FEATURE
SiM
2014.06.16UPDATE
2014年06月号掲載
Writer 増田 勇一
なんてリアルな作品なんだろう。綺麗に取り繕われた都合のいいリアリティではなく、普通だったら包み隠すようなことまでさらけ出されているからこそ見えてくる、生々しい現実や真意。SiMの最新映像作品、『10 YEARS』には、まさにそうしたものがギッシリと詰め込まれている。
とにかくものすごい情報量だ。これをじっくりと見たならば、昨日までこのバンドについて知らなかった人たちの脳内にも、過去10年ぶんの事実や記憶が即座にインストールされることになるのではないだろうか。その構成内容の柱となっているのは、2013年10月にリリースされた通算3作目のフル・アルバム、『PANDORA』(オリコン・チャート5位を記録)に伴う全国ツアーの着地点となった、去る1月25日の東京・新木場STUDIO COASTでのライヴの一部始終と、そこに至るまでのワンマン・ツアーの行程を追ったドキュメンタリー、そして、惜しみなく秘蔵映像を散りばめながら数々の証言とともに浮き彫りにされた、バンド誕生前夜から現在に至るまでのヒストリーだ。
MAHは5月のある日、そのSTUDIO COASTでのワンマン・ライヴについて改めて振り返りながら、次のように語っていた。
"俺の場合、武道館とかよりSTUDIO COASTに対する思い入れのほうが強くて。日本で、1番立ってみたいと思えるステージがあそこだったんですよ。自分の好きなアーティストたちを観てきた場所でもあるし、だからこそそれを目標にしてきたんですよね。そういう人たちといつか同じ土俵に立つためにも、必ず立たなきゃいけない場所というか。だからある意味、この10年はずっとSTUDIO COASTを目指しながら走ってきたようなところがあって"
ご存知の通り、彼らはこれまでにも同会場で満員のオーディエンスを前に演奏してきている。が、いわゆるワンマン公演は今回が初。当然ながら感動や感慨の種類が違うのだ。
"実際、あのステージに立ったことは過去にもあるわけですよ。最初は2008年、SUM41の来日公演でオープニングをやらせてもらったときでしたね。ただ、それは単純にラッキーだから実現しただけのことで、実力でそこに到達したというわけじゃ全然なかったし。それ以降もイベントとかであそこに出させてもらう機会は増えてきたけども、なかなか自分たちの力でそこに出てるという実感は得られなくて......。だからあそこでワンマンができるっていうのは、すごくデカかったんですよ、自分たちにとって。なにしろ俺らだけを観るために3,000人もの人たちが集まるわけじゃないですか。そうなれてこそ、初めてバンドとして一人前になれるというか。だからあのライヴが決まったとき、絶対に映像は撮らなくちゃいけないなと思った"
つまりこの『10 YEARS』の制作動機は、まずその記念すべきライヴを映像として残すことにあった。実際、MAHも"あのライヴが決まった時点でそういうプランが出てきた"と認めている。そして、"それとほぼ同時に、そういえば2014年で10周年になるのか!と気付かされた"と言い、次のように言葉を続けている。
"正直に言うと、当初から集大成みたいなものを作る計画があったわけじゃないんです。別にこのバンド自体、10周年を目標にしながら活動してきたわけでもないし。ただ実際、これまでのこととかも、いつかはまとめないといけないなと思っていたのは確かで。というのも、普段からいろいろと過去について聞かれることも多いわけですよ。だけどこの映像があれば、それについてはDVDを観てくださいって普通に言えちゃうじゃないですか(笑)。あと、せっかくSTUDIO COASTでのツアー・ファイナルをフルで撮るんであれば、その前のワンマン・ツアーにもカメラマンに同行してもらったらどうかということになって......"
こうして発想が膨らんでいった結果、『10 YEARS』という画期的な作品が生まれることになったというわけだ。SiMの現在の成功ぶりについて、中には一夜にして夢を手に入れたシンデレラ・ストーリーになぞらえて語ろうとする人たちもいるだろう。が、4人が必ずしも順風満帆な道程ばかりを歩んできたわけではないことは、彼らのライヴに何度も足を運んできたファンならばよく知っているはずだ。それに、そうした過去を知らない人たちでも、この映像作品に正面から向き合ったなら、そうした時代に彼らが味わっていた痛みや葛藤といったものが、まるで画面から伝染してくるかのように伝わってくるのを感じることになるに違いない。
"苦労という言葉はあんまり使いたくないけども、そういう時代があったからこその感覚があるというか。実際、新木場でのライヴ中はべつに何も考えてなくて、ホントに目の前のお客さんをどうしようかってことしか頭になかったんですよ。ただ、ふとした瞬間に、過去の場面の記憶が浮かんできたりすることがあって。それこそ初めて同じ場所に立ったときの景色とリアルタイムの景色とを、頭の中で比べちゃうことになるんです。そこで改めて、目の前に広がってる現実の景色に感動をおぼえて、思わずホロッときちゃったりとか(笑)。結局、すごく悔しい思いも味わってきたぶん、感慨も大きかったというか......"
ドキュメンタリーの中には、かつて彼らが本拠地としてきたライヴハウスでの映像も何度も登場する。
"地元の湘南に、善行Zっていうライヴハウスがあって。そこは100人も入ったらパンパンになっちゃうようなハコなんですね。だけど当初の俺らは、そこすら全然埋まんないような状況にあったから。言ってしまえば、リハーサル中も本番でもフロアにいる人の数が変わらないくらいだった(笑)。そういう時代の景色が、STUDIO COASTでやってる最中にパッと浮かんできたりするわけですよ。そのたびに自分でも感動してましたね。ラクじゃなかったからこそ、この感動を味わえるんだなと思えたし。結果的に俺らは、STUDIO COASTでワンマンをやるのに10年かかった。でも、中には半年でそれが叶っちゃう人たちもいるだろうし、それに比べれば全然遅いわけで、こんなのは自慢にもならないことなのかもしれない。だけど、こうして1段1段上がってきた自分たちだからこそ味わえるものって絶対あるはずだよなと思って。変な話、俺らの場合なんかは常に"失敗できねえぞ!"っていうのがあるわけですよ。そこで失敗すれば、転落するんだってことも知ってるから。だからこそ、もう二度と転げ落ちたくないし、それを経験したことのない人たちとは感覚が違うだろうと思う"
実際、彼らは過去にメンバー・チェンジも重ねてきたし、所属していた会社から解雇されたこともあった。そして、そういった歓迎できない現実に対して唾を吐きかけるのがロックだと勘違いしていたことも。
"あの頃は何かネガティヴなことがあると、すべて他人とか状況のせいにしていたようなところがあって......。そういった自分自身の駄目なところにも気付けたからこそ、自分たちのしたことは、全部自分たちに返ってくるんだって考えられるようにもなったし。実際、今回の映像には、ワンマン・ツアーのときの各地でのインタビューもたくさん入ってるじゃないですか。なんか、ツアー・ファイナルが近付きつつあるなかで、ああいうふうに自分たちの過去について整理しながら話す機会があったのも、結果的にはすごく良かったと思う。そういう過程もあったからこそ、STUDIO COASTで見た風景が自分たちにとっていっそう感動的なものになったんじゃないかな"
そうしてすべての時間の流れがSTUDIO COASTへと向かい、その最終ステージが彼らにとって本当に忘れ得ぬものになったというわけだ。たとえばそれは、これまでの10年の歴史における絶頂の瞬間だったと言えるかもしれない。しかし現在のSiMは、そこには止まっていない。彼らはかつて描いた理想を今現在の現実とイコールにする作業を重ねながら、相変わらず夢を追い駆け続けている。しかもその夢に接近しつつあることを実感できている状態にあるからこそ、ステージ上でのMAHは恥ずかしげもなく"自分の夢を、自分だけは見捨てるな"などと呼びかけることができるのだ。