INTERVIEW
ナノ
2021.04.13UPDATE
2021年04月号掲載
Interviewer:吉羽 さおり
デビュー・アルバムのような気持ちです
-「All I Need」もそういう感じがありますしね。ナノさんが作詞作曲をした「Hourglass Story」は、最初の3曲が揃ってから取り掛かった曲ですか?
そうですね。ナノが作詞作曲をした曲も入れられたらいいねというのは、チームと話していたんです。ただどうしても自分ひとりで作るとなると、他の曲とはタイプが変わってしまうのではって最初は心配だったんですけど。自分でこの曲のデモを上げたときに、そんなのどうでもいいやって。結局、今回はすべてにおいて形や、かっこ良さはどうでもよくって、すべてにナノの想いがしっかりと入っていて、正直なものだっていうことだけが大事だなって思いましたね。なので、「Hourglass Story」に関してはプライベートのナノらしさ。アーティストとしてのナノではなくて、普段の、家でパジャマ着てコーヒーを飲んでる自分みたいな(笑)。そういうナノに近い曲ですね。
-「Hourglass Story」はボーナス・トラックで、アコースティック・ギターのバージョンが収録されています。本編ではピアノを軸としたアレンジで美しい曲になっていますが、ナノさんのデモ段階では、このアコギ・バージョンが近い感じですか?
そうなんです。このアコースティック・バージョンはもともと収録しないつもりだったんですけど、今回この曲だけはデモに近いバージョンを入れてくださいってお願いしました。というのも、本編での水口(浩次)さんのアレンジを聴いたときに度肝を抜かれたんです。あまりにもかっこ良くなっていて、ヤバいぞって。
-エモーショナルで素晴らしいバラードですもんね。
そのかっこ良くなった「Hourglass Story」も本当に素晴らしいんですけど、逆にこの曲に関してはかっこ良くないところ、裏側も見せたいなって思って。その裏表両面を見せることで、より自分の思いが伝わるなと考えたんです。
-たしかにアコギに乗せてリラックスしてすっと歌っている感じが伝わります。
このギターは水口さんに無理を言って弾いてもらったんです(笑)。"ナノが送った最初のデモに、とことん近い感じに弾いてください"ってお願いしていて。下手くそに聞こえちゃうかもしれないですけど、それでいいんですと。なので、普段聴くのは本編のほうでお願いしますという感じで。たまーに、はぁってため息をついたときや、ちょっと気分転換したいときはアコースティック・バージョンで聴いてもらえれば。
-こういうフォーキーな曲を聴くと、改めてナノさんのルーツが洋楽なんだなっていうのがわかるメロディ運びがありますね。また自分が作詞作曲をするということでは、どんなことを歌いたいと思いましたか?
自分のルーツを遡って、自分がデビューする前はどういうふうに歌っていたかなというのは思い起こしましたね。デビューしてからは、すごく難しい曲や、ロックをたくさん歌ってきて、それを歌いながら歌い方や、声の出し方も変わったところがあって。デビュー後のほうが技術は進化したし、幅は広がったんですけど。それ以前の素のナノってどんなふうに歌っていたかなって思い出してみたんです。長年BPM200で歌ってきたので(笑)、それを剥がすという作業って、すごく難しくて。ただこの曲に関しては、自分が書いた曲だったからこそ、わりと苦もなく素に戻れたというか。この曲があったおかげで、本当に素のナノを引き出せた気がします。
-"Hourglass=砂時計"というモチーフは、どんなイメージだったんでしょう?
行き詰まって悩んだとき、先が見えないときって、全部ひっくり返して見てみると明確に見えたり、違うものが見えたりするんですよね。こんなところにそんなのが隠れてたんだっていうのがわかったりもする。そういう意味での"Hourglass"なんですけど。実はこの曲が誕生したのって、自分が10代のときなんです。
-そうだったんですか。
その当時、アメリカから日本に来たときにいろんな壁にぶち当たって。迷っていたときだったので、自分が今見ている地面がもしもくるっとひっくり返って、空になってしまったら、自分はどういうふうに今の世界が見えるんだろうって、そこから始まったんです。今でも、そういう思いが自分の救いになることがあって。マジでわからないっていうときは、いったん逆さまになった気持ちで考えてみるというか。
-10代から書き始めたものがようやく歌として形になったと。
この日を待っていた気がするんですよね。この曲に関しては、書いたときにこれで完結じゃないという気持ちがあって。いつかちゃんと日の目を見て、役割を果たして、意味のあるものになってほしいなって思ってました。まだ当時は、全然答えも出てなかったし完結できなかったものが、時間を経てちゃんと完結した気がしますね。
-この曲は日本語詞、英語詞とが半々くらいですが、当時から日本語でも歌詞を書いていたんですか?
当時のほうが全部日本語だったんです。今回は改めて、今の自分として歌いたかったというのがあって、変えた部分もありました。
-長く温めてきた曲がこうして収録されるのは、感慨深いですね。またラストの「Remember again.」は、ナノとしての最初の曲「magenta」(2012年リリースの1stアルバム『nanoir』収録曲)のアンサー・ソングということですが。
本当に、今回のアルバムに関しては1個も役割がない曲がないんですよね。「Remember again.」に関しては、作曲はbuzzGさんで、作詞はナノという今までのパターンでの曲なんですけど。そのはずなのに、この曲の役割は、アルバムの中でも唯一無二というか。すべての曲を並べてみたときに、このアルバムのピリオドみたいな曲だなってすごく思ったんです。アーティスト・ナノが誕生してからの9年間の集大成みたいな、それを全部振り返って1曲にしたのが「Remember again.」だと思っているんですよ。「Hourglass Story」はもっと原点的な曲なんですけど。「Remember again.」はデビューしてからの自分、その9年間の重みを抱えた曲だと思っていて。buzzGさんと曲を作り始めた段階では、「magenta」のアンサー・ソングだと思っていなかったんですけど、歌詞を書いているうちにどんどん、今の自分があるのはこの9年間のおかげなんだって、全部が走馬灯みたいにわーっと出てきたんです。そのスタートになったのが「magenta」という曲だったんですね。デビュー前に「magenta」をレコーディングして、デビューを迎えて、どんな気持ちだったっけなって改めて考えたとき、当時はこの先どうやって自分はアーティストになっていくんだろう、どうやってどこに向かっていくんだろうってやっぱり疑問だらけで。幼いし、今とは真逆な部分がいっぱいあったんです。「magenta」を改めて聴いたときに、当時の自分がそこにいたんですよね。そのナノに言えるくらい成長したかなって。だから、これは自分のためにはなってしまうけど、1回そのナノと向き合って、抱きしめてあげないと、今のナノが次に進めないなって思ったんです。
−「magenta」は、不安の中で進んでいく姿に、君はひとりじゃないんだよって一生懸命に語り掛けていた曲でもあって。その子が、様々な経験や、体験をして今これが歌えるんだなっていうストーリーが見えてきますね。
自分の中では卒業ソングみたいな感じなんです。もともとこの曲は、花をイメージして書いていて。最初はもっと出会いと別れ、桜、キラキラ~みたいな感じだったんです。でもそれはクサいな、むずがゆいなって思って。もっとナノらしい曲にしようと今の形になったんですけど。ピカピカの1年生だった「magenta」から、何年も経て、卒業おめでとうって言っているというテーマになってます。今思い出したんですけど、最初は歌詞が華やかで花がいっぱい登場していて。この曲のタイトルを"ANTHESIS"にするつもりだったんです。でも、ちょっと違うなって感じたんですよ。逆にこの曲を作らなかったら、"ANTHESIS"というアルバム・タイトルや、アートワーク、アー写も生まれなかったと思いますね。だから、すごく重要な曲です。あとは唯一邦楽らしい、J-POPのような曲なので。これがなかったら完全に洋楽アルバムみたいになっちゃうので、buzzGさん、ナノのアルバムに華やかさというか、キラキラ感を与えてくれてありがとうって感じ(笑)。
-話を聞いているとなんというか、改めてデビュー・アルバムのような感じもありますね。
ある意味、ナノのデビュー・アルバムのような気持ちです。
-となると、アルバムが世に出る緊張感もまたいつもと違いますか。
ヤバいです。心臓バクバクというか。でも、ライヴでもそうなんですけど、ライヴ前ってすごく緊張するんです。本当にヤバいときもあるんだけど、"緊張してるから、ステージ出ないほうがいい?"って言われたら、"いやいやいや、出たくて出たくて仕方ない"って思う、そういう感じですね。堅い話をすると数字がどうとか、いろいろあるのかもしれないですけど。それよりもまず、この作品を世に送り出すことのほうが重要で。結果はちゃんとついてくると思うし。届けたい! という一心を大切にしたいです。