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INTERVIEW

ACME

2023.08.16UPDATE

2023年08月号掲載

ACME

Member:CHISA(Vo) 将吾(Gt) RIKITO(Ba) HAL(Dr)

Interviewer:杉江 由紀

-なんだかキツネにつままれた感じになってきましたが、話を先に進めます(笑)。楽器隊の音が刻々とできていくなか、CHISAさんは「ウルフヘズナル」の歌詞をどのようなヴィジョンのもとに仕上げていかれることになったのでしょうか。

CHISA:この曲に限らず、歌詞を書くときって自分が生きてて感じることだったり、普段からの疑問が出発点になることが多いんですよ。今回の「ウルフヘズナル」の場合は、ちょうど歌詞を書こうとしていた時期に周りのいろんな人から相談を受ける機会があって、僕としては"頑張れよ"って伝えたいんだけど、なかなかその気持ちが伝わらなかったときのモヤモヤ感から生まれた歌詞ですね。励ましたい気持ちはあるのに、それが上手く届かないもどかしさっていうのかな。どうしたらいいんだろう? って考えてるうちに、だんだんそれが自分のモヤモヤになってきちゃって(苦笑)。僕はそのモヤモヤを歌詞にすることで昇華した感じですね。

-サウンドのヘヴィさと言葉の重さがシンクロしているだけに、この「ウルフヘズナル」は非常に強い威力を持った楽曲になりましたね。

CHISA:なんか、このところってコロナ禍も終わって世の中がだんだん明るい方向に向かってきてるよね、みたいな風潮があるじゃないですか。確かに、音楽業界でもライヴの場に人が戻って来つつあるのは事実だし、それはいいことなんですけど、その一方でちょっと視線を別の方向に向けるとまだまだカオスなことってたくさんあるじゃないですか。例えば、僕の家は新宿に近いんですけど今のあの街のヤバさとか見てると"どうなんだろう?"ってすごい思うんですよ。

-ライヴハウスが近くにあるので、私もコンスタントにトー横あたりを通ったりしますが、もはやあの状況はスラム街に近いものがありますものね。

CHISA:しかも、みんな見て見ぬふりというか。ヤバいところからは目を背けて、とりあえずコロナ禍から盛り返そう、この何年かで失ったものを取り返して楽しもう、ってそればっかりになってる感じに思えるんですよ。だから、この「ウルフヘズナル」ではあえて聴いててイヤになるような言葉とかも使いました。

-と同時に、ヴォーカリゼイションの面でも「ウルフヘズナル」はカオスでダークなトーンとなっている印象です。

CHISA:曲の7~8割はシャウト・パートですからね。難しいとかではないんですけど、むちゃくちゃ体力使う曲なので、レコーディングでは暑すぎて途中から服を脱いで裸で歌うことになりました(笑)。

-それだけ熱量の高い曲に、こうして"ウルフヘズナル"というタイトルを冠した理由についてもぜひ教えてください。

CHISA:人からの相談とかを受けたときに感じたのが、意外と昔の自分も"そういうところに陥ってたことがあるのかな"っていうことだったんですよ。結局は問題の根っこにあるのって、その人が自分のことを好きになれないっていうところにあるというか。

-この詞には"黒山羊 崖を蹴り上げて 紅く舞う自己嫌悪"という一節がありますね。

CHISA:いくら外側にいる人が救おうと思っても、本人が自分のことを嫌いなんだっていうことをまず自覚しないことには問題って解決しないですからね。その人が拒否反応を示してたり、傷つけてるものって、実は自分の中にある問題を外に置き換えてることが多いから、そこに気づけてない状態だと周りが何を言ってもちゃんとは通じないんです。自分自身がそういう感じだったことがあるからこそ、わかることなんですけどね。

-だとすると、CHISAさんはその過去をいかにして克服されたのです?

CHISA:たくさんの出会いと別れとか、いろんな経験をしてきたことが大きいとは思います。そして、僕はありがたいことにずっと好きなことをやれてきてますからね。この「ウルフヘズナル」では"迷える羊"と"黒山羊"っていうフレーズを使ってますけど、超心理学の用語に"山羊・羊効果"っていうものがあるんですよ。それは超能力の存在を信じている人を集めた"羊グループ"と、信じていない人を集めた"山羊グループ"を同数ずつ集めて、ESPカードを使った透視実験したときに"羊グループ"のほうがやや正解率が高かった、という結果から生まれた言葉らしいんです。つまり、自分のことを信じていたり、自分の夢を信じている人がいる一方で、自分のことを疑ったり、自分の夢を諦めようとしている人もいるという場合、いろんなことに揉まれるなかで"ウルフヘズナル"=狼の皮を被って最後にさぁ何が出てきたか、みたいな内容の歌詞にしたかったんですよ。だから、タイトルも"ウルフヘズナル"にしました。でも、その根底にあるのは自己嫌悪にとらわれてる人たちを救いたいのにな、っていう気持ちです。

-そんな「ウルフヘズナル」から一転して、もう1曲の表題曲「黄昏」は心洗われるバラードに仕上がっておりまして、とてもチルい空気感に溢れております。このサウンドの対比は相当に鮮烈ですね。

HAL:この曲は仮タイトルが"筑波"だったんですよ。

-もしや、HALさんの趣味である登山で筑波山に訪れられたときの体験から生まれた曲だったりして?

HAL:ほぼ当たりです。今年初の登山が筑波山で、日の出を観に行ったんですよ。でも、結果としては曇ってて日の出は拝めなくて(苦笑)。想像で日の出を思い描きながら作ったのがこの曲でした。

-もっとも、完成した「黄昏」はタイトル通りに朝焼けというよりも夕暮れの場面を思わせるものになっておりますし、シチュエーション的にもこれは山ではなく海の情景を歌ったものになっていませんか。

HAL:日本海というと演歌っぽいイメージになっちゃいそうですけど(笑)、詞に関しては両親の実家がある島根や山口の海で、子供の頃に遊んだときの思い出がベースになってます。詞の面でもこれは「ウルフヘズナル」とは真逆な曲で、小学生が読んでもわかるような言葉だけで書きました。そして、意味合い的には自分が両親に対して思っている感謝の気持ちをここで形にしておきたかったんですよ。言葉で直接は伝えにくいだけにね。

-そこはかとないノスタルジーが音や詞に滲んでいるのはそのためだったのですね。

HAL:そういう懐かしさも醸し出しつつ、柔らかい肌触りの曲にしたかったし、これもまたACMEとしては"まだ開けたことのなかった引き出しを開けた曲"にできたと思います。6周年を迎えた今だからこそ、形にできた曲なんですよ。

-なるほど。良い意味で完全に肩から力の抜けたこの心地よいチルさは、初期のやんちゃ三昧だったACMEでは表現しきれていなかった可能性がありますね。

HAL:そう、前だったらもっと肩肘張っちゃってたかもしれないです(笑)。このギター・ソロとかも今までのACMEでは絶対やってなかったでしょ?

将吾:こういうのは前の前の前のバンドのとき以来じゃない? 久しぶりに、レスポールは使ってないけど、レスポールみたいな音で弾きましたよ。ただ、これはドラムに合わせて録るのが難しかった(笑)。

RIKITO:俺もそう! 先にドラムが入っちゃってたから、クリックに合わせると曲に合わなくなっちゃうんですよ。大変やったわー(苦笑)。

HAL:気分はアリゾナの大平原で叩いているような感じだったんで(笑)。クリックは聴きながら録ったとはいえ、かなり伸び伸びと叩かせてもらいました。

-それだけに、この「黄昏」から感じるチルさはアナログでヒューマンなグルーヴに起因しているところが大きいのかもしれません。

RIKITO:みんなシンプルなことしかしてないのに、壮大なスケール感が出せましたね。

-ファルセットで歌が始まる、という展開もACMEでは異例なことではありません?

CHISA:そうですね。HALさんから貰った仮歌は地声で始まってましたけど、僕が歌うならファルセットを使ったほうが、砂浜で鼻歌を歌ってるような雰囲気が出るんじゃないかなと思ってこういう感じにしたんです。

-轟音で殺伐とした「ウルフヘズナル」も、優しくてチルい「黄昏」も、まったく違う質感なのにACMEの曲として成立しているところはさすがです。

CHISA:きっと、どっちかは好きって言ってもらえる両A面シングルになったんじゃないかと思います。

-いえ、どちらも素敵です。そして、8月25日にTOWER RECORDS渋谷店 9階屋上 野外イベントスペースにて行われるフリー・ライヴで、この2曲がどう響くのかも非常に楽しみですよ。

RIKITO:まだACMEのライヴを観たことがない、っていう人には特におすすめしたいですね。やっぱり、実際に聴いてもらって、観てもらって伝わることっていうのがたくさんあると思いますから、ちょっと気にはなってたけど今までライヴには来てなかったっていう人でも、今回はフリー・ライヴなんでぜひ遊びに来てください。

CHISA:誰かにたまたま連れて来られたみたいな人に対しても、ACMEは必ず何かしらの爪痕を残して帰しますよ(笑)。

将吾:これを決定するまでには、みんなでさんざん話し合いもしましたからね。ただ単に無料でやるっていうだけだったら、俺は"やる意味あんのかな"くらいに思ってましたけど。両A面シングルで「ウルフヘズナル」と「黄昏」の2曲を出して、それをライヴでやるって決まったときにこのフリー・ライヴをやる意味が定まったと思うんで、真夏にタワレコの屋上でやって最高に映える曲たちっていうのを聴かせられる自信はめっちゃあります。

HAL:とりあえずACMEのファンは、ひとり10人は連れてきてほしいです。あとは、みんなもだけど僕ら自身も水分補給には気をつけてライヴしないとね。まぁ、夕方6時スタートなので炎天下ってことはないだろうし、まさに「黄昏」なんかは夕暮れ時のオレンジ色の空の下でやれると思うと、それもすごく楽しみなんですよ。「ウルフヘズナル」にしても、普段のライヴハウスとは違う開放的な感覚を味わえそうじゃないですか。

CHISA:渋谷の空のもと、僕らとしてはオープンなマインドでみなさんのことを待ってるので、年齢性別国籍とか問わず誰でも遠慮せずに遊びに来てもらいたいです。一緒に2023年夏の思い出作りをしましょう!

将吾:せっかくなんで、渋谷の交差点まで響くくらいの大音量出したいな(笑)。