LIVE REPORT
SPYAIR
2015.12.22 @さいたまスーパーアリーナ
Writer 沖 さやこ
2014年12月30日、Zepp DiverCityでのワンマン・ライヴにて活動を再開させたSPYAIR。2015年、SPYAIRはシングルを3枚リリース。春は全国ツアー、夏に富士急ハイランド・コニファーフォレストにて1万人規模の野外ライヴを開催、秋には活動停止以前から制作を始めていたフル・アルバム『4』をリリースした。そして迎えたアリーナ・ツアー最終日のさいたまスーパーアリーナ。ここまで清々しく堂々としていて大きな優しさに満ちた4人の姿を見たのは初めてだった。彼らの本当の意味での復活――すなわち"完全復活"はこのアリーナ・ツアーだったのではないだろうか。
OP映像が流れ巨大なさいたまスーパーアリーナにレーザーが華々しく放たれると、ステージ上に火の玉が噴射。それに合わせて白い衣装で統一したメンバー4人が登場した。1曲目はメジャー・デビュー曲の1stシングル「LIAR」。力強くも大らかさや優しさを含む音と歌が広大な敷地を包むと、間髪入れずKENTAのドラムから「ファイアスターター」。ねじ込むようなUZのギターも頼もしい。ステージには数々の火の玉が打ちあがり、IKEは歌いながらマイクスタンドを持って中央の花道を闊歩。その姿はかなり絵になる。MOMIKENは滑らかなベースで楽曲を牽引。ド派手な演出を凌駕する演奏の安定感に、ロック・バンドとしての本質を感じた。
"ようこそ、SPYAIRのDYNAMITEへ!"とIKEが叫んで「ジャパニケーション」へとなだれ込む。巨大な会場の舵取りを優雅に行う4人には無駄な力みが一切ない。夏の富士急での野外ライヴ同様に活動停止前に比べて自然体でラフなパフォーマンスではあるのだが、富士急での公演時にはなかった研ぎ澄まされた意識や覚悟が沸々としているようにも見える。「ROCKIN' OUT」は4人の音が粒立って響き、4人のグルーヴも非常に好調。楽曲を最上の状態で届けていく。シンプルな照明の「My World」では音を奏でる4人の姿で観客を惹きつけた。序盤からことごとくSPYAIRはこのキャパシティで音楽を鳴らすべきバンドだと思い知らされたが、これはまだまだ序章に過ぎなかった。
「BEAUTIFUL DAYS」はストリングス隊も交えて演奏。SPYAIRがライヴ会場にストリングス隊を招くのは今回が初めてだ。"今回のアリーナ・ツアーでようやくみなさんにこんなに美しい音色を届けることができて本当に嬉しく思っています。生のストリングス、ヤバいっしょ(笑)?"とUZが少年のように笑う。SPYAIRの音楽性はロックだけにとどまらず、彼らの琴線に触れる音楽をすべて取り入れた広大なミクスチャー・ロック。生のストリングスを招いたことは、"様々な音楽に触れるきっかけになれたら"と思う彼ららしい粋な計らいだ。IKEは観客にゆったりと音楽を楽しんでもらおうと着席を促し、UZはギターをアコギにチェンジ。ストリングス隊とともにミディアム・ナンバー「Winding Road」を披露し、美しい音色で観客を魅了した。続いて花道の先にメンバー4人が集まり、アコースティック・セットのスタンバイを始める。その最中KENTAとIKEが小気味良いトークを展開し、ふたりはMOMIKENへMCをバトンタッチ。するとMOMIKENはSPYAIRが名古屋の栄公園で野外ライヴをしていた時代、どうにかして人を振り向かせるために通行人の視覚に訴えかけるべくガスマスクを被って演奏していたエピソードを話し、彼の目の周りに引かれたラインがその名残であることを告げる。"みんなもSPYAIRって言うと「あ、あの目の黒いバンドね(笑)」って若干バカにした感じで言われるでしょ? ごめんな、俺らが日本のトップを走ってればバカにされないんだよ。みんなもうちょっと待ってて。これからバカにされないくらい駆け上がっていくから!"と凛々しく告げると、客席からは大歓声が起きた。
「My Friend」をアコースティックで披露したあとは場内にショート・ムービーが流れる。メンバーそれぞれの個性を活かしつつもギャグセンスの効いたシュールな内容に観客からは終始笑い声や歓声が。このムービーは「JUST ONE LIFE」への壮大な前フリ。筆者もひたすら笑わせていただき、こういう(いい意味で)バカなことも真剣に楽しんでできるようになったんだなあ、と感慨深くもなった。すると黒い衣装とサングラスで決め込んだKENTAがステージに登場。アリーナ後方から現れたIKEとUZとMOMIKENも同様の格好で、それぞれ3つのサブステージに上がった。ライヴハウス並みの距離にステージ周りの観客も大興奮。続いての「WENDY ~It's You~」は3人が順々にトロッコに乗り1曲かけてメイン・ステージに戻るというパフォーマンス。満面の笑みを浮かべたIKEは身を乗り出して"声聞かせて!"とシンガロングを求めていた。
唐突にステージの巨大スクリーンに茂木淳一が登場。このライヴではシングル全曲とファンからのリクエストの上位3曲を演奏することが決まっており、このムービーでその上位10曲が発表された。茂木の名司会っぷりにザ・ベストテンを彷彿とさせる発表方法、地上波のバラエティ番組並みのクオリティを誇る街頭インタビューなどで観衆を楽しませ、SPYAIRが3位から順々に披露していく。3位にランク・インしたのは「GLORY」。IKEのポリープ摘出手術のあと、沈黙を貫いていた彼らが2014年7月に"解散しません"と発表したのと同時に公開された曲だ。IKEの"Stay Gold"という歌い出しで、歌と言葉の説得力、気魄に圧倒された。身体が貫かれるような感覚に陥る。栄えある1位はインディーズ時代の楽曲である「感情ディスコード」。KENTAのドラムの重量感が心地よく、困難に立ち向かっていく心情が綴られた歌詞を歌うIKEの感情的な歌声も印象的だった。
「0 GAME」のあと、ドラムとギターに乗せてIKEのMC。"今日のこのイベント知ってる? DYNAMITEっていうの。4年に1回しかやらないスペシャルなライヴなんだよね。日本ガイシホールには名古屋の兄さんSEAMOが(ゲストで)来てくれました。今日は誰が来てくれてるんでしょうね!?"と言うと、彼がステージに呼び込んだのはR&Bシンガー・ソングライターのJASMINE。彼女とコラボした「NO-ID」を披露したのだが、これが文句なしにクール! IKEとJASMINEのデュエットの相性は音源でも立証済みだが生で聴くとその迫力にさらに当てられてしまった。頭からずっとスペシャルなこと続き。"この夢のような時間がずっと終わらなければいいのに"なんて、思わず子供の駄々みたいなことを真剣に思ってしまった。SPYAIRの音楽は今も昔もどんな曲でも聴き手の心の純な部分に響いてくるが、バンド最大の困難や苦悩を経てこの場所に立っている今の彼らには、昔にはない色濃い喜怒哀楽とそれによる強さが宿っている。人間力と直結した音楽は、最高にエモーショナルだ。
「現状ディストラクション」、「アイム・ア・ビリーバー」、「サムライハート (Some Like It Hot!!)」と畳み掛けるとIKEがゆっくりと話し始めた。自身がバンドを脱退しようとしたこと、そのときに感じていた気持ちや2015年を振り返ると"もう一度上を目指してみようと思う"と言い、"今から俺が言うことは、メンバー以外には話してません。でもメンバーには話したからOKでしょ"と言うと、この4年に一度のスペシャル・ライヴ"DYNAMITE"を次は東京ドームで行うことを宣言した。この発言は夏の富士急の野外ライヴで彼が言っていた"このバンドを大きくすることよりも、かっこよくすることよりも、続けることを選ぼうと思う"という言葉と真逆に聞こえるかもしれないが、そんなことはない。リスナーと肩を並べ共に成長していきたいという気持ちを持った彼らが、これまでにないほどリスナーと信頼関係を築き始めているからこそ、一緒にもっと広くて高い景色が見たい、そこへと先導したいと思ったのだろう。今の彼らが言う"上を目指す"という言葉は富士急で話していた"みんなと一緒ならもっとすごい景色が見られると思うし、いい音も作れると思う"という気持ちと繋がっている。"4年間かけてここにいるすべての人と、夢と希望が詰まっているあの場所へと向かっていきたい""俺たちが夢や希望を発信して、パワーを送り続けたいと思います。一緒にこれから素敵な景色を見ようね"と言うIKEは、気の置けない友人と固い握手を交わすように、やわらかくも強かで雄大だった。そんなバンドの想いに応えるようにラストの「虹」は客席から真摯なシンガロングが巻き起こった。
アンコールは「イマジネーション」と「SINGING」。最後の最後まで彼らは笑顔を絶やさず、勇敢なままだった。4人それぞれの技術の向上ももちろんだが、人間性や精神力がすべて音になっていたと思う。壊れかけたものを再び4人で立て直し、1年かけて足場を固め、信念を確かなものにしたからこそ、これから彼らはさらに高く跳べるはずだ。活動停止前よりもパワー・アップして完全復活したSPYAIR。2016年、かなり期待していて間違いない。
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