INTERVIEW
ナノ
2018.08.16UPDATE
2018年08月号掲載
Interviewer:吉羽 さおり
昨年5月にリリースした4thアルバム『The Crossing』は、シングル曲以外は全英語詞という、アメリカで生まれ育ち培ったアイデンティティや感情表現をダイレクトに発し、ド迫力のサウンドとともにぶつけた作品となったが、今回のニュー・シングル「ウツシヨノユメ」は、一転して"和"のテイストが全面に出ている。三味線や尺八、笛などの和楽器を大胆に取り込み、祭りの躁的なビートと民謡的なメロディをラウドロックへと昇華した、ナノ流の和風ロックとなっている。雅な日本語詞も用いつつ、和の歌心と英語詞という組み合わせにもトライするなど、新鮮な曲に仕上がった。デビュー5周年を経て新たな試みや冒険心に満ちている、ナノの今が窺える曲だ。
常に人を驚かせたいし、当たり前からはちょっと外れたかった
-「ウツシヨノユメ」は、三味線や尺八といった和楽器が大胆に入ったロック・サウンドで、とても新鮮な曲に仕上がりましたね。
和風ロックをやることになるとはまったく思ってなかったので、自分が一番びっくりしたかもしれないですね。でも、こういう曲をやってみたいなとずっと思っていたんです。海外でも和風ロックはすごく人気があるので、海外のファンにも喜んでもらえるんじゃないかなと思いますね。ただ、やりたかったと言っても、いきなり和風ロックをやるっていうことはなかなかないと思うので。今回は、すごくありがたいきっかけを貰えたなと思います。
-TVアニメ"かくりよの宿飯"主題歌という、作品のイメージもあってのサウンドということですね。でも、昨年リリースした4thアルバム『The Crossing』は英語詞が軸となったワールドワイドな作品だったので、一転して和の世界は驚きでもありました。ナノさんご本人も歌詞を書かれていますが、この曲はどんなイメージで書いていったのでしょうか。
言っていただいたように、前回のアルバムでは新曲は全英語詞で。『The Crossing』では、自分のルーツや、今まで積み上げてきたものを振り返って形にするというアルバムだったんです。今回はそこからさらに一歩進んで、自分にとって新しいもの、進化させたい部分を表したいなという曲だったので、すごくいい展開だったと思いますね。歌詞に関しては、この「ウツシヨノユメ」は、日本語というか、古語のような感じが合うなと思って、それで書いていったんですけど、なかなか難しさもあって。しかも数日で書き上げないといけなかったし、短い時間で勉強できるようなものでもないので、ZAI-ONさんとコラボレーションという形でアシストしてもらいました。やっぱりさすがだなと思いましたね。でも、自分の伝えたかったところは残してもらえて、いい感じに英語の部分も残しつつやってもらえました。
-2番は英語詞でのスタートですしね。
そうですね。TVで流れる部分はすべて日本語詞がいいというリクエストがあったんですけど、2番からは流れないので、そこは自由にやっちゃおうと。そこからはナノ節を思い切りぶっこんじゃったというか(笑)。
-この和風のサウンドに英語詞というギャップのある組み合わせは、ナノさんならではの面白さじゃないでしょうか。
そうかもしれないですね。たぶん、普通であればこのサウンドに英語詞を乗せるのは考えづらいと思うんですけど、自分はまったく違和感がなくできたというか。もともと邦楽を英訳してカバーとして歌っていた時期があったので、逆にそこが楽しいというか。5~6年くらい前の自分を思い出させてくれた作業だったんです。和モノのサウンドに英語を乗せるのは、日本人にとっては新鮮だと思うんですけど、海外の人に届けるにはやっぱり一番いいかなと思っていて。"海外の人も楽しめる和風ロック"というのは、ナノだからこそできることなのかなって思いました。
-タイトルが"ウツシヨノユメ"となりましたが、ちなみにアニメのタイトルは"かくりよの宿飯"と、"かくりよ"なんですよね。対義語にしたのは、意識的なものだったのでしょうか。
意味深な感じにしたかったんです。"かくりよ=常世"に生きているものたちが、"ウツシヨ=現世"の夢を見ることや、この世界に生きているものたちが見ている夢という、二重の意味を込めて付けたタイトルだったんです。人生には、ストレートにわかりづらいものもたくさんあると思うんです。例えば、影があるからこそ光がわかるとか、そういう、裏の意味合いも込めたかったんですよね。
-歌詞については、アニメからのインスピレーションも強かったんですか。
そうですね。普段は和モノに触れ合う機会がなかなかなくて。アメリカで育ったので、自分の中にももちろんルーツとしてないものだったんですよね。資料をいただいて、アニメの第1期を観てと、ものすごく勉強になりましたね。
-そこで何か自分と重なる部分や、歌詞にしていくうえでシンパシーを抱いたところもあったのでしょうか。
今回はシンパシーというよりも、どちらかといえば新鮮な気持ちでした。"海外の人たちがもしこのアニメを観たら?"という感覚で観ていたかもしれないですね。今までのタイアップのときは、自分がどう共感できるかを探ることを優先していたんですけど、今回は、自分にとって何が新鮮で、何が刺激的なのか、というものを求めていったかもしれないです。あとは、今までにない自分を出せたらいいなと思っていましたね。お祭り的な、楽しい感じを出したかったんです。いつものナノというよりも、ちょっと冒険をした、楽しい曲になるといいなと思って。
-ノリとしても新しいものだったということで、レコーディングもいつもとは違った感触があったのではないでしょうか。
そうですね、ノリがお祭りな感じなので、ひたすらテンションが高い感じで。ただ、日本語だとやっぱり、はっきりとわかりやすく歌うということは意識しましたね。今回は、日本語の美しさを伝えることを重要視しました。
-MVも拝見しましたが、まさに和の世界観が表現されたものですね。和楽器と、コンテンポラリー・ダンス的な躍動感との組み合わせはインパクトがありました。
MVのコンセプトを教えてもらったとき、いい意味で笑っちゃいました(笑)。本当に"和"の世界なんだっていう。普段のナノのMVから考えると、ロック寄りに持っていくのかなって思っていたんですけど、"ザ・和"っていう感じで。今回は、自分はあまり登場していないんですけど、そのぶん和の世界を強調して、ダンサーたちや和楽器をフィーチャーした、日本の良さをアピールできるMVになったんじゃないかなと思います。これは自分がやるよりは、よほど日本の良さが伝わるなと思いましたね(笑)。
-日本のリスナーやアニメのファンに楽しんでもらうのはもちろんですが、今回はより海外に向けての日本のアピールになりますね。MVや曲が公開されてからのリアクションはどうでしたか。
いろんなリアクションがあったんですけど、ナノからこういう曲が出てくるっていうのがやっぱり衝撃だったと思うんですよね。ナノの音楽をいつも聴いてくれているファンの人たちは、ナノ自身にも和風の格好をしてほしいとか、きっとそういう願望もあったと思うんですけど。そこは逆に、"自分は自分らしく、和風はプロの人たちに任せよう"じゃないですけど(笑)、そういう思いはあったんです。常に人を驚かせたいという思いがあるし、当たり前からは、ちょっと外れたかったというか。パーカー姿で和風の曲を歌うなんて、自分でも思いもしなかったですけど、そこはいい意味で、違和感があっていいんじゃないかなと思いますね。