LIVE REPORT
打首獄門同好会
2016.08.26 @LIQUIDROOM ebisu
Writer 蜂須賀 ちなみ
地面をグラグラ揺さぶるほどの超弩級サウンドと、ユニークな歌詞とのギャップが光る音楽=生活密着型ラウドロックを鳴らしてきた打首獄門同好会。彼らの最新シングルのテーマは、ズバリ"魚介類"である。"まぐろのさしみ"、"さばの味噌煮"、"かつおのたたき"など魚料理の名前を連呼しながら、古くから海に囲まれた島国で暮らす我々日本人の血肉になってきた食材へのリスペクト精神を歌う表題曲を含んだシングル『島国DNA』を先日発売したところだ。そして、リリースの2日後である8月26日には、"打首獄門同好会「島国DNA」レコ発ライブ『おさかな天獄』"と題したツーマン・ライヴを開催。ゲストとして、浦安魚市場に勤務しながら活動しているというフィッシュ・ロック・バンド、漁港を招いたのだった。なお、漁港の船長こと森田釣竿(Vo/包丁)は打首獄門同好会側からのラヴ・コールに応え「島国DNA」のMVにも出演している。魚をさばくシーンがこれまた渋くてカッコいいので、ぜひチェックしてみてほしい。
この日のトップバッターは漁港......ということで、森田釣竿と深海光一(Gt/Cho/ダンス)がフロアから(!)登場。ステージに到着したあと、森田が包丁を握った右手を堂々と掲げてから、ふたり揃って大漁旗へ二拍手一礼。そうしてライヴは始まった。"Next Fish is ○○"と次の曲で扱う魚を予告してから曲を披露する、という形式で進んでいくなかで様々なタイプの曲を聴くことができたが、特に、深海を彷彿させるSEが流れる中、光の玉がステージ上で揺れるだけの曲「鮟鱇 待つわ」には意表を突かれた。この日のハイライトは、ラストに行われたマグロの解体だろう。"え、ライヴでそんなことやるの?"と思う人が大多数だと思うが、彼らにとっては恒例のパフォーマンスだという。しかしこの日は普段とひと味違い、なんと、53.6キロの本マグロを丸ごと解体してみせたのだ(他のライヴでは頭だけを解体することが多いのだそう)。打首の会長こと大澤敦史(Gt/Vo)いわく、打ち合わせの段階から一番力が入っていたというこの場面。特大サイズのマグロが豪快にさばかれていく様子を前に、会場のテンションはヒートアップしていくばかりだった。
続いては打首獄門同好会の出番。"今日は何だか普通のライヴハウスじゃないな! こんな楽しい日は祭りと呼ぶしかない!"と興奮気味な会長の叫びを皮切りに、「DON-GARA」、「だいたいOKです」を連投すると、以降は食べ物ソングを中心としたセットリストで臨んだ。満を持して演奏された「島国DNA」では、ステージからフロアへマグロのぬいぐるみを投下。"Wow Wow"ではなく"魚魚"、"Hey"、"Hi"ではなく"貝貝"、"海海"といった掛け声が一体感をみるみるうちに形成していく。河本あす香(Dr)とJunko(Ba)の爆裂重低音を土台にしたメタル・チューン「Natto Never Dies」(デス・ヴォイスで歌うにはかなりシュールな内容である)、メンバーが岩下の新生姜の被り物で登場した「New Gingeration」......と、曲数を増していくほど膨れ上がるこの昂揚感は何だろう。打首獄門同好会はもしかすると、このうえなくピースフルなバンドなのかもしれない。MCにて、10年越しの念願だったという漁港とのツーマンに対する喜びを素直に溢れさせた会長は、"我々の育ってきた地下室(ライヴハウス)にはいろいろなビックリがある。その片鱗を観てもらうことができたかと"、"この日をキッカケに好きな音楽、食べ物と出会っていただければ"と手応えを語っていく。日本の食卓に欠かせないものがある、ということで「日本の米は世界一」を演奏したところで本編終了。血管がブチ切れそうなほど熱のこもった会長の歌唱には、この日にかけてきた気合いと愛情が漲っていた。
"食べるということは、身体の一部になるということ。一緒に生きるということ。食の文化を絶やしちゃいけない"という漁港の森田の言葉どおり、食育ライヴを通して"生き様"というロックの根源に正面きってぶつかっていった2組のパフォーマンス。かつお節とうまい棒が配布され、解体後のマグロをおいしくいただける(失礼。あくまで醤油やつまようじとともにディスプレイされているだけ、でした)ようなライヴだとしても、ただ奇をてらいたくてそれをやっているわけではない。ここに魂があるのは、観ていても明らかだった。アンコールにて2組揃って歌い上げた「島国DNA」、互いへの、そしてこの日フロアに駆けつけた人たちへの敬意がまっすぐ表れていて、とんでもなく熱かった。
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