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INTERVIEW

メトロノーム

2018.07.24UPDATE

2018年08月号掲載

メトロノーム

Member:シャラク(Vo) フクスケ(Gt) リウ(Ba)

Interviewer:杉江 由紀

-音楽とヴィジュアル、その背景となる物語性。今作でメトロノームの構築している世界は、いつも以上に機微を含むものとなりましたね。例えば、シャラクさんの作られている「不安の殿堂」にしても、このペーソス溢れるテイストは他に類を見ません。ある意味で、この曲は舞台演劇の劇中歌のようなものにも聴こえました。

シャラク:この曲は、1曲の中にいろんな声を入れてみたいな、というところから作曲を始めたんです。僕はミュージカル映画が好きなので、本来ならいろんなキャラクターが歌うようなものを、ここではひとりで全部やってしまいたかったんですよ。メトロノームとは別にやっている他の活動では、これまでもそういう曲をやってきたことがあったんですけど、その要素をメトロノームでもやってみました。

-この多彩なヴォーカリゼーションには圧倒されますね。

シャラク:言葉にするとわかりにくいかもしれないですけど、自分の中では毛虫たちが合唱しているパートとか、お爺さんフクロウが歌っているくだり、とかいろいろ設定したうえで歌ってます(笑)。

-おまけに、この歌詞がまたシュールで最高です。"何人か集まってアパートだとかを買い取って/僕の事見張ってよ/色々諸々怖いんだ"というこの赤裸々さには、ちょっと痺れてしまいました。

シャラク:いやぁ、もう、最近本当にそういうことをよく考えるんですよ。ヴィジュアル互助会みたいなものがあったらいいのになぁとか(苦笑)。以前から気になっているお酒の量とかも、アパートでみんなで暮らして見張られていれば少しは減らせるのかなって。

-そうした不安感が、曲中ではサウンド面でも絶妙に醸し出されていますものね。

シャラク:僕はコードとか、全然わからないんですよ。わからないまま曲作りを進めていったら、こうなっていました。

リウ:この曲に関しては、シャラク君から"コードとかがわからないです"って連絡が来たんですよ(笑)。それで、僕としては"たぶん、このコードだろうな"と探りながらベースを先に弾いて、そのあとフクスケ君も結構強引にコードをつけていったみたいです(笑)。ただ、できあがったものは意外とちゃんとまとまってましたね。なんか、不思議な音世界を持った曲になりました。ギター・ソロとかも抜群にいいし。

フクスケ:たしかに、あれはバッチリと当てはまりましたねぇ。満足してます(笑)。

-なお、アルバムの中ではその次に来るのがリウさん作曲の「回游論」なのですが、今作でのリウさんは「おやすみ世界」も含めて、じっくりと聴き込める良曲、佳曲を仕上げていらっしゃいますね。躍動感のある「夜空に舞う花弁」の完成度にしても、コンポーザーとしての熟練の技により磨きがかかってきている印象を受けました。

リウ:ほんとですか? ありがとうございます。「回游論」はイントロからゲームが始まっていくようなイメージで作っていった曲で、今回のこの衣装の僕たちがゲームの中で冒険をしていく、みたいな図が僕の中にはありました。

-「回游論」は、歌詞の内容が今回のアートワークと同期しているのも特徴ですね。

リウ:この歌詞は、写真のロケ地が決まってから書いたんですよ。言うなれば、当て書きをしたとも言えますね(笑)。それと、この詞の中には"その先へ"という意味で"これから自分はアーティストとしてこういう決意を持っていくぞ"ということを、やんわりとしたかたちで入れてあります。曲のタイトルに関しては、僕だけじゃなく日々いろいろなかたちで動き続けているメンバーの姿を見ているなかで"回游"という言葉が浮かんだんです。

-ある種の人生観が滲んでいる、という点ではフクスケさんの作られている「素晴らしい世界」も素敵な仕上がりですね。特に"やって来たよ素晴らしい世界が"という一節が、なんともここからの幸先の良さを感じさせます。

フクスケ:曲としては、ライヴで盛り上がれるようなものにできたらいいなという気持ちで作り始めていったので、わりとギターもハード・ロックな感じの音になっちゃったんです(笑)。歌詞に関しては、普段から"今を楽しんでいこう"というのが自分の一番よく考えることなので、その要素が入った歌詞になってます。それに、未来って考えようによっては向こうから勝手に来るものですからね。

-未来に向かって、という類いの歌詞表現はよく見かけますが、フクスケさんからすると向こうから勝手に来るという解釈なのですね。

フクスケ:時間を止められない以上は、無理矢理来るわけですから。必ずしも、それが嬉しい方の"やってきた"だとは限らないですけど(笑)、それが素晴らしいものだったらいいなということですよね。

-つまり、フクスケさんはポジティヴ・シンキング派であると。

フクスケ:ものすごくそうです(笑)。

-そこはシャラクさんと非常に対照的ですね。

シャラク:はい。自分からはなかなか出てこない歌詞だな、とは思うんですけど。こういうものはこういう作品として、僕は歌うんです。この曲は、歌詞にも出てきますけど"泣いて馬謖をぶった斬る"まさに諸葛亮孔明みたいな感じで歌いました(笑)。

-その前提を踏まえると、この次に来るシャラクさん作「主人公ルート」がより乙に感じられますね。しかも、この曲はアコギ+打ち込みというアレンジが実に趣き深いです。

シャラク:これはアコースティック・ギターがずっと鳴っている曲を作ろう、というところからスタートした曲です。

フクスケ:打ち込みとアコギって、実は相性的にとてもいいんですよ。

-と同時に、この歌詞はゲームになぞらえながら"主人公ルートを選択できなかった僕が、主人公になれなかったことで生まれた葛藤"という旨の歌詞がとても味わい深いです。これまた、ネガティヴ・シンキングな色合いは強いですけれど(笑)。

シャラク:なんというか......主人公になれなかった自分が、そのゲームなり物語を成功に導くことができるのだろうかみたいな。それを思うと、悩みがいろいろと出てきてしまうということなんですよねぇ。

-そんな「主人公ルート」で繊細な音世界を聴かせつつも、一転して「夜空に舞う花弁」では弾けた音像が打ち上げられているあたりも今作の醍醐味だと言えそうです。

リウ:これはですね、ちょっと四つ打ちのダンサブルなパリピ・ソング? にしたかったんです(笑)。ライヴでみんなと盛り上がれるような曲が欲しかったんですよ。詞は、アルバムを出すのが夏であるということと、自分が宮城県出身なのもあって松尾芭蕉の"奥の細道"を少しイメージしながら書いていったところもありました。

-さて。ここからアルバムは後半に向けてのブースターとなっている「我が為に鳴くパンドラ」でも、大きな展開を見せていくことになります。フクスケさんとしては、どのような意図をこの楽曲に託したのでしょうか?

フクスケ:これは、サビに疾走感を持たせたかったんですよね。詞は、自分の葬式がテーマになってます。気づいたら、自分の葬式になっていたという歌です。自分自身も歳を食ってきたし、周りで亡くなる方も出てきてますから、自分もそろそろなのかなと。だとしたら、今のうちにやりたいことをやっておかなきゃな、という歌詞ですね(笑)。