LIVE REPORT
Ken Yokoyama
2013.02.07 @ZEPP TOKYO
Writer 山口 智男
"秒殺"で即完したという "Best Wishes Tour"のファイナル公演。
ライバル意識と親愛が入り混じる想いを込め、Ken Yokoyama(Vo/Gt)を"Tシャツと短パンの親玉"と呼ぶSAの熱いパフォーマンスに続いてステージに出てきたKen Yokoyamaは『Best Wishes』と、それをひっさげてのツアーにまつわるさまざまな想いを "やっと戻ってきたぞ、東京"という一言に託すと、3.11以降の合言葉とも言える「We Are Fuckin' One」をまず暴れたくてうずうずしている満員の観客にお見舞いした。性急な曲調とサビのキャッチーな展開が印象的なメロコア・ナンバー。
そして、その合言葉を書き加えた日の丸の旗を掲げながら "改めて言うけど、友達を助けるのに理由なんて要らないだろ。次の曲は使ってる言葉はキタないけど、歌ってることは「We Are Fuckin' One」と一緒"と「Kill For You」をたたみかけると、それから30分、曲間にMCも挟まず、ノンストップでひたすら曲を演奏しつづけた。
"やれるところまでやろう"と予め打ち合わせしていたらしい。いつになくシリアスともストイックとも言える――殺気さえ感じさせる熱度満点の演奏に観客はたがが外れたように大暴れする。しかし、Ken Yokoyamaの歌とバンドの熱演をしっかりと受け止めようしているのか、サークル・ピットも作らず、ほとんどの観客が激しく体を動かしながらステージのバンドに対峙しているところがいい。そんな観客に対して、Ken Yokoyamaはこの日、何度も自分のヴォーカル・マイクを客席に投げ入れ、できるかぎり観客の声を聴こうとした。
序盤を一気に駆け抜けたバンドは "もう(セットリストの)半分やっちゃった。これからどうしよう" "これからダラダラやるから"と言いながら一息入れると、Matsuura(Dr)のストリップと女性ファンを巻きこんでのエロトークで観客を脱力させ......いや、シリアス・ムード一辺倒じゃないんだと観客を安心させると、「Cherry Blossoms」で演奏を再開。前述した日の丸を掲げ、 "(エロトークの直後じゃ)説得力がねえな"とKen Yokoyamaは笑いながら、自分たちなりに考え、日本のことを歌ったという「This Is Your Land」をファンにぶつける。
軽口を叩いていたかと思うと、急にシリアスになる。真面目な話をしていたかと思うと、突然、与太を飛ばしはじめる。反骨と諧謔こそがパンクの精神。そう考える僕は真摯な想いやシリアスなメッセージを歌いながら決してユーモアを忘れないKen Yokoyamaの見事なバランス感覚に、これまでも大いに感心させられてきたが、この日のKen Yokoyamaはよりストレートな言葉遣いで自分の想いを語っていたせいか、そんなパーソナリティーがいつも以上に表れていたように思えた。この日、彼が言った "日の丸を掲げれば右翼と言われ、脱原発と言えば、左翼と言われるけど、そんな簡単なことじゃない。俺達は右でも左でもない。俺たちはパンクスだから"という言葉に大いに共鳴。パンクスとしての矜持を感じ取った。
終盤、バンドはフォーク・パンク調の「Ricky Punks III」、HUSKING BEEの「Walk」のカヴァー、 "パンク・ロックに感謝と希望を"と前置きした「Punk Rock Dream」、そして冒頭のコーラスを観客に歌わせるというアイディアが感動的だった「Believe」につなげていき、ひとまず本編は終了。もちろん、それで観客もバンドも満足するはずがなく、1回目のアンコールでは東北ライブハウス大作戦について語ると "続けていくこと、つなげていくことがKen Bandのテーマ"と言って、その想いを「Let The Beat Carry On」に込める。そして2回目のアンコールでは昨年7月に急逝したTony Slyを悼んで、彼のバンド、NO USE FOR A NAMEの「Soul Mate」のカヴァーを演奏すると、 "さあ、何やる?"と観客からリクエストを募り、メンバーと話し合いながら「I Love」など、懐かしめの曲を次々に演奏していき、ツアー・ファイナルはやがて「Running On The Widing Road」で大団円を迎えた。
序盤、バンドが一気に駆け抜けた時はどうなるかことか思ったが、終わってみれば、2時間半に及ぶ熱演。セットリストはソロ・キャリアの集大成とも言える選曲だったが、ライヴそのものは『Best Wishes』に込めた想いに貫かれ、今とこれからを見据える眼差しが窺えた。音楽が世界を変えるんじゃない。それを演奏する人間とそれを聴いた人間が変えるのだ。帰る道々、ライヴの盛り上がりを思い出しながらそんなことも考えた。
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