FEATURE
LINKIN PARK
2013.07.08UPDATE
2013年07月号掲載
Writer 山口 智男
LINKIN PARKのフロントマン、Chester BenningtonがSTONE TEMPLE PILOTS(以下STP)に電撃加入!!いやはや、5月の中旬に世界中を駆け巡ったこのニュースには驚かずにいられなかった。
今年2月、最高のヴォーカリストにして、(バンドにとっては)最悪のトラブルメーカー(とも言える)Scott Weilandをクビにして、新しいシンガーを探していたSTPがChesterに白羽の矢を立てたのか、Scottに負けないヴォーカリストを見つけられずに困っている先輩バンドを、Chesterが助けようと思ったのか。なぜ、そういうことになったのか経緯はわからないが、いずれにせよChesterとSTPの共演はセンセーションと呼ぶにふさわしいインパクトがあった。
共にいまだロック・シーンの第一線で活躍している人気バンドだ。LINKIN PARKがいくらメンバーによるサイド・プロジェクトも含め、他のアーティストとのコラボレーションに積極的に取り組んできたとは言え、活動を休止しているなら、その間のバンド外活動として理解もできる。しかし、LINKIN PARKは現在、6作目のアルバムの制作に取り組みはじめたところらしいし、8月にはSUMMER SONIC出演という形で2年ぶりとなる来日公演も実現する。そのタイミングでなぜ?! LINKIN PARKと掛け持ちしてまで、なぜ?! ChesterはよっぽどSTPで歌いたかったらしい。
Chesterにとって、STPは13歳の頃から聴いてきた大好きなバンドだそうだ。LINKIN PARKにはないセクシーさとクラシック・ロックのフィーリングが彼には魅力的に聴こえるという。
“大好きなバンドで歌えるチャンスが目の前にあるのにも関わらず、指をくわえて、それをただ見ている奴がどこにいる?!”
Chesterに言わせると、そういうことらしい。
ひょっとしたら“STPって誰?”という若いリスナーもいるかもしれない。サンディエゴで活動を開始したSTPはグランジの波と共にシーンに現れたバンドだった。1992年にリリースしたデビュー・アルバム『Core』はいきなり全米2位の大ヒットを記録した。デビュー当時こそ、ブームに便乗してたまたまヒットを飛ばしたNIRVANA、PEARL JAMの二番煎じなどと過小評価されたものの、その後、グランジに止まらない――LED ZEPPELIN、David Bowie、THE BEATLESの影響が1つに溶け合ったとも言える音楽性をアピールしながらヒット作を連発……いや、もしかしたらヴォーカリストと他のメンバーがいつもモメているバンドとしてのほうが有名かもしれない。
実際、彼らの歴史はScottと他の3人のメンバーの軋轢による、お家騒動の連続だった。Scottに愛想を尽かした3人が無名のシンガーと新バンドを組み、それに対抗してScottがソロ・アルバムをリリースしたこともあったし、ScottがGUNS N' ROSESのメンバーとVELVET REVOLVERを組み、バンドが解散状態になったこともあった。
Chesterだってそのへんの事情はちゃんとわかっているに違いない。Scottと他のメンバーの腐れ縁……いや、4人が一緒になった時の化学反応を理解したうえで、あくまでもバンドが和解するまでのピンチヒッターと考えているのだろう。Chesterを迎えたSTPは、すでに何度かライヴも行い、「Out Of Time」という新曲も発表している。アルバムのリリースを視野に入れ、今後も新曲のレコーディングを続けていこうと考えているという。
STPのヴォーカリストはScott以外ありえないと思いながら、ChesterとSTPの共演がどんな成果を残すのかが楽しみでもある。もちろん、成果とはSTPのアルバムだけに止まらない。Chesterが言うようにLINKIN PARKにはないセクシーさとクラシック・ロックのフィーリングを持ったSTPで歌った経験は今後、LINKIN PARKが作るサウンドにどんなふうに反映されるんだろうか?特に今回、来日記念盤としてライヴDVDをカップリングしたヴァージョンがリリースされる『Living Things』が彼らの集大成と言える作品だっただけに、Chesterのバンド外活動がそこからの一歩にどう影響するか世界中のロック・ファンが期待しているに違いない。
メタルでも、グランジ/オルタナでも、単なるミクスチャー・ロックでもない――00年代にふさわしいラウドロックという新たなサウンド・スタイルを提示してみせた『Hybrid Theory』『Meteora』という2枚のアルバムを発表後、歌にぐっと寄ったうえでオーガニックなロック・サウンドを追求した『Minutes To Midnight』、そしてそれとは逆にヒップホップおよびエレクトロニックなサウンドが“脱ロック”すら思わせた『A Thousand Suns』という野心作を作り、物議を醸してきた彼らが辿りついた『Living Things』。ハードかつヘヴィなギター・サウンドやアジテーションを思わせる激しいラップが聴けるからと言って、それは決して原点回帰などと言える単純な作品ではなかった。
『Hybrid Theory』と『A Thousand Suns』のハイブリッド、あるいは『A Thousand Suns』から『Minutes To Midnight』に戻ってそこから飛躍した作品など、いろいろな捉え方があるようだが、要するに彼らの人気を決定づけた最初の2枚、ファン層を広げつつバンドのさらなるポテンシャルをアピールした2枚の野心作――どのアルバムのファンが聴いても、“これぞLINKIN PARK!このアルバムを待っていた!”と思える作品だったところに『Living Things』の意義がある。
もし、聴こうと思いつつ聴き逃しているという人がいたら、ぜひこの機会に『Living Things』を手に取っていただきたい。同アルバム発表後、初めての来日公演となる今回のSUMMER SONICのステージではきっとそこからの曲を多めに演奏するはずだ。それを考えれば、絶好のタイミング。
今回、プラスされたライヴDVDには『Living Things』をリリースする直前に行ったドイツ、ベルリン公演からの19曲が74分にわたって収録されている。『Meteora』からのヒット・シングル「Faint」で幕を開けたライヴは、その後、『Living Things』からの「Lies Greed Misery」他、ヒップホップ色濃い中盤のパートを経て、「Leave Out All The Rest」「Shadow Of The Day」「Iridescent」と歌を聴かせつつ、ファンとシンガロングする後半の流れが「What I've Done」で一気に爆発。そこから「One Step Closer」、最後の「Bleed It Out」までたたみかける流れが圧巻だ。
LINKIN PARKにしては割と小ぶりと言える会場での親近感にあふれたライヴ映像は、スタジアムで演奏するSUMMER SONICとはまた違った見ごたえもある。
前述したとおり、バンドはすでに6作目のアルバムの制作に取り掛かっているそうだが、バンドのミュージック・ビデオを手掛けてきたJoe Hahn(DJ)による初めての長編映画『Mall』(現在、ポスプロの真っ最中らしい)のサウンドトラックもバンドによるものだそうだ。ChesterのSTP加入と同じようにサントラを手掛けた経験がLINKIN PARKのこれからにどう反映されるかが気になるところだ。彼らはこれからもまだまだ我々をびっくりさせ続けるに違いない。
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