりを理解することですね。もちろん自分たちもいつもゴリゴリの音楽ばかり聴いているわけではないし(笑)、その自然な姿に対してより素直になったということです。世の中には"こういう音楽しか認めない!"みたいなハードコア・バンドもいるんですが、僕らはそういう世界ともっとポップな柔らかい世界を繋ぐような、ゲートキーパーになれたらいいなとは思いますね。
Show:とはいえ、このアルバムの中だけでもこれだけ幅広いカラーがあるので、その彩りをどう捉えるかは聴く人次第なんですが、それも踏まえ、今作の自分たちの表現はこれだって。
-そういう今作の音楽性と相まってジャケットもかなりポップな仕上がりになっていますよね。
Ivan:タイトルには"Hate"って入ってますけど、それもいろいろな表現の仕方があるよねという意味もあるし、人生の様々なフェーズによって感じ方も違うし。そういういろいろな見方で表現された楽曲をアイコンというか、カラーでジャケットに表しているんです。
Yosh:3×3っていう数もバランスがいいですよね。それでいて、枠にきっちり収まりきっていないのもいい。ちょっとはみ出た感じがすごくサバプロっぽい。
Ivan:"Hate"っていうものに決まった形はないんですよね。だからちょっと、ふわっとした形というか。
Yosh:"憎しみ"って言われて、何か決まった形って想像つきます?
-"怒り"とも違うんですよね。
Yosh:そうなんですよ。だから、特定のヴィジュアル・イメージがない"憎しみ"っていうものを表現するとこうなる。
Ivan:何か具体的なイメージを提示することもできたかもしれないけど、アルバムを制作するうえで、いろいろな表現があるなって感じたので。
-サバプロを知らない人にも手に取ってもらいやすいデザインだし、いいですよね。
Yosh:そうですね。今回はマーチもカッコいいんですよ。色が多いからできることも多いんですけど、ミニマムな表現になってて、Ivanやっぱすごいなーって。普通に欲しいです(笑)。
-ジャケットのデザインを使ってるんですか?
Ivan:ある程度は。いろいろですね。
Yosh:こうきたかっていう楽しみもあるんですよ。
Ivan:毎回マーチ作って撮影して、からのツアーですからね。なので、楽しみっていうか"これから"って感じがします。
Yosh:アルバムだけでは表現しきれていない部分を楽しみにするというか。
Ivan:お客さんが作品の一部になって、それで本当の完成っていうのは毎回思いますね。
-マーチができて、ツアーをやってライヴでお客さんとコミュニケーションを取ってという一連の流れですね。
Yosh:今回は日程も増やしてるし、face to faceでお互い顔が見える距離感でライヴするっていうのが、今一番必要なことだなと理解しています。