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INTERVIEW

ナノ

2023.02.08UPDATE

ナノ

Interviewer:吉羽 さおり

2012年にアルバム『nanoir』でデビューし、アニメのタイアップ曲や、またアメリカ NY出身によるネイティヴな英語と日本語詞を織り交ぜた独自のグルーヴやエモーショナルな歌で、国内外でファン・ベースを築いできたシンガー、ナノ。デビュー10周年のアニバーサリー・イヤーに突入しリリースとなるのが、ニュー・アルバム『NOIXE』(ノイズ)だ。2枚組で、DISC2ではナノの原点、YouTubeで歌ってみたなどで発信していたアニソンなどの英語カバーが収録され、その10年の歴史を振り返る内容もあるが、アルバム本編ではただまっすぐに前を見つめて、ラウドでエモーショナルなナノだけでなく、新たな作家陣とのタッグを組み新しいテクスチャーによるサウンドや、より音楽性もその歌詞世界も掘り下げたディープな内容になるなど、全10曲で進化を続けるアーティスト、ナノを全方位で見せる作品となっている。ラッパー、DEMONDICEとのコラボ曲など、その化学反応を楽しみながらロックなヴァイブスを放っているのも爽快で、臆せずに扉を開き続けているアルバムだ。

-昨日マスタリング作業を終えたばかり(※取材は12月下旬)ということで、ナノさん自身まだその興奮の真っ只中にいるのではと思いますが──

逆にナノのほうから異例ですが1発目に質問をしていいですか? ずっとインタビューをしていただいているので、アルバムの第一印象をぜひ聞きたくて。

-もちろんです! まず一聴して思ったのが、新しさです。アルバム『NOIXE』は、もちろん今までのナノさんも踏襲しながらも──特にDISC2のカバー集は、ナノさんの原点を提示したものでファンの方は嬉しい内容になっていますが──アルバム自体は、曲のレンジもどんどん広がっていて、こういう表現をするんだな、こういう歌い回しもするんだなとか、いろんなナノさんの姿が見えるアルバムになっているのが新鮮でした。デビュー10周年イヤーのアルバムにもなりますが、振り返るのではなく前に進んでいく気持ちが出ているなと。

(※ホッとしたように)嬉しい、良かった。

-それくらい、今やりたいことをどんどん詰め込んだ作品にしようと?

そうですね。10周年アルバムというといろんなアプローチがあると思うんですね。10年間を祝ってこれまでを振り返るようなアルバムにもできるし。10周年って1回しかこないじゃないですか。そう考えると自分だけじゃなくてスタッフさんやマネージメントもそうですけど、いつもよりちょっと力を入れようかという気持ちにもなると思うんです。こういうときだからこそできることとか、できないこともあるんじゃないかなとも考えるし、作るからには後悔したくないし、納得のいく作品を作らなきゃいけないって思うと、最初の段階では結構悩みました。

-そこで一歩進んでいくきっかけになったのは何が大きかったですか。

なんとなくの固定観念というか、ルールがあると思っていたんです。自分だけのことではなくてどんなアーティストでも、10年間やり続けることってすごいことだし、祝うべきものなんだけど、ただ単に10年間を振り返って、トリビュートみたいなアルバムにしたいわけじゃないんだなと途中で気づいたというか。これまでたくさんインタビューをしていただいているので、なんとなくわかると思うんですけど、あまり振り返るタイプの人間じゃないんです(笑)。いいことも含めて、忘れはしないけど、自分にとっては過去になっちゃうんですよね。

-いろんな想いや出来事はそこに置いていくというか。

もちろん自分の中で、10年間の間で大きなマイルストーンはあったんです。『SAVIOR OF SONG』(2013年リリースの3rdシングル)がいろんな人たちに知ってもらうきっかけになって、盛り上がりもあったんですけど、それがないとナノではないわけでもないし、永遠にそこがピークだと思い続けたくないという自分がいるんですよね。だったら、振り返るためのアルバムではなくて、次の10年に向けての挑戦状のようなアルバムにしたい、10年後の自分に歌うアルバムにしたいなと思ったんです。

-その思いは、どのあたりの曲ができて明確になったのでしょう。

1曲目の「Evolution」という曲なんですけど、これはアニメ・タイアップ("真・進化の実~知らないうちに勝ち組人生~"オープニング・テーマ)なんですが、自分の中ではこのアルバムのテーマでもあるなと感じていますね。世の中に出る作品としては2023年1発目の曲でもあるし、久々にMVを撮った曲なんですけど、"Evolution"=進化という言葉自体が自分のキーワードなのかなってすごく思ったんです。これは10周年に限ったことではないですけど、自分の目標は進化し続けることだと考えているので。でもそれって日々実感しにくいし形にしづらいし、人に証明しづらいものだから、こういうアルバムのときこそ証明できるチャンスだと思うんですね。

-もともとその進化するというのがアニメのテーマ自体とも近いものだったんですか。

自分はゼロから生み出すことよりも、何かテーマがあって、それに想像力をかき立てられて心が熱くなって、そこから自分をいっぱい注ぎ込んで自分の世界にするほうがワクワクするんですよね。だから、アニメ・タイアップって自分にとっては理に適ったもので。しかも、もともとアニメ・タイアップとしていただいた話なのに、その世界観の中で自分の世界観も見つけちゃうっていう。今回は"真・進化の実~知らないうちに勝ち組人生~"というアニメなので、進化がテーマなんですよね。歌詞を書きながらいつの間にか、アニメの曲なんですけど自分の曲でもあるという感じでした。

-いろんな想いや歴史が曲の中に入っていて、こういう流れがあって今ここにいて、さらに前に行くんだよと突き進んでいる力強さが出た曲ですね。これが1曲目にあることでアルバムの方向性もわかったところがありました。

スタッフさんとアルバムの曲順を決めるとき、実は全員違う曲順だったんです(笑)。自分だけが「Evolution」が1曲目だったと思うんですけど、それくらいしっくりきていたというか。自分の中ではこの曲でアルバムの幕を開けたいなと思って。これを軸にして歌詞を書き始めたし他の曲も作っていたので、この曲かなっていうのはありましたね。

-そうですね。そしてそこから次の曲「FIGHT SONG」に繋がったときに、また新たなストーリー性も見えてきて。何かテーマなどがあってインスパイアされて歌詞を書くことが多いということですが、今回のアルバムはいつにもまして素直な、素の言葉の感じが多いなと思うんです。この「FIGHT SONG」もそうで。

そうですね。今回自分でルールを作っていました。それがたとえタイアップ曲でも想像の世界だとしても、これは自分の中にないものだなと思ったら書かない。嘘は絶対に書かないと決めたんです。と言っても別に今までのものに嘘があったわけじゃないですけどね。でも、自分に自信が持てない部分や空っぽな気持ちのときに想像だけで書くとか、そういう歌詞ってあとあと自分の心に響かなくて。ライヴで歌っていても、感情がそこに結びつかないので"言葉"にしか聞こえてこない。自分自身、若い頃や小さい頃に好きなアーティストの曲を聴いていても、この歌詞はこの人の経験から書いてるなっていう曲こそ心に残っているし、感動したんですよね。自分もそういう感動を聴いている人に与えられたらいいなとは思いますし。

-その書き方だからこその難しさはありましたか。

恥ずかしさはありますよね。本当の感情ってあまりかっこ良くもないし、普段人に言わない理由は知られたくないからで。でも曲を作るときは、それをあえて出さなきゃいけないというか、何もないと歌詞が書けないし、作詞って本当に曝け出さないといけないから勇気はいりますよね。

-今後も自分の曲として背負っていくものですしね。作曲の方とは内容的な面でのキャッチボールはあったんですか。

今回は多くの作曲家さんと事前にこういう曲がいいとか、こういうテーマで考えていますとか、こういう空気感で曲をお願いしたいと打ち合わせする機会が多かったので、より自信を持って、胸を張ってこれはナノの曲だと思える曲になっているんです。本当に名だたる作家の方たちにお願いしているんですけど、最初にきたデモがもしちょっとナノっぽくないなと思ったら、自分はもっとこういう感じで思っていますと申し訳ないくらいわがままを言わせてもらったりもしていて。今回は変な意味で気を使わずに作家の方と対等で音楽を作らせてもらえたというか。

-だからこそ濃い作品が生まれているんですね。

そうですね。これが5年前の自分だったらできないと思うんです。10周年となった今だからこそ、自分でより責任を持って、10年間歌ってきたいちアーティストとしてちゃんと伝えないといけないし、いつまで経っても自信がないなんて言っていられないんですよね。これは謙虚さとはまた違うもので、今回は一歩自分でも踏み込んで挑戦をしました。

-しっかり向き合ったという意味合いでも、「FIGHT SONG」はエネルギッシュなロック・アンセムとなっていてとても良かったです。

この曲の力強さは人を選ばずにみんな受け入れてもらえるんじゃないかな、みんなにパワーや元気を与えられるんじゃないかなっていう曲になりましたね。作曲の堀江晶太(PENGUIN RESEARCH/Ba)さんはデビュー当時からお世話になっていて、いろんな方の曲を書いている名作家さんなんですけど、自分が一生忘れられないのが、初めて堀江晶太さんに曲をいただいた「No pain, No game」(2012年リリースの2ndシングル表題曲/塚本けむ名義)で。あのときもアニメ・タイアップ("BTOOOM!"オープニング・テーマ)で、たしかコンペだったんですよね。何人かの作家さんに曲を提出していただいて、その中でそのアニメに一番合った曲はどれかという感じだったんですけど、一生忘れられない感情が堀江晶太さんの曲を聴いた瞬間にあったというか、心にグサッと刺さったというか。例えば辛いものが好きな人って、1回そのとんでもない辛さを覚えちゃうともうずっと好きになってしまうというか。

-クセになるというか、どんどん欲してしまいますよね(笑)。

当時、「No pain, No game」のデモを聴いたときにそれがあったんですよね。一発で掴まれて、音楽を聴いていてワクワクする感情があって。今回の「FIGHT SONG」のデモを聴いたときも、同じその懐かしいフック、あのときに果てしなく近いものがあったんです。そのときに、これはアルバムの中でもパワフルな立ち位置になる曲だなっていうのは思いました。

-サビの"この世界中どこを探しても/心が満たされないから"、"生きる意味を求めて 歌い続けた"というフレーズが鮮烈です。

「No pain, No game」もそうだったんですけど、自分のための曲ではなくてみんなの曲だっていうイメージですね。"FIGHT SONG"というタイトルも歌詞も、みんなのファイト・ソングになってほしいという思い、これを聴くと誰でも元気になる、誰でも壁を乗り越えらえるよってのがテーマでしたね。あとは、一番現代という時代、今の若者を意識したのがこの曲かもしれない。今の時代ってみんないい意味で孤立しているというか、人に合わせるよりも、自分のインディヴィジュアリティを大事にできる時代になってきていると思うんです。でも、だからこそ苦しいこともたくさんあって、今度はひとりで悩んでしまうというか。悩みが共有できないとか、人に頼りにくい、誰に相談をしていいかわからない悩みが出てくると思うんです。そんな人がこれからどんどん増えていくなかで、エールを送るというか。自分は昔からどちらかというとそっちの人間だったので、今は生きやすい時代になっていますけど、自分の経験から"自分はこうやって困難を乗り越えてきたよ。だからエールを送るよ"っていう今の若者たちに向けた曲になっているなと思います。

-個人での楽しみや深掘りするものが増えたり、発信もできたりする時代は喜ばしいですが、一方でこの2~3年はコロナ禍で孤立化してしまう、うまくコミュニケーションが取れなかったり、想いを共有できなかったりで苦しんでいる人もたくさんいるのではというのもあるんですよね。そんななかで音楽が果たす役割があるというか、いろんな想いを引き合わせるマグネットにもなれるのは心強いなとも思います。

そうですね。タイトル通りのファイト・ソングで。大人になるとどうしても戦わなくなるじゃないですか。平和主義になるというか。若いときこそ戦えって思うんです。妥協せず、自分に嘘をつかないで、とことん10代のときに戦えるだけ戦っておいたほうがいい。傷をたくさん負ったほうがいいと思うんです。まだピチピチだからいくらでも傷は癒えますよ、若いときは(笑)。いくらでも再生できるから怖がらずに戦えっていう気持ちもありますね。

-そして「We Are The Vanguard with DEMONDICE」。これは話を聞かないわけにいかない曲というか──

これはヤバいですよ(笑)。

-ナノさんでこんな曲が欲しかった! 聴きたかった! というクールで世界基準な曲です。

意外とこういう曲はなかったんですよね。これはDEMONDICEさんとのコラボじゃなかったら生まれなかった曲なので、彼女との出会いに運命を感じますね。ハワイでのジャパン・カルチャーのイベント("Kawaii Kon")でご一緒したのが出会いだったんですけど、その当時は、自分はネット・カルチャーに疎くて、彼女は凄まじい人気のミュージシャンだっていうのを残念ながら知らなくて、知識不足だなって思ったんです。ただ人気があるだけではなくて、音楽性もすごく高くて、個性があって。人気の理由がわかるというか。それで、お互いに帰国後も連絡を取り合ってご飯に行ったりもしていて、"一緒にやらない?"、"アルバムで一緒に曲をやりたいなって思ってるんだけど、どう?"って言ったら"Oh Yeah!"みたいな感じだったので(笑)。

-友達関係からそうやって生まれる音楽があるのがいいですね。

ラップって面白い世界だし、自分にはその才能がないので、一度は自分の曲でロックとラップを融合させてみたいなというのがずっとあったのが、叶ったなと。