INTERVIEW
BURY TOMORROW
2020.08.25UPDATE
2020年09月号掲載
Member:Daniel “Dani” Winter-Bates(Vo)
Interviewer:菅谷 透
2018年リリースの前作『Black Flame』が大成功を収め、名実ともにUKメタルコア・シーンを代表するバンドのひとつとなったBURY TOMORROW。彼らの2年ぶりとなる新作『Cannibal』は、シャウト&クリーンのツイン・ヴォーカルを生かしたメタルコア・サウンドにさらなる磨きをかけた快作だ。そして、フロントマン Daniel "Dani" Winter-Batesがメンタル・ヘルスに苦しんだ経験を綴った、バンド史上最もパーソナルな作品でもあるという。そんな今作について、Daniにたっぷりと話を訊いた。
-激ロックのインタビューとしては、2ndアルバム『The Union Of Crowns』(2012年7月)以来となりますので、近年のバンドの状況から教えていただければと思います。
そんなになるんだ? クレイジーだね(笑)。
-前回のインタビュー以来バンドの人気は高まる一方でしたね。2018年リリースの前作『Black Flame』はバンド史上最高のチャート・ポジションを記録し、批評家からも高評価を受けた作品になりました。同作リリース後、環境の変化などは感じましたか?
俺たち自身としては前回よりいいものを作ろうとするのを仕事のモラルとしているんだ。音楽的な意味でもプロダクション的な意味でもね。今回のアルバム(『Cannibal』)ではプロダクション面でもステップアップしたいと考えて、Adam "Nolly" Getgood(ex-PERIPHERY/Ba)たちと組んだ。彼はARCHITECTSの近作をプロデュースした(※正確には2018年の8thアルバム『Holy Hell』でミキシング/エンジニアリングを担当)素晴らしいプロデューサーで、音が素晴らしいことも高い評価を得ていたこともわかっていたから、彼とは絶対組みたいと思っていたんだ。――今回は俺のメンタル・ヘルスについて正直に吐露したアルバムで、ファンとはパーソナルなレベルで繋がることのできる作品だ。バンドという形態で音楽をやっていると、往々にして"石像"みたいに崇拝されるような扱いを受けてしまうというか、単にプレイしているだけで今の地位に来たみたいに思われてしまうけど、こういう作品を作ることによって、俺たちだって普通の人間だってことに気づいてもらうきっかけになる。まぁ、パーソナルなレベルで繋がるというのは、バンドのキャリア全体にわたって目指してきたことなんだけど、こういう極めてパーソナルな題材を中心に据えてアルバムを丸1枚作ったのは今回が初めてだったよ。
―このメンタル・ヘルスを取り上げるスタンスは『Black Flame』から始まっているのでしょうか。『Black Flame』について、今振り返ってご自身ではどのような作品だと捉えていますか?
パーソナルなレベルで繋がることについてはもともと独立した形であった気がする。ただ、ファンとの繋がりに手応えを感じてなおかつ高い評価を受けるというのは、『Black Flame』からかもしれないね。あの作品のおかげで世界中のファンがひとつになったんだ。それまではイギリスではビッグでも他の国ではまあまあという感じだったけど、特にヨーロッパでは文字どおり人気が爆発したからね。――実は俺、新婚旅行で日本に行ったんだ。その時ソニーのオフィスにも行ってね。
-そうなんですね! いつごろのことでしたか。
2年くらい前、『Black Flame』を出した直後だよ。ソニーのオフィスに立ち寄ったら大歓迎してくれて、どれだけあのアルバムが大好きかを熱く語ってくれたんだ。そういうことからも、世界中で受け入れられていることがわかったよ。そのおかげで、今回ものすごくパーソナルなアルバムを作るための土台を整えることができたような気がする。
-『Black Flame』を引っ提げたツアーでは、あなたはファンと"Safe Space Sessions"というワークショップを行っていたようですね。これはどのような活動なのでしょうか?
この活動を始めたのは――俺はNHS(国民保健サービス/イギリスの国営医療サービス事業)の仕事もしているんだよね。自分のメンタル・ヘルスの面倒を見る傍ら、NHSの仕事にもいろいろ従事していたんだ。この活動を始めたのは、必ずしも曲を聴きに来ている人たちじゃなくても、俺たちのファンじゃなくても、ほら、俺たちのファンの多くは俺たちにすでに直接会っているからさ。この14年間、俺は逃げも隠れもしていないし(笑)。だから俺に会える、俺と音楽の話ができるみたいな目的よりも、メンタル・ヘルスそのものについて、それからメンタル・ヘルスを維持するためにどういうテクニックを使うのが有効なのかとか、そういう話ができる場を設けたいと思ったんだ。ワークショップにはメンタル・ヘルスの専門家にも同伴してもらって、そこで自分たちの話をして――俺は自分のことや自分が通ってきた道の話をするし、みんなの話も聴く。ワークショップはライヴのチケットを持っていなくても参加できるようになっているんだ。無料だから気軽に来てもらえばいいし、なんならBURY TOMORROWのファンですらなくたっていい。何か心に抱えているものがある人が、解決の手がかりになるものを見つけられる場所なんだ。実際素晴らしい効果が出ているよ。みんなにとってはいい機会になっている。なかなかそういう場に巡り合えない人は多いからね。俺たちは前に進もうと一生懸命やっていて、ファンや家族にとって正しいと思うことを実践している。でも、世界中同じだと思うけど、立ち止まってひと呼吸置く機会ってなかなかないだろう?
-たしかにそうですね。
みんなひたすら働いているし、ラット・レースに参加しているから、求めているのがカネだろうと社会的地位だろうと尊敬だろうと、ひと呼吸置く機会がなかなかないんだ。もちろんコンサートに行くのも立ち止まって楽しむことに専念する機会ではあるけど、自分自身にフォーカスを置いて、テクニックを使ってクレイジーな環境に対処していくというのは重要なことだよ。特に今のご時世ではね。
-今はいっそう不安を抱えている人が多いでしょうし、ワークショップが開催されていればいいのにと思います。
(苦笑)そうだよね。俺もそう思うよ。
-とても懐の深いプロジェクトだと思います。バンドの人気が出たことでこのようなワークショップを行うことができるようになって、ファンでない人も参加できるなんて素晴らしいことですね。
ああ、素晴らしかったよ。俺たちが顔を出したときもみんなすごく心を開いていて、素晴らしい経験になった。ゲイであることを初めてカミングアウトした人もいたし、子供時代に受けた虐待について語っていた人もいたよ。そういうのは本当にセンシティヴな話だし、普段はオープンな形では話題にしないことだよね。
-だから"Safe Space Sessions"なんですね。何を言っても安全な場所といいますか。
そのとおりだよ。
-そういう活動からの経験も、ニュー・アルバム『Cannibal』に生かされているのではないかと思います。日本では8月26日に発売されますが、海外ではコロナ禍の影響により当初の発売日から延期になったものの、すでに7月3日にリリースされていますね。チャートでも全英10位になるなど好調なようですが、ファンや周囲からの反応はいかがでしょうか?
(※嬉しそうに笑って)正直クレイジーだよ。マッドネス以外の何物でもない。発売前の盛り上がりも俺たち史上最大だったし、世界中と一番繋がることのできているアルバムになっているよ。全英10位だったし、ドイツでは3位になった。スイスでも10位だったんだ。俺たちにとってはクレイジーな状況だよ! 俺たちくらい長い間一緒にやっていると、新作がこんなに熱気を生み出せるものという発想自体がクレイジーに思えてくるんだよね。作品ごとにノロい列車に乗って上を目指しているようなものだから。『Black Flame』で遭遇したようなすごい上り坂があるとも想像つかないし。『Black Flame』と同じ状況の繰り返しだったとしても十分素晴らしいのに、それ以上だった。数字上でもマッドな状態で、ストリーミングも世界中で何千万回と再生されているんだ。まったく、びっくりする状況だよ。しかも、みんなプロダクションや曲の内容もとても気に入ってくれている。歌詞の意味に焦点を当てていなくても――歌詞には興味なくてひたすら曲が大好きな人たちは存在するからね――音楽的な意味で人々を繋げることができているから、本当に素晴らしい状況なんだ。今まで作ったアルバムの中でも一番ネガティヴな評価が少ないんじゃないかな。
-アルバムのレコーディングはいつごろから行いましたか?
たしか去年の9月じゃなかったかな。『Black Flame』の2本目のツアーに出ることになっていて、最終公演がロンドンのラウンドハウスというビッグなツアーだったから、出る前に新曲をひとつリリースしたいと思っていたんだ。それを書き始めたのがたしか去年3月ごろ。と言うとずいぶん前の感じがするけど、俺たちはアルバムを1曲作り終えたらすぐ次の曲作りに入るからね。プリプロは8月ごろに調整して、曲を分解してみたり新しいパートを書き足したりなんかして、それから9月にスタジオ入りしたんだ。アルバムが完成したのは11月だった。だから結構長い間取り組んでいたんだよね。それは良かったけど、コロナ禍のせいで発売を延期にせざるを得なかったから、さらに発売までの時間がかかったんだ。
-待った甲斐がありましたね。先ほどAdam "Nolly" Getgoodの話が出ましたが、彼は今作にミキシングで参加していましたね。プロデュースは前作に引き続きSIKTHのDan Weller(Gt)が担当しています。彼らとの仕事はいかがでしたか?
Danは俺たちの旧友みたいなものでね。2009年の1stアルバム『Portraits』もDanと作ったから、すごく長い付き合いなんだ。少なくとも10年以上。『Black Flame』もまた素晴らしいプロセスで、Dan的にはある程度プレッシャーがかかったと思うけど、プロデュースやミキシングを担当してくれたよ。今回のアルバムに取り組むにあたって、何を変えるべきで何を変えないべきかを考えたんだけど、Danが注ぎ込んでくれる労力やソングライティングの能力、それから......彼は素晴らしいミュージシャンでもあるから、彼には引き続き関わってもらいたいと思ったんだ。その代わり変えるべきこととして、Danにミキシングまでやらせてプレッシャーをかけないこと、自分たちにもう少し時間の余裕を与えること、評論家にもファンにも愛されるようなものを目指すことにした。全体のプロセスはほとんど変えなかったよ。前回が心地よかったし、それって大事なことだからね。前回とは違う人たちを起用したときの基準にもなったんだ。
-今作には"Cannibal(人食い人種)"という少し不穏なタイトルが付けられていますが、その由来について教えていただけますか?
不穏って(笑)。内省的なタイトルという感じかな。人類は常に自分たちだけじゃなくて他人のことも食っていると思うんだ。オンライン上の荒らしとか、評論家の酷評、YouTubeのコメント......その手のコメントへの感受性が強い人にとっては生きづらい世界だと思う。だけど自分自身を見てみても、自分に一番優しいのは自分じゃないんだ。自分の身体を大切にするわけでもないし、自分のルックスについても否定的だし、愛する人についても優しくない。
-"自分にとって最悪の敵は自分"みたいな感じですよね。
そう! そうして自分の中のいいところが自分によって蝕まれてしまうんだ。そういうところが"Cannibalistic(人食い人種的)"だと思うんだよね。そういう意味で俺たちは"Cannibal"なんだ。
-ジャケットのアートワークはAdam Burkeが手掛けていますが、このテーマについてもうかがえますか? アートワークとタイトルは直接関係していますか。
もちろんだよ。Adam Burkeはニックネームを"Nightjar(夜鷹)"といって、信じられないくらい素晴らしいんだ。彼の作品はすべてキャンバス上に絵の具で描かれていて、FIT FOR AN AUTOPSYやENDのアートワークも手掛けているんだ。素晴らしい絵だよ。今回は素晴らしい絵を手掛ける人と組みたいと思ったんだ。俺たちの歴代のアルバムを振り返るとアートワーク→シンボル→アートワーク......という感じで、前作はシンボルだったから、今回はアートワークでいこうと思ってね。それで彼に連絡をとったら、歌詞とアルバムのテーマを教えてほしいと言われたから送った。そうしたら、最初は"こんな感じでいこうと思う"と鉛筆描きの絵を送ってきたんだ。
-スケッチみたいなものですね。
そう。それを見て、"OK、クールだね。鉛筆描きだけどいい感じ"なんて返事したんだ。そうしたら次には完成したアートワークが送られてきたんだよ。俺たちは一切変えさせていない。それほどすごい人なんだ。俺たちの歌詞の世界にそれだけどっぷりはまってくれる人がいるなんてね。しかも真髄をしっかり掴んで......。アルバムの裏にあるテーマをすごくよく理解してくれていたと思う。
-彼にサウンドは聴かせたのでしょうか。
断片的だけどね。その時点でリリースしてあった2曲(「The Grey (VIXI)」、「Cannibal」)はフルで聴いてもらったけど。
-彼の理解力とそれを形にする力も素晴らしいですが、作品自体も彼のイマジネーションを引き出す力が強かったということですね。
そうなんだよ。正直言って今までのパートナーシップの中でも最高の部類に入るね。
-次は彼にシンボルをお願いするのはどうでしょう(笑)。
それもいいかもね(笑)!