INTERVIEW
BabyKingdom
2023.10.31UPDATE
2023年11月号掲載
Member:咲吾-shogo-(Vo) 志記-shiki-(Gt/Mani) もにょ-monyo-(Ba) 虎丸-toramaru-(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
"生まれながら僕達は不平等な世界に生きて"というのは、きっと人間だけが持つ思い
-一方、咲吾さんは「PENGUIN DIVE」の歌メロをつけていったことになるそうですが、この曲の転調の多さが何かしら影響したところはありましたか。
咲吾:それが、まず僕はわかりやすいコード進行の状態ものを志記に送ってもらって、それに対してメロディをつけたあと、さらにコードをいじってもらうという行程だったので、あまり転調の影響はなかったです。最初から転調していたのはBメロだけだったから、ちょっと悩んだのはそこくらいでしたね。むしろ、メロディとピアノだけならこの曲のサビはカノン進行になってるので、結構歌いやすいと思います。基本的にうちのバンドは僕の歌を中心に音を考えてくれているので、どの曲でも自分のやりたいことを常にやらせてもらってる感じです。
-では、この「PENGUIN DIVE」の歌詞についてはコンセプトが定まっているだけに、わりと書きやすいところもあったりしたのでしょうか。
咲吾:切り口をどうしようかな、というところは少し考えましたね。前のツアー・ファイナルのときにも話したように、一般的に言うとペンギン=生まれながらに飛べない鳥というイメージは強いんじゃないかと思うんですよ。だから、主人公のペンギンが"いつか僕も空を飛びたい"みたいな書き方だとありきたりだなと思ったし、以前べびきんでは「Baby bird」(2014年リリースの前身バンド WeZの2ndミニ・アルバム『0-CIRCUS』収録)っていう曲でまさに"いつか僕も空を飛びたい"っていう曲を作っているので、今回の「PENGUIN DIVE」では別にペンギンは空を飛びたいわけじゃなくて、海を自由に泳ぐペンギンは自分の中では空を飛んでる気持ちになってるんじゃないか、っていう書き方をしていきました。つまり、この曲では夢を見ることの自由さっていうものをみんなに向けて伝えたかったんです。
-そういえば、この間のツアー・ファイナルで咲吾さんは"前に書いた「Baby bird」も同じように大空を羽ばたこう! という曲で、これから「PENGUIN DIVE」のライバルになっていく曲かもしれないと思ってます"とおっしゃられていましたね。
咲吾:「Baby bird」は、ひな鳥がいつか大きな翼で空を飛びたいって思ってる曲だったんですけど、べびきんの前身バンド時代からある曲なんで9年が経った今、またちょっと違う角度の視点から詞を書くことができたのが「PENGUIN DIVE」なんだと思います。
-「PENGUIN DIVE」では最初に"(fly high...better than a sky bird...)"という台詞があり、そのあとの歌いだし部分では"生まれながら僕達は不平等な世界に生きて"という詞が歌われることになりますが、まずはその部分でハッとさせられたところがありました。
咲吾:そこはわざと重い歌詞にしたんです。そこでの"僕達"というのはペンギンというよりも、僕ら人間のことを指している部分でもあって、実際の世の中の話で言うと、日本人はとても整備された環境の中で生きているじゃないですか。
-なんでも、"世界がもし100人の村だったら"という本によると、100人のうち屋根がないところに住んでいる人が25人もいて、自分のPCを持っている人は2人だけ、17人はきれいな水を飲むことさえできない、という状態にあるそうです。
咲吾:日本みたいな恵まれている環境で暮らしていると、つい比べなくていいところまで人と比べちゃうところが出てくるような気はするんですよね。あるいは、人と比べてどうだとか、周りと比べてこうなんじゃないかとか、そんなふうに考えること自体が、地球上の動物の中では人間だけなんじゃないか? とも思いますし。ペンギンだって、決して他の鳥のことをうらやんだりはしてないはずなんですよ。それぞれの生き物は、みんな精いっぱいに自分の命を生きてるだけなんじゃないかなって僕は考えているんですよね。だから正直なところ"生まれながら僕達は不平等な世界に生きて"というのは、きっと人間だけが持つ思いなんだろうなって僕は思ってます。
-そうした不平等さは、実際に咲吾さん自身も感じたことがあるものですか?
咲吾:現実の話として、五体満足ではない状態で生まれてくる人がいるって考えたら、それって不平等っていうことになるんだろうなとは思います。でも、パラリンピックではそういう人たちがすごい頑張りを見せてくれるわけじゃないですか。なんなら、"俺らより速いスピードで走れてるんちゃう!?"ってなったり。要するに、自分の人生を一生懸命に生きている人に対して"そんなんで危なくないの?"とか"ほんとにやれんの?"みたいな言葉を投げ掛けるのはとてもナンセンスなことで、自分の価値観を人にそのまま当てはめようとするのは意味のないことだと僕は思うんですよ。立場や状況は違っても、みんなが自分の人生を日々生きてること自体には、なんら変わりがないわけですからね。
-完全同意でございます。人それぞれの様々な違いは個性や特性と捉えたほうが、考え方としては建設的ですよね。
咲吾:裕福な家に生まれたからこその悩みがあったり、裕福じゃない家に育っても喜びがあったり、人生ってほんとに一概にどうとは言えないものなんじゃないですかね。
-「PENGUIN DIVE」からは音の面でも視覚の面でもファンタジックでかわいらしいイメージを強く受けがちですが、その中身はかなりシリアス且つ普遍的な題材を軸としたものになっているのですね。なお、そんなこの曲の世界を歌で表現するのにあたり、咲吾さんが心掛けられたのはどのようなことでしたか。
咲吾:レコーディングのときは、志記から"2コーラス目のAメロにもっと感情を込めてくれ"って言われました(笑)。歌詞の"幸せはなるものじゃない 年を取り気付いてくもの"っていう部分を、特に強調したかったみたいです。
志記:僕はいつも歌詞を見ながらアレンジをするんですけど、そこの部分には"人生の美しさというものが凝縮されてる詞やな!"と感じたんですよ。だから、聴いてくれる人にもそこは絶対に受け取ってほしかったんです。せやから、そこはアレンジもドラム、ギター、ベースをすべて抜くくらいの感じにしてあります。
-ちなみに、この曲の歌詞は"生まれて来られて良かったな"というフレーズで締めくくられているところもまた素敵ですね。少し余談にはなってしまいますが、各メンバーが日々の中でそのように思う瞬間があればぜひ教えてください。
虎丸:僕は、よく寝て朝起きたそのときです。今日も命があって良かったな、って思いますからね。
志記:それはお爺ちゃんが思うことじゃん(笑)。
虎丸:いやだって、寝るときってマジで朝ちゃんと生きて起きられる保障とかないじゃないですか。無事に起きられただけでも"生まれて来られて良かったな"って思いますよ。
もにょ:僕はバンド活動をしてる日常とか、ライヴをしているときに"生まれて来られて良かったな"と思います。みんなで先々のスケジュールの打ち合わせをしたり、そういうときにもふと幸せを感じたりしますね。
志記:そういう意味では、僕もライヴをやってるときですかねぇ。ファンのみんなは、きっとそれぞれがいろんな想いを抱えて来てくれてるんだと思うんですけど、アンコールとかでみんなが笑顔になってる様子を見ると"俺、音楽やってて良かったなぁ。生きてて良かった"ってほんとにしみじみ感じます。
-咲吾さんが"生まれて来られて良かったな"と感じるのはどのようなときです?
咲吾:小さなことで言ったら、例えばお風呂に浸かったときとかね。"生きてて良かった~"と思うことは結構いっぱいあるんですよ。
もにょ:ここにもお爺ちゃんがおった(笑)。
咲吾:いや、虎丸とは逆なんじゃないかな(笑)。僕は、寝る前にライヴとかのことも含めて"今日も1日楽しかったな"って幸せを感じることが多いですね。