LIVE REPORT
DIR EN GREY
2009.06.21 @STRASSE E(Dresden/Germany)
Writer KAORU
近年のDIR EN GREYの活動を振り返っておこう。2008年11月にアルバム『UROBOROS』をリリース後、2009年1月から"Kerrang! Relentless Energy Drink Tour 2009"に参加。BRING ME THE HORIZON、BLACK TIDE、MINDLESS SELF INDULGENCE、IN CASE OF FIREという、今をときめくアーティストと共に、イギリス各地を巡る。しかし、ツアーファイナルであるロンドンのO2 Academy Brixton公演は、会場の機材トラブルにより公演中止という、大変残念な結果に終わってしまい、メンバーは悔しさを抱えながら帰国した。
2月には、DIR EN GREYの海外での活動の軌跡をダイジェスト的にまとめた映像作品『A KNOT OF』をリリース。同時に"TOUR09 FEAST OF Ⅴ SENSES"をスタート。『UROBOROS』の世界観を、ライヴハウスという小さいキャパシティーの会場で表現してみたいという想いと、DIR EN GREYのライヴをまだ見たことがないファンに足を運んでもらうキッカケを作りたいという想いから、全国各地のライヴハウスでの公演を行うこととなった。その後、ホールクラスの会場に場所を移す。しかし、目まぐるしい本数のライヴをこなす中で、京が声帯炎、喉頭浮腫を患ってしまい、3公演が延期となったが、ツアーラストのZepp Tokyoのライヴでは、そんなことがあったのだということが信じられないほど、彼の歌声とパフォーマンスは素晴らしいものであった。
その後、新木場STUDIO COASTでの追加公演と、延期となった場所の振替公演を無事終了させる。その間の4/29には、ライヴDVD「TOUR08 THE ROSE TRIMS AGAIN」をリリース。
そして、6月からはROCK AM RINGやDOWNLOAD FESTIVALなどの、一大フェスへの参加を含め、"TOUR09 FEAST OF Ⅴ SENSES"のヨーロッパツアーを開始する。
さて、このように海外でもひっぱりだこ状態で大絶賛され、KERRANG!誌からは「WORLD'S BIGGEST CULT BAND」と紹介されるほど、独自の世界観を認められているDIR EN GREYだが、実際に海外でのライヴを私たちが目の当たりにする機会はなかなかない。幸運なことに、筆者はDIR EN GREYがドレスデンで行う公演を観に行く貴重な機会に恵まれたので、ここにレポートさせていただこうと思う。
ドレスデンは、ドイツ東部のザクセン州にある州都であり、エルベ川の谷間に位置している小さな街だ。第二次世界大戦では爆撃に遭い、ほぼ灰の街となりながらも、現在は見事に再建されている。ゴシック建築の宮殿や教会が立ち並び、街全体が芸術的と言っても過言ではない。会場のSTRASSE Eは、中心地から少し離れた場所に位置する。外見だけを見ると、まるで今は使われていない倉庫のような印象を受けるのだが、中に入ってみると、その退廃的な印象が活かされた造りになっていながらも、音響と照明設備はきちんと整っている。ドイツにはこのように、廃墟や使用用途のなくなった建物を生かしたクラブが多数にあるのだ。STRASSE Eも、そのようなクラブのひとつにあたるのだろう。
会場に入ると、ファンが今か今かとメンバーの登場を待っている。この地においても、DIR EN GREYの熱烈なファンベースが確実に築かれているのだということを実感。メタルTシャツを着ている人も多かったが、ゴシック文化が根付いているドイツという土地柄のためか、派手なコスチュームを着ている人も何人か見かけた。
ライヴのスタートは夜8時からだったものの、ヨーロッパの夏時間は日が長いため、まだ陽の光が天窓から差している。SEの「SA BIR」が鳴ると、大きな歓声がメンバーを迎える。
そして、『UROBOROS』最終曲「INCONVENIENT IDEAL」から本編がスタート。オーディエンスの光景で日本と大きく違うのは、メロイックサインが飛び交っているところだろうか。やはり海外のファンは日本よりもメタル的な聴き方をしているリスナーが多いことが、ここで如実に現れている。DIR EN GREYの音楽性は、決して「速ければいい」というような消費型のものではなく、もっと深い表現と独自の世界観があるし、『UROBOROS』は特に、エクスペリメンタルなアプローチの曲が多いため、暴れたいだけのメタルを求めているならば少し肩すかしを食っていたかもしれないのだが、彼らを初めて見たであろうメタラー達は、真剣な表情でメロイックサインを送りながら、ステージを食い入るように見つめている。
続く「VINUSHUKA」では、京が「ここが真実だ!」と、歌詩を叫ぶ。よく来日するアーティストは、わざわざライヴ前に日本語を勉強して、ライヴで日本語のMCをサービスしたりするものだが、京はもちろん、そんな生温いサービスをしたりはしない。言葉の意味がわからずとも、そのテンションが伝われば否応なく盛り上がるものなのだ。『VULGAR』に収録されている「OBSCURE」では、Toshiyaがベースを振り回しながら存在をアピールしていく。「GRIEF」では演奏の粗さが多少目立ったものの、「FUCK YOU!」という京の勢いのある声が演奏の粗さを補い、増々会場はヒートアップしていく。
"TOUR09 FEAST OF Ⅴ SENSES"のハイライトである「DOZING GREEN」では、京のよく伸びる声と妖艶な姿に、皆魅入っている。スモークが焚かれ、とても非現実的な雰囲気だ。「蜷局」で、ライトがだんだんと京の姿をアップにしていく。ドレスデンという街の雰囲気と、STRASSE Eの退廃的な雰囲気と、とてもマッチしている。しばし幻想的な光景に酔いしれた後、「冷血なりせば」ではヘヴィなサウンドに合わせて、オーディエンスは頭を振ったり、メロイックサインを送ったり、叫んだりして、爆発的な盛り上がりとなった。先ほどまでは曲の世界観を表現することに徹していた薫もDieも頭を振り、Toshiyaも上手に移動してオーディエンスを煽りまくった。「AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS」ではこの日初めてのモッシュが起き、「凱歌、沈黙が眠る頃」で本編は終了。アンコールの「THE FINAL」そして「朔-saku-」では、歌詩を正確に歌えているオーディエンスが多くいたことに驚いてしまった。遠い異国の地に住む人達が、お世辞にも発音しやすいとは言えず、京の難解とも言える日本語の歌詩を一生懸命覚えて、一緒に歌っているなんて、素晴らしい光景じゃないか。異国の人をこれだけ夢中にさせてしまうDIR EN GREYに、私は敬意を感じずにはいられなかった。
「音楽は世界共通」とは使い古された言葉ではあるが、やはりロックミュージックは、まだまだアメリカやイギリスを中心とした、海の外のものである。各国にそれなりのシーンは必ずあるし、どこの国にも素晴らしいアーティストがいることは確かだが、それはロックミュージックが誕生した50余年昔から変わりのない事実なのだ。
日本にいるたくさんのアーティスト達が、世界を目指した。しかし、いくら音楽が世界基準のクオリティーを誇っていようと、必ず"言葉の壁"や、"こういう音楽なら日本じゃなくてもたくさんある"という認識を破れず、ロックの中心地において特別に目立つほどの評価が得られなかったのである。
しかしDIR EN GREYは、その分厚過ぎた壁を破った。何故DIR EN GREYだけが壁を破ることが出来たのか?それは、"どこを探しても、見たことも聴いたこともない、独自の世界観とサウンド"があるからに他ならない。もちろん、今まで海外を目指したアーティスト達に独自の世界観とサウンドがなかったわけではない。しかしDIR EN GREYが大きく注目され、何故より多くの異国の地に住む人々に求められたのかという理由は、その独自性があまりに刺激的で、見た者、聴いた者の人生を変えてしまうくらいのパンチがあり、一度はまってしまうと抜け出すことが出来ないほどのカリスマ性があったからだろう。私はそれを、このドレスデンという地においても改めて確信した。DIR EN GREYは、「音楽は世界共通」ということを大きく証明してくれた、初めての日本人アーティストだと言っていいだろう。
8月~9月にかけて、DIR EN GREYは東京、大阪、京都でのライヴを行う。既に彼らのファンである人たちはもちろんだが、まだライヴを見たことがない多くの人たちが少しでも興味を得たなら、迷わずライヴに足を運んでほしい。彼らの本質に触れたなら、何故これだけ多くの人に支持されているのかがわかるだろう。そしてきっと、いい音楽体験になるはずだ。
―LIVE情報―
DIR EN GREY
TOUR09 ALL VISIBLE THINGS
8/26(水)[東京都] 新木場STUDIO COAST
8/27(木)[東京都] 新木場STUDIO COAST
9/1(火)[大阪府] なんばHatch
9/2(水)[大阪府] なんばHatch
9/4(金)[京都府] KBSホール
9/5(土)[京都府] KBSホール
9/9(水)[東京都] Zepp Tokyo
9/10(木)[東京都] Zepp Tokyo
9/14(月)[東京都] 新木場STUDIO COAST
9/15(火)[東京都] 新木場STUDIO COAST
チケット料金:¥5,700 (tax in)
席種:1F スタンディング・2F 指定席
※京都公演のみ、オールスタンディング
総合問合せ:フリップサイド 03-3466-1100
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