INTERVIEW
IKUO
2019.07.24UPDATE
2019年08月号掲載
Interviewer:杉江 由紀
日課のように新しい技にはあれこれ挑戦してますよ
-では、ことベーシストとしてのIKUOさんが、今回のアルバムの中でプレイヤー的に最も重視されたことはなんでしたか。
PSYCHO DAZE BASSというレーベルは、ベースを前面に押し出したテクニカル・ロックというものに特化したものですからね。例えば、レーベルメイトであるMASAKIさんはヘヴィ・メタル寄りのベーシストで、インストの中での速弾きを聴かせるというのがひとつの個性だと思うんですけど、僕は今回あくまでも歌モノの中でテクニカルなものを織り込んでいきたかったですし、のちのちライヴでやるときには歌いながら弾くということも考えると、そこのバランスをある程度取りながらフレーズを練っていく必要がありました。具体的にはポップな曲であればあるほど真ん中の間奏部分でベース・ソロをやることや、普通はギター・ソロのバックでのベースというのは地味になりがちですけど、そういうところでもベースでギターとバトルするということをやっていったんです。古いところで言えば、70年代のCREAMとかBB&A(BECK, BOGERT & APPICE)とかの3ピース・バンドみたいな、レイドバックしたイメージのアンサンブルを意識したんですよ。
-エキサイティング且つエモい音が満載ですものね。「僕らの約束」なども、胸熱な曲展開が実に素敵です。
この曲は完全にソロ分けをしました。ギター・ソロ、ベース・ソロ、ドラム・ソロが入ってます。あとは「Confession」とかも全体的には80'sな雰囲気なんですけど、中間部分はかなりバトルしてますね。「Hands up!」のギター・ソロでも、後ろでは僕が弾きまくって、KenTも叩きまくるっていうやりたい放題になってます(笑)。
-と同時に、多彩な歌モノたちの存在感もさることながら、インスト曲である「EBM」、「Arch of the rainbow」、「Make you free feat.まらしぃ」の3曲もそれぞれに秀逸な仕上がりですね。
その3曲はどれもベースをより派手にやろう、ということで録りました。「Arch of the rainbow」は本来の僕としては苦手な、いかにもインストらしい王道な曲にあえてしましたし、「Make you free feat.まらしぃ」は天才ピアニスト、まらしぃ君とのコラボで歌メロを彼に弾いてもらうということをやっていて、1曲目の「EBM」については、"ベースのテクニックを曝け出したいです!"というだけの深い意味は一切ない、とてもシンプルな曲になってます。ベーシストのソロ・アルバムという意味合いは、たぶんこのあたりに集約されたんじゃないかなと思いますよ。
-「EBM」はシンプルどころか、プレイ的な難易度は複雑怪奇の域ですけれどね(笑)。
この「EBM」では、僕が最近よくやっているロータリー奏法という特殊なスラップをふんだんに使いました。5年前のソロ・アルバムから進化した部分を明確に音として詰め込めたところですね。もっとも、これを聴いて喜んでくれるのはベースをやっている人だけのような気もしますけど(笑)。だからこそ、「EBM」は冒頭のSE扱いでいいんですよ。さらっと聴いてもらえればそれでいいんです。
-お恥ずかしながら楽器の詳しい知識は持っていないのですが、"とんでもねぇバカテクが炸裂していてカッコいいぞ!"ということだけは、よくわかります(笑)。
だとしたらそれは嬉しいです(笑)。あれ、アドリブなんですよ。そういう意味では、ここからこの曲をライヴでやっていくときには、毎回それぞれ違うフレージングになっていくでしょうね。
-先ほども話題に出ていた「Make you free feat.まらしぃ」と、「ヒラリ」、そして「Jumping out」の3曲はセルフ・カバーとなるそうですが、後者の2曲を今作に収録した理由についても解説をいただけますでしょうか。
「ヒラリ」は3年前に病気で亡くなった和田光司さんが"デジモン"のOPとして歌われていた曲で、作曲を僕がしていたんですよ。それで、和田さんの3回忌追悼ライヴがあったときに、ベース&ヴォーカリストとしてライヴをやらせていただきまして、その経験がこのセルフ・カバーを収録させていただくきっかけになりました。ただ、原曲とはかなり違うゴリゴリな僕流のアレンジになってます(笑)。「Jumping out」はLapis Lazuliがインディーズだった時代にやっていた曲で、19年とか20年の時を経て、今回はきただにひろしではなく僕が歌ってセルフ・カバーさせてもらいました。Lapis Lazuliの中でも、これは一番大好きな曲なんです。そして、このアルバムの中でもこの曲は最もイージーコア感の強い仕上がりになったなと感じてます。
-個人的には、エッジーでいてドライヴ感の強い「Pride in motion」が聴いていてとても痛快でした。躍動感の溢れる「Road to tomorrow」もテンションが上がります。
ありがとうございます! 「Pride in motion」は8弦ギターを持って、あっという間にできた曲でした。ぶっちゃけ、8弦の内ほぼ下から3弦だけで作ってます。そして、この曲には、さっきも言ったロータリー奏法にダブルプルを併せた新しいベースの技も入れました。まだ名前とかはついてないんですけどね。なかなかあれは曲者で難しかったです(笑)。
-そのような新技の類いは、今でもコンスタントに開発をされているのですか?
常にそれは探してます! YouTubeとか観てて、アマチュアのベーシストでも結構すごいことをやっている人がいるんですよ。僕なんかより数倍上手い人が、ゴロゴロいますからね。僕はそれがめっちゃ悔しくて。一応技巧派ベーシストなんて呼ばれてるのに(苦笑)。おそらく、あの中には"IKUOなんかより俺の方が"と思っている人もいるはずなので、どうしても負けたくなくて日課のように新しい技にはあれこれ挑戦してますよ。マジで。
-IKUOさんほどのアーティストでも、素人に対してメラメラとした対抗心を持つことがあるとは意外です。
悔しさしかないですよ。なんなら今回のアルバムも実は悔しさからスタートしていますからね。「Road to tomorrow」とかもそうだけど、今回の歌詞が全部どれも前向きなのはそのせいもあるんです。悔しくて落ち込んで、でもそこから悔しさをバネにして頑張って前向きになっていく。そういう段階を経て生まれたのが今回の歌詞たちなんです。結局、雇われる仕事っていうのは、波も激しくてなかなか思うようにいかないこともあったりしますけど、ソロに関して言えば自分の責任でやっていくものなわけであって、自分から発信する場とかそこで生まれていく作品をもっと大事にするべきだなと思って、作り始めたのが今回の『Easy come,easy core!!』だったんですよ。
―それだけ、今作はIKUOさんにとっての真実が詰まったものでもあるのですね。
赤裸々であるという面では、今年の3月にうちの猫が18歳で死んじゃったことも、このアルバムを作っていくうえでは少なからず影響しました。このジャケットの猫、ミー君なんですよ。そして、「僕らの約束」は、仕事がなかった18年前に横浜の公園で拾われて僕と出会ったところから、その後のことまでについて、ミー君の目線で詞を書いた曲なんです。どうしても今回はこれをこのタイミングでかたちにしておきたかったんですよ。今思うと、ミー君と出会ってから僕の人生はどんどん上向きになっていきましたからね。
-優秀なアゲニャンだったのですねぇ。
ほんとそうなんですよ。さすがにちょっとペットロスにもなりましたけど......でも、このアルバムを完成させることで追悼ができて良かったです。
-さて。そのほかにも、このアルバムには最後にTHE KNACKのカバー「My Sharona」が収録されております。この曲を選ばれた理由はなんでしたか。
偉大なる一発屋の名曲として有名なものですし(笑)、テレビのバラエティ番組でも使われている曲なので、アーティスト名や曲名を知らなくても、"聴いたことある"っていう人はわりと多いと思うんですけど、これは単純明快に2音しか使っていないあのベース・リフを8弦ギターでやりたい、というところから入れた曲ですね。8弦ギターってこういう音がするんですよ、ということをダイレクトに伝えたかったんです。ポジション的には、ボーナス・トラックみたいなものですかね(笑)。
-かくして、今作には"Easy come,easy core!!"というタイトルが冠せられました。最後に、IKUOさんから激ロック読者へ向けて、今作についてのアピールをしていただけますと幸いです。
これまで、激ロックさんではBULL ZEICHEN 88が何回かお世話になっているので、なんとなく僕のベーシスト像として、ラウド好きな人間であるということは知っていただけているのかな? とは思うんですけど、今回のソロ・アルバムについても、ラウドなものであるというふうに想像していただけたら嬉しいです。ただ、テクニックでベロベロ弾く人なんでしょ? というイメージで聴いてもらうと、そこはちょっと違って聴こえるかもしれません。そして、みなさん。ヘヴィでポップな曲は好きですか? coldrainみたいなメロディックなバンドや、強いて言えばヒステリックパニックとかマキシマム ザ ホルモンみたいに面白いのも好きだよ、というメロディのいいラウドな音が好きな人にはぜひおすすめしたいです。NEW FOUND GLORYとかポップ・パンクが好きな人にも聴いてもらえるだろうし、J-POPやアニソンが好きな人にも! そのくらい『Easy come,easy core!!』は、ポップでファンキーで気楽に"Easy come"な感じで聴いていただける作品になってます。
-8月からの2ndライヴ・ツアー"Easy come,easy core!!"において、今回のアルバムの曲たちがどのように映えるのかも楽しみですね。
ライヴも気持ち的には"イージー"に楽しくいきたいです。でも、実際には弾いて歌ってのベース&ヴォーカルだからイージーではなく、なかなかハードになっちゃう可能性が高いですけどね(笑)。それでも極力好きに楽しんでいきたいので、気楽に遊びにきてください!