INTERVIEW
KAMIJO
2018.03.14UPDATE
2018年03月号掲載
Interviewer:杉江 由紀
"Epic Rock"とはこれいかに。VersaillesのフロントマンでもあるKAMIJOが、ここ数年一貫してソロ・ワークスの中で表現してきたのは、ルイ17世=ルイ・シャルルを主人公とした、史実とフィクションを絶妙に交錯させたオリジナル・ストーリーになる。そして、いよいよ今回のアルバム『Sang』でその物語は大きな局面を迎えることになったようなのだ。また、より音楽的な完成度を高めたいという想いから、今作では初めてストリングスとドラムを完全に打ち込み体制でレコーディングしたという点も実に興味深い。時に激しく、時に美しく、時に切なく響くこの重厚な音像と彼の優雅な歌声は、必ずや聴き手の胸を打つことになるだろう。
-このたび完成したアルバム『Sang』は、昨年から今年にかけ発表されてきた『カストラート』(2017年5月リリース)、『mademoiselle』(2017年9月リリース)、そして『Nosferatu』(2018年1月リリース)という3枚のシングルを経ての作品ということになりますね。これまでもKAMIJOさんは一貫したストーリー性を持たせながらの作品づくりをされてきましたが、今作『Sang』についてはどのようなヴィジョンを持ちながら仕上げていくことになったのでしょうか。
もとを辿ると、僕は過去にフランス語で女王を意味する"LAREINE"というバンドをやっていたことがありましたし、そのあとに始めたVersaillesではそのままヴェルサイユの名を掲げて今に至っているわけですが、いずれにしてもフランス革命の時代をモチーフとした作品づくりをしてきたことには変わりないんですよね。そして、自分のソロを始めようと思ったときにも題材としようと思ったのはその時代のことで、ルイ17世という人物を主人公とする物語をずっと描いてきているんです。
-ルイ17世とは、ルイ・シャルルのことですね。
えぇ。ルイ16世と、マリー・アントワネットの間に生まれたのがルイ17世でありルイ・シャルルです。彼は史実の上だと10歳のときに病気で亡くなってしまったことになっているんですが、僕の描いているストーリーの中では亡くなってしまったのはニセモノで、本物のルイ・シャルルは幽閉されていたタンプル塔というところから、音楽家であるベートーヴェンによって連れ出され、そのあとも実は生き続けていたんじゃないか? という設定をもとに進んでいます。つまり、悲しい運命を持っていたルイ17世という少年の未来を、僕が生み出していく新たな物語の中では、明るいものとして描き出したかったんですよ。今回のアルバム『Sang』はその物語の続編というか新章を音楽として表現したもので、キーパーソンとなるのはサンジェルマン伯爵という人物ですね。
-サンジェルマン伯爵も、実在したとされている方なのだそうで。
僕の物語の中での彼は、未来も過去もすべてを知る人物として出てきます。シングルにもなった楽曲「カストラート」で主人公となっているのもサンジェルマン伯爵で、彼は時代を扇動する者......すなわちこの物語の中で言えばナポレオン・ボナパルトに対して、未来を予見し警告をしていた人物になるんですよね。僕はサンジェルマン伯爵という存在を通して、未来というものに備わっている可能性を描きたくて、まずは「カストラート」を作ったんです。そこには、目の前の誘惑に惑わされてしまうのではなく、人はその先を見越して動いていく必要があるという意味を込めました。ひいては、僕自身の中にある"最善の未来を選択するためにできることはすべてやらなければならない"という想いも、そこに託したところがあったんですよ。
-「カストラート」に次いでシングル化された「mademoiselle」も、今作『Sang』には収録されています。こちらについては、どのような場面が描かれていたことに?
これは、男性が女性に対してひとこと"mademoiselle?"と問い掛けるところから始まるストーリーですね。何しろ、その瞬間からひとりの人間がもうひとりの人間の人生に触れることになるわけですから。そこを起点にしてまた何かが始まるかもしれないという、これもまた可能性を感じるようなことが僕にとってはとても魅力的なんです。
-では、ことサウンド面について言うと今作『Sang』でKAMIJOさんが追求したのは、どんなことだったのでしょうか。
簡潔に言うなら"Epic Rock"ですね。Epicというのは叙情的であったり、壮大ということを意味していて、もちろんそれだけでも充分ではあるんですよ。でも、そこにロックという言葉を掛け合わせることで僕の目指している音楽性を最も的確に表す言葉になったと思います。これまでにもシンフォニック・メタルだとか、いろいろな言い方をしてきてはいましたけれども、やっと自分にとってしっくりくる言葉が見つかりました。既存のジャンルにとらわれることなく、自分だけの新しいジャンルを作っていきたいという意味でも、今この言葉は僕にとってとても大事なものになっています。
-これまでもたくさんのトライアルをされてきたこととは思いますが、今作においてアグレッシヴでダイナミックなロックの音像と、クラシカルで繊細な響きを融合させていく際に、最もこだわったのがどんなことだったのかも教えてください。
今回の『Sang』については既発シングルに入っている楽器を除くほぼすべてをコンピューターで作りました。海外の素晴らしいミュージシャンたちが、最高のスタジオで録音したストリングス音源を使っての打ち込みを駆使してレコーディングをしたんです。この方法を選んだのには、実験的な意味もありましたね。
-それだけの実験的な制作を実施したことによって、KAMIJOさんが得られたのはどんなことだったのでしょう。
思うがまま、ということです(笑)。
-ソロ・ワークスならではの利点を存分に生かせる制作だった、と。
今までであれば、デモの段階では打ち込んでいたものをあとで生の弦に差し替えるということをしていたわけなんですよ。もしくは、打ち込んだものと生の音をユニゾンさせたり。まぁ、今回も豪華盤(完全限定受注生産豪華盤)の方に特典としてつけている室内楽アルバム『Chamber Music Ensemble』では生の音も存分に使っていますし、生ストリングスや生ブラスも使ったことはあって、生楽器の良さというのはもちろんあるとわかってはいるんですけれども、だからこそ今回の『Sang』ではあえてのチャレンジをしたかったんです。ちなみに、今回はドラムも実は打ち込みなんですよ。VersaillesのYUKIに協力をしてもらって、彼がすべて打ち込んでくれたんです。なおかつ、スタジオで丸1日をかけて何百何千という種類の音をサンプリング録音して、その音源を打ち込みに使ってます。やり方的には、普段の生レコーディングとまったく同じ状態で録りました。
-それは大変な手間暇をかけられたことになりますね。正直、これはてっきり生だとばかり思っていましたよ。
ドラムだけで、今回は10数トラック使ってます(笑)。そして、エンジニアでもこれが生なのか打ち込みなのかは音を聴いてもわからないです。たいてい、打ち込みの音ってハイハットやシンバルの違いでわかるものなんですけどね。これはわからないと思いますよ。