LIVE REPORT
ナノ
2023.04.08 @渋谷ストリームホール
Writer : 長澤 智典 Photographer:ATSUSHI
アメリカ ニューヨーク州出身、卓越した歌唱力と、日本語と英語を使い分けるバイリンガル・シンガーとして活動中のナノ。2023年2月に最新アルバム『NOIXE』を発売し、同作品を手に、4月8日に渋谷ストリームホールでワンマン公演"NOTHING BUT NOISE"を行った。ゲストに、__(アンダーバー)、KIHOW(MYTH & ROID)、DEMONDICEが参加。当日の模様を、ここにお伝えしたい。
この日のMCでナノは、これまで秘密にしていたことを告白。それが、自らの本名がナノであることだ。ニコニコ動画で注目を集めた背景もあり、ニックネームだと思われていたが、"実は本名だった"とMCで語った。それを告げたことで、彼女自身の心に引っ掛かっていた刺がようやく取れたようで、清々しい表情をしていた。終盤では、"ナノはナノなのー!"と叫んでいたほどだもの。先にその告白を文章にしたのも、この日のライヴでのナノが、とても伸び伸びとした姿を見せていたからだ。そこには、先の告白をしようと決めていたからという背景もあったのだろうか。本人に聞いてみないことにはわからないが......。
白いスポットライトに照らされたナノが、ピアノの音色に乗せて力強く歌い出した。ライヴは「Nevereverland」からスタート。歌声とピアノが優しく絡み合うなかへ激しいバンド演奏が折り重なるのを合図に、楽曲は荒々しい音を鳴らして駆け出した。歌詞に綴った思いの変化や揺れ動く感情に合わせ、ナノの歌声も時には張った声で、時には気持ちの揺れを抑えた優しい声でと、多様な表情を見せてゆく。緩急を効かせながらも、曲が進むごとに熱を高める歌声と演奏。オーディエンスも気持ちが奮い立つたびに声を張り上げていた。この日の公演は、ナノにとって待望となったマスク越しながらの声出し解禁のライヴ。舞台の上もオーディエンスも思い切り感情を解き放ちたくなるのも当然だ。
"お前ら、暴れ足りないんだろう"とでも言いたげに、ナノは観客たちの騒ぎたい感情を一気に増幅するように「Evolution」を叩きつける。巧みに緩急をつけたドラマを描きながら、サビでは心の中に渦巻いていた感情を開放するように力強く歌い上げるナノの姿があった。舞台の上を左右に歩きながらナノは煽り続ける。とてもエナジーに満ちた姿だ。この曲でもナノは、観客たちと熱い声と拳で抱擁していた。
凛々しく、でも荒ぶる声で「CATASTROPHE」を歌い始めると、その声へ呼ばれるようにフロアも気持ちを荒らげて叫び出す。もっともっと感情を高ぶらせたい観客たちを、ナノが巧みにリード。楽曲を重ねるごとにナノも観客たちも理性のストッパーを外し、互いに、煽り、煽られる関係を楽しんでいた。
ここまではフードで顔を隠していたナノだったが、荒ぶる感情の牙を剥くように、「No pain, No game」を高揚した声で歌い出すのを合図にフードを取り払い、凛々しい表情で観客たちに真っ向から挑み始めた。その勢いに押されるどころか、オーディエンスも拳を振り上げナノと熱くぶつかり合う。激烈な演奏が轟くのもあり、曲が進むごとに、これまで以上にフロアの熱が上がるのを肌で感じていた。天井の高い会場ゆえにサウナ化することはないとはいえ、興奮や高揚を覚えた人たちの発する熱気は間違いなく伝わった。サビでのナノと観客たちによる熱い声のやりとりに触れるたびに気持ちが奮い立つ。
これまでの情熱的なやりとりから景色を変えるように、ナノは切々とした声で「DREAMCATCHER」を歌い出した。英詞を軸に据えた楽曲だからこそ、ときどき響く日本語の歌詞が気持ちをより強く揺さぶる。曲が進むごとにナノ自身の綴った思いが大きく膨らむようにも感じた。彼女の温かみを持った歌声も、歌詞に込めた願いを膨らませる嬉しい要因になっていた。
ここで、最初のゲストとしてKIHOWが登場。ふたりは最新アルバム『NOIXE』に収録された「Broken Voices」を披露した。最初は、互いに距離を置き、背中合わせで歌唱。気持ちを強く込めながら歌っている様が、ふたりの姿から伝わる。曲が進むにつれて互いの距離を縮め、顔を見合わせて歌えば、ふたりの顔の距離も、今にも触れそうなほど近づいていく。互いの心の距離が近づくほどに歌声にエモさが増す。その熱をフロアにいても感じれたのが嬉しかった。
続く「magenta」は、ナノがニコニコ動画へ投稿していた頃に歌っていた楽曲。当時のことをKIHOWも知っているからこそ、ふたりは"あの頃を懐かしむ"ように歌っていた。交互にマイクを交わしながら、サビでは声と一緒に思いを重ね合わせる様も見せる。お互いに相手を求め合うように歌う姿がとても眩しかった。
2番手のゲストとして登場したのが、DEMONDICE。ふたりは最初にアルバム『NOIXE』でコラボレートした「We Are The Vanguard」を歌唱した。ナノとDEMONDICEは感情を剥き出しに、互いに思いをぶつけ合うように歌声を交わす。サビでは歌声をひとつに重ね合わせて熱量を高める様も描き出していた。ふたりは、それぞれに観客たちへ向けて思いをぶつけることに興奮と楽しさを覚えているようだ。
その勢いとノリを生かすように「JUMP START」では、ナノとDEMONDICEが舞台の上で飛び跳ねながら、観客たちと一体化した景色を作り上げていた。ふたりが煽るように歌う姿に触発され、オーディエンスも拳を天高く突き上げて跳ね続ければ、サビでは、ふたりの動きに合わせて掲げた手を左右に大きく振り、ナノとDEMONDICEと熱狂の波長を重ね合わせるように楽しむ。ふたりはこの空間に猛暑にも似た熱狂を生み出していった。
それまでの喧騒が嘘のように、ここからはアコースティックなスタイルでアニメ・ソングのカバーを2曲披露。それが、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「リライト」と、Do As Infinityの「深い森」だ。2曲共に英詞にしてカバーを行えば、音数を抑え、ナノ自身の揺れ動く感情的な歌声を生かす形で届けてくれた。言葉のひと言ひと言を語るように歌いながらも、次第に声に強さとエモさを増していった「リライト」。対する「深い森」では、芯を持った強さを覗かせながらも、終始優しい声を響かせていたのも印象的だった。
再びバンド編成に。とはいえ「Heart of Glass」でも、今にも壊れそうな思いを噛み締めるように歌う様や、落ちそうな心へ光を差そうとしてゆく姿などが、ナノの歌う姿を通して伝わってきた。
会場の空気をガラッと変えたのが、__(アンダーバー)とのコラボ・コーナー。ふたりが「第一次ジブン戦争」を歌い出した途端、観客が"ハイハイハイ"と熱い声を上げて囃し立てる。10年以上前にふたりがコラボ歌唱し、音源としてリリースした楽曲だ。__(アンダーバー)のライヴにナノがゲスト参加したことはあっても、ナノのライヴに__(アンダーバー)がゲスト参加するのは初となる。その嬉しさも加わり、舞台の上も、フロアも夢の共演に興奮を隠せず、"オイオイ"と熱い声を掛け合いながら大騒ぎしていた。
その熱狂を受け継ぐように、ふたりが歌ったのが、アルバム『NOIXE』に収録した「A Nameless Color」。この楽曲は、「第一次ジブン戦争」へのアンサー・ソングとして誕生した。ふたりは、これまでも、そしてこれからも自分らしさを持って突き進もうと互いに言葉を交わすように、この曲を歌っていた。他と比べることなく、自分らしさを信じて突き進むふたりに、とても似合う楽曲だ。
ライヴも終盤へ。観客たちのハートにロック・オンしたナノは、「Let's Make Noise」を通して、この空間を輝きで満たしてゆく。ナノの動きに合わせ、オーディエンスも一緒に大きく手を振るなど、互いに笑顔で気持ちを交わし合う。一体化した心地よい空気が生まれたなかへ、再び熱狂の風を巻き起こそうと、ナノは力強く「FIGHT SONG」を歌い出した。ナノと観客たちが、共に"ラーラーラーララララー"とシンガロングしてゆく様に胸が熱くなる。会場の全員が気持ちを奮い立たせ、力いっぱい声を上げ、ナノと一緒に歌った。まさに"FIGHT SONG"というタイトルや内容に相応しい、高揚した魂をひとつに溶け合わせたパワー漲る景色が、そこには生まれていた。
本編最後にナノは、「SAVIOR OF SONG」をぶちかました。観客が拳を振り上げ、ナノと声を掛け合う様が広がる。腕をくるくると回し、時に大きく左右に揺らし、エモい感情を覚えながら、熱狂の中でひとつに溶け合っていた。
アンコールで披露したのが、英詞でカバーしたアニメ・ソングの「God knows...」(涼宮ハルヒ(C.V.平野 綾))。この曲では、ナノが頭にうさ耳のカチューシャをつけるなど、自身が涼宮ハルヒになりきってこの場を文化祭のライヴ空間に塗り変えて楽しめば、観客も自分たちがアニメの一場面を彩るキャストになった気分で大いに盛り上がっていた。
ラストに歌ったのが、1stシングル曲の「Now or Never」。最初は、ナノと観客たちだけの歌声で一緒にサビを歌い始めたが、次第にそこに楽器陣も加えての演奏に。最後に「Now or Never」を持ってきたこともあり、オーディエンスがその場で飛び跳ね、思い思いに騒いでいた。
この日のライヴは、最新アルバム『NOIXE』の発売を受けて行ったこともあり、最新作に収録した曲たちを軸に据えてはいたが、ゲスト陣とのコラボを通して自身の歩みを振り返る場面もあれば、ナノの支持基盤を作り上げてきたアニメ・ソングも随所に盛り込み、デビューから数えて約11年間の歩みを味わえる内容にも構築していた。何より、久しぶりの声出し解禁ライヴということから、観客たちはもちろん、ナノ自身が本当に伸び伸びと、溜め込んでいた鬱憤をすべて解き放ち、歌うことを思い切り楽しんでいた。その気持ちが伝わるからこそ、フロアが無邪気にはしゃいでいたのも当然だ。互いに"楽しむ"ことだけを存分に味わい合った空間が、そこには生まれていた。
[Setlist]
1. Nevereverland
2. Evolution
3. CATASTROPHE
4. No pain, No game
5. DREAMCATCHER
6. Broken Voices with KIHOW from MYTH & ROID
7. magenta
8. We Are The Vanguard with DEMONDICE
9. JUMP START
10. リライト(ASIAN KUNG-FU GENERATIONカバー)
11. 深い森(Do As Infinityカバー)
12. Heart of Glass
13. 第一次ジブン戦争 (ナノfeat.__(アンダーバー))
14. A Nameless Color with __(アンダーバー)
15. Let's Make Noise
16. FIGHT SONG
17. SAVIOR OF SONG
En1. God knows...(涼宮ハルヒ(C.V.平野 綾)カバー)
En2. Now or Never
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