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FEATURE

Ave Mujica

2025.04.22UPDATE

2025年04月号掲載

Ave Mujicaはガールズ・バンド・シーンの神話になるか―― 待望の1stアルバム『Completeness』完成!

Writer : 宮﨑 大樹


それぞれが葛藤しながら誰かを救い、誰かに救われた、Ave Mujicaの歴史を詰め込み、未来に繋げていく"完全版"


今年2025年で10周年を迎えたメディアミックス・プロジェクト"BanG Dream!(バンドリ!)"。この10年の間に同プロジェクトからは多数のリアル・バンドが誕生してきたが、ヘヴィ・メタル・バンド Ave Mujicaもその1つだ。リアル・バンドとしての活動が先行していた彼女たちだが、TVアニメ"BanG Dream! It's MyGO!!!!!"の続編として制作され、Ave MujicaをフィーチャーしたTVアニメ"BanG Dream! Ave Mujica"が3月末に最終回を迎え、今まさに旬を迎えているバンドだと言える。

そんなAve Mujicaが待望の1stアルバム『Completeness』をリリースするということで、今回はAve Mujicaについてアニメのストーリーに触れつつ紹介するとともに、彼女たちのアルバム『Completeness』を紐解いていく。なぜここで音楽以外の話をするのか? それは、Ave Mujicaメンバーやバンドのストーリーを知っていると楽曲の解像度がグッと跳ね上がるからだ。なお、記事の性質上アニメのネタバレも含んでしまうので、先にアニメを観ておきたい場合は視聴後に本稿へ戻ってきていただきたい。

Ave Mujicaの初期ヴィジュアルで目を引くのは、やはりメンバー1人ずつが異なるデザインで付ける黒い仮面だろう。"仮面"は、このバンドを語る上では切っても切り離せない舞台装置だ。表面的な点で言えば、Ave Mujicaは自身のライヴを"マスカレード(=仮面舞踏会)" と称しているし、内面的な点で言えば、人が他者と接するときに表れる人格であるペルソナ(ラテン語で"仮面"の意味)の存在が、アニメのストーリーにおいて重要な要素になっている。なぜ彼女たちは仮面を付けているのか? それは、バンド・メンバーが人形をコンセプトとした劇中劇を披露することや、ステージの天井からシャンデリアを吊るすといったゴシックな世界観の表現のためという側面もあるだろうが、メンバーの素性を隠すためという意味合いが強い。劇中においてAve Mujicaには、このバンド活動以外での知名度や話題性が高いメンバーが多いが、メンバー兼プロデューサー的な立ち位置のオブリビオニス(Key)こと豊川祥子は、あえてそういった立場を利用せず、自分たちの実力だけで売れていくことを目指し、素性を隠してバンド活動を行うことを望んだのだ。

ここからはそんなAve Mujicaの各メンバーについて紹介していく。フロントマンのドロリス(Gt/Vo)こと三角初華は、Ave Mujica楽曲の作詞も担当しており、アイドル・ユニット"sumimi"のギタリストとしても活動中。Ave Mujicaには幼馴染である祥子のために加入したのだが、初華は祥子に対して依存的な愛情を注ぎつつも、彼女自身の出自や祥子との関係性についてとある秘密を抱えており、それに葛藤している姿が劇中で描かれている。バンドにおいてはヘヴィ・メタルの重厚なサウンドに埋もれない芯の強い歌唱が持ち味だ。

ギタリストのモーティスこと若葉 睦は、父親がお笑い芸人、母親が女優という芸能一家に生まれている。初華と同じく祥子とは幼馴染の関係であり、CRYCHICというバンドで祥子と活動していた過去もある。Ave Mujicaで活動している動機は、家庭の事情(後述)で精神的に弱っている祥子を支えるため。幼少からギターを弾いていたので、Ave Mujicaでは7弦ギターを操る等、このバンドのサウンドには欠かせない高度なテクニックを有している。だがその一方で、ギターを"歌わせられない"ことにコンプレックスを抱いている面もあるようだ。睦は劇中で素顔が晒されてしまうハプニングにより世間からの注目を集めることになるのだが、そのストレスから睦を守るために"モーティス"が表出する。そんな睦とモーティス、そして祥子たちとの人間関係を巡るストーリーは、劇中で特に濃厚に描かれているので必見だ。

ベーシストのティモリスこと八幡海鈴は、数々のバンドでサポート・メンバーを務めており(劇中後半ではAve Mujicaへの覚悟を見せるために全て辞めている)、5弦ベースを使いこなす実力者である。当初Ave Mujicaの活動は数あるサポート・バンドのうちの1つでしかなかったのだが、先述の通り活動を通してAve Mujica一本でやっていきたいという意志を持つに至った。彼女は過去に組んでいたバンド・メンバーにライヴをボイコットされたトラウマがあり、これが原因で誰に対しても敬語で話す等、人と距離を取るタイプの人間。彼女のトラウマについては劇中でまだ深掘りされていないため、今後どこかで描かれることを期待したい。

ドラマーのアモーリスこと祐天寺にゃむは、メイク動画を主に扱う動画投稿者であり、マルチタレントをきっかけとして、女優になることへ強い想いを抱いている。故に話題作りのためライヴ中にメンバーの仮面を剥がして素顔を晒す暴挙に出る等、Ave Mujicaの活動を自分が売れるための踏み台のように捉えていた時期があった。そんなにゃむだが、海鈴と同じくAve Mujicaが自身にとって離れられないものに変化していく過程が劇中で描かれている。にゃむが売れることへ執着する理由は不明だが、その理由も今後どこかで明らかになってほしいものだ。

そしてキーボーディストはオブリビオニスこと豊川祥子。作曲の他、ライヴ中に行う寸劇の脚本、バンド全体のプロデュースを行うAve Mujicaの発起人であり心臓部だ。大企業 豊川グループの令嬢として生を受けるが、父親が詐欺の被害に遭い豊川グループに損失を出したことの引責としてグループから追放されてしまう。祥子は大豪邸から一転、狭いアパート住まいをしながらアルコール依存症になった父親の面倒を見ることになってしまう等、悲劇的な人生を送っている。なお彼女は母親の形見である西洋人形を大事に持ち続けており、こういった経験がAve Mujicaの世界観に大きく影響を与えていると思われる。

ここまで紹介してきた各メンバーのステージ・ネームは、全てラテン語に由来している。ドロリスは"悲しみ"、モーティスは"死"、ティモリスは"恐怖"、アモーリスは"愛"、オブリビオニスは"忘却"の意だ。彼女たちのステージ・ネームは、それぞれのバックグラウンドに関連していると思われるので、そのあたりはぜひアニメ本編を観て確かめてほしい。また、Ave Mujicaというバンド名自体もラテン語が由来である。ラテン語はキリスト教とも密接な関係にあるのだが、そういった神話的な要素もAve Mujicaの物語や世界観に関係がありそうで(理由は後述)、このあたりは非常に考察し甲斐がある。そういうわけで、Ave Mujicaのストーリーにはガールズ・バンドらしいキラキラとした青春の描写はほとんどない。そこには重く、苦しく、狂気的なストーリーがあり、その中で彼女たちが葛藤しながら誰かを救い、誰かに救われていく様子が描かれているのだ。

さて、そんなAve Mujicaの1stアルバム『Completeness』は、アニメのOPテーマ「KiLLKiSS」で幕を開け、続いてEDテーマ「Georgette Me, Georgette You」に繋がっていく。前者の「KiLLKiSS」は、重々しいイントロが心臓をギュッと握ったかと思えば、OPらしい疾走感で駆け抜けていく1曲だ。ヘヴィなサウンドながらもメロディがキャッチーであることにより、聴き心地が良いところもポイント。アルバムのタイトルでもある"completeness"が歌詞にあるあたりも、この作品のOPに相応しい。後者の「Georgette Me, Georgette You」は、こちらもEDテーマらしくしっとりとしたピアノ・バラードに仕上がっている――かと思いきや、突如として硬質なバンド・サウンドに乗せてドロリスが感情を迸らせて歌い上げる振れ幅が印象的だ。


「KiLLKiSS」(TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」オープニング映像)


「Georgette Me, Georgette You」(TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」エンディング映像)

3曲目の「Imprisoned XII」は、TVアニメの#10で挿入歌として使用された楽曲。アコースティック・ギターの音色がなんとなく温かな印象を抱かせるが、歌詞には作詞を手掛けた初華が祥子を独占したいと願う狂おしい程の愛が綴られており、美しくも怖ろしい詞世界が不気味に佇んでいる。自身の想いを歌う、ドロリスの圧倒的な表現力にも注目だ。続く「Crucifix X」も同じくTVアニメ#10の挿入歌で、こちらは冒頭のパイプ・オルガンで奏でられるベートーヴェンの「月光」が宗教音楽的な空気を醸し出す楽曲。"Crucifix"とは"十字架"のことであり、"X"はキリストそのものを象徴する文字として扱われる。突然だが、バンドにとって解散とは死と同義だ。そして、宗教的な世界観の中では、キリストのように死から復活する奇跡を起こした人間は神と同一視される。つまり、作中で解散してしまったAve Mujicaが復活するということは、Ave Mujicaというバンドが神話になるための奇跡として描かれている、という見方もできるのではないだろうか。実際、アニメの#12で祥子は"私が神になります"と決意表明をしているし、Ave Mujicaと神話の間には何か裏テーマのようなものがあると思わずにはいられない。復活ライヴで披露する「Crucifix X」は、そんな奇跡を演出するにはピッタリな1曲だった。ヘヴィ・メタルとファンタジー、ヘヴィ・メタルと神話との親和性の良さは今さら語るまでもないが、非常に良く練られたストーリーであり世界観だと感嘆してしまう。


Ave Mujica - Imprisoned XII (Official Music Video)


Ave Mujica - Crucifix X (Official Music Video)

さらに、本アルバムにはアニメ最終回のライヴ・シーンでお披露目となった3つの新曲も収録。
「八芒星ダンス」は、"赤の象 獅子 熊"とサーカスに関連付く単語や"クラッカー 首謀者"と暗号めいた言葉が耳に残る1曲で、自然と浮かんでくる怪しげな夜のサーカスの情景とAve Mujicaの世界観とが絶妙な相性を見せる。続く「顔」は、イントロのヘヴィなリフとドロリスの舌打ちが刺激的で、開始5秒で曲に引き込まれてしまった。不穏で妖艶でありながらもキャッチーであり、そのバランス感が巧みだ。そしてアルバムを締めくくるのは「天球(そら)のMúsica」。アニメではメンバーそれぞれが人形ではなく中身の人間と向き合うような劇中劇が展開された後に披露された1曲である。荘厳な歌い出しから一転して力強く駆け出す展開が爽快で、ユニゾンで"ゆこう 明日へと 美しい時代(とき)よ/人は忘れてく"と歌うパートは、心が浄化されるような感覚になった。アニメのストーリーを通じてバンドがようやく1つになり、ここが本当のスタート地点なのだ。そんなことを想わせてくれる1曲から得るカタルシスは相当なものだし、制作が決定したという続編への期待も高まった。


Ave Mujica - 八芒星ダンス (Official Music Video)


「顔」(TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」#13 挿入歌)


Ave Mujica - 天球(そら)のMúsica (Official Music Video)

アルバムのタイトル"Completeness"は"完全"を意味するが、これまでのAve Mujicaの歴史を全て詰め込み、さらにこれから先のAve Mujicaに繋げていく――そんな"完全版"の作品だと言えるだろう。

Ave Mujica
1st ALBUM
『Completeness』
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【Blu-ray付生産限定盤】CD+Blu-ray
BRMM-10916/¥10,450(税込)


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【通常盤】CD
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[CD]
1. KiLLKiSS
2. Georgette Me, Georgette You
3. Imprisoned XII
4. Crucifix X
5. 八芒星ダンス
6. 顔
7. 天球のMúsica

[Blu-ray] ※5,000枚限定生産特装盤/Blu-ray付生産限定盤のみ
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1. 黒のバースデイ
2. ふたつの月 ~Deep Into The Forest~
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5. Mas?uerade Rhapsody Re?uest
6. Ave Mujica
7. 素晴らしき世界 でも どこにもない場所
8. Angles
9. Symbol I : △
10. Symbol II : Air
11. Symbol III : ▽
12. Symbol IV : Earth
13. Ether
14. KiLLKiSS

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