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INTERVIEW

KAMIJO

2024.07.30UPDATE

2024年08月号掲載

KAMIJO

KAMIJO
Rayflower:IKUO(Ba)
Interviewer:杉江 由紀

名付けて"EPIC INTENSE"。ここまでにはLAREINE、Versaillesでのバンド活動を経て、今年で29年のキャリアを誇るKAMIJOが、ソロ・デビュー11年を迎える今、新たなる世界へと領域展開することに。ミニ・アルバム『VIOLET DAWN』には百戦錬磨のミュージシャンが集結し、荘厳にして激しい音を聴かせてくれているのだが、ここではKAMIJOと共に名うてのベーシスト、IKUOを召喚して制作秘話を明かしてもらうとしよう。


これからの自分がどのようなライヴをしていきたいのか?を第一に考えました


-KAMIJOさんは6月に欧州ツアー[KAMIJO Europe Tour 2024 "The Anthem"]を行われていましたが、その際のサポート・ベーシストがIKUOさんで、各地での様子は両者のSNSにて発信されておりました。まずはその際のお話を改めて伺わせてください。そもそも、今回の渡航は随分と久しぶりのことだったそうですね。

KAMIJO:海外からのオファー自体はずっとあったんですけれども、今回はコロナ禍後初となる6年ぶりのヨーロッパ・ツアーになりました。やはり、まずは日本で声出しライヴを実現してから次の動きを決めたかったので、順序立てていろいろと慎重に物事を進めていたらそれだけの時間がかかってしまったんです。でも、実際に行ってみたら多くの方たちが待っていてくださっていて、ツアーとしては本当に大成功でしたね。そして、実はIKUOさんと海外に行かせていただくのは10年ぶりだったんですよ。僕のソロとしての1stライヴ("KAMIJO - Zeroth Live in Paris -Throne")がパリで、そのときにご一緒させていただいて以来で。

IKUO:その10年前のパリ公演も大変な盛り上がり方だったんですが、今回のヨーロッパ・ツアーは、どこもお客さんたちのノリがさらにびっくりするくらいすごかったです。

KAMIJO:IKUOさんと行くのは10年ぶりでしたが、その後も自分は幾度となく行かせていただいていて、そのなかで築き上げてきたものがあったのと同時に、今回の場合はコロナ禍明けで、みなさんが待っていてくださったというそのパワー感を、IKUOさんとまた一緒に感じることができたので、それがとても嬉しかったですね。そして、ここから始まってく日本国内のツアーについてもすごく楽しみになりました。

-なお、7月末には新たな音源『VIOLET DAWN』が発表されます(※取材は7月上旬)が、今回の欧州ツアーでは、そこに収録されている新曲たちをいち早く披露されてきたそうですね。

KAMIJO:今度出す『VIOLET DAWN』からは、「The Anthem」と「Twilight」の2曲をやってきました。当然まだみなさんにとっては知らない曲だったはずなんですが、海外のお客さんたちは、初見の曲でもリズムにノれれば自然と身体が動いて楽しんでくださる傾向が強いので、新曲たちに関してもすんなりと受け入れてくださっていた印象がありました。ただ、リリース後にライヴをやった場合はまた反応は結構変わってくるでしょうね。というのも、『VIOLET DAWN』の仕上げはツアー後に行ったので、「The Anthem」のアレンジがヨーロッパ・ツアーでやったときとはガラッと変わっているんです。

-具体的には、どのあたりがガラッと変わられたのです?

KAMIJO:ツアー前にバンド部分は全て録り終えていて、ツアー中は別のアレンジでライヴをやっていたんですが、ヨーロッパ滞在中に僕はその一方でオーケストラ・アレンジを進めていたんですよ。その後、帰国してから各曲にオーケストラやクワイアを入れて仕上げたのがこの『VIOLET DAWN』になります。歌も何曲かは録っていましたし、シンセ・アレンジもある程度はしてありましたけど、やはり向こうのライヴでやるとなると"絶対に変えたくなる部分が出てくるだろうな"という予感はしていたので、その要素を織り込めるだけの余白を予め作っておいたんです。

-では、ここからは今作『VIOLET DAWN』についてさらに詳しく伺ってまいりましょう。そもそも、KAMIJOさんはソロ活動を始められてからというもの、長くルイ17世を主人公とした物語を描いてきていらっしゃいました。けれども、この『VIOLET DAWN』からは新たな主人公が登場することになったのだそうですね。

KAMIJO:昨年行ったソロ・デビュー10周年のライヴ("KAMIJO Solo 10th Anniversary Special Live「LOUIS XVII」")をもって、そのルイ17世の物語についてはいいかたちで完結させることができたので、それ以降のライヴでは、新たに"アンセム"という僕自身の分身のようなキャラクターが登場する物語を、アニメーションで展開してきたんですよ。そこでは僕のやっていたバンド、VersaillesのギタリストでもあるTERUが描いてくれたイラストを動かして、僕が"アンセム"の声を演じているんですが、"アンセム"というのは"国歌"という意味で、ここからの僕は自分のライヴの場が小さな国であるとしたら、その中で過去に作ってきた10年分の曲たちも、大切に歌い続けていきたいという気持ちで付けた名前なんですね。そして、今年1月("KAMIJO TOUR「NEW VAMPIRE IS BORN」")と4月にやったライヴ("KAMIJO -Visual Rock Identity- 「The Anthem」")を経て出す今回の『VIOLET DAWN』については、物語の流れ以上に、ここからのサウンド面での指標となっていく、"EPIC INTENSE"というコンセプトを打ち出すことがとても重要でした。

-今思えば、KAMIJOさんは2017年にシングル『カストラート』を発表された際に"「Epic Rock Orchestra」という言葉が、重要なキーワード"とおっしゃっていましたし(※2017年5月号掲載)、2018年にアルバム『Sang』がリリースされた際には"(追求したのは)簡潔に言うなら「Epic Rock」ですね"とインタビュー(※2018年3月号掲載)にて語られていました。激ロックにおけるそれらの発言は、今回の"EPIC INTENSE"というコンセプトとも繋がっていそうですね。

KAMIJO:ただ、『カストラート』や『Sang』のときの主人公はルイ17世でしたからね。今回の『VIOLET DAWN』では、"アンセム"、すなわち僕自身が感じたものを表現していくターンになっているところが、大きな違いであり、何よりも"EPIC INTENSE"というコンセプトを、音として明確に表現している点が大きな特徴です。制作的な流れとしてはまず「The Anthem」ができて、その後に今回のタイトル・チューンになっている「VIOLET DAWN」ができました。

-だとすると、"EPIC INTENSE"という新コンセプトを落とし込んだ「The Anthem」を最初に作りあげていく際、KAMIJOさんがそこに絶対的要素として入れていきたかったのはどのようなものでしたか。

KAMIJO:まずは、これからの自分がファンの皆さんとどのようなライヴをしていきたいのか? ということを第一に考えましたね。そこで出てきたのが"みんなとシンガロングをしたい"という気持ちだったので、この「The Anthem」には、途中にはみんなと一緒に歌えるような場面を入れることにしたんです。そして、この曲では自分にとっての"歌う理由"を明確化することも重要でした。本来そんなことは考えるまでもないようなことなのかもしれませんが、詞として言語化することによって伝わりやすくなる面はあると思い、その手段として作詞という方法を使ったんです。だからこそ、この曲には"The Anthem"というタイトルをつけることになったわけなんです。自分の作る音楽を聴いてくださる皆さんに対して、皆さんの人生を音楽で守ることができたらいいなという想いをここには込めてあります。

-それだけに、この「The Anthem」はかなりメッセージ性の強い楽曲に仕上がっておりますね。

KAMIJO:いろいろと言葉遊びとかも入れてはありますが、僕の気持ちをしっかりと伝えることができる曲になっていると思います。なおかつ、サウンドとして最も意識したのは"刺激"です。

-それはコンセプトの"EPIC INTENSE"と繋がる部分ですね。

KAMIJO:この「The Anthem」は、まずIKUOさんのベースから始まるんですよ。それから、これまであまりやってなかったアプローチとしてラップ的な要素も入れていて、とにかく自分にとって新鮮で刺激と思える要素、今の自分がカッコいいと思える要素を積極的に詰め込んでいくことになりました。

-IKUOさんとしては、今回この「The Anthem」という楽曲といかに対峙されていこうと思われたのでしょう。

IKUO:KAMIJOさんから曲を渡されたときに、いきなりベースから始まるアレンジになっていたので、"これはもうしょっぱなから見せ場だな"と思いました(笑)。ヨーロッパ・ツアーでもずっと演奏していて、毎回しっかりセンターに立たせていただいてましたしね。この曲ではベースの音でインパクトや"刺激"をみなさんに与えられたらいいな、と意識しながら弾いてきています。

KAMIJO:IKUOさんがイントロで弾いているあのフレーズを、皆さんもピアノでサスティン・ペダルを踏んだまま高音域でぜひ弾いてみてほしいですね。あれって途轍もなくサスペンスなフレーズになっているんですよ(笑)。

IKUO:そうそう、あれは音階自体がサスペンスです(笑)。

KAMIJO:IKUOさんのパワー溢れるプレイによって、曲の中ではもっと極悪な感じの響きになっているんですけど(笑)、音階として相当これはサスペンスな雰囲気なんです。しかも、この曲では常にベース・パターンが同時に2つ鳴っていて、1つは僕が打ち込んだ低音のシンセやチェロを入れたトラックなんですけど、それとは別にIKUOさんが弾いてくださっているスラップのトラックが、曲を完全に牽引していってくれている状態になっているんですよ。その弾いてくださった音を聴きながら、僕はレコーディング中に"これ、もしスケジュール的にIKUOさんが空いてないときのライヴはどうしましょう?"ってIKUOさんに不安を訴えたくらいです(苦笑)。あんなすごいフレーズ、IKUOさん以外は弾けないんじゃないかと思います。

IKUO:自分らしさ、というところはたしかに意識したレコーディングでしたね。サポートのお仕事もそうですし、レコーディングでのお仕事でも、わりと"らしさを出してほしい"というオーダーをいただくことは多いんですが、その自分らしさというのは主にフレージングと音色の使い方にあると思うんですよ。そういう意味からいくと、今回の場合はまず自分が普段から追求している音色を提示させていただきつつ、さらに歪み具合の加減なんかをKAMIJOさんと話をしていきながら調整していきました。スラップでやってほしいというのもKAMIJOさんからのリクエストだったんですが、後は自由に弾かせていただいたところも多くて、自分らしさはすごく出せたレコーディングだったと思います。クライアントであるKAMIJOさんの期待に応えていくことで、「The Anthem」は全体的にバンド感の強いサウンドになったなとも感じますね。

KAMIJO:IKUOさんには、IKUOさんのままでいていただきたいんです。それこそが、IKUOさんに弾いていただいている理由ですからね。

IKUO:嬉しいです。そう言っていただけるとありがたい(笑)。

-KAMIJOさんからみたとき、ベーシスト IKUOさんの魅力とはどのようなところにあると感じていらっしゃるのです?

KAMIJO:IKUOさんだから当然上手いですし、そこ以上に曲のことをちゃんと俯瞰で見られた上で、曲に対してのアプローチの仕方が素晴らしいです。そういうセンスの部分が僕は大好きなんですよ。しかも、曲に合わせたプレイをしていらっしゃるのに、ちゃんとどれもIKUOさんらしい音になってますからね。僕にはそれがどう弾いてるものなのかが詳しく分からなくて(笑)。横で見ながら"それ、何度の音ですか?"って聞いてみて"3度ですよ"と返ってきても"あ、そうなんですね"ってなっちゃうくらい、ほんとに何をどうやって弾いてるかは分からないんですが、どれもちゃんとIKUOさんの音でしかないものになってるところがすごいと思います。今回の"EPIC INTENSE"というコンセプトを打ち出していく上では、まさにIKUOさんの音がとても大事な役割を果たしてくださっているんですよ。だからこそ、今回はこうしてインタビューにも同席していただくことにしたんです。

-なるほど、そういうことだったのですね。

KAMIJO:"EPIC INTENSE"は壮大で激しいという意味ですからね。この音を具現化することができたのは、 IKUOさんをはじめとして、HIRO(Gt/La'cryma Christi)さん、YUKI(Gt/DUSTAR-3/Rayflower/ex-Λucifer)さん、 shuji(Dr/ex-Janne Da Arc)さんといった今回参加してくれているメンバーの皆さんのおかげなんです。特に、IKUOさんの出されてる音は壮大で激しいだけではなくすごくモダンでもあるので、そこも"EPIC INTENSE"というコンセプトと「The Anthem」という曲に、素晴らしいハマり方をしたなと僕は感じてますね。

-では、今回のタイトル・チューンである「VIOLET DAWN」についてもお話を伺わせてください。こちらの曲を作られる際、KAMIJOさんがテーマとして考えていらしたのはどのようなことでしたか。

KAMIJO:この曲はギター・リフから作りました。もともと僕はギタリストだったので、この曲は自分にとっての初期衝動に近いものを込めていく曲になったと思います。ライヴでやったときにも、ステージから"お前たちもっと叫べよ!"、"もっと来いよ!"と叫ぶような感覚を、血ではなくみんなの声を渇望するヴァンパイアに喩えて歌っているんです。

-ヴァンパイアと言えば、以前KAMIJOさんは、"僕の描く物語の中でのルイ17世は単なる人間ではなくヴァンパイア"と発言していらっしゃいましたが、今回の主人公である"KAMIJO"さんが求めているのは血ではなく観衆の発する声であるというのは、なんとも対比として興味深いですね。

KAMIJO:ここからみんなと一緒に新しいライヴの空間を作っていきたい、という衝動をかたちにしたのがこの曲なんですよ。そして、もちろんこの曲でもIKUOさんには大活躍していただいてます。

IKUO:この曲はとても苦労しました(苦笑)。ユニゾンがすごく多いので、録るのにちょっと時間かかっちゃいましたね。

KAMIJO:この曲も音で"EPIC INTENSE"を表していて、めちゃくちゃオーケストラのサウンドは入れてるんですけど、あえてストリングスとかはトラックを分けてないんですよ。この曲のストリングスは全部アンサンブルで作っているので、もちろんラインにはこだわっていますが、ストリングス自体は重要視していないんです。その代わりここで力を入れているのはAメロに入る前のパーカッションも含めた打楽器全般と、オーケストラとユニゾンしているバンドの音で、とにかく前面に出したかったんですよ。

-IKUOさんにとって、ユニゾン・パートをプレイされる際に大事にされているのはどのようなことですか?

IKUO:ギターに合わせていく、他の楽器に合わせていく、ということですかね。ユニゾンに関しては、ベースが主導になってはいけないところがあると僕は思ってます。

-それでいて、間奏部分ではIKUOさんのベースがここぞとばかりに躍動しますよね。間奏が終わってからもしばらくその躍動感が後を引くような展開になっていて、あれにはつい耳を奪われてしまいました。

IKUO:たぶん、あれは僕も"衝動で"そう弾いたんだと思います(笑)。ベースってドラムのキックに合わせて土台を固めることもできる反面、単音楽器として歌えちゃうところもあるので、あの間奏はどちらかというとメロディラインに寄ったフレージングになってますね。僕自身、普段からわりと歌メロを聴きながら演奏することが多いので、メロディを聴きながらメロディを弾くというのは自分の基本的なスタイルでもあります。

-今作を出す上で、この「VIOLET DAWN」が表題曲としての役割を果たすことになった理由についてはKAMIJOさんから解説をいただけますでしょうか。

KAMIJO:この曲名とアルバム・タイトルは、自分の中で同時に決まったんですよ。この曲はとても新鮮だったんです。メロディの音階もすごく好きな感じの流れになったので、今回はこれをタイトル・チューンにすることにしました。今作の顔、そして今作の入口として選ぶならこの曲がいいなと思いましたし、ほんとにこれは自分にとって2度目のデビュー曲と言っていいものになっていて、実際に詞の中では、2013年に出したデビュー・シングル「Louis ~艶血のラヴィアンローズ~」で使っていた言葉と、似ている言葉を意図して使ったりもしているんですよ。そのくらい初心に帰って作った曲です。みんなの声を糧にして私は生きていますっていう気持ちも、改めてここでちゃんと伝えたかったんですよ。