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INTERVIEW

IKUO

2019.07.24UPDATE

2019年08月号掲載

IKUO

Interviewer:杉江 由紀

神業テクニックを持った凄腕ベーシストとして、これまでT.M.RevolutionやTETSUYA(L'Arc~en~Ciel)のソロ・プロジェクトをはじめとする数々のビッグ・ステージでサポートを務めてきたベーシスト IKUOが、このたび約5年ぶりにソロとしての2ndアルバム『Easy come,easy core!!』を完成させた。ベーシストしてはもちろんのこと、作曲、作詞、アレンジ、プロデュース、さらにはヴォーカリストとしての才能までをも発揮する今作で彼が聴かせる"イージーコア"な音像は、あの切れ者ギタリスト Ledaが弾く鮮烈な8弦ギターをフィーチャリングしたダイナミックにしてエキサイティングなバンド・サウンドそのものだ。

-ソロとしての2ndアルバム『Easy come,easy core!!』が、アルバムとしては約5年ぶりの発表となりますが、今作でのIKUOさんはベーシストとしてはもちろんのこと、作曲、作詞、アレンジ、セルフ・プロデュース、さらにはヴォーカリストとしての才能までをも存分に発揮されていらっしゃいます。これはかなりの仕事量をこなされていることになりそうですね。

たしかに、今回はいろいろとやることが多かったです。自分のバンドであるBULL ZEICHEN 88やRayflowerでの活動や、外注での曲を作ったりプロデュースしたりするのと比べてもそうですし、それどころかソロとしての前作『R.E.D. ZONE』(2014年リリースの1stアルバム)を作ったときと比べても、ここまで全部をやることになるというのは自分でも想像していなかったところがありました。いやー、それだけに無事完成したときにはシビれましたね(笑)。

-そんな渾身の今作を制作し始めるにあたり、もともとIKUOさんとしてはいかなるヴィジョンを描いていらしたのでしょうか。

5年前に作った『R.E.D. ZONE』を初めてキングレコードのベーシスト専門レーベル"PSYCHO DAZE BASS"から出したときは、僕自身のポリシーである"ノンジャンルでボーダレスにベースを弾いていく"という部分を軸に、作っていったんですよね。例えば、僕は閉店しましたが六本木のジャズ/フュージョン系のクラブ PIT INNでもライヴをしていましたし、一方ではアニソンの作家でもあったりするし、もとを辿ればヴィジュアル系の出身でもあるんですよ。あとはもちろん、ラウド・ミュージックも大好きですから、前作は、そういういくつもの要素や各方面におけるたくさんの人たちとの関わり合いを生かしながら、ゲストも30人くらい招いて自分の音楽人生を集約させたようなものとして仕上げたんです。そして、そこから5年経っていることを思うと、そろそろまたアルバムを作りたいなという気持ちにもなっていましたし、ちょうどスケジュール的にもたまたま隙間ができたので、今回メーカーに直談判をしてこのアルバムの制作を始めることになりました。その段階ではまだ中身についてはノープランだったんですけどね。そうしたら、レーベルのディレクターから提案をされたんですよ。"IKUOさん、今度のアルバムは歌モノでいってみませんか"って。

-日本随一の凄腕ベーシストとして名を馳せるIKUOさんですが、実のところ2003年のソロ・デビュー時には、シングル表題曲「LONG WAY」が、あの人気アニメ"テニスの王子様"のOP曲として起用されるなど、すでに16年以上にもわたって、ソロ・ヴォーカリストとしてのキャリアも充分にお持ちですものね。

歌モノがとても好きなんですよ。まぁ、自分のバンドで曲を作るにしても、楽曲提供をするにしても普段はほとんどが歌モノなわけですしね。ただ、ベーシストのソロ作品と言うと、どうしてもインストゥルメンタルの曲がメインになりがちだし、実際『R.E.D. ZONE』のときもインストが結構多かったんですけど、今回はキング(キングレコード)の方からのそういった要望もありつつ、こう見えてむしろ僕はインストを作るよりも歌モノを作る方が好きなので(笑)、"ぜひそれでいきましょう!"っていうことになりました。

-結果、今作では12曲中9曲で素晴らしいヴォーカリストぶりも存分に発揮されていらっしゃいます。それにしても、元来ベーシストであったIKUOさんが歌も始められるようになったきっかけとはなんだったのですか?

2003年に『LONG WAY』を出した当時、僕はLapis Lazuliというヴィジュアル系のバンドをやっていまして、そのバンドにはきただにひろし(JAM Project)もいたんですけど、途中で彼が"ONE PIECE"の主題歌「ウィーアー!」を歌うことになって、それ以降はアニソンでやっていきたいということで脱退をして、Lapis Lazuliも解散することになったんですね。そして、当時よく対バンしていたとあるバンドの人も、同時期くらいに"テニスの王子様"の主題歌でアニソン・シンガーになって、その人が2ndシーズンの主題歌も担当することになったとき、"IKUOさん、曲を書いてくださいよ"というオーダーを受けたんです。結局、そのときの「Driving Myself」と今回のアルバムにセルフ・カバーとして入れた3rdシーズンの「Make You Free」では楽曲提供をして、その後4thシーズンに入るときに僕がコンペ用に作ったデモ・テープを聴いたアニメの制作側から"この人に歌もやってもらえばいいじゃない"という話が出たらしく、「LONG WAY」は僕自身が歌ってソロ・デビューすることになったんですよ。

-なるほど、いきなり白羽の矢が立ったわけですね。

それ以降は、"仮面ライダー555"だとか"デジモンセイバーズ"でも、シンガーとしての活動をしてましたね。でも、僕としては、あくまでもベーシストとして生きていきたいという気持ちが根底にはありますし、別にアニソン・シンガーで食べていきたいとは思っていなかったんですよ。もちろん、依頼があればそれは喜んで受けますけど。だからと言って自分の歌にすごい自信があるのかと言えば、決してそういうことでもないですし、ボイトレなんかもまったくやったことがなかったので、ヴォーカリストとしては完全に自己流でやってきたというのが本当のところです。とはいえ、その時期にアニメの世界と繋がりや縁ができたことは、自分にとってすごく大きかったですね。そのおかげで、今度はベーシストとしてのテクニックを買われて、奥井雅美さんやJAM Projectのサポートを始めることもできましたから。

-ちなみに、奥井雅美さんのステージでサポートをするようになった際には、面白いエピソードがあったそうではないですか。

Billy Sheehan(MR.BIG)が奥井雅美さんのアルバムでベースを弾いたときに、"日本でこれが弾けるベーシストはいないか"ということで呼ばれたようです。その流れでJAM Projectでも弾くことになって、そこできただにひろしと再会したっていう(笑)。

-いやはや、IKUOさんの音楽人生はなかなかの激動具合ではありませんか。

近年はサポートの仕事がだいぶ増えていったこともあって、その代わり作家としての依頼や歌の仕事は少なくなっていたのも事実ですけどね。僕の場合、特にマネジメントにも所属していなくて、ずっとひとりでやってきているので、基本的にオファーのあった仕事は受けるということの連続なんですよ。ありがたいことに、T.M.Revolutionさんのサポートを始めたあたりからは、"バンドやろうよ"というお誘いも増えまして。今はBULL ZEICHEN 88とRayflowerというふたつのバンドをやりながら、サポート・ベーシストとしても活動するというサイクルができあがっています。

-こうしてうかがっていくと、IKUOさんの音楽人生はいい意味でどこか浮浪雲のようなところがあると言いますか、縁や時の流れにうまく乗るかたちで進んできたものとも言えそうですね。

その通りです。完全に流されてます(笑)。曲を作ってくださいと言われれば作りますし、弾いてくださいと言われれば弾きますし、歌ってくださいと言われれば歌います、という感じですね。

-その流れの中に、5年ぶりにソロ・アルバム制作という大きなプロジェクトが再び加わったことになりますが、正直なことを申し上げますと、個人的にはIKUOさんがここまで"見事に歌える方"だとは存じ上げておりませんでした。ベーシストとしてあれだけの神業をこれでもか! と繰り出す方が、歌でもこんなに聴かせることができるとは......。レビューでも書かせていただきましたけれど、天は二物どころかIKUOさんにいったい何物を与えれば気が済むのでしょう!?

いやいや、そんなとんでもないです(笑)。でも、そう言っていただけるのは嬉しいですね。だって、Billy Sheehanも、Richie Kotzen(THE WINERY DOGS/ex-MR.BIG etc)も、日本で言えば山本恭司(BOWWOW)さんとか、楽器もとても上手いけど歌も実はめちゃくちゃ上手いっていうミュージシャンに対する憧れって、すごくありますから。そういう"本物"に自分もなりたい! っていう気持ちは、昔からずっとありました。だから、そこまで上手くないにしても僕は歌も好きなんだと思います。

-なお、前作『R.E.D. ZONE』は30人ものゲストを迎えて制作されたとのことでしたが、対して今作『Easy come,easy core!!』については、8弦ギタリストとして評価の高いLedaさんと、The Winking OwlのドラマーであるKenTさん、そしてIKUOさんによる3ピースでのバンド・サウンドが、全編にわたって聴ける作品となっております。このようなアプローチを選択された理由についても教えてください。

まずは、バンド・サウンドにこだわりたかったんです。そして、Leda君をギタリストとして選んだのは8弦ギターの音が欲しかったからですね。というのも、今回のアルバムの陰コンセプトがまさに"8弦ギター"なんですよ。

-ベーシストのソロ・アルバムであるにもかかわらず、ですか?

はい。歌モノをやるとなった段階で、僕は音楽性の面で今回はイージーコアっぽいものをやりたいなと思ったんですね。まだ日本だとイージーコアってそこまで広くは認知されていないジャンルですけど、それこそ激ロックに載るような海外のバンドには結構いるじゃないですか。いわゆるポップ・パンクにヘヴィなメタルコアのアレンジが入るようなものを、イージーコアと呼ぶんだと僕は解釈しているんですが、歌モノでありイージーコアっぽさのある音を作りたいとなったときに、まずダウン・チューニングでやるっていうのは鉄則だとしても、今のところメジャーで普通なのは7弦じゃないですか。僕はやるならそれよりもさらにヘヴィにいきたかったんです。だとしたら8弦の音が必要だし、8弦と言ったら最初に顔が思い浮かんだのがLeda君だったんですよ。界隈としても、彼はヴィジュアル系の世界でDjentっぽいことをやっている、とっても珍しいタイプのギタリストですしね。僕の中では彼が間違いなくドンピシャで、"全曲8弦なんだけど弾いてくれる?"って連絡をしたら、二つ返事で引き受けてくれました(笑)。

-では、KenTさんとはどのような御縁があったのでしょう。

KenTとはね、The Winking Owlのドラマーとしてではなく、喜多村英梨さんという声優でアニソン・シンガーもやっている方のサポートを一緒にやったときに出会ったんです。そうしたら、もう彼のドラムがあまりにも上手すぎて。The Winking Owlではわりとシンプルに叩いていて、その感じも僕は大好きなんですけど、彼はああ見えてツーバスだわ、スウィベルはやるわでメタルコアも得意なんですよね。そんな彼の技術力の高さと若々しさ。今回はそれを取り入れたかったんです。

-バンド・メンバーが固定されていることにより、今作にはオリジナルの歌モノだけでなく、インストゥルメンタルやセルフ・カバーなども収録されていますけれど、1枚を通してのトータリティというものが音の面で絶妙に醸し出されているように感じます。

サウンド・プロデュース自体も自分でやっているというのは大きいと思いますし、この3人ですべて演奏していることでどんな曲をやっても散漫にはならなかったな、という実感は僕としてもありますね。今回はエンジニアリングも、NOCTURNAL BLOODLUSTやCrystal Lakeを手掛けている、STUDIO PRISONERのHiroさんという熱い男にやってもらったんですよ。メタルコア専門の方なんです。ギターの音も彼がすべてリアンプして作ってくれて、こだわりを突き詰めたゴリゴリな音にしてくれました。しかも、ちゃんと歌モノとしても成立してるし、8弦ギターを使うとベースの音が埋もれてしまうケースも出てきやすいんですけど、そこも何十回もディスカッションを繰り返しながら、きっちりといい塩梅の仕事をしてくれてます。特にリード・チューン「Fly」なんかは、バランスを取るのが相当難しかったはずなんですけど、いい音で録れて、ほんとに満足してるし驚きました。