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INTERVIEW

BUCKCHERRY

2023.05.26UPDATE

2023年06月号掲載

BUCKCHERRY

Member:Josh Todd(Vo)

Interviewer:井上 光一 Translator:安江 幸子

-ちなみにこのシンプルなアルバム・タイトルはどうやって?

タイトルはいろんな案を投げ合って決めたんだ。最初はただ"10"とだけ呼ぼうと思っていた。でも同じことをやったバンドはたくさんいるからね......ただ、なんらかの形で"10"を入れたい気持ちはあったんだ。どんなバンドにとっても10作目というのは大偉業だからね。10枚ももたずに終わるバンドはあまりにも多いし、10作目に辿り着けるバンドはとても少ない。だからとてもスペシャルなものだと思っているし、別のタイトルは付けたくなかった。10作目だからね。実は"Vol. 10"にしようと言い出したのはStevieだったんだ。"いいね!"と思ったよ。それで決まったんだ。最終的に"Chapter 10"と"Vol. 10"が残って、"Vol. 10"が勝った。

-『Vol. 10』はまさに記念すべき10枚目のアルバムに相応しい、グラマラスなロックンロール・ナンバーから心に響くロック・バラードまで、キラーチューンがずらりと並ぶ見事な作品となりましたね。『Hellbound』も素晴らしいアルバムでしたが、それ以上の手応えを感じていらっしゃいますか。

(照笑)まぁ、どんなアーティストも最新作が最高傑作だって感じるものだと思うよ。作り終えたばかりで密接に感じているし、一生懸命作ったものだから素晴らしいと考えている。でも実際の価値は一般の人たち次第なんだ。一般の人がどう思うかによって変わってくる。だから今は俺たちにとってすごくワクワクする時期ではあるけど、ナーヴァスになっている時期でもあるんだ。どう受け止められるかまだわからないからね。でも今のところ反応はいいよ。

-そしてご自身でも誇りに思っているわけですね。

ああ、とてもね。

-以前あなたがおっしゃっていた、"常に大切なのは最高に素晴らしい曲を作ること"といった言葉は、本作でも間違いなく実現していると感じます。ソングライターとしての成長を実感していらっしゃるのではないでしょうか。

もちろん! シンガーとしてもソングライターとしても、ひとりの人間としても、それからコラボレーターとしても、すべての面でね。

-歌詞についてはどうでしょうか。これも以前のインタビューであなたが言っていたことですが、特にコンセプトなどは設けず、あなた自身の感情や経験から歌詞を書いているとのことでしたね。先ほどの話とも繋がりますが、パンデミックから少しずつ社会が立ち直りつつあり、あなた方の生命線とも言えるライヴ活動も再開するなど、社会や自分たち自身の環境の変化は歌詞にも反映されているのでしょうか。

俺が曲を作るときは、思いや考えが曲によっていろいろあるんだ。曲としてまとまった状態になったのを聴いて初めて、"あぁ、こういうことだったのか。だからこんな形がしっくりくるんだ"とわかる。だから30曲あるのを10曲にまで濃縮する必要が出てくる。(具体的には)一曲一曲を振り返ってみる必要があるけど、どの曲にもそれぞれ別の考えがあるんだ。基本的にはひとつひとつの曲がショート・ストーリーになっているね。

-それはご自身の人生のひとコマとか?

過去の自分のときもあれば、周りの人の人生をヒントにすることもあるし、自分が夢見ていること、いろいろあるよ。俺はストーリーテリングもソングライティングも大好きだからね。書くことについては、バンドで歌うようになるずっと前からやっているんだ。詩を書いたりしてね。俺はずっと口から出てきた言葉を書き留めてきたようなものなんだ。俺にとっては好きでやっていることで、心から楽しんでいるよ。

-ちなみに歌詞を書くときというのは思いついたら書き留めていますか。それとも時間を取って? そのへんの紙切れに思いついたものを片っ端から書く感じでしょうか。

いろんな形があるね。メロディから先に思いついてそれをiPhoneに吹き込んで、そこからささっと書き始めるときもある。感情がスパークするときもあるし、ひとり言から歌詞が出てくるときもあるよ。またあるときには座って、例えば君がギターで3コードを弾いて"Josh、こういうの好きか? どう思う?"と聞いてくるとする。それに対して俺はちょっと考えてから"いいね。これを使ってちょっと考えさせてくれ"と言う。それから俺はひとりになって、少しの間ひたすらその音に聴き入る。そのときは、そのコードが俺のどんな感情をかき立ててくれるのかを考えるんだ。例えば、「Keep On Fighting」はそういう感じにできた曲だ。あれはとてもアグレッシヴな曲だね。

-はい。

あのアグレッシヴな曲を聴いて少年時代を思い出したよ。とにかく怒りを感じていたあの頃、世界中が敵みたいな気がして。そういうこととか、子供時代のネガティヴなエネルギーを思い出していた。だから俺はパンク・ロックが好きだったんだなとか思いながら歌詞を書き始めたよ。(※サビの部分を歌って)ここはその視点から書いたんだ。さてこの歌詞は自分に何を訴えてくるだろう? と今度は考える。それから(※冒頭の部分を歌う)ここに続けるんだ。そういう感じにできた曲だね。「Feels Like Love」みたいな曲の場合は......俺は「Hysteria」という曲の大ファンなんだ。

-DEF LEPPARDの。

そう、DEF LEPPARDの。あの曲が大好きなんだ。あれを聴いているときに歌詞やメロディや曲、その構造、アレンジなんかを個別にピックアップしながら何度も聴き返した。それでMartiに「Hysteria」のBUCKCHERRYバージョンを作りたいと言ったんだ。あんな感じの曲が作りたいとね。そうしたら彼は"OK"と言ってくれて、その夜のうちに「Feels Like Love」を送ってくれたんだ。

-それは早かったですね。

うん。Martiは作った曲の上にメロディをハミングしてくれていた。俺は俺ですでに別のメロディを書き始めていたんだけど、彼のメロディを聴いていたら"おぉ、こっちのほうがいいな"と思ってね。そっちのほうが気に入ったから、歌詞は彼のメロディに対して書いた。それからスタジオに入って彼の前で歌ってみせたら、(※爆発音のような口真似)......とてもうまくいったんだ。そんな感じに生まれた曲だね。ライヴでもすでに2回やったけど、最高だったよ。セットの中でも素晴らしいひとときになっている。

-たしかに「Hysteria」をアップデートしたようなヴァイブを感じました。自分自身があの曲に出会った頃を思い出しましたよ。

それは良かった(※笑顔)!

-「Feels Like Love」は主張しすぎないストリングスもいいアクセントとなっています。このようなアレンジのアイディアは作曲当初から思い浮かべていたものなのでしょうか。

いや。思い浮かべていたのはMartiだったね。彼が思いついたんだ。クレイジーだよね。「Pain」でもやってくれたけど。「Pain」はとてもユニークな曲で、Martiの家に今回最初に行ったとき、ピアノがあったんだ。"このピアノどうしたんだ?"と言ったら"人から貰ったばかりでね"と。それで、"ピアノが入っている曲が欲しい。隠しトラック(「Open My Eyes」)として"と言ったんだ。『Time Bomb』(2001年リリースの2ndアルバム)にも隠しトラックを作ったんだけど、今回も"隠しトラックとしてとてもシンプルなピアノの曲が欲しい。このピアノで、最高に悲しいコードを3つ作ってくれ。その3つがあればいい。できるだけ悲しいコードを作ってくれ"と言ったんだ。そうしたら"OK"と言ってくれた。それから数日間この曲については触れなかったんだ。ところがある日突然、自分がピアノを弾いているだけのラフな音源を送ってくれた。"うわぁ、これは最高だ"と思って、その夜のうちに書いたのが「Pain」だったよ。それからスタジオに入って、「Feels Like Love」のバック・アップもオーバーダブする箇所も全部歌った。2時間くらいかけてね。それからMartiに、"あのピアノの曲を今から歌うよ"と言ったんだ。"わかった"と言ってくれたよ。"まだテンプレートもできていないから1トラックだけで録ってくれ、今から歌うから気に入るかどうか教えてくれ"と言った。もともとはコーラス部分をファルセットで歌うつもりだったけど、歌ってみたらダメだったんだ(苦笑)。そうしたら彼が"普段の声で歌ってみなよ"と言ってくれたからそうしてみたら、俺もStevieもMartiも"おぉ、これならいいぞ"と思った。Martiは"いいかい、今からこれをちゃんとした曲の形にするぞ"と言って、あのミドル・セクションを入れてくれたんだ。ストリングスも全部ね。素晴らしかったよ。"Oh my God! すごいじゃないか"と言ったら、"ああ。BUCKCHERRY版「November Rain」(GUNS N' ROSES)みたいな気がする"と言ってくれた。

-なるほど!

俺は"そうきたか! 何はともあれ素晴らしい仕上がりだ"と思ったね。

-とても心を打つバラードですよね。あの曲はエモーショナルなメロディもさることながらギター・ソロも圧倒的です。

そう、アルバム全体的にギター・ワークが素晴らしいんだ。StevieもBilly(Rowe)もキメてくれたよ。

-個人的にはラストのマーチング風のドラム・ロールも効果的だと感じました。

あれはMartiと俺で話し合ってね。最後のギター・コードのところに投入したんだ。あれもMartiのアイディアから始まったものだよ。それからミドル・セクションのブリッジも彼のアイディアなんだ。俺が考えたのはブリッジに乗るメロディと歌詞だったね。

-話を聴いていると歌詞と曲のどちらが先というより、どちらも絡み合いながら生まれていくような感じがして興味深いです。歌詞と曲のコール&レスポンスのようだと言いますか。

パズルに近いものがあるね。パズルみたいに断片を繋ぎ合わせていって、できるだけ美しい形にしていく。すごく楽しい作業だよ。

-話をアルバムの前のほうに戻しますね。アルバムのオープニングを飾る「This And That」はアグレッシヴなリフを主体としたグルーヴながら、ブルージーな香りが漂うところも印象的です。この楽曲を1曲目に持ってきた意図などはあるのでしょうか。ハンドクラップで始まる曲でもありますね。

いろんな曲順を検討してみて、最後に挙がったのがこの曲順だった。Martiのアイディアでね。あ、俺も「This And That」で始めるやつがひとつあったな。で、彼も別の曲順で「This And That」から始めるやつを作った。俺の作ったやつの順番を数曲入れ替えるような形でね。で、俺は彼の作ったやつが一番気に入ったんだ。アルバムの始まりとしていいんじゃないかと思ってね。今回は曲順を決めるのがなかなか大変だった。テンポが似た曲がいくつかあったから、クリエイティヴな形でまとめるにはどうしたらいいか考えたよ。

-先ほど説明していたダイナミクスを生み出すためには、ということですね。

そうなんだよ! 大変だった。「This And That」でスタートして良かったと思っているのは、いきなり頭をガツンとやられるようなタイプの曲じゃないからなんだ。

-もっとレイドバックな感じですもんね。

そう、徐々に盛り上がっていく感じでね。リズム感のあるいいロック・ソングであることには変わりがないけど、ちょっとAEROSMITHっぽい感じかな。

-あー、たしかに。もしかしたらそうかも。レイドバックでありながらアグレッシヴさもまだあるような。

ああ。

-先行シングルの「Good Time」はまさにタイトル通り、ポジティヴなヴァイブスに満ちた痛快なナンバーですね。すでにライヴでもプレイしているとのことで、盛り上がりが目に浮かぶようです。MVも面白いストーリーですね。楽しいパーティーかと思ったら不穏な要素もあって。

"あー!(※ホラー映画に出てくるような悲鳴の真似)"というような感じ(笑)。なんかアシッドだか悪いクスリでもやったみたいな映像だったよね(笑)。

-(笑)

シナリオを読んで気に入ったよ。

-"Good Time(いい時間)"というより"Scary Time(怖い時間)"という感じもありましたね(笑)。あのMVの中のあなたはとても楽しんで歌っているように見えました。

いろんなことがあったあとだし、純粋に楽しめるっていうのが本当に良かったよ。コロナ禍を経て楽しい時間を過ごすことに集中できるようになってね。BUCKCHERRYの楽しさの真髄が現れている曲だと思うよ。

-まったくその通りですね。BUCKCHERRYの最高のエッセンスが詰まっている曲だと思います。「With You」も個人的に気に入っている楽曲です。どことなくQUEENやTHIN LIZZYのような70年代のハード・ロックを思わせる、ギターのハーモニーが印象的で。

あぁ、言いたいことはわかるな。俺的にはBUCKCHERRY版SCORPIONSというイメージなんだ。彼らはギターのハーモニーがいつもメロディックだからね。俺にとってはすごく"ユーロメタル"な感じの曲だよ(笑)。

-ちなみに少年時代"ユーロメタル"は聴いていました?

いや、単にジョークで言っていただけでね。BUCKCHERRYの曲にああいうタイプのギターは珍しいから面白いと思って、"なんかSCORPIONSっぽくないか?"と俺が言ったんだ。でも言ったあとで心から気に入るようになった。初めはそんなにピンとこなかったけどじわじわきたというか。

-StevieとBillyは素晴らしいギタリストなので、いつも組み合わせのハーモニーが素晴らしいですよね。今回こういうユニークな形でふたりが輝けるのは良かったです。

だね。クールなことだよ。