FEATURE
the GazettE
2017.01.19UPDATE
2017年01月号掲載
Writer KAORU
2016年4月から6月にかけて三度目となる海外ツアーを敢行したthe GazettE。その密着映像を収めたドキュメンタリー作品『the GazettE WORLD TOUR 16 DOCUMENTARY DOGMATIC -TROIS-』が2017年1月25日にリリース。さらに同日、ライヴ映像作品『the GazettE LIVE TOUR 15-16 DOGMATIC FINAL -漆黒- LIVE AT 02.28 国立代々木競技場第一体育館』が、世界58ヶ国にてiTunesストアで配信されることも決定している。
バンド史上初となった北米公演を含む全10ヶ国15公演、それぞれの地でのライヴ映像、リハーサル風景など舞台の裏側、スタッフのコメント、各地のファンの反応、そしてツアーの核となるサウンドメイキングのこだわりなどをたっぷりと収録。時系列順にツアーの軌跡をダイジェストで辿っていきながら、"それぞれの国、それぞれのライヴの違い"がとてもわかりやすく描かれている、the GazettEのアーカイヴとして貴重な作品だ。
前回のインタビュー(※2016年11月号掲載)で、RUKI(Vo)は"各地、各国で好まれる曲もノリも違うし、同じ南米でもメキシコとブラジルでは違うし......ダラスとニューヨークではまったく違うし"と語っていたが、なるほど、この映像を観るとその違いがよくわかる。またこの作品では、音作りへのこだわりに焦点が当てられており、ドキュメンタリーではよく目にするリハーサル風景も単なるオフ・ショット的な扱いではなく、より詳細に音作りの工程を見せている。このテキストでは作品の見どころを紹介するとともに、専門用語を補完するガイダンスとして読んでいただければ幸いだ。
世界各地でファンを増やし続けている功績の裏側にある、海外ツアーで見せた生々しい5人の姿と、サウンドへの飽くなき探究心
リハーサル風景
映像はツアー初日のメキシコ公演のリハーサル風景から始まるのだが、このリハーサルには"ギター・テックを務めるスタッフのPCが現地で置き引きに遭う"というハプニングに見舞われ、大きな問題解決に迫られるという背景があった。
麗(Gt)は2016年2月の代々木公演を振り返るインタビュー(※2016年5月号掲載)において、"そもそもみんなキャビを置いてない状態でやってたんです。(アンプから出た音をマイキングするのではなく)ラインだったんですけど、ラインに感じさせない生々しいライヴ感のある音作りっていう絶妙なところ――クリアさを追求したうえで、それをさらに生っぽく馴染ませる音作りを狙っていきました"と語っていた。この手法が海外ツアーにも適用されており、作品内ではギター・テックを務めたスタッフが"Pro Toolsを前提とした、プラグイン・ソフトやアンプ・シミュレーターを作った音作りにこだわりました"と語り、葵(Gt)は"ギターのスピーカーをシミュレートするソフトを使った音作り"のメリットを語っている。
シミュレーターについて簡単に説明すると、"ギターを鳴らす=アンプに繋ぐ"工程を取り払い、普段大きな機材で鳴らしているものをPC上で再現できるということ。大きなメリットとして挙げられるのが工程の簡略化、機材の軽量化、コストの削減だ。シミュレーターは年々精度が上がっており、レコーディングはもちろん実際にライヴで使用しているバンドも増えている。このようなテクノロジーの進化が日本人アーティストの海外進出の大きな手助けになり、アナログの制約から解放され、"環境に左右されない音作り"が実現可能になっているのは確かだが、この作品を見ると"工程の簡略化=作業の簡易化"ではないのだということがよくわかる。さらに麗はインタビューで、the GazettEの場合はコストの削減にも繋がっていないと語っていた。あることが大前提のPCがツアー初日に盗まれるという事件に始まり、テクノロジーを駆使しているがために、新たな壁にぶつかってしまう姿がリアルに映っている。アプリひとつで簡単に曲が作れる時代、インスタントに作られた音が悪いということではない。しかし、the GazettEのように高クオリティのバンド・サウンドを世界中のどの国でも維持するのがどれほど大変なことなのか、ツアーに同行した音響スタッフのコメントも含めてぜひ注目してほしい。また、作品の中ではメンバーがイヤーモニターについてテック・スタッフに指示を出している場面や、ノイズなどのストレスを抱えながらライヴを終えたシーンもあり、特にRUKIがテックに細かく指示している内容はとても興味深い。メンバーがどんなバランスでモニターを聴き、ライヴをしているかを想像しながら見るのも面白いのではないだろうか。
世界に広がるthe GazettEファンの生の声
作品にはライヴ会場に来ているファンのコメントが多数収録されている。その声を聞いてみると、日本でよく目にする"ヴィジュアル系の海外人気=アニメ、アイドル、クール・ジャパンの風潮の高まりの延長"みたいな捉え方は一元的なものにすぎないということがわかる。ファンのコメントに共通しているのは"サウンドが好き"ということであり、そのディテールも様々だ。しかしアジアを除く場所では"Awesome!"や"Keep On Rocking!"という言葉に集約されるノリが共通しているように思える。ここはかなり重要ではないだろうか。
多様性に富んだノリやファッション
派手な髪色をした人が多いのはどの国にも共通していたが、カジュアルであったりゴスっぽかったり仮装っぽかったり、ファッションの違いを見るのも面白い。
ノリについて日本と大きく違うのは、周りと同じ動きをしようとしている人がいないということだろうか。さらにメロイックサインがところどころに交じっていたりもする。ヨーロッパではヘドバンをしている人も多くいたが画一的な動きではない。ちなみにウォール・オブ・デスやサークル・ピットも見られなかった。とは言っても、どこでも日本と同じような動きをしている人も少なからずいて、受容性に富んでいることがわかる。唯一日本と同じようなノリ、いわゆる手バンがあったり、一糸乱れぬヘドバンがあったのは台北で、服装も明らかに仮装感があったりと独特。しかし同じアジア圏でも上海はカジュアルな人が多く、欧米に近い感じだ。各国の土壌的特徴を踏まえながらその違いを見ていると、とても興味深い。the GazettEコールのイントネーションの違いも面白かった。
セットリストの悩み
前回のインタビューでも語られていたとおり、国によって受け入れられる曲が違う様子も見られた。例えばある国では「UGLY」のリズムに戸惑っているようなファンの姿が印象的だった。各国で違う曲のライヴ映像が見られるので注目してほしい。ツアー序盤からRUKIがセットリストに悩むコメントや、戒(Dr)が中心となって悩みながらセットリストについて考えている姿、メンバーやスタッフとミーティングしている光景も。
ファン必見! 麗のバースデー
ミュンヘンでは現地のファンがバースデー・ソングを歌い、麗の誕生日を祝うシーンが収録されている。その瞬間の麗の表情やメンバーの表情、コメントする姿も必見だ。
怪我やアクシデントを乗り越えて......メンバーの貴重なコメント
ヨーロッパ公演前に手を骨折してしまい、激痛に耐えながらライヴを行ったあとの葵のコメントやメンバーの葵に対する言葉には涙腺が緩むものがある。さらに麗のお立ち台が引っくり返って怪我をしてしまった瞬間も生々しく映されている。インタビューでは"苦労はあんまりなかった"と言っていたが、プロ中のプロのアーティストならではのたくましさを痛いほど感じた。一般の感覚ではおおよそ想像がつかないものだ。REITA(Ba)は作品内で"極限状態の方がいいライヴができる"とコメントしていたが、どんなことがあってもやってやるぜ! と言わんばかりに筋トレする姿も印象的。戒がリーダーとして今回の海外ツアーでどのようなことを心掛けているか真摯に語っているシーンや、RUKIがどの瞬間に本当にスイッチが入るのかなど、貴重なコメントがたっぷり収録されている。すべてを踏まえてツアー・ラストのロシアで演奏された「TOMORROW NEVER DIES」のライヴ・シーンはとても感動的だ。
"ヴィジュアル系が海外で人気。the GazettEはその中でも特に人気が高い"ということは認知されているし、動員数がその事実を証明しているが、それがいかにすごいことなのかはあまり理解されていないのが現実だろう。しかしこの作品を見れば"海外"、"ヴィジュアル系"、"アニメ、アイドル、クール・ジャパン"という一元的な括りでthe GazettEの人気を語るべきではないと感じる。海外各地でここまでローカライズさせファンを増やし続けているその功績の裏側に、サウンドへのこだわりについてきっちりとディテールを示したことがこの作品の大きな意義ではないかと思う。ファンはもちろん、海外進出を考えているバンドマンにもぜひとも手に取っていただきたい作品だ。
▼リリース情報
the GazettE
『the GazettE WORLD TOUR 16 DOCUMENTARY DOGMATIC -TROIS-』
[Sony Music Records]
2017.01.25 ON SALE!!
【DVD】SRBL-1736/¥5,556(税別)
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TOWER RECORDS
HMV
【Blu-ray】SRXL-118/¥6,481(税別)
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TOWER RECORDS
HMV
■"the GazettE WORLD TOUR 16 DOGMATIC -TROIS-"全行程
"The Americas"
APR. 15TH(FRI)MEXICO CITY, MEXICO / TEATRO METROPOLITAN
APR. 22ND(FRI)SAO PAULO, BRAZIL / AUDIO CLUB
APR. 25TH(MON)DALLAS, USA / THE BOMB FACTORY
APR. 27TH(WED)TORONTO, CANADA / THE DANFORTH MUSIC HALL
APR. 29TH(FRI)NEW YORK CITY, USA / PLAYSTATION THEATER
MAY 1ST(SUN)SAN FRANCISCO, USA / THE REGENCY BALLROOM
MAY 3RD(TUE)LOS ANGELES, USA / THE WILTERN THEATRE
MAY 5TH(THU)VANCOUVER, CANADA / VOGUE THEATRE
"The Far East"
MAY 13TH(FRI)TAIPEI, TAIWAN / TICC
MAY 21ST(SAT)SHANGHAI, CHINA / Q.HALL
"The Continent"
JUNE 3RD(FRI)PARIS, FRANCE / LE ZENITH
JUNE 5TH(SUN)COLOGNE, GERMANY / E-WERK
JUNE 8TH(WED)MUNICH, GERMANY / TONHALLE
JUNE 10TH(FRI)HELSINKI, FINLAND / THE CIRCUS
JUNE 12TH(SUN)MOSCOW, RUSSIA / IZVESTIYA HALL
▼特設サイト
http://the-gazette.com/worldtour16-dvd/
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