COLUMN
NoGoD 団長のあなたの知らない激ロックな名盤紹介 第45回
以前の記事(第34回)で女性HR/HMアーティストが国内外問わず目覚ましい活躍をしていると書いたが、それ以降もEast Of Edenの登場、花冷え。の海外ツアー等、相変わらずの盛り上がりを見せている。
なので今回は私が現メタル・ディーヴァの中でもNo.1だと思っているバンドを紹介したい。
Tsunami Sea / SPIRITBOX
SPIRITBOXはヴォーカリストのコートニー・ラプランテとギタリストのマイク・ストリンガーの夫婦が2017年にカナダで始めたプロジェクトだ。
元々カナダでマイク、そして実弟のジャクソンらとアマチュアメタルバンドで活動していたコートニー。
全く無名だった彼女に、2012年、転機が訪れる。ツアー中に「妊娠したので残りのツアーは出演やめときます」とメンバーに告げ失踪してしまったお騒がせメガネシャウトお姉さんことクリスタ・キャメロンに代わり、IWRESTLEDABEARONCE(以下IWABO)のサポートヴォーカルとしてツアーに参加。そのまま二代目ヴォーカリストとなったのだ。
IWABOのハチャメチャな音楽にその確かな歌唱力で見事に対応しただけでなく、クリスタとは違うコートニーの色気がバンドにもたらした影響は大きかった。
特に2015年リリース「Hail Mary」では、マイクもIWABOに加入したのもあってか作風もビジュアルもコートニーに合わせてシリアスになり、私を含めファンを驚かせた。
しかしコートニーとマイクは後加入組としてバンド内での立場に不満があったそうで、もっと自由に自分達の音楽をやる為にIWABOから離脱。
地元カナダへ戻った後、2016年に結婚し、活動資金を貯める為に夫婦で地道に働きながら二人の音楽性を模索する日々を送る。
そして2017年、満を持してSPIRITBOXを立ち上げ、デビューEP「Spiritbox」をリリース。
マスコア、メタルコア、ジェントにアンビエント、エレクトロニカからシューゲイザー等、様々な要素を丁寧に織り交ぜ、自分達だけのエクスペリメンタル・メタルコアを世界に提示した。
だが当時の評論家達は「ex. IWABOの夫婦バンド」という色眼鏡でしか見ておらず、話題にすらしなかった。
二人だけでライブ活動を続けて行くことにも限界を感じ、資金的な問題もあり二人は意気消沈。しばし活動を停止した後、インターネットを中心に音楽活動を展開していく。
しかしこれが功を奏した。耳の良いリスナー達の耳に止まり、ネット上でバズり始める。着実にフォロワーや再生数を伸ばしていく中で、ベーシストとドラマーを迎えバンド形式に。
勢いに乗った彼女等は遂にフルアルバムの制作に着手。2020年にリリース予定だったのだが、世界的なパンデミックによりアルバムの制作は中断。
だが今回は心折れること無くシングルを連続配信。それらは軒並みチャートを賑わせ、アルバムへの期待値を更に上げることに成功した。
そして当初の予定より1年以上遅れてリリースされたファーストアルバム「Eternal Blue」は、メタル・アルバムとしては異例のヒットを記録。
音楽関係者からは掌を返したかのように絶賛され、一躍脚光を浴びる。
そこからの活躍は目覚ましく、数々のビッグアーティストとの共演や国内外でのヘッドライナーツアー等、破竹の勢いでメタルシーンを駆け上った。
遂には2023年リリースのEP「The Fear of Fear」の楽曲が、2年連続でグラミー賞の最優秀メタルパフォーマンスにノミネートされるという快挙を成し遂げる。
今や世界が認めるバンドとなったSPIRITBOXがこの世に放った最新作「Tsunami Sea」は、アグレッシヴさを一切損なわずに美しさとエモさを更に一段階引き上げた快作だ。
マイクのサウンドメイキングもさることながら、特筆すべきはやはりスクリームからクリーンまで幅広くこなすコートニーの歌の表現力だろう。
彼女が長い時間を掛けてたどり着いた、「自分の音」が間違いなくそこにはある。
ヘヴィネスの新次元とも言えるこのアルバムは全激ロッカー、いや全人類必聴のアルバムだ。
最後に余談を。
二人が抜けた後は事実上解散状態だったIWABO。
なんとクリスタ・キャメロンとメンバーで再始動の話し合いが進んでいるらしい......。
私ならあんな抜け方をした人間を許せないが、SPIRITBOXといつか共演してほしいので頑張れIWABO!!!
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