FEATURE
BiS
2013.03.12UPDATE
2013年03月号掲載
Writer 伊藤 洋輔
ムーブメントと化したSEX PISTOLSを痛烈に批判し“Punk is Dead”と叫んだのはイギリスのCRASSだったが、その意志を受け継ぐように彼女らは“Idol is Dead”と叫ぶ――。洋邦問わず、どの音楽ファンであれ現在のアイドル・シーンがまるでバブル経済のように盛り上がっているのはご存知だろう。アイドル戦国時代なんて呼ばれ活況を呈しているが、いまや世界中にファン層を拡げる“国民的”グループAKB48に端を発したこの勢いは、シーンを底上げしあらゆるタイプのアイドルを出現させた。そんなシーンでとりわけ異彩な存在感を放っているのが、リーダー兼ヨゴレ担当プー・ルイ、マイペース担当ヒラノノゾミ、優等生担当テラシマユフ、キモい担当ミチバヤシリオ、そしてピュア担当ワキサカユリカからなる新生アイドル研究会BiSである。インディーズ時代から品行方正なアイドルというパブリック・イメージを打ち壊す“パンク”な姿勢がキャラクターだけに、MCで“ま●こ”連発するはPVで森を全裸で疾走するはメンバー同士でディープ・キスするは内臓を抉るような口腔内映像露出でR指定を受けるは、スペシャ企画ではSEEDA & OKI from GEEKをパロったDiSとしてアイドル・シーンを文字通りディスるなどネットでさまざまな波紋(ときに炎上)を起こしてきた。また、そんな破天荒な暴走をライヴハウスではファンである研究員と楽しむかのように、アイドルらしからぬダイヴ&モッシュ&ヘドバンの嵐が巻き起こっているのも象徴的なものだ。メジャー・デビュー以降もその姿勢は変わらず、ファンの想像を裏切るよう釘バット片手にシーンに殴り込みをかけ走り続けている……傷つきながらも。
さて、BiS単独としては今年初のシングルが届けられた。昨年末にリリースされたアルバム『IDOL is DEAD』ではクリエイター&プレイヤー・チームSCRAMBLESの松隈ケンタ氏プロデュースによるメタルからガレージ・パンク、メロコアにシューゲイザーまでも感じさせるミクスチャーな世界観を披露し、BiS節となるロック調のギター・サウンドをオリジナリティに確立したが、新作『BiSimulation』(BiS+simulationの造語、ビシミュレイション)では初コラボとなるヒダカトオル(THE STARBEMS / ex.BEAT CRUSADERS)が作曲で参加している。ヒダカトオルのお家芸とも呼べるアグレッシヴに疾走感あるメロコア・サウンドだが、前述したようにBiSとの相性も良く、とにかくエモい。ヒダカ氏のコメントを引用する――BiSとの出会いはインターネットだった……もしアイドルの定義が“TVやネットで気になるあの娘”だとしたら、至極真っ当な出会いだったのだけれど……でも楽曲を聴いてみたらEMOいったらありゃしないっ!アイドルどころか、そんじょそこらのアーティストなんかよりも全っ然、過激なパフォーマンスのオンパレードだし!不条理や哀しみを背負って突き進む姿はまるで、Leos Caraxの映画みたいだ……BiSと出会って以来、俺の中でアイドルの定義は“EMOい人生を歩んでるあの娘”になったのだった――とまで公言するとは、ヒダカ氏の本気度が窺える。“EMOい人生を歩んでる”姿はこのPVでも拝見できる。撮影現場は小雪が時折舞い散る極寒の砂利採石場にて行われ、楽曲に会わせて一心不乱に歌い踊り続けるBiSメンバーに容赦なく血糊を吹きかけるという壮絶な内容は、満身創痍になりながらも走り続けるBiSの現状を120%投影したものだという。かのドキュメンタリーのタイトルが浮かぶ、“少女たちは傷つきながら、夢を見る”。
残念なことに、『BiSimulation』をもってワキサカユリカの脱退が発表されている。昔からメンバーが流動的なグループだが、そのつど、新たな仕掛けを提示し研究員を拡大させてきたのも事実。どうしようもなく突き進む赤裸々な少女たちの“刹那”を捉えた、この儚くも美しいドキュメンタリーを体現してもらいたい。
- 1