INTERVIEW
打首獄門同好会
2020.11.25UPDATE
Member:大澤 敦史(Gt/Vo) 河本 あす香(Dr) junko(Ba)
Interviewer:吉羽 さおり
-そして「サクガサク」も早い段階であった曲ということですが、いつ頃作っていた曲なんですか。
大澤:実は、これが一番早かったんですよね。これはアニメ制作会社のWIT STUDIOとのコラボなんですけど、もともと企画自体があちらの発案で、昨年の夏に相談を受けていたんです。なので、今回の作品の中では最速で動いていた曲でした。
-そういう過程もあって、"バンドのMV"を超えている、ゴージャスで非常に手のかかったMVもできあがったわけですね。
河本:それも結果的にああなったというか(笑)。
大澤:あれはバンドのMVの予算ではまず不可能ですね。普通にアニメ番組のオープニングみたい。あの絵のスピード感は、こちらから1回止めましたからね。"大丈夫ですか!?"って。コンテを見てやんわりと、"これはダメじゃないかな? ほら、時間とか予算とかあるし......"ってこっちが逆に抑えにかかったというのは初めてのことで(笑)。
-もともと先方はどういった感じで打首(打首獄門同好会)にオファーをしたんでしょう。
大澤:昨年の8月に急に、WIT STUDIOの浅野(恭司)さんからこのメンバーと飲みたいという話がきたんです。前々から互いに"水曜どうでしょう"という番組が好きで、そのイベントで顔を合わせてはいて面識はあったんですけど。でもこのメンバーだけで飲もうっていうほどの話は今まではなくて。これなんかあるなと薄々感じて行ったんですけど。
河本:なんでしょう......? っていう感じで。
大澤:そしたら──そのときはMVの話まではなかったんですけど、アニメーター応援歌を作ってくれないかというオファーだったんです。昨年はアニメ界もいろんなことがありましたし。
-京都アニメーションのこともありましたね。
大澤:アニメ界をみんなで応援したいという気持ちが高まっていた時期だったので。このタイミングでそのお話がきたというのは、そういうことですよねって察して。事務所になんの相談もせずに、その場でお受けしました。
河本:二つ返事で。
-実際にアニメーターさんの仕事の現場にも行ったそうですね。
大澤:とりあえず曲を作るから見学させてくれと言って。面白かったね。他業種の制作現場は、あまり見る機会がないですから。制作の過程もわかっているようでわかっていなくて。"見ます?"ってさらっと実物を渡されるんだけど、これすごい重要なやつなんじゃないのっていうくらい。
-それがまた曲へのインスピレーションになっていった。
大澤:普段はどんな感じなんですかって、現場の方に話を聞いたりもして。よし、じゃあこういう歌にしようと。で、曲を作って。本当は、昨年11月くらいにはお披露目するという話もあったんです。それで、浅野さんに"こんな曲調でどうですか"って完成のデモを送ったら、"泣きました"って返事が来て。そこからですね、彼のエンジンがかかっちゃって。"11月の発表はいったん中止で、12月のクリスマス会で改めて発表する"と──そこで曲の発表かと思ったら、"そこでMVを作ると発表をする"と。うん、なるほどと(笑)。
-溜めますね(笑)。
大澤:どんどん話が膨らんでいって。予算とか大丈夫ですかっていう感じだったんですけど。それで今年の年明けからMVの制作も動き始めて。本当は初夏くらいに発表しようと思っていたんですけど、先方もコロナ禍で仕事ができなくなってしまったので、これもまたスケジュールが延びて、なんだかんだで秋のリリースの諸々にもつれ込んだという感じだったんです。
-いろんな曲を作ってきましたが、こういう特定の業種の応援歌というのはなかったので、とても新鮮ですね。
大澤:しかもアニメーター応援歌っていう、歌としてこんなに対象を狭くしていることがあまりないですよね。今までは、不特定多数共感型だったのが、急に1個の職業に絞っていくという。ただ、アニメーターを応援したいという気持ちで共感してくれる人はたぶんたくさんいると思うので。それこそ、実際に詳しくわかっているわけではないですけど、不遇な待遇を受けている職業というか、仕事に対して適正な報酬を貰えてないんじゃないかと心配になる職業のかなり上位にいると思うので。アニメーターも、もっとという気持ちが大きいと思うんですよね。
-アニメや日本のカルチャーを支えている人たちですからね。
大澤:そういうところも含めて、狭い対象の応援歌でもいいんじゃないかという気持ちはありました。なので、おふざけなしですよね。
河本:できたのを事務所の上の人間が聴いて、"すごく真面目なの作ったね"って言っていたよね。
大澤:それはそうですよ!
-この曲はあす香さんが歌うパートもかなり多い曲になったのは、もともとの案ですか。
河本:これは結構頑張って歌いましたね。
大澤:英単語がちょくちょく入ってくるので、歌う人(河本)、英語の発音を指導する人(junko)、下のパートを歌う人(大澤)という感じで、総力戦でかかっています。この曲は、なんとなく全部自分が歌い切る歌じゃないなというのは思ったんですよ。女子声が重要になるかなというのは、最初からイメージであったので。それに引っ張られたのかわからないですけども、MVも男女の主人公がいるものになって、いろいろ噛み合ったと思います。
-きっとものづくりされている方に共通する思いというのはあるのではと思いますが、何かを生み出すということで共通するような感覚はありましたか。
大澤:制作過程は全然ちがうと思うんですよ。音楽は例えば3分くらいの曲の純度を高めていく作業というか。3分の曲ができたのがスタート地点で、練習を繰り返して純度を高めていくという感じで。だから、どんなに頑張っても3分の曲は3分で終わるわけで、それを高めていくという3分の繰り返しですよね。アニメは、1秒を作るのにどれくらいかけるかという作業で、それを段々と1分にして、2分にしていくという進み方なので。たぶん、見ている世界がちがうと思うんです。しかも分担作業なので、例えばこのコップを手にとって飲むだけのシーンがあったとして、全体からしたら地味なシーンなんだけど、そこの自然な動きにものすごく定評がある人もいるらしいんですよ。そういう部分の芸術性を極めている感じですよね。そういう視点というのは、きっと見ているものがちがうと思うんです。このわずかな動きに果てしない時間をかけて、というのがつなぎ合わさってひとつのアニメ作品になるという。あの世界は、こっちの人間が行けない世界なんですよね。きっと適性が全然ちがうんだと思うんですよ。そういう意味でも憧れはありますね。自分にないものを絶対に持っているから。
-そういうことを知れることもまた得られるものがありますね。では、他の曲のお話もうかがっていきたいのですが、まずは共感するポイントだらけの「ああ無性」です。
大澤:「ああ無性」はこの作品で最後にできた曲です。甘いものを食べたいという曲を作りたいという、モチーフ自体は以前からあって。それを、満を持して曲にしようと思ったのは、ほかの曲に関連するんですけど、いわゆる3月から5月に作った曲は直感型で作った曲ばかりなので、良くも悪くも曲調がみんなシンプルで。コード進行もシンプルで、思ったままどーんといったねっていう曲がすごく多いんです。それはこの年に作ったこの作品の個性として大変ありだと思っているんですけど。それにしても、自分の中でバランスが悪いなと思ってですね。"もうちょっとややこしい曲を"っていう。それでこの16ビートで、けったいなことになりそうだなという曲を、今が出番だと頭の中から引っ張り出してきたんです。ふたりは、16ビートだっていうとキョトンとするんですけど。
junko:やっぱりアンサンブルの食いちがいが如実に出るような曲調は、毎回レコーディングでナーバスになるので。この曲は特にそれでしたね。最後の最後にきたなっていう。
-大陸的で、高揚感たっぷりの華やかさが出ていますよ。
河本:曲調はいいよね。
大澤:曲調は好きなんだよね。ただ難しいっていう。キメとかも多いし。
河本:あとは歌の分け方が独特な曲になったなと思いますね。
-甘いものを欲する1番は"We can not stop"ですが、後半の辛いものを欲するところは、主語が"She can not stop"に変わってますね。
大澤:辛いものが食べたいの"She"は完全に特定の誰かを指していますね。甘いものはみんなが思うところだと思うんですけど、この人の辛いものが止まらなくなるのは気持ち的についていけないところがあるので。
-その"She"が、junkoさんですね(笑)。
大澤:ほんとすごいんですよ。そばとかラーメンとか食べ終わる頃には、ひとりだけスープの色が赤くなっていますからね。同じもの注文したはずなのに、おかしいなっていうくらい。
junko:この間もお友達とカレーを食べに行ったんですけど、ノーマル、小辛、中辛、辛口、激辛とあって、私激辛頼んだんです。でも絶対これ激辛じゃないよなって思った。
大澤:激辛なんだって。それは激辛なんだよ、みんなにとっては。
junko:小辛を頼んだ友人は、"辛っ!"って汗かいていたから、やっぱおかしいのは私かって思ったけど。
-辛さの基準がちがうんですね。甘いものもいけるんですか。
junko:どっちかなんです。お砂糖ジャリジャリの甘さか──
大澤:それはもう砂糖だね。
junko:唐辛子ジャリジャリの辛さかっていう。
大澤:唐辛子ってジャリジャリ言わないよね......。
junko:だからこの「ああ無性」はどっちを歌っても良かったんですけど。私が辛さ担当になりました。
河本:私が甘いもののパートを歌っているんですけど。実は私はあまり甘いものは得意じゃないんですよね。
大澤:甘いものって無性に食べたくなるときありますよね。ブドウ糖、ブドウ糖っていう感じって。