LIVE REPORT
SPYAIR
2015.08.08 @富士急ハイランド・コニファーフォレスト
Writer 沖 さやこ
彼らだけを観るために富士の麓に1万人もの人が集まる。本当に素晴らしい功績だと思う。2011年の日比谷野外大音楽堂以来となる単独野外ライヴ "JUST LIKE THIS 2015"、富士急ハイランド・コニファーフォレストにて圧巻だった。
ステージ後ろと両脇の花道に設置してあるモニターにひとりひとり大きくメンバーの名前が映し出されるとKENTA(Dr)はステージ中央、MOMIKEN(Ba)は下手の花道、UZ(Gt)は上手の花道からそれぞれセリで登場。では一体IKE(Vo)はどこから? と思っていると、彼は客席後方から走って登場し、客席のセンター後方に位置するサブステージに駆け上がった。高く上がった1万人の手のひらの上に立っているように見える。加えて背景は広い夏空と木々が茂る大自然、なんて壮観なのだろうか! その光景を目にしただけでたちまち血が沸いた。「サムライハート(Some Like It Hot!!)」のイントロが流れると1万人の腕が一斉にクラップを始める。IKEは客席の間を歩きながら歌う――それは力強さと言うよりは、ナチュラルに湧き上がるパワーによる、とてもふくよかで大きい歌だった。
この日は4人のみのステージ。4人の意志がこもった1音1音で魅せる。「Rock'n Roll」はMOMIKENとKENTAの作る極太のグルーヴが心地よく、彼らがUZのギターとIKEのヴォーカルをさらに際立たせていた。"後ろの方まで音、届いてますか? 僕らのとこまでちゃんとみんなの声も届いてるんで、思いっきりデカい声出して歌ってみませんか?"というIKEの言葉から「WENDY ~It's You~」。MOMIKENとUZは花道へと移動したり、同じタイミングで前に出たりなど、ステージを華やかにすることも忘れない。でも過去最高に彼らが自然体にも見えた。ただシンプルに、この空間を楽しみにきた――本当にそんな姿だった。それでもしっかりと華やかさが存在するところは、彼らの人間力やメンタリティの賜物だろう。立ち姿艶姿である。スロウなUZのギターの音色にIKEが優しく歌を重ねてダンス・ナンバー「Last Moment」へ。ステージを軽やかに舞うIKEの姿はとてもしなやかだった。
IKEが"今日は特別な曲たちをいっぱい持ってきました"と言い、"一度もライヴでやったことがない曲"というコンガやギロの音が入ったラテン/サンバ的な「Blowing」を披露。バラード曲「LINK IT ALL」では純粋な気持ちを真っ直ぐ届け、頬を撫でる富士吉田の爽やかな風と相まって場内が優しさに包まれていくようだ。IKEが "10年経ってやっとここに来れました"と話し始めると、話題は彼らの原点である名古屋は栄公園のストリート・ライヴのエピソードに。そしてアコギを抱えたUZ曰く"ストリートで何千回とやった"という「To」を演奏する。客席からは優しいクラップが。IKEとUZのハーモニーも美しく、若さを感じさせるシンプルな曲が、ナチュラルな彼らのモードによく合っていた。
サブステージに4人分のアコースティック・セットが用意され、メンバーは客席の間を抜けて移動。4人がステージにつくとIKEが"復活してからSPYAIRは上り調子だなと思うんですよ。もっと俺らが上っていく様をみんなにも見せつけてやろうかなと!"と言うと、その言葉の通りステージが上昇(笑)! 遠くにいる観客にも見えやすい高さになった。この日をずっと楽しみにしていたというUZは"当日を迎えてみて、まだふわふわしてる感じ"と素直な気持ちを吐露する。これは個人的な推測だが、活動停止前のSPYAIRなら、それを思っていたとしても口にしていないだろう。最新曲であるシングル「ファイアスターター」にも如実だったが、やはり彼らは等身大の姿をさらけ出すことができているのだろう。UZは"今日という1日が素敵になるように、地に足をつけたライヴをやります"と再度気合いを入れて、4人は「My Friend」をアコースティックで演奏。そのあとMOMIKENとKENTAがメイン・ステージの袖に下がり、サブステージにはIKEとUZが残った。
デビュー前IKEとUZがふたりでストリート・ライヴをすることが多く、名古屋駅前で演奏してもまったく人が立ち止まってくれず、"もう俺たちだめだ"と完璧に心が折れたこともあったという。だが今はこうして、1万人もの人々を富士の麓に集められるバンドになった。"この10年は無駄じゃなかった。諦めなくて良かった"と笑うUZの姿は、とても感慨深そうだった。IKEがひと言ひと言噛みしめるように歌い、UZがアコギとハーモニーを重ねた「BEAUTIFUL DAYS」。演奏が終わるとしばらく拍手が鳴りやまなかった。
余韻に浸っていると、メイン・ステージにはMOMIKENとKENTAのリズム隊が待ち受けていた。MOMIKENの合図とともに炎が飛び出すという演出も。五弦ベースで普段は見せないような威勢のいいプレイを次々と披露するMOMIKEN。KENTAも安定した華やかなプレイで魅せ、ふたりはアイコンタクトを取りながら空気を作っていく。そして気がつくとKENTAがサングラスを掛けていた。この装備は「JUST ONE LIFE」の恒例だが......と思っていると、なんとサングラスと革ジャンを身につけたIKEとUZがステージと客席の間のスペースからオープン・カーに乗って登場! 最前列を端から端までゆっくり走り、曲の終わりとともにステージに到着した。
だいぶ日も暮れてライティングが映えるようになってきた。「0 GAME」「Supersonic」とヘヴィ且つダンサブルな曲を畳みかけ、テクニカルなプレイが冴えわたる「ROCKIN' OUT」が続く。10年間の歩みで培われたSPYAIRの底力を見せつけるようだ。同期が鮮やかな「I want a place」ではCOLDPLAYのような壮大な音像を作り出し、熱いコール&レスポンスから「OVERLOAD」、KENTAのドラム・ソロから「ファイアスターター」へと繋げる。表情のあるKENTAのドラムは心臓の鼓動のようで、UZのラップもエモーショナルでダイナミック。最新形のSPYAIRが最強であることを証明するようだ。そのあとの「ジャパニケーション」「イマジネーション」も茶目っ気の効いた演出を挟みながら観客を狂乱へと突き動かした。
本編ラストの前にIKEが口を開いた。"生きていくっていうのは大変だよね。でもここで俺らから元気奪っていって、明日をいいものに変えて欲しい""昔は全然思わなかったけど、歌い続けていたら、誰かの何かになれてるんじゃないかなという気がして、そういう気持ちで歌を歌っている"そう語った彼は、"何かないと生きていけないから、また真夏のど真ん中に毎年こうやってみんなで一緒に遊びましょうよ!"と告げた。そして彼は、どうやったらファンも自分たちも楽しんでいけるかを考えて、それをたしかめ合えればずっとバンドが続いていけるんじゃないか、とも話していた。特に印象的だったのが"(休止してからの)1年間いろいろ考えたけど、俺はこのバンドを大きくすることよりも、かっこよくすることよりも、続けることを選ぼうと思う"という言葉だ。ずっとトップを目指して走り続けていたSPYAIRが活動停止を経て、その視線が本当の意味でリスナーへと向いた。そして現段階でのそのシンボルが最新曲の「ファイアスターター」だとも思う。今のSPYAIRはリスナーと手を組み肩を組み、共に歩こうとしている。"みんなと一緒ならもっとすげえ景色が見れると思うし、もっといい音も作れると思うんだよね。みんなこれからも力貸してね"と語るIKEの口調はとても優しかった。ラストの「JUST LIKE THIS 2015」もまた、純粋でひたむきな愛に溢れ、まっすぐ心を掴んできたのであった。
アンコールではアリーナ・ツアーの開催を発表し、客席は狂喜。IKEは"これからもみんなとどうやって楽しむのかいろいろ考えながら、アーティスト/バンドマンらしい活動をしていきます"と告げた。「GLORY」「SINGING」と1万人の観客の声が広い空に響き渡る。そしてその声をすべて吸い込んで、そのパワーを糧に輝くIKEの姿から目が離せなかった。曲が終わると客席の後方から花火が何十発と打ち上がり、その日を華々しく締めくくる。4人はマイクなしで"ありがとうございました!"と叫び、1万人へ肉声で感謝を届けた。10年の歴史の結実でもあり、新たな大きな一歩。我々はこれからSPYAIRとどんな場所へ行き、どんな景色を見るのだろうか――富士の澄んだ空気の中で、明るい未来しか想像しかできなかった。
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