INTERVIEW
vistlip
2025.01.10UPDATE
Member:海(Gt) 瑠伊(Ba)
Interviewer:杉江 由紀
うちのバンドは作曲者がみんな明確なヴィジョンを持って曲を作って来てくれる
-「Dolly」で言えばモチーフはタイトルの通りクローン羊なのだと思いますが、この詞の内容そのものはもっと小説的で複雑ですし、受け手側の想像力を刺激するものにもなっている印象です。
海:「Dolly」に限らず、何曲かについての詞に対する回答みたいなことを、僕は本人から解説してもらってるんですよね。ただ、受け手側がそこをどう取るかまでは分からないわけで。前だったら、そこはもう少し柔らかい表現や、どうとでも取れるような書き方をしてたのかもしれないですけど、今回の智は意図的に現実味のある言葉を選んでるのが特徴だなと感じます。最終的には光が見えるみたいな優しい感じにもあえてしてないし。こういう発信の仕方はなかなか自分自身が強くないとできねーよなって思います。"この人は大人になったねぇ......"ともつくづく思いました。
-さて。ここからは海さんの作られている「Matrioshka」についてもお話を伺ってまいりましょう。このノスタルジーを感じさせるような曲調は、どのようなヴィジョンをもとにしてできあがっていくことになったのですか?
海:かれこれ18年くらい続いてきてるバンドのリーダーです、という立場なのにこんな発言をするのはちょっと気が引けるんですけどね、残念ながら、僕はあんま考えて曲を作ることができないんですよ(苦笑)。もちろん、まずはバンド内で出てきた案を意識しながら着手してトライはするんですけどね。なんとなくそれっぽいものはできたとしても、"いやいや。こういう方向性でもっとかっこいい曲あるの、知ってるな......"って感じてしまうパターンが多いんです。だから、そのまま完成させることもなく、誰にも聴かせることがないまま終わってしまうことが多くて。
-なんだかちょっともったいない気もします。
海:俺がそういう感じなのを智はよく知ってるんで、"どうせ期待してないから"みたいなことを言われてました。これは今回に限らずいつも言われることで、要するに"こっちは頭数に入れて計算はしてないから、別に変に気を使わなくていいよ。自由にやっていいよ"っていう意味なんですよ。
-智さんならではの優しさから出る言葉が"どうせ期待してないから"なのですね。
海:うちのバンドにはとYuh(Gt)とTohya(Dr)っていうメイン・コンポーザーが2人いて、そこの主軸については絶対的な信頼があるし、瑠伊はそのときごとに全然違う感じの面白いフックになるような曲を必ず作って来てくれる確信を持ってるから、僕がそんな3人に100パーセント甘えて何も考えずに作ったのが「Matrioshka」なんです。しかも、僕は今回この1曲しか出してません。
-逆に言えば、当選確率100パーセントということではないですか。
海:それ、よくTohyaに嫌味で言われるんです。あいつは常にすごい数作ってるんで、どうしてもレコーディングまで辿り着く曲数は限られてくるじゃないですか。だから"すごいっすよね。100パーか50パーですもんね!"って(笑)。
瑠伊:ふふふふ(笑)。
-なお、この「Matrioshka」には途中でブルース・ハープのようなフレーズも入っておりますが、あのくだりも原曲ができた段階からあったのでしょうか。
海:当初は全くそういう要素はなかったです。歌録りのときに智が"この曲、ハーモニカあったらいいのにな"って突然言い出したんですよ。それで、他の作業をしてたTohyaに智が"ここでハーモニカのめちゃくちゃいいフレーズ作って!"って言って、まずはその場で、打ち込みでほんの数分くらいでTohyaが作ってくれて。せっかくだからこれはちゃんと生で録音しようっていうことになり、Tohyaが"昔、弾き語りのときにハーモニカやったことあるから俺が吹く!"と言って、彼がレコーディングしてくれました。あ、でも正確にはこれブルース・ハープじゃないんですよ。急遽で決まったことだったし、そんなに詳しくないから間違ったの買っちゃって。だけど、そのままレコーディングを決行しちゃいました(笑)。
-音としてはなんの違和感もないので問題ないかと。
海:意図してた音にはならなかったんですけど、それが最終的には良く出たパターンですね。なんとなく青臭いあの音の感じが、この曲にはちょうど良かった。ちなみに、ライヴでは智が吹く予定なんで今頃ちょうど練習中してるはずです(笑)(※取材は12月中旬)。
-あの音色が重なることによって、この「Matrioshka」は少しフォーキーな面持ちを持つことにもなったのではありませんか。
海:そうなりましたね。僕は作ったときに"これ、めちゃくちゃwyseだな"って思ってたんですけど(笑)、智には最初から"海はMUCCとか好きだから、ああいう哀愁を感じさせる感じになるよね"って言われてて、できあがってみたらさらにそっちに寄った気がします。シンセも入ってないしね。生っぽさが前面に出ました。
瑠伊:僕もこの曲は生感とか荒々しさとかをなるべく活かしてて、曲としてはファンクみも感じてたから、ギターの音の揺れもグルーヴっていう解釈でそのまま入れてます。
-そうした生々しさは、この歌詞の内容にも通じる部分かもしれません。
海:ですね。リアリティのある内容にはしてほしいと言いましたけど、気が付いたらそこを軽く通り越した歌詞になってました。現実味がすごいというか。智としては"曲を聴いてたらマトリョーシカっていう言葉が浮かんで、そこから書き出した"らしいです。
-生々しさという面では、今作中だと、Yuhさん作曲の「Ceremony」からもvistlipの持つバンド感が最も克明に感じられるように思います。ヘヴィでアグレッシヴな音像が映える曲調になっていますし、激ロック読者が好みそうなバンド・サウンドの醍醐味と迫力が凝縮されている印象です。
海:ライヴの光景が見えてくるような曲になってますよね。Yuhの曲に対しては、いつもあいつの弾く音に俺もできる限り正面からぶつかっていくようにして、音の塊を生み出すように意識してるんですよ。そこまで機械的には弾いてないから、そういうところからバンド感は結構出てると思います。
瑠伊:「Ceremony」は、プレイ的に言うと難しいことは特にやってません。ひたすらノリ重視です。この手の曲は大好きだし、vistlipとしても得意なほうなので、曲に対して没頭しながら弾くことができました。
-それから、今作にはもう1曲、「Fairy God Mother」という瑠伊さんが手掛けていらっしゃる曲が収録されていますので、こちらについてもぜひその成り立ちなどを解説していただけますと嬉しいです。アコギを使ったこのスパニッシュなテイストは、どのように生まれたものだったのですか?
瑠伊:このアルバムを作り出すにあたって、ミクスチャーってキーワードが出たときにまず思いついたのが、ラテン要素を入れたいということだったんです。まぁ、普通だとミクスチャーって、ラウドやヒップホップの方向に行きがちなところがあると思うんですけど、一概にそうじゃなくてもいいよなと。ラテンとヴィジュアル系のミクスチャーがあってもいいんじゃない? っていう発想から生まれたのがこれですね。
-この曲はギター・アンサンブルが実に素敵です。
瑠伊:最近はどんな曲でもアコギを弾いて作ることが多いんですけど、この曲に関しては、ラテンっぽいのを弾いてたら、うちの海ちゃんがライヴでアコギを弾いている姿が思い浮かんできて、それでこういうアレンジになったんですよ。
-つまり、海さんとしても曲を貰った段階ですでに役割は決まっていらしたと。
海:たいていアコギが入る場合は僕の仕事ですし、もし違ったとしても"やらせて"って言ってたでしょうね。
瑠伊:デモの段階からあのアコギは左チャンネルに振ってました(笑)。
海:うちのバンドは、俺を除くとほんとに作曲者がみんな明確なヴィジョンを持って曲を作って来てくれるんで、そこは非常にありがたいですよ。
-いずれにしても、今作『THESEUS』が粒揃いのアルバムに仕上がっていることは間違いありません。MVにもなっている「Mary Celeste」を筆頭に、Tohyaさんはvistlipとしての王道を行く楽曲をしっかりと作ってくださっていますし、Yuhさんは先程話題に出た「Ceremony」で、尖ったところを見せつつも、アンニュイでメロウな響きを持った「Fafrotzkies」では、モダンな空気感を堪能させてくれています。どれもこれも質の高い曲たちが揃いましたね。約3年待った甲斐がありました(笑)。
瑠伊:そう言ってもらえると嬉しいです!
-これだけの濃密な内容に仕上がった今作には、"THESEUS"というタイトルが冠せられることになりましたが、これは智さんが付けられたものになりますか。
海:そうです。あいつが持ってきた候補の中から、みんなで選んだのがこれですよ。ドラマとかマンガでも"テセウスの船"ってあると思うんですけど、あれはもともと矛盾とかパラドクスを表わすことわざみたいなものらしくて。智としてはこのタイトルがしっくり来たみたいです。
瑠伊:候補は他にもあったけど全員一致だったのが"THESEUS"だけだったよね。
海:意味合いはもちろん、ワンワードですっきりしてるのも良かった。時期的にちょっとズレてるっていう意味では、ドラマとかの流行りに乗っかったわけではないのもちょうどいい塩梅だったかな(笑)。
-1月11日からは、アルバム『THESEUS』と連動した、"vistlip ONE MAN TOUR[Ship of Theseus]"も始まります。久々のアルバム・ツアーについては、どのような空間を提示していきたいとお考えですか。
瑠伊:今回のアルバムの曲たちが、ライヴの場でどういうふうに化けていくことになるのかがほんとに楽しみですね。「Ceremony」なんかはもう見えてるんですけど、中にはまだメンバー全員で合わせてない曲もあるんで、実際にやってみないと分かんないことも出てくるんだろうなと思ってます。みんなにこの曲たちをどんなふうに伝えていけばいいのかなというのが楽しみでもあり、若干の不安もありつつって状況ではありますね。
海:恐らく、アルバム発売日の僕等はツアー・リハをしてるでしょうね(笑)。今回の"vistlip ONE MAN TOUR[Ship of Theseus]"は名古屋、大阪、東京の3本ですけど、2025年はこれまでよりもライヴ数を増やしていくつもりで、ワンマンだけじゃなくイベントにも積極的に出ていきたいと思ってるんですよ。それと同時に、新しい作品もまたさらに作っていこうって話にもなってるんで、次が3年先というのはもうないでしょうね。大丈夫です。
-なんなら、2年先には20周年の節目も見えてきましたし。
海:うわー、そっか。いろいろやってたらそれも意外とすぐなんだろうなぁ(笑)。