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INTERVIEW

vistlip

2025.01.10UPDATE

vistlip

Member:海(Gt) 瑠伊(Ba)

Interviewer:杉江 由紀

人の身体の細胞は代謝を繰り返しており、高齢者でも約4年で全身の細胞がほぼ入れ替わるのだとか。しかし、ひとたび刻んだ刺青は薄れたとしても消えはしない。そして、ほぼ全てが代謝したとしても"その人"が失われることもない。変わっていくものもあれば、変わらないものもある。そんな常世の理を主題に据えたアルバム『THESEUS』で、vistlipが描き出しているものとはなんなのか。共にコンポーザーでもあるギタリスト、海とベーシスト、瑠伊に真意を問うてみよう。

-vistlipとしては2022年3月発表の『M.E.T.A.』以来となる、約3年ぶりでのフル・アルバム『THESEUS』がここに完成いたしました。そもそも、今作の制作はいつ頃から始まっていたことになるのでしょうか。

瑠伊:アルバムを出したいねという話が出だしたのは1年くらい前のことで、そこから曲作りはメンバー各自で始めていたと思うんですけど、収録曲を決めたり、実際にレコーディングに入ったりし出したのは2024年の10月くらいからでした。

-ずいぶんとギリギリな進行での制作だったことになりそうですね。

海:感覚的には、ついこの間から作り出した感じですよ(笑)。

瑠伊:急ピッチで録って、新鮮なまますぐ真空パックして出荷したような感じですね。

-ちなみに、vistlipの場合は、楽器隊メンバーが全員コンポーザーであるところが大きな特徴であるように思います。今作に向けての作曲を始められる際、バンド内で何かしら共通見解を確認し合うようなことはあったのでしょうか。

海:一応、みんなで方向性に関しての話は最初にしたよね。

瑠伊:うん。もともとミクスチャーとかヒップホップ、ラウド系の要素なんかを多めに取り入れたいって話は出てたし、R&Bとかブラック・ミュージックの色を取り込みたいという話は、ヴォーカルの智から出てきてましたね。そういうアイディアをメンバーがそれぞれに消化していきながらできていったのが、今回の曲たちではあるんですけど、結果的には作曲者ごとの個性を強く出しすぎてここに至ってる感じです(笑)。

-"個性を強く出しすぎて"いるというだけあって、今作では作曲クレジットを見ずとも、誰がどの曲を手掛けていらっしゃるのかが音を聴いただけでほぼ分かります。

海:いやほんと。今回のアルバムは分かりやすいし、濃いんですよねー!

瑠伊:ただ、その分ブラック・ミュージック要素とかヒップホップ要素とかが、当初に想定していたよりもだいぶ削ぎ落とされちゃったかなっていうのはちょっとあります。

海:たしかに、ミクスチャー全開です! みたいな曲とかはそんなにないしね。

-とはいえ、例えば瑠伊さんが作曲されている「Dolly」には、R&Bの香りがそこはかとなく漂っておりませんか。

瑠伊:それが、もっとR&Bっぽい曲も実は別に作ってたんです。それは最終的にアルバムに入らなかったんですけど。まぁ、若干コードの使い方とかの部分では、「Dolly」にもR&Bのニュアンスはたしかにちょっと入ってるかもしれません。これは2年前には原形ができていた曲で、今回それを改良してこういうかたちになりました。

-その2年間はずっと"寝かせて"あったわけですね?

瑠伊:この原曲を作ってメンバーに送ったのがちょうど2年前の大晦日で、そのときは誰からも何も反応がなかったんですよ。たぶん、年末年始でバタバタしてたっていうのもあるんでしょうけど。それで"あぁ、これはなしなのかな"って思ってたんですが、ここに来て"アルバムに入れる曲が足りない。過去のでもいいから出して"って話になり、再提出したら引っ掛かったという流れでした。そこから今回のアルバムに合うように、シンセ周りやメロディをちょっといじった感じです。

-満を持するかたちで、日の目を浴びさせてあげることができて何よりですね。

瑠伊:でも、改めてこの曲と向き合ってみたら、あのイントロの変拍子っぽい感じとかに"当時の自分はこれをどういう気持ちで作ってたんだろ?"ってちょっと驚いたところもありました。自分で作ったのに"こんなの作ってたのか"って(笑)。

海:あははは(笑)。でもこれ、すごくポップじゃない? ポップで洗練されてる。そこがいいっすよね。ほんといい曲だと思う。

-そんな「Dolly」をレコーディングしていく段階において、各メンバーに対して演奏面でのオーダーを瑠伊さんから出されることはあったのでしょうか。

瑠伊:リズム感重視っていうことは伝えました。そこを崩さないでほしいっていうことと、あとはギター隊に音色の面で結構オーダーを出したかな。どうだったっけ?

海:瑠伊さん、基本的にギターのジャッジはいつも厳しいんですよ。「Dolly」に関してはバッキングの歯切れの良さを大事にしてほしいっていう話をされてて、音の歪み感は数パターン作って聴かせてから選んでもらうこともしましたね。

瑠伊:僕は理論的な知識があんまりないんで、具体的な言葉でみんなに説明することがなかなかできないんですよ。でも、そこを長年一緒にやってるメンバーたちが汲み取ってくれてるんで、今回もこういうかたちで曲を完成させることができました。

海:瑠伊は完全な天才肌ですね。「Dolly」なんてポップさもあってR&Bの雰囲気もあって、勢いもあって、でもイントロには引っ掛かるところもありつつ、なおかつ全体としてはちゃんと聴きやすいっていう曲じゃないですか。普通だったらこんなのめちゃくちゃ計算しないと作れなさそうなのに、それをすげーナチュラルに持って来る(笑)。

-あぁ、それはホンモノ以外の何者でもありませんね。

海:しかも、ギターのコードも"それはなんていうコードなの!?"ってなることがわりとあるんです。瑠伊は"普通だよ"って言うけど間違いなく普通じゃないし、"じゃあこれの名前は?"って聞くと"よく分かんない"って返ってくるからなぁ。

瑠伊:弾きながら響きで"これいいな"って探りながらやっちゃうんですよね。マイナーなんたら〜みたいな細かいのとか、デミニッシュとかオーギュメントみたいなやつとか? そういうのはあんまりよくは分かってないです(笑)。でも結果的に結構使ってしまっているという(笑)。

海:瑠伊の曲はライヴでやるときに大変になることが多いけど、その代わり弾いてて楽しいのも特徴だなって僕は感じてますね。たぶんそれはギターを本人が弾きながら作ってるからで、瑠伊が気持ちいいなって感じた音は、僕が弾いてもそういうふうに感じるんだと思います。特にここ数年は、レコーディングでも瑠伊の曲だけは絶対に楽しみながら弾くっていうことを心掛けてます。

-瑠伊さんの曲だけ、ですか。

海:以前、瑠伊の曲で弾くのが難しすぎてレコーディングのときに全く楽しめなかったことがあって、それがマジで自分でも納得いかない感じだったんですよ。結局そのときは録り直しましたけど、いくらコードやリズムが合ってても、やっぱり気持ち良く弾けてないと、曲の持ってる表情まではちゃんと表現できない気がするんですね。当然それは他のメンバーの曲にも言えることではあるんですが、中でも瑠伊の曲はそういうところが特に大事だと僕は感じてて。だから、この「Dolly」もレコーディングは今回一番時間かかったし、曲としてはややこしいところもあるんで大変は大変でしたけど、弾いてるときはとにかく楽しむようにしましたし、実際ほんとに楽しかったですね。

瑠伊:さすがvistlipだなって今回のレコーディングでは改めて感じましたね。それぞれのメンバーに自分の曲をブラッシュアップしてもらえるのは、何回経験しても嬉しいことだし、智の詞と歌に関しても、"この曲にこんなふうに色を付けてくれるのか"っていう新しい発見がありました。個人的には勝手にもっと陽な雰囲気のパーティーっぽい詞が付くのかなと思ってたら、真逆を行くようなシリアスでちょっと皮肉っぽい歌詞ができあがってて、それがこの曲にぴったりハマったときには、思ってた以上にいい仕上がりになったなって感じたんですよ。

海:智は前と比べると変化球の数が増えたよね。それに、すごく"強くなった"と思います。前から歌詞では結論の余白は残すタイプで、結末は"さぁ、どうなるでしょうか"っていう提示をする人だったけど、今回はそこまでのプロセスでも"これはどういうことでしょうね。考えてみてください"っていう投げ掛けをしてる感じがする。