INTERVIEW
ESKIMO CALLBOY
2019.11.06UPDATE
2019年11月号掲載
Member:Kevin Ratajczak(Vo/Key)
Interviewer:村岡 俊介(DJムラオカ)
-実は"Rehab"の由来について聞こうと思っていましたが、これでわかりました。制作過程がリハビリのようなものだったと聞いて、"誰か病気にでもなったのか?"など心配したんですが、そういうわけじゃなかったんですね。プレッシャーというのは例えば、"前作に続いてまた成功作にしないと"とか、そういうことですか?
そうだね。君もさっき言っていたけど、俺たちがESKIMO CALLBOYを始めてもう10年近くになる。その間俺たちの人生も変わったんだ。
-そうでしょうねぇ。
例えば、ガールフレンド。俺たちの当時のガールフレンドは――
-"当時の"って(笑)。
今は妻になっているんだ。
-素敵ですね。
そう、みんなハッピーだよ。ただ、状況によっては少し複雑なことになることもあるけどね。今全員30歳を超えようとしているところなんだけど、俺たちは音楽シーンが好きだし、ツアーに出るのも好きだけど、活動するときはもっときちんと整理された状態でやらないといけない。家では妻が待っているし、中には子供たちが待っているやつもいるからね。それを考えることが大事なんだ。アルバムを書いているときは、タイトルを"Clash(衝突)"にしようかという考えもあったんだ。いろんな期待が衝突してしまっている状態。人生に対する期待は人それぞれだからね。それをまとめないといけないけど、それが今まで以上に大変なことになっている。そういうこともあって今回のソングライティングの段階は今までで一番きつかった。全部やめてしまいそうになった時期も何度もあったよ。みんな音楽に煩わしさを感じすぎて、もはや誰も楽しめなくなってしまっていたんだ。ムードは最悪だった。それが一転して全員がお互いに対してクールな気持ちになれるようになったんだよ。このアルバムは、俺たちがどうやって前に進んでいけるかを見極めるために必要だった。だから"Rehab"というタイトルにしたんだ。
-なるほど。そのリハビリのプロセスの中でお互い心を開き合って何が不満だったのか、またハッピーな気持ちで音楽を作れるようになるためには、何が必要なのかなどを話し合ったんですね。誰かが病気になったとか、人生の中でつらい時期を過ごしていたとか、そういうわけではないと。
そうではないね。一般的な"リハビリ"をするような出来事はなかった。Amy Winehouse的なことでもなかったよ(笑)。みんな健康だった。"Rehab"というのは、自分の人生にある悪いものをみんな取っ払うという意味で使っているんだ。お互いの間にあったわだかまりとかね。それを払拭する経験をしたから、比喩的な意味で、それが俺たちの"リハビリ"だったということだよ。
-おかげでポジティヴな曲調のアルバムができましたね。全体的にポジティヴになれそうな雰囲気があります。これを聴いた人が何か悩みを抱えていたら、聴くことが"リハビリ"になるかもしれませんね。
そうなったらクールだね。このアルバムは、君が言う通りポジティヴなアティテュードやメッセージが込められた曲がいっぱいあるんだ。実はさっきメンバーと会ってきたんだよ。新しいビデオのことを話し合っててさ。すでに1本撮ったものがあって、それはもうすぐ出るんだけど、今は早くもその次のビデオの話をしているんだ。その曲は俺たち史上最高にポジティヴな曲のひとつで、俺の個人的推し曲でもある。メランコリックなサウンドの曲ばかりじゃないことが気に入っているんだ。とてもポジティヴだよ。
-たしか「Nice Boi」のビデオをもうすぐ出すんですよね。ということはそれ以外でもビデオを作ると?
そう。「Nice Boi」のビデオはもう撮り終わっていてリリースの準備をしているところなんだ。次の曲は「Prism」でこれももうすぐ出したいと思っているよ。「Prism」は俺たちが今までやった曲とちょっと毛色が違うけど大好きな曲なんだ。
-「Prism」については後ほどまた聴かせてくださいね。ところで今作のプロデューサーやエンジニアはどういった方々と組んだのでしょうか?
今回も大半は自分たちでやったんだけど、実はプロデューサーがいたんだ。だけどその人とはうまくいかなかったんだ。曲への取り組み方が違ったからね。最初はうまくいっていてクールだったんだけど、徐々にお互いうまくいかなくなってきたなと気づいたんだ。プロダクションがすべてストップしてしまった時期まであったよ。もはや誰も取り組みたくなくなってしまったんだ。それがさっき話したダウンな時期だったね。そのプロデューサーの影響が現れている曲はいくつかある。全部じゃないけどね。俺たちは物事を自分たちの手元に置いておくのが好きだから、まったく関わっていない曲はないし。
-エンジニア的なこともセルフで?
エンジニアリング的なことはそのプロデューサーがやったんだけど、ミキシングの段階で俺たちがいろいろ手直しをしたんだ。頭の中で期待していたサウンドの具体像がはっきりしていたからね。毎週のようにここを変えてあそこを変えて......とやっていたよ。最終的には満足したよ。エンジニアリングとマスタリングは彼とあともうひとり、たしかフィンランド出身の人がマスタリングをやってくれたんだ。最終的には、俺たちはもっとメインストリームというか、ポップなサウンドを望んでいたから......例えば、ヴォーカルをもっと大きくするとか、ドラムをメタルすぎないようにするとか、そういう感じかな。クリック音みたいなドラムはあまり曲に合わないときもあるから、そういうのからは少し離れたんだ。
-アルバムの全体像として、前作の「The Devil Within」や「X」~「New Age」、「Calling」などのドラマチックなシンセやストリングス、メロディアスなコーラスが映えるタイプの楽曲が主となっていると感じました。
そうだね。
-MVで先行公開された「Hurricane」は、逆にアルバムの中ではマイノリティなタイプですよね。
そう、その通りだね。さっきの期待の話になるけど、そういうのを払拭して好き勝手にやってみたんだ。もちろんアルバムを出すときは、どの曲を最初の先行シングルにするかを話し合うわけだけど、"よし、最初は今までとまったく異なる側面のシングルを出して衝撃を与えて、それから昔ながらのESKIMO(ESKIMO CALLBOY)っぽいのを出して......"なんて考えるんだよ。「Hurricane」は今までやった曲にとても似ているよね。「Nice Boi」は今までとは違うけど、あまりソフトじゃなくて......シングルでアルバムの全体像が見えるようにしたいんだ。今まで選んだシングルは全然曲調が違う。だから、アルバムの全体像がまったく変わったものになる。これまで作った曲はそれぞれが特別だけど、今回のアルバムは本当にバラエティに富んでいるね。LINKIN PARKが書いていてもおかしくない曲もあるし、メタル度が高い曲もあるし。そういうところが気に入っているんだ。
-今作はメタルコア、ポスト・ハードコアからの脱却と言うべき作品だと感じました。
まさにそれだね。っていうか今の音楽シーンを見てよ。かつてはハードコアだかデスコアだかをやっていたバンドが、今はとてもソフトになっていたりするだろう? そういう状態に文句を言っている人は多いけど(笑)、俺はそういうバンドを理解できるね。4作分もアルバム制作をやっていると、あらゆる種類のブレイクダウンを経験してしまうから、ブレイクもモッシュのパートも昔聴いたことがあるような感じのものになってしまうんだ。ミュージシャンというクリエイティヴな仕事をしていると、そこから進化した新しいものが欲しくなる。歳も重ねてきたしね。俺たちは今30歳前後になっていて、飛び回っていたハタチのガキの時代とは違うんだ。わかるだろう(笑)? 昔の曲をディスるつもりは毛頭ないけど、ポスト・ハードコアの曲の多くはシンプルなことがよくある。時にはものすごく退屈なくらいにね。新しいスタイルを取り入れることで、そういう状態を変える機会が増えるんだ。だから全員が新しいものを試してみたいという気持ちになった。例えば、「Nice Boi」も今までとはまったく違うし、「Rehab」も俺の好きな「Prism」も今までやってきたものとは違うんだ。『The Scene』の一部の曲に近いと君も言っていたけど、ああいうスタイルが好きなんだよね。うまく言えないけど、より作り込んだサウンドというのかな。とても大人な感じがするんだ。
-たしかに全体的に成長が窺えますし、新しいチャレンジもしてますよね。例えば、最初の3曲ですが、「Take Me To」は「Rehab」のイントロというより、曲の冒頭の一部のようです。また、そのあとの「It's Going Down」も繋がっているように感じました。この3曲は組曲的な見せ方を試みたのでしょうか?
そういう意図だったね。タイトル曲の「Rehab」の主人公は、周りの人にリハビリ施設に入れられようとしていて、もう少しで説き伏せられてしまって、"Take me to rehab(俺をリハビリ施設に連れていけ)"みたいな感じになってしまうんだけど、もっと皮肉が入っているんだ。そいつはリハビリ施設に行こうとしているけど、本当は行きたくない。歌詞は"わかった、リハビリ施設に行くよ。そうすればきっと大丈夫"って感じなんだけど、アウトロで鳴っているのはこのアルバムの中でも一番ハードな曲で、"リハビリ施設なんか行くもんか。絶対に行かないぞ!"っていうことなんだよ。それを俺たち自身の状況に当てはめるとこういうことなんだ。歳を重ねて家族ができると"お前らもう30だろう。そんなこと(バンド)やめろよ"と言われたりする。そりゃ俺たちはもう昔みたいにワイルドじゃないし落ち着きつつあるけど、この生業をやめたくはないんだ。ツアーに出るのも好きだし、ミュージシャンでいるのが好きだからね。
-その中心にある「Rehab」は、ポスト・ハードコア・スタイルの既存のESKIMOを踏襲するスタイルを塗しつつも、オルタナティヴ・ロックを軸としたバランス感の秀逸な楽曲に感じました。ああいう曲をアルバムの冒頭に持ってくるのはかなりのチャレンジだったのでは。
うん。普通はアルバムの始まりの次の曲はもっと激しくて、キックスタートになるような曲を持ってくるよね。でも俺たちは"1曲目の直後にブレイクを持ってきたらどうなるだろう?"って考えたんだ。そのアイディアが気に入ったからとにかくやってみた。また期待の話になるけど、俺たちがミュージシャンとしてすべての期待から身を解き放ってしまえば、好きなようにやれるんだよね。何が間違っているとか、正しいとかがないから。作ってみてからみんなどう思うか意見を聞けばいい。でもまずは本当に好き勝手にやるかどうかを自分で決めないと。