FEATURE
新生LINKIN PARK始動記念ラウドロック特集
2024.12.12UPDATE
2024年12月号掲載
Writer 山本 真由
新生LINKIN PARKに沸く現在のラウドロック・シーンから、ハイブリッドなラウドロックのルーツと歴史を振り返る!
今年、2024年に音楽シーンを揺るがせたビッグ・ニュース、LINKIN PARKの新ヴォーカル加入と再始動。"Chester Benningtonに代わるヴォーカリストなんてありえない!"というのが多くのファンの想いであったし、実際バンドも当初は同じことを考えていたのではないか。だが、どうだろう。新ヴォーカリスト、Emily Armstrong(DEAD SARA)の加入発表とともに公開された新曲を聴いて、みんな驚いたはず。"予想外だが、これはなんだかワクワクするぞ!"と感じたはずだ。Chesterばりの高音シャウトを、無理せず、モノマネせずに表現するために女性ヴォーカルを起用したというのは大正解だったと思う。
The Emptiness Machine (Official Music Video) - Linkin Park
そして、リリースされたニュー・アルバムも、非常にポジティヴなものだった。『From Zero』は、困難な時期を支え合い、乗り越えてきたバンドとファンの信頼関係を祝福するような、エネルギーに満ちた作品だ。初期の音楽性に近い尖ったサウンドと、LINKIN PARKらしいオタクっぽさ、さらに"From Zero(XEROは前身バンドの名前)"というタイトル。もう、テンションが上がらずにはいられないだろう。2025年2月には早速、約12年ぶりとなる来日公演も決まり、このお祭り騒ぎはまだまだしばらく後を引きそうだ。
今回は、そんなLINKIN PARKの新作リリースを記念して、彼等のバックグラウンドや通ってきた道を振り返り、90年代~2000年代以降のラウドロックについてまとめてみる。
90年代は、ど派手なハード・ロック、ヘヴィ・メタルが隆盛だった80年代のロック・シーンに食傷気味だったバンドや、何か別のものを模索するバンドが、新しい"オルタナティヴ(代替の)"なロックを追求した時代だった。ALICE IN CHAINSやNIRVANA、SOUNDGARDEN、PEARL JAMといったバンドがグランジ/オルタナティヴ・ロックのムーヴメントを牽引し、パンク・ロックのような粗削りな要素や陰鬱な歌詞等は、社会情勢を反映したリアリティもあり、多くの若者に受け入れられた。
またKORN、LIMP BIZKIT、RAGE AGAINST THE MACHINEといったバンドが、ヘヴィ・ミュージックにラップやヒップホップのリズムを取り入れ、ニューメタルと呼ばれる新しいスタイルを確立。ジャンルの垣根を越えた音楽性に、ヘヴィ・ロックとヒップホップという、それぞれの音楽スタイルが持つアンダーグラウンドなイメージがマッチしたサウンドは、新たな刺激を求める多くの音楽ファンを熱狂させた。暗く陰鬱な自身のバックグラウンドを投影した歌詞に、泣き叫ぶような強烈なヴォーカル、ダウン・チューニングされたずっしりと重いサウンドに、ヒップホップ的なグルーヴを取り入れたKORN。ヒップホップのやんちゃな部分を継承し、怒りと反抗的なアティテュードを盛り込んだ、メタル・ミーツ・ヒップホップ・サウンドで、シーンに衝撃を与えたLIMP BIZKIT。そして、アジテーションで聴衆を煽るヴォーカル・スタイルと政治的なメッセージ、独特なテクニックを盛り込んだギターで、強烈な印象を残したRAGE AGAINST THE MACHINE。それぞれに方向性は違えど、ロックというジャンルの枠を越え、自由に表現されたその音楽は、90年代後半から2000年代にかけてはそこからさらに様々なスタイルに派生していった。CRAZY TOWNのように、バンド・スタイルのヒップホップとも言えるようなスタンスのバンドもいれば、ハード・ロック寄りのアプローチとキャッチーなメロディで聴かせるPAPA ROACH、特徴的なヴォーカルとグルーヴが持ち味のDISTURBED、メタル寄りの激しいサウンドで奇抜なルックスでも個性を発揮したSLIPKNOT......等々、多くのバンドが活躍し、まさに群雄割拠のラウドロック黄金時代とも言える流れができあがっていく。
Korn - Freak On a Leash (Official HD Video)
Limp Bizkit - Rollin' (Air Raid Vehicle)
Rage Against The Machine - Killing In the Name (Official HD Video)
そんななかで、彗星のごとく登場したのがLINKIN PARKだ。ヘヴィな音楽性でありながら、圧倒的なポップ・センスのある彼等のソングライティングは、アングラでちょっと怖い人たちの音楽のイメージだったラウドロックを、より大衆的で安全な印象へと変えることに成功した。
そうして、ジャンルの成熟とともに、LINKIN PARKの人気バンドとしてのキャリアも成熟していくのだが、4thアルバム『A Thousand Suns』(2010年)あたりから、より革新的な方向性へと舵を取り、打ち込みを多用したヒップホップ、エレクトロ色を強めた音楽性を追求していく。時代的にもEDMがヒット・チャートを席巻し始め、AVICII、ZEDD、Steve Aokiといったダンス・ミュージック・アーティストたちが、ポップスやロック畑の多くのアーティストとコラボレーションする等、ジャンルの垣根を越えて活躍していた。そんな流れもあり、LINKIN PARKの実験的な模索や変化に対し、ラウドロック・リスナーも比較的好意的であったように思う。
The Catalyst [Official Music Video] - Linkin Park
そして、6thアルバム『The Hunting Party』(2014年)では、一度初期のサウンドに立ち返ったヘヴィなアプローチを示す彼等だったが、続く7thアルバム『One More Light』(2017年)では、ヘヴィなギターもシャウトも封印し、ポップに振り切ったサウンドへ。
Final Masquerade [Official Music Video] - Linkin Park
One More Light [Official Music Video] - Linkin Park
2000年代以降のラウドロックの黄金期とEDMの台頭――、そして進化し続けるバンドたち
こうした変化を見ても、彼等が時代の流れやファンの求めるものに敏感でありつつ、自身の音楽をより進化させ前に進むことに貪欲であったことが分かる。しかし、そんな意欲作をリリースしたその年に、Chesterは亡くなってしまう。カリスマ・フロントマンを失ったLINKIN PARKは、そこからしばらくは、Mike Shinoda(Vo)が自身の音楽的セラピーとなるようなソロ・アルバムを制作、バンドとしては初期作の20周年記念盤や未発表曲のリリースをする等、バンドが存続していることをファンに示しながらも、今後の活動は見えないような状態だった。そんな数年を過ごした上での今回の重大発表。これは、ファンにとっては本当に"待ってました!"とガッツポーズする歓喜の一大ニュースだったろう。
今や世界的人気を誇るUKのトップ・バンドの1つ、BRING ME THE HORIZONも、バンドが大きくなるにつれて、コアなサウンドから大衆的なロックへ移行していったこともあり、こういった後人のバンドの活躍にもLINKIN PARKの影響は大きかったに違いない。
また近年では、ポストハードコア・シーン随一の高速ラップと、独創性のあるドラマチックな世界観で人気のFALLING IN REVERSEや、初期LINKIN PARKのテイストもありつつ、エモも通ってきたような切ないメロディが印象的なFROM ASHES TO NEW、ヘヴィネスと繊細さを持ったハイブリッド・サウンドで、驚異的な快進撃を見せているBAD OMENS等、しっかりとラウドなのにポップな一面も持ったバンドが、メジャー・シーンに存在感を示している。
Falling In Reverse - "Popular Monster"
From Ashes to New - Through It All (Official Video)
BAD OMENS - THE DEATH OF PEACE OF MIND (Official Music Video)
2010年代、一時期はEDMやヒップホップに"若者の音楽"の座を奪われ、ロックはおじさん、おばさんのものなんて言われた時期もあったが、そんな流れに飲み込まれずに第一線で前進し続けたLINKIN PARKや、それに続く様々な個性を持った革新的なアーティストたちによって、ラウドロックは再び脚光を浴びつつある。LINKIN PARKの1stアルバム『Hybrid Theory』(2000年)に熱狂したティーンエイジャーが、もはやティーンエイジャーの親になる月日が流れた現在、2世代でヘヴィなサウンドを楽しむという家庭があってもおかしくないかも。これからは幅広い世代を取り込んで、さらに盛り上がりそうなラウドロック・シーンに、今後も注目すべし!
In The End [Official HD Music Video] - Linkin Park
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