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INTERVIEW

CHTHONIC

2018.10.05UPDATE

2018年10月号掲載

CHTHONIC

Member:Doris Yeh(Ba)

Interviewer:米沢 彰

"Ozzfest"、"Download Festival"など数々の海外フェスを始め、ここ日本でも"FUJI ROCK FESTIVAL"、"LOUD PARK"などへも出演するなど、世界を相手に活躍するCHTHONICが約5年ぶりとなるニュー・アルバムをリリース。時に伝統的な民族楽器"二胡"を携え、台湾のアイデンティティをメタルに乗せて表現することで頭角を現した彼らのフロントマン、Freddy Limは、今や若者からの支持を集める新政党の要人にして国会議員でもある。大きな変化を経て活動を続ける彼ら自身のこと、アルバムのことなどを、バンドのリーダーを務めるDoris Yehに訊いた。

-アコースティック・アルバム『Timeless Sentence』(2015年リリース)を挟んではいますが、フル・アルバムとしては『Bu-Tik/武徳』(2013年リリース)以来約5年ぶりのリリースとかなり間があきましたね。この間、バンドとしてはもちろん、各メンバーにとって大きな変化が数多くあったと思いますが、簡単にこの5年を振り返ってみていただけますでしょうか?

この5年間でメンバーそれぞれに大きな変化がありました。Freddy(Freddy Lim/Vo/Hena Violin)は選挙に当選して国会議員になりましたし、私は台湾でイベント・プロモーターとしての活動を始め、子供も生まれました。Jesse(Jesse Liu/Gt)とC.J.(C.J. Kao/Syn/Pf)は、自分たちのスタジオを持って、エンジニアやプロデューサーとしての活動が忙しくなってきています。そして、Dani(Dani Wang/Dr)は台湾ではとても大きな音楽学校の代表を務めているんです。DaniもC.J.も昨年結婚して、C.J.はもうすぐお父さんになるんですよ。

-それぞれいろいろな変化があったんですね。特に、Freddyの国会議員への転身は本当に驚きましたが、一方で、以前から社会的な事柄や台湾の歴史などをテーマにされていたので、こうなるのも必然だったように感じる部分もありました。Doris自身は立候補の話を聞いたときはいかがでしたか?

私たちは、"やめて!"と言ったんです(笑)。みんな"正気か!?"、"バンドはどうする?"、"アーティストにはフレキシブルな時間が必要だけど、国会議員になってもバンドに時間が使えるのか?"、"ツアーには行けなくなるんじゃないか?"って。とても混乱したし、将来が不安でした。

-今は両立できてるんですか?

今年の3月にはフェスに出たんですが、ステージ上ではFreddyはいつものFreddyなので、その点はあまり心配はしていないですね。平日は国会に出ることになりますが、休日は音楽活動に時間を使ってくれますし、今のところうまくいっています。

-それは良かったです。初めて私がCHTHONICにインタビューした(※2012年3月号掲載)のが日本の東日本大震災のあとだったので、そのときのインタビューの中でも、バンドやFreddyの政治的、あるいは社会的な問題に取り組んでいく姿勢を感じました。

あのころ、日本の震災は台湾でも大きなニュースで。バンドとしてもチャリティTシャツを作って、日本の被災地のために寄付を集めたんです。日本円で100万円くらいだったと思います。とても悲しい出来事でしたが、被災された多くの方々に、少しでも前向きに進んでもらいたいと願って。私たちも日本のみなさんといつも一緒に立ち向かっていきたいという気持ちでした。

-そのインタビューで"台湾にも原発があって......"みたいな話になって、そのときの話ぶりとか、すでに彼の政治とかに対する姿勢が出てたなって思ったんですよ。

そうですね。台湾にも原発の問題があります。私たちは核が廃絶してほしいと思ってるし、何か方法がないかといつも考えていました。

-なるほど。そして、今作の日本盤のタイトルが"政治=阿修羅の戦場"となっていて、かなりストレートだなとまず思いました。原題は"Battlefields Of Asura"ですが、このタイトルについてはどのようにして決まったのでしょうか?

このアルバムでは、いろいろな神や女神の魂について語っていて、それぞれの神がそれぞれの戦いに挑むストーリーになっています。神々の闘いへの向き合い方に、政治はもちろん、今の音楽シーンやそれぞれの仕事にも通じるものがあると思っているんです。作品のタイトルはFreddyが決めたんですが、彼自身、今の台湾の国会をまさに阿修羅の戦場のように感じているということが大きいですね。でも、それだけでなく、彼が今直面している別の問題も含まれています。

-阿修羅は3つの顔を持つ戦いの神ということで、"複数の相手と同時に戦っているという意味合いがあるのでは?"と思ったのですが。

まさにそうですね。直面している多くの敵や問題に対して同時に戦うことが必要だし、そのためには、それぞれの戦いに対して自分自身もいろいろな顔や武器が必要だということですね。

-話は少し逸れるかもしれませんが"東アジアユースゲームズ"の件で心を痛めている日本人も多いです。今の台湾が置かれている状況では戦う相手はたしかに多そうですね。

中国の圧力でスポーツ・イベントが中止になった件ですね。数ヶ月前にも、中国は他の国の航空会社に対し"台湾"という表現を国名として使うなというメッセージを出したんです。台湾は中国の一部として扱うようにと。一部の大きな航空会社はそれに反対しましたが、多くの航空会社がそれに賛成して変更を決めました。台湾にとっては、今はとても厳しい状況です。この状況があとどれくらい続くのかはわかりませんが、どこかのタイミングで他の国々がそれが良くないことだと気づいて、協力して立ち向かっていけたらいいなと思っています。

-そういう"戦う姿勢"が、今作によく表れていると思います。特に1曲目の「Drawing Omnipotence Nigh」の壮大さは映画のオープニングのようでもありますね。タイトルも含めてどういった意味合いが込められているのでしょうか?

扉を開けて未知のものに直面するようなイメージですね。扉の向こうでは、ひとりひとりの神々がどのようにして戦いに挑んでいったのかという、その魂をそれぞれの楽曲に見ることができると思います。

-フェスなどで登場のときに使うんだろうなというイメージがすごく湧きます。聴く側のテンションを大きく上げるトラックですね。

まさに、そういう気分をリスナーに感じ取ってもらいたいという気持ちがこもっている楽曲です。

-続く「The Silent One's Torch」もそのタイトルからメッセージ性を感じますが、これはどういう曲なのでしょうか?

台湾では広く信仰されている女神についての曲なんです。何百年も前、中国から台湾に多くの人々が移民してきました。彼らは船で台湾へ向かう際に、多くの未知のものに直面したんです。この楽曲の女神は、そんな人々を危険から守ると同時に、恐れることなく立ち向かうように人々を励ましたという神様なんです。

-シンフォニック・デス・メタルを基盤にしているCHTHONICですが、この曲はメロデス的なアプローチも孕んだモダンなサウンドをベースに、伝統的な楽器を導入していった結果のように感じました。曲のアプローチが少し異色な感じもしますが、この曲はどのようにしてできたのでしょうか?

このアルバムは、先述のとおり多くの神々について歌っていますが、お寺に祀られているような神々の話を曲にするということは、必然的に台湾の伝統的な楽器を使うことに繋がるということでもあって。これまでのアルバムでは、メタルによって台湾のメロディを表現しようとしていたんですが、この曲も含めて今作では、テーマに合うように、より台湾らしいメロディをふんだんに盛り込んで制作しています。

-ベース・ラインが少し複雑な曲だと感じましたが、ご自身ではいかがですか?

私自身は、これまでの作品と比べて、テクニック的な面ではそこまで複雑になったとは感じていないんです。今作に関しては、もっと感情的な表現という面で複雑な内容になっていると思っていますね。もちろん複雑な感情を表現するために、技術的にも複雑なパートはあります。これまでと違ったムードや感情を表現しようとすることに力を注いだんです。

-「A Crimson Sky's Command」では導入の2曲と大きくアプローチを変えて、ギターが上に行ったぶん、ベースの役割がかなり大きくなりますね。存在感があるぶん、レコーディングでは大変なところもあったのでしょうか?

ベースに関しては特に、他の楽曲と比べて大変ということはなかったですね。作曲に関しては難しい部分もありましたが、レコーディングについては、前回もこういう楽曲はあったので、それほど難しいとは感じませんでした。