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INTERVIEW

メトロノーム

2022.08.29UPDATE

2022年09月号掲載

メトロノーム

Member:シャラク(Vo) フクスケ(Gt) リウ(Ba)

Interviewer:杉江 由紀

禁じ手は一切なし。2019年の『確率論≠paradox』以来となる約3年ぶりのオリジナル・ニュー・アルバムとしてメトロノームが発表した待望の『阿吽回廊』は、十八番の飄々としたピコピコしたテクノ・サウンドがハジけるものばかりでなく、ほぼメタルなギター・ソロが炸裂するロック・チューンから、派手なEDMの要素が取り入れられたもの、渋いオールドスクールな風情が漂うロック・ナンバー、'80sポップスのキラめきを纏ったポップス、笑いとシュールレアリスムが混在するカオティック楽曲など、その内容は過密にして幅広く奥もなかなかに深い。一度ハマれば無限回廊のごとく抜け出せない、不可思議な『阿吽回廊』の世界を堪能されたし。

-待望の『阿吽回廊』がここに完成いたしましたが、なんと今作は、2019年の『確率論≠paradox』以来となる、約3年ぶりのオリジナル・ニュー・アルバムとなります。やはり、メトロノーム側からしてみるとこれは"ようやく"出せた作品ということになりますか。

フクスケ:まぁ、ここしばらくはどうしてもライヴやツアーを行うことが難しいとか、何かと思うような活動ができない状態ではありましたからね。その時期は自分たちとしても特にアルバムを出そうとは考えていなかったので、そのぶんいろいろと配信をやったりしてましたけど、ここに来てそろそろアルバムを作ってもいいんではないかという話になりまして、今回やっと出せることになりました。

-従来の作品と比べた場合、この『阿吽回廊』は約3年のスパンがあったぶんだけ、曲作りなどの面でそれなりの余裕を持ったなかで作れたところはあったのでしょうか。

フクスケ:いや、それが残念なことにですね。僕らは"アルバムを作るぞ!"とならないと制作に取り掛からない感じなので(笑)、制作期間自体はいつもとだいたい一緒でした。

-では、構想的な面でここまでの間にみなさんが"次にアルバムを作るならこんなことをしたいな"、"今度はこれをやってみたい"と考えていたことが何かありましたら、ぜひ教えてくださいませ。

リウ:制作に向けての話し合いを始めたのが年明けの1月だったんですけど、そのときタイミングとしては夏に出すということも決まったので、僕は夏のツアーで、久しぶりに会場で会ったファンのみなさんと、一緒に声を出して"あの頃みたいに"楽しめるような曲を作りたいなと思ってましたね。現実にはまだ今の段階だと"あの頃みたいに"というわけにはいかない状態ではあるんですが、今回はできるだけ前向きな希望を持ちながら曲を作ったのが、このアルバムのひとつの特徴になってると感じます。

フクスケ:とても個人的なことにはなってしまいますけど、このところの配信ライヴの経験をいろいろしたことで、ギターのシステムを結構変えたんですね。アンプとかを使わないで音を出すようになったので、僕はそこを踏まえたうえで、今回レコーディングでの音作りもしていきたいなと思ってまして。とは言っても、もともと前からアンプは鳴らさずにレコーディングしていたんで、特に大きく変わったことはないんですけどね。状況的にライヴでもレコーディングでもアンプは使わないスタイルになったという点で、そこを存分に生かした音を作っていきたかったんです。だから、曲作りもギターの音ありきで"こういう音を出したい!"ってところから始めていくパターンばっかりでした。

シャラク:僕の場合はですね。これがしたい、あれがしたいというよりも、まずは"曲をちゃんと揃えて提出しなければ"って気持ちがまずは大きかったです。新しいアルバムを作るというふうにならないと、メトロノーム用の曲って作ろうとしないですし、途中までまだ日にち的な余裕が結構あると思い込んでいたら、実はそうでもなかったことにあとから気づきまして(苦笑)、そこからはすごく焦りながら作りました。

-そんなシャラクさんは、今回リード・チューン「阿ッとして吽」を含む計4曲を作られておりますが、中でもこの「阿ッとして吽」は非常にインパクトのある仕上がりになっている印象です。コンセプト的に目指されていたのはどのようなことでしたか?

シャラク:最初はあまり深く考えてなかったかもしれないですね。これは、自分でも意外な曲だったんですよ。

-意外とは......?

シャラク:もともとはサビもなく、ラフにジャカジャカジャカと作ったものが"採用"となったんですね。でも、さすがにそのままでは弱すぎるだろうということであとからサビを足したりしたので、まさかそれが今回のリード・チューンになるとは思ってなかったんです。

フクスケ:僕もこれは意外でした。一番初めにできてきたデモを聴いたとき、俺にはさっぱり良さがわからなかったですから。ただ、KING RECORDSの担当者はその時点から"これで行こう!"と言っていたので、その人だけには最初から何かが見えてたのかもしれない。実際、サビがついたらすごく良くなったんですけどね。

リウ:俺もそうでしたよ。最初に担当者から"これで行こう!"という言葉が出てきたときは、率直に"サビないですよ"って言いましたもん。そのあと、サビがついて劇的に良くなったときに、"これはある種の賭けでもありました"ってその人も言ってました(笑)。

フクスケ:シャラクならきっといいサビをつけてくれるだろう、と読んだんでしょうね。メンバーは誰もわかってなかったですけど(笑)。

シャラク:......ヤバかったです。たまたまギリギリのところでなんとかなったようなもので、基本的に僕はメトロノームにおいて、リード曲以外の曲を作ればいいやくらいに思っていたところがありましたから、本当に今回は焦りました。

-リウさんとフクスケさんからしてみると、この「阿ッとして吽」は、プレイヤーとしてどのように向き合われていくことになった曲でしたか。

リウ:ベースでもメロディ感を出していったほうがいいかな? と思ったので、この曲では彩りを出す音をわりと多く入れていくようにしました。

フクスケ:ギターのアレンジとかフレーズに関しては、シャラクの作ってきたデモに対して基本は忠実になぞってやっていく感じでした。自分が特に注意を向けたのは、この曲でも音質とか音色のほうでしたね。

-なお、このアルバムでは「阿ッとして吽」の前に、「阿吽廻廊」というインストルメンタルがSEとして収録されておりまして、こちらはフクスケさんが作曲をされています。やはり、当初からイメージ的には、この2曲を連動したものとして考えながら作られていたことになるのでしょうか。

フクスケ:実は、このアルバムの前にライヴ会場限定シングルとして7月に『阿ッとして吽』を出してまして、それを出すときに"タイトルはどうする?"ってシャラクに聞いたら"「阿ッとして吽」にする"と言っていて。僕は"あぁ、それはいいね"と返しまして、そのあとにアルバムのタイトルが"阿吽回廊"と決まり、リード・チューンが「阿ッとして吽」と決まってからこのインストを作り、さらに全曲ができあがってからこのインストに"阿吽廻廊"というタイトルを付けた、というのが時系列的な流れでしたね。

-なるほど、そういうことだったのですか。

フクスケ:まずは「阿吽廻廊」から始まって、そこからいい感じで「阿ッとして吽」に繋がっていくようなかたちになればなぁと思って作りました。

-「阿吽廻廊」はあのオリエンタルな雰囲気がなんとも素敵ですよね。

フクスケ:なるたけどこの国の音楽かは定まらないように作っていますけど、そっちの方面のお経みたいな雰囲気を入れたかったんです。

-不可思議な空気が漂う「阿吽廻廊」からの、どこか妙なポップ感が気づくとヤミツキになる「阿ッとして吽」。この組み合わせは素晴らしく絶妙です。また、「阿ッとして吽」に関しては、とある世代を直撃する曲タイトルであることにも感銘を受けました。

フクスケ:とある世代にですか。たしかに(笑)。

-1980年に当時のジャニーズ・アイドル、田原俊彦氏が大ヒットさせた"ハッとして!Good"を彷彿とさせる、この"阿ッとして吽"の語感には本当に参りましたよ。

シャラク:まさにこれは語感だけで決めたタイトルでしたね(笑)。きっかけとしては、グッズ用の撮影のときにいつもフクスケが頬に文字を書くので、そのとき"何がいいかな?"って言われてパッと出てきた言葉が"阿吽"だったんですよ。そこから、曲のタイトルをどうしようかなとなったときに、"阿吽"という言葉に引き続いて出てきたのが、この"阿ッとして吽"だったんです。たぶん、僕の中のトシちゃん(田原俊彦)が目覚めたんでしょう(笑)。

フクスケ:僕らの世代だと、きっと誰の中にもトシちゃんいますからねぇ。

-世代が違うので知らない、という方は昨今YouTubeという便利なものがありますので、ぜひ「阿ッとして吽」と共に「ハッとして!Good」も聴いてみていただければと。

フクスケ:余談ですけど、この間バンドマンの知り合いにも"すごいタイトル付けるよね"って驚かれたというか、感心されました。そして、みんなで"教師びんびん物語"(田原俊彦の主演したドラマ)の話で盛り上がりました(笑)。

リウ:へー、そうだったんだ(笑)。

-もっとも、ネタ曲のようでいて「阿ッとして吽」は完成度が大変高い仕上がりですし、メロディと歌詞のハマり具合も完璧ですよね。

シャラク:そこはこだわりじゃないですけど、あんまり仰々しい言葉を使うのは恥ずかしいというのもありますし、例えば"阿ッとして吽とこどっこいしょ"なんてなんの意味もないんですよ。ただそう言いたいだけみたいな(笑)。一見そんな感じの意味がない文字の羅列のように見えつつも、全体として見れば歌詞になっているみたいなものが好きなので、ここでもその手法を意識して使ってます。

-かくして、このアルバム『阿吽回廊』では、次々と奇想天外な楽曲たちが繰り出されていくことになりますが、3曲目の「万金丹」についてはサウンドのキラキラ感に眩しさを感じました。これは'80s洋楽ポップスを彷彿とさせる音ですね。

シャラク:そのへんの時代に、すごいプロデューサーがいたじゃないですか。

-80年代後期にユーロビートを世界的に流行らせたStock Aitken Watermanのことですか? 彼らの会社名にちなんで、あの手の音は一様に当時PWLサウンドとも呼ばれて、クラブとは異なるディスコでやたらと重宝されていましたよね。

シャラク:それです、それです! Kylie Minogueとかを手掛けてた人たちですよね。僕ああいうの結構好きで、女の子っぽいティーンズ・アイドルみたいな曲にしたいなってところから、この曲はニヤニヤしながら作ったんです(笑)。

フクスケ:曲調がこういう感じなんで、ギターはキレ良くシャキシャキした感じにしましたね。あと、アームを使ったミョーンっていう音もふんだんに入れました。

リウ:意外とメトロノームとしては、こういう曲って今までなかったんですけどね。サポート・ワークのほうではむしろキラキラしたのはよくやってるので、自分としてはなんの違和感もなく弾けました(笑)。

-なお、これだけポップな「万金丹」の歌詞には食べ物がたくさん出てきます。食べたいけれど、でも......という葛藤もここには描かれていて興味深かったですねぇ。

シャラク:この詞では僕の中のPSY・S[saiz]が出てきました。歌詞のテーマは"女の子が困ってそうなこと"です。

-つまり、シャラクさん自身にとってはリアルな悩みではないと。

シャラク:そんなことないです、めちゃめちゃリアルですよ。甘いもの大好きですし。

-あら? 数年前の取材(※2018年8月号掲載)では、酒量が多いので少し減らそうと思っている的なことをおっしゃっていませんでした?

シャラク:それが、少し前にちょっと思うところがあって数ヶ月前にお酒をやめたんですよ。そうしたら、今度は一気に甘いもののほうに行ってしまいました。最近は、自分でお菓子作りもしてるんですよ。オートミールが好きなんで、パンケーキや蒸しパンなんかをオートミールを使って作ってます。

フクスケ:ちょっと会わない間に、シャラクがメトロノームの女子力をひとりで爆上げしてました(笑)。

-これらのシャラクさんの曲たちはもちろんなのですが、今作では各メンバーの個性がいつも以上に色濃く楽曲に反映されているように感じました。4曲目の「失敗だ傑作だ」にしても、先ほどフクスケさんがおっしゃっていたように、ギターのサウンドメイクがだいぶ刺激的な仕上がりで、ライヴ映えしそうなものになっております。ギター・ソロも長めで聴き応えがありますね。

フクスケ:僕はライヴで楽しめるような曲が基本的に好きなので、これも元気のある曲になりました。ギター・ソロは、最近わりと長めになることが多いような気もしますね。つい調子に乗って長くなったのかもしれないです。弾いてたときは完全に入り込んでたんで、あんまり細かい記憶はないですね。