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INTERVIEW

Unlucky Morpheus

2025.11.26UPDATE

2025年12月号掲載

Unlucky Morpheus

Member:Fuki(Vo) 紫煉(Gt/Scream) 仁耶(Gt) Jill(Vn) Hiroyuki Ogawa(Ba) FUMIYA(Dr)

Interviewer:杉江 由紀

生きとし生ける者の魂が、やがてたどり着く場所。"Gate of Heaven"で鳴り響くのは、きっと色とりどりな歌や音たちであることだろう。Unlucky Morpheusがここにきて発表するアルバムは、"あんきも(Unlucky Morpheus)はメタル・バンドではありますけど、メタルだけやるバンドではない"の言葉を具現化したような、意外性をも孕んだ画期的作品となる。既発曲「世界輪廻」や「SAKURA chevalier」も交えつつの、未来に向けた布石を今ここに。

-今作『Gate of Heaven』は様々な新曲たちを散りばめつつ、既発シングル曲「世界輪廻」や「SAKURA chevalier」、そして今やライヴでもおなじみとなりつつある既発曲「Ready for a new stage」を軸にした構成となっている印象です。このたび新しいアルバムを作っていくとなったときに、メイン・コンポーザーである紫煉さんはどのようなことを心掛けながら曲作りをされていくことになったのでしょうか。

紫煉:まさに、その3曲が入るっていう前提から今回はアルバムを組み立てていきました。そして、「Ready for a new stage」に関してはある意味わりと王道なあんきもっていう感じの曲だと思うんですけど、「世界輪廻」と「SAKURA chevalier」はそれぞれあんきもとしては新しい方向性とか音楽性を打ち出した曲だったじゃないですか。だから、その2曲を軸にするのであれば思い切ってさらにそこから幅を拡げてみよう、っていうスタンスで作っていったのが今回の新曲たちでした。今まであんきもでやってこなかったけどやってみたかった曲や、かなり明るい雰囲気の曲もあったりするんで、そういう意味ではチャレンジングな曲が多くなってますね。

-あんきもとしての新機軸な部分は「Blink of an eye」という曲で特に顕著です。この曲はなんの予備知識もなく聴いたら、普段メタルをやっているバンドの曲だとは思わないかも? というくらい、柔らかな優しさに包まれた美しい曲となっておりますね。Fukiさんの声色も、この曲では少女っぽい可憐さを含んだものとして聴こえてきます。

Fuki:あんきもでは過去にも「鎮昏歌」(2018年リリースのアルバム『CHANGE OF GENERATION』収録曲)みたいなバラードは作っていますし、アコースティック・アレンジでのライヴなんかもやるので、自分たちからするとそこまで異色な曲という感じはしていないんですけどね。この曲に関してはバラードですけど、努めて明るく歌うようにしました。

紫煉:「Blink of an eye」は、実家で飼ってた犬のプクが亡くなっちゃったときに作った曲なんですよ。もちろん、そのときは自分の中でいろんな気持ちが渦巻いてたけど......辛くてもそういう気持ちのときにこそ作品を作るのが、音楽家として生きるっていうことなのかな、と思いながらピアノに向かってできたのがこれだったんです。だから、そもそも曲調としてあんきもにハマるかハマらないかっていうことは度外視して作った曲なんですよね。ただ、いつかはアルバムに絶対入れたいと思っていたし、今回「Ready for a new stage」、「世界輪廻」、「SAKURA chevalier」の3曲が入るなら、バランス的にちょうどいいなと思ったんで迷わず入れました。歌詞に関しては、自分の考えてることをいろいろ話した上でFukiに書いてもらってます。あと、最後をフェードアウトにしたのも理由があるんですよ。

Fuki:あんきもでフェードアウトの曲って珍しいですからね。

紫煉:あのアウトロのギター・ソロは、魂が肉体から解放されて自由に飛び回ってるような状態を表してるというか、プクがそうであってくれるといいなという願いを込めて弾いてるんです。だから、そこに"終わり"はいらなかったんですよ。延々と続いていくようなフェードアウトにした理由はそれでした。

-なるほど。そんな「Blink of an eye」を叩く上で、FUMIYAさんが大切にされたのはどのようなことでしたか。

FUMIYA:まさに、そのフェードアウトのところに命をかけました。実は、あのフェードアウトの後にはさらに続きがあるんですよ。紫煉さんの言う"肉体から解放された後には魂が自由にずっと羽ばたいていく"イメージをドラムで表現するには、そこでドラマを作っていく必要があったんです。だから、あのフェードアウト部分はぜひギリギリのところまで聴いてもらえるとありがたいですね。

-ベーシストとしての観点から、Ogawaさんは「Blink of an eye」でどのようなことを重視されましたか。

Ogawa:やっぱり、アウトロですねぇ。順序的にはドラムの後にベースを入れたんですけど、いつもならキメの部分も含めて全部を構築してからレコーディングに臨むんですよ。でも、あのアウトロに関してはアドリブというか、ドラムの音に合わせつつ2~3回くらい弾いていって、自分的に"これ以上はないな"っていうくらいいいのが録れたから、それを使ってます。あと、この曲はアウトロのギター・ソロもいい意味であんきもっぽくないというか、ブルージーな泣きのソロが珍しい感じなので、そこにベースのフレーズを合わせたところもありましたね。今までにない展開の曲になったと思います。

-仁耶さんにとっての「Blink of an eye」とは、いかなる曲になったのでしょう。

仁耶:基本的に僕はどの曲でもバッキングっていう伴奏部分を録っているので、曲にマッチしたプレイ、その曲のためのプレイをしようと思っているんですね。この曲をわざわざあんきもでやる意味というものを考えたときは、決して軽々しくならないとか、ちゃんと密度と重さを持って弾くとか、そういうプレイをしようと思ったんですけど、テンポ感も他の曲たちとは全く違うので、軽やかではあるけど軽薄にはならないように、っていう演奏をするように気をつけました。紫煉さんからこの曲に関するエピソードも聞いていましたし、その紫煉さんが弾くリード・プレイを尊重しながら、とにかくこの曲のためのプレイというものをできる限りしたつもりです。

-Jillさんは「Blink of an eye」といかに対峙されていくことになったのでしょう。

Jill:先程Fukiさんもお話されていたように、今までも「鎮昏歌」のようなバラードはあるにはありましたし、私も特に珍しいとは感じていませんでした。ただ、コードの響き方の面では明るくもなく暗くもなくて、どこか浮遊感のあるようなイメージがあるところはこの曲ならではの雰囲気だなと。そして、最初の段階からプクの話は紫煉さんから聞いていましたし、わたしも猫ちゃんを飼っているのでいろいろと思うところはあったんですが、生き物にとって死というのは恐ろしいものであると同時に、ある種の救済であると捉えることもできるんじゃないかと思いまして。そういう、死というものが持つ多面性を意識しながら、ふわっとした柔らかい雰囲気の中で単に悲しいというだけではない、いろいろな想いを込めながら演奏していきました。

-きっと、この曲の中にこもっているのは大きく捉えると愛なのでしょうね。

紫煉:(※無言で深く頷く)

-そういう意味ですと、詞を書かれたFukiさんは紫煉さんの深い想いを言語化していくという難しい役割を果たされたことになりますね。

Fuki:歌詞の内容については明確な指示がありましたから、私はそれに沿って書いていっただけです。むしろ、この曲は歌うことのほうが難しかったですね。もちろん、この曲に限らず常にどんな曲でもベストを尽くしているんですけど、この曲はうっかり気を抜くと泣いてしまいそうだったので、そうならないように歌いました。あとは、逆に聴く人に対して、別に"泣け"って思って歌ってはないんですよ。

-それは先程の"バラードですけど、努めて明るく歌うようにしました"と繋がるお言葉です。

Fuki:はい。この曲の生まれた背景を知っていても、知らなくても、名曲は名曲じゃないですか。だから、私の歌を聴いて泣けよ! っていう押しつけがましさがないように、なるべく悲しくないように、あえて明るく明るく、他人事かのように歌いました。そうじゃないと、レコーディングを完遂できないと思ったので(苦笑)。つまり、さっきおっしゃってくださった少女っぽい感じというのは、ある意味で偶然の産物とも言えますね。悼む、追悼するというよりは"いってらっしゃい"という願いを込めているので、その明るさが歌声に出たのかなぁと思います。

-紫煉さんとしては、こうして「Blink of an eye」を完成させ、アルバムに収録したことで、何かしら気持ちの区切りがつけられたようなところはありますか。

紫煉:いや、それはどうかな? って感じですね。これは自分のそのときの気持ちを形にしたっていうだけで、亡くなったときに感じた"コロナ禍もあったけどもっと頻繁に会いに行けば良かった"みたいな後悔とかは、曲を作ったからといってなくなるわけではないし。その反面で、亡くなる少し前くらいからある程度は一緒に過ごすことができたし、幸い看取ることもできたから、そういうところでは満足している部分もあるんで。曲を作ったから何かが変わった、ということはないです。でも、この曲のギター・ソロを録れたときはかなり達成感がありました。表現したいことをちゃんと表現することができたなぁ、っていう感覚があったんですよね。だから、音楽の内容としては満足してますっていう言い方が最も正しいような気がします。

-ちなみに、このアルバムにおいては「殺戮のミセリア(re-recording)」が10曲目として収録されていて、「Blink of an eye」は9曲目にあたりますが、実質的には前者はボーナス・トラックで、後者がラストを飾る曲ということになりますか?

紫煉:そういうふうに捉えてもらって大丈夫です。「殺戮のミセリア(re-recording)」はボーナス・トラックのイメージで入れました。

-一方、アルバムの冒頭を飾るのは表題曲となるインストゥルメンタル「Gate of Heaven」です。こちらは2曲目の「世界輪廻」に繋がるプロローグ的な役割を果たしているようですね。

紫煉:もともと、これは去年やった"Unlucky Morpheus 15th Anniversary Live Tour「REINCARNATION」"のオープニング用に作ったもので、ツアーの後半でやっとできあがった感じだったんですけど、そのときから次のアルバムの最初に入れて「世界輪廻」に繋げるという案もあるな、ということは思い浮かべながら作ってました。

-楽曲タイトル"Gate of Heaven"と、アルバム・タイトル"Gate of Heaven"はどちらが先に決まっていたのかも教えてください。

紫煉:アルバム・タイトルが先で、1曲目は表題曲にしとくかっていう感じでした(笑)。意味合い的にも、扉が開いてそこからアルバムの世界が始まっていくわけだし。今回アルバムの中盤に入れたほうのインスト「Who will be the next king?」と、どっちを1曲目にしようかなと一瞬迷ったこともあったんだけど、この並びが今回はアルバムの内容に相応しい感じになったと思いますね。