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LIVE REPORT

BRAHMAN

2018.02.09 @日本武道館

Writer 石角 友香

"自分のできねぇことは人にやってもらってもいいんだ。それは逃げじゃねぇ。挑戦だ"――ライヴの終盤、細美武士(the HIATUS/MONOEYES)を迎えた「今夜」を前にTOSHI-LOW(Vo)が放った言葉は、東日本大震災以降、自分の足で現地を幾度となく訪れ、また、東北のみならず日本各地で困難な状況にある人と会い、助け、また、震災の前のタイミングでもう音楽はできないかもしれないと思っていた彼が、ゼロから歌うことの本質を自らに問い直し、もがきながら手にした言葉だったと思う。音楽のライヴであって、それ以上の何かでもある。開演前の興奮が、終演後にはむしろ自分に向き合う深い思考へ変化していた、そんなライヴだったのだ。

会場に入ると、八角形のセンター・ステージは1階スタンドから手が届きそうなほど近く感じられた。アリーナはブロック指定のオール・スタンディングで、2重に固められたセキュリティの人数の多さに、このスタイルを選んだバンド・サイドの覚悟を感じる。ステージに繋がる花道もあるが、どうやらプロレス入場であることをファンが察知し、さらに興奮が高まる。後半のMCでTOSHI-LOWは武道館のルールとして"聴衆の中に入るどころか、聴衆に触れてもNG"と言ってファンを驚かせたが、やはりスタートはアリーナ入り口から。ますますステージがリングに見えてくる。それぞれの位置についた4人は無言で「THE ONLY WAY」を轟音で鳴らし始めた。360度に放射されるサウンドは意外と言っては失礼だが、ひとつひとつの楽器の音が鮮明で、フレージングやカッティングも潰れていない。ただ、序盤は轟音且つファストなナンバーを立て続けに演奏したことで、暴風に曝され続けているような感覚に陥ったのも事実だ。アリーナのオーディエンスはいつもどおり冒頭からクラウドサーフの嵐で、メンバーの後方にあたるエリアですらそれが起こっており、スタンドから見るそれは、ライヴというより滾る血を抑えきれない豪放な祭りの光景にも見えた。

怒濤、暴風、雷鳴、嵐......選曲も演奏もアグレッシヴに変化する照明も含めて、荒ぶる自然を思わせる序盤は興奮と同時に切れ味鋭い緊張感にも溢れていた。新作『梵唄 -bonbai-』からの新曲「雷同」もあれば、長年ライヴで鍛え上げられてきた「BASIS」や「BEYOND THE MOUNTAIN」も、違和感なく今の4人の演奏で魅せた。ジャンルとしてのハードコアではなく、1曲演奏するごとに解体してしまいそうなほどに全身全霊を注ぐ4人。そのうえ、「其限」でのKOHKI(Gt)のあのループするリフは切なさと哀愁を湛え、シャッフルを続けるRONZIのドラミングの確かさを、そしてMAKOTO(Ba)のロング・トーンに美しさを実感した。『梵唄 -bonbai-』の音楽的な幅広さが眼前で展開されていく。

ゲスト・ミュージシャンの登場の仕方も演奏も、去り方すらもBRAHMANマナーだと感銘を受けた、その口火を切った東京スカパラダイスオーケストラのホーン隊との「怒涛の彼方」。この曲におけるホーンは"声"のようだった。ハナレグミこと永積タカシとの「ナミノウタゲ」、"90秒のためだけに札幌から来た男"と紹介されたSLANGのKOのシャウトが凄まじい「守破離」、同じく札幌繋がりでTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINOとの「ラストダンス」。BOSS(ILL-BOSSTINO)のラップがBRAHMANの生音と火花を散らし、音楽的な化学反応に鳥肌が立った。

もちろん、4人だけのアンサンブルの現在の頂点と言える、生き物のように展開が変化する「AFTER-SENSATION」のダイナミズム、「不倶戴天」の前向きな怒りにも震えが走る。そして冒頭のMCから続けての「今夜」である。TOSHI-LOWと細美、ふたりにしかわからないことも多いだろう。その姿を見て心底ライバルであり親友と言える存在に憧憬を抱いた。そして歌い継がれていく「満月の夕」を中川 敬(SOUL FLOWER UNION)、うつみようこ、山口 洋(HEATWAVE)とBRAHMANが演奏していることのかけがえのなさ。

おそらくここに集まった12,000人各々にこの7年間の想いがあったのだろう。終盤では、原発事故に勇敢に立ち向かった男たちの肖像が天井に映し出された「鼎の問」が披露された。彼らの存在、震災直後の無力感や悔しさなどが渾然となってしまう。しかし、BRAHMANはこの日からまた"始める"決意をラスト・ナンバーに据えてきた。新作の狼煙を上げるオープニング曲「真善美」でありったけの力を振り絞り、TOSHI-LOWがマイクをステージに置いた"ゴン!"という衝撃音と共に暗転。このエンディングが今日ここからの始まりだと言わんばかりの、90分真剣勝負の決着のつけ方。何度も言う。こんなメモリアル感のない、しかし空前絶後の未体験的な武道館ライヴはあとにも先にももうないだろう。


[Setlist]
1. THE ONLY WAY
2. 雷同
3. 賽の河原
4. BASIS
5. SEE OFF
6. BEYOND THE MOUNTAIN
7. DEEP
8. SPECULATION
9. 其限
10. 怒涛の彼方
11. AFTER-SENSATION
12. 終夜
13. ナミノウタゲ
14. A WHITE DEEP MORNING
15. 守破離
16. ラストダンス
17. 不倶戴天
18. ARRIVAL TIME
19. ANSWER FOR...
20. 警醒
21. 今夜
22. 満月の夕
23. 鼎の問
24. FOR ONE'S LIFE
25. 真善美

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